創星のレクイエム

有永 ナギサ

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3章 第1部 入学式前日

92話 神楽のオーダー

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 すでに外は暗くなっており星々が輝いている。そんな中陣はノルンの研究所をあとにし、奈月と合流。それから二人でクロノス本社の高層ビルの最上階にある、代表の部屋へと向かった。
 中はシックな感じの広々とした部屋。奥はガラス張りで解放感があり、いかにも高級そうなソファーやテーブルなどの家具や装飾品が置かれており、床は重厚感あふれるカーペットが敷かれていた。大財閥クロノスの代表が使う部屋だけあって、その重々しい雰囲気はそうとうなものである。ちなみに今回はスバルは留守るす。その代わり神楽がいて、代表の席に座っていた。
 そして現在、神楽の前に立ちながら、神代かみしろ特区内の現状報告を聞いている最中という。

「まあ、そんなわけで今のところ星葬機構側も、レーヴェンガルト側も目立った動きはないかな。でも裏ではいろいろ準備してるみたいだから、引き続き警戒だけはしといてね」

 神楽は机にひじをつき、アゴに両手を乗せながら念押ししてくる。

「わかったわ。なにか分かり次第、連絡してちょうだい」
「あと、陣くんの方も、探りを入れられるなら入れといてほしいかな」
「くす、陣はレイヴァースと、レーヴェンガルトの両陣営の当主に、気に入られてるものねー」

 奈月は陣の上着のそでをぎゅっとつかみながら、意味ありげな視線を向けてくる。一応笑ってはいるが、トゲが見え隠れしているのがなんとなくわかった。

「――なんだよ、そのふくみのある感じは……」
「あら、別になんでもないわよ。モテモテだなって、思っただけで」
「モテモテって。クレハとはただの幼なじみの関係だし、レンに関してはオレの素質に興味をもっただけだろ」
「――ふん、どうだか」

 正論で返すが、奈月は納得いってないご様子。あきれ口調でそっぽを向かれてしまった。

「まあまあ、奈月ちゃん。気持ちはわからなくもないけど、ここは神代のためにも目をつぶろう。というわけで陣くん、二人を見事に攻略して、情報を根掘り葉掘り聞き出してきてね! 目指すはハーレムルートで!」

 奈月をなだめてくれる神楽であったがそれもつかの間、爆弾発言をして愉快げにウィンクしてくる。

「なにいってんすか、神楽さん」

 一応、言いたいことのコンセプトはわかる。クレハやレンと仲がいいのは確か。なので彼女たちに探りを入れれば、なにかしら有益な情報を得られる可能性が高い。だからこそより親密になってこいと。だがさすがに色恋ざたに持っていくのは、どうなのだろうか。

「だって当主である二人をたらし込めば、陣くんが両陣営を裏で操ることができるかもしれないでしょ? そうなれば神代側の完全勝利! もう、陣くん、さまさまってね!」

 ガッツポーズしながら、なにやら盛り上がり始める神楽。
 もはやこの人はなんてことを考えるんだと、困惑するしかない。

「――は、はぁ……」
「あ、そうそう、どれだけ二人とイチャイチャしてもいいけど、ちゃんと奈月ちゃんも陣くんのハーレムに入れてあげるように!」
「ちょっと、姉さん!?」

 神楽の人差し指を立てながらのお節介発言に、奈月は取り乱しながらも割り込んでくる。

「うふふふ、ちなみにわたしを攻略して、ハーレム入りさせるのもありだからね! はっ、そうなれば陣くんは三大派閥をたばね、世界をべることに! キミは魔王にでもなるつもりなのかな!? 陣くん、なんて恐ろしい子……」

 誘惑めいた視線を向けてきたかと思うと、口元を両手でおおいながらなにやら畏怖いふしだす神楽。
 今や世界に多大過ぎるほどの影響を与えるであろう三大家系。その当主たち全員と深い関係を持てたら、それは世界を牛耳ぎゅうじるほどの権力を手に入れたも同然。ある意味魔王と呼ばれても、おかしくない。とはいっても全員口説くどきまくり、骨抜きにしなければならないので、難易度は高すぎるのだが。

「はいはい、いつまでも馬鹿言ってないで、話を進めてちょうだい。でないともう帰るわよ」
「ごめん、ごめん。じゃあ、次はいよいよ明日から始まる、星海学園の件だね!」

 奈月のおかげで、話が再び本題へと。
 そう、明日は陣たちが高等部に入学する日。それと同時にレイヴァース当主であるクレハが、学園に乗り込んでくる日でもあるのだ。

「レイヴァース当主の動向に目を光らせるのもそうだけど、彼女の学園運営の口出しの方もお願いね」

 星海学園の学園長である春風しおりが、気にんでいたことを思い出す。
 クレハのあのレイヴァース思想からして、きっとズバズバ学園の運営に口出ししてくるのは間違いない。今の星海学園の形を続けるためにも、奈月には頑張ってもらわなければ。

「栞さんが言ってた件ね。そっちもできるだけがんばってみるわ。いざとなれば陣をぶつけて、押し切ればなんとかなるでしょう」
「――いや、そんな議論の場に出されても困るんだが……」

 効果的ではあるだろうが、その場合陣も議論が飛び交う中に巻き込まれる形に。魔道関係や戦闘なら任せろといいたいが、頭の痛くなりそうな難しい話はさすがに勘弁かんべんしてほしかった。

「ごめんねー。もし、わたしが学生なら、奈月ちゃんの代わりに押さえ込みにいけたんだけど。――そうだ! 制服を着ればまだワンチャン、学生って通じないかな? 編入に関しては、栞さんやカーティス神父に裏で手引きしてもらえるはず! そうすればついでに奈月ちゃんや陣くんとの、楽しい学園ライフを満喫まんきつできるだろうしね!」

 神楽はドンっと机をたたきながら、勢いよく立ち上がる。そして手をぐっとにぎりしめながら、なにやらはしゃぎだす。

「姉さんはもう二十歳超えてるんだから、さすがにきついと思うわよ」

 そんな夢見る神楽に、奈月は冷静なツッコミを。

「もー、ひどいなー、奈月ちゃん。ねえ! 陣くんはどう思うかな?」

 ほおに手を当てながら、シュンとする神楽。だがすぐさま陣の方へ期待に満ちたまなざしを向けてくる。

「神楽さんなら、まだまだ全然ありだと思いますよ。すっごい美人な先輩がいるって紹介されたら、普通に信じてしまいそうですし」

 彼女は二十二歳とまだまだ全然若い。しかも奈月以上の美貌びぼうを持つ女性ゆえ、なんとかなる気が。さすがに同学年は大人びすぎて無理かもしれないが、高等部の三年生ならいけそうであった。

「陣くんはいい子だねー。よし、わたしが学生になれたあかつきには、キミに恋人役を頼もうかな! 一緒に甘酸っぱい学園ライフを過ごそう!」

 神楽は陣のところに来て、よしよーしと頭をなでてくれる。そして満面の笑顔で、魅力的な提案を。

「ははは、そうなったら、すごい贅沢ぜいたくな学園生活が過ごせそうですね」

 神楽は美人であり、しかも案外フランクで接しやすいときた。あまりに強欲過ぎて怖いところはあるが、それを除けばもはや全然ありといっていい。

「痛っ!? なんだよ、奈月」

 少しそうなった時のことを妄想していると、奈月が陣のほおをつねってきた。

「あら、ごめんなさい。陣があまりに鼻を伸ばしてるから、つい手が出てしまったわ。あと妹の目の前で、姉を口説くどかないでもらえるかしら」

 そして髪をかきあげながら、ジト目で抗議してくる奈月。

「うふふふ、陣くんもいろいろ大変だねー」
「姉さん、話はこれでおわりよね?」

 奈月はほほえましそうにしている神楽に確認を。

「ほかにはとくにないかな」
「そう、じゃあ、そろそろおいとまさせてもらうわ。行くわよ、陣」
「了解」

 奈月はきびすを返し、部屋から出ようとする。
 それに陣も続くことに。

「二人とも、明日から始まる高等部の学園ライフ、楽しんできてね!」

 そんな神楽の見送りの言葉を背に、陣たちは部屋を出た。

「――ああ、もう春休みもおわりか」

 廊下ろうかを歩きながら、明日のことに思いをはせる。

「あら、陣、名残惜なごりおしそうね」
「自由時間が少なくなるわけだからな。今はずっとこの創造の星を、求道しときたいぐらいだしさ。奈月の方はどうなんだ?」

 正直いうと、陣にはあまり学園に通うメリットはないのだ。奈月に無理矢理付き合わされているから通っているだけであって、本来なら魔道関係に常に首を突っ込んでいたいところ。今なんて特に創造の疑似恒星を手に入れたところゆえ、求道に専念したいのが本音であった。

「もう休みは満喫できたし、早く学園が始まってほしい気分よ。高等部という新しい学園生活はもちろん、いつものメンバーに灯里が加わるんだから!」

 陣とは対照的に、奈月は待ち遠しくてしかたがないようだ。
 彼女は学園生活や友達との時間といった、なにげない日々が割と好きという。なのでみずからの責務で忙しいとき以外は、そういう時間を大事にしているのだ。

「ちなみにほかの連中がいるなら、オレはいなくても」
「くす、だめよ! アタシのなにげない日々に、陣の存在は欠かせないものだもの! だから観念かんねんして一緒に通うの! わかった?」

 奈月は陣の腕をがっしりつかみ、まぶしいほどの笑顔で告げてくる。
 もはや彼女にとって、どれだけ陣が大切な存在なのかよく伝わってくるといっていい。ここまで必要とされているとなると、断ることはできそうになかった。

「はいはい、お姫様のおおせのままに」
「くす、よろしい」

 観念すると、奈月は陣の背中をポンとたたき満足そうにほほえんだ。
 するとリルが姿を現し、指をくわえながらうらやましそうにしだす。

「学園生活かー。いいなぁ、二人とも」
「あら、リルも興味があるのかしら?」
「もちろんだよ! 青春っていったら、やっぱり学園生活だもんねー」

 リルは両腕をブンブン振りながら、目を輝かせ力説を。
 なにやら学園生活にすごくあこがれているみたいだ。

「――そうね、さすがに学生としては難しいけれど、別の形をとればあるいは……」
「わぁ! ほんと、奈月ちゃん! えへへ、ぜひ、よろしくなんだよー!」

 奈月のなんとかなりそうな発言に、リルはぴょんぴょんジャンプしてはしゃぎだす。

「奈月。マジでそんなはからい、いいからな」

 そんな喜ぶリルにはわるいが、却下の意を。

「ちょっと、マスター!? なんでそういうこと言うかな!?」
「いや、だって学園までガキのおりはごめんだし」
「うわーん、マスターひどいよー」

 リルはぽかぽか陣の身体をたたきながら、涙目で抗議を。
 そんなにぎやかな感じで、陣たちはクロノス本社を出ていくのであった。
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