電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

文字の大きさ
22 / 253
1章 第2部 電子の世界エデン

21話 電子の世界エデン

しおりを挟む
 レイジたちはあれからすぐに事務所内のエデンに行くとき用の部屋から、有線式の専用機材を使ってエデンに入っていた。
 セフィロトが自身の電子ネットワークと、その中にあるすべてのデーターを物質化して創りだした電子の世界、エデン。その構造をわかりやすく説明すると現実の地球をそのままの形と大きさでコピーした、もう一つの地球だ。こうなったのも一から新しく世界の形を創造したならば、構造が複雑になり利用しにくくなるとされたから。なので人々に一番なじみの深い形になったというわけである。たださすがにすべての部分を使う必要もないので、その各国々の象徴しょうちょうである都市や主要な地区の一帯の区画だけを、人々がエデンで自由に活動できるエリアに指定していた。その区画をアースと称し、日本だと北海道、東北、関東、中部、近畿、四国、九州の七つのアースが存在しているということに。あとレイジたちが現在いるのは、東京を中心をした首都圏内の区画である関東アースにいた。基本場所に関しては、行きたい座標を打ち込めばどの場所にでもすぐさま移動することができるのであった。
 ちなみにエデンに入るときに必要な有線式の専用機材は、今やどの建物にも設置されているといっていい。それは家やオフィスなどの仕事場、ホテルといった宿泊施設の各部屋や公共施設などにも当たり前のようにあり、むしろ設置が義務付けられているほど。さらに外出中などいつでもエデンに行けるように、ネットカフェのような施設がこれまでと比べて急激に増加しているのだ。その使い方はまず市販の簡易式ヘッドギアについているコードを、専用機材に差し込む。あとはヘッドギアを頭に装着し起動させれば、エデンの中に入れる仕組みになっていた。

「よし、到着と」

 ふと空を見上げると雲一つない青く澄み切った空が。エデンの天気に関しては基本快晴となっており、現実の時間と合わせて朝昼夜となっていく感じなのだ。そのため日中は気持ちのいい晴れ晴れとした空が広がり、夜はきれいな満天の星空が迎えてくれるのである。

「ははは、相変わらずここはにぎやかだな」

 レイジたちがエデンにログインしてまず出てきたのは、大通りのスクランブル交差点のど真ん中。休日とあてっかこの場所は人でいっぱいだ。建物に取り付けられた超大型モニターに映る映像を見ている人や、グループで楽しそうにおしゃべりしている人。待ち合わせなどで時間をつぶしているのか、宙に自身の選択画面を出してターミナルデバイスを操作するかのごとくいじっている人などなど。その光景はもはや現実の大都会の様子と同じような感じだ。しかも次々とレイジたちのように人々が入ってきて、各々の目的地に向かったり、友達とかと合流したりしている。そのガヤガヤとした賑わいっぷりを見るに、本当にここは平和な世界だと笑ってしまう。
 あと現在レイジたちがいるメインエリアという場所は、指定した座標にすぐに飛べるため車や電車とった車両系の乗り物などは存在しない。なのでこのスクランブル交差点のように道路全体が、歩行者貸し切り状態。よって車など気にせず、ずっとおしゃべりとかして居座ることができるのだ。

「さて、これからどうしたものか。急ぎの用じゃないって言ってたし、結月にレクチャーしながら向かうとして」

 少し遠くの方に視線を移すとお店がずらりと並んでおり、ところどころにマンションやオフィスビル、イベント会場の用の建物などがそびえたっている。もはや大都会の街並みそのものだ。
 この場所こそ、エデンでもっとも人々のなじみ深いメインエリアと呼ばれる場所。アースの地表部分はこのメインエリアで構成されているのだ。その構造は居住スペースや様々なお店や建物、広場などがアース一面にかれている。そしてその中にビジネスゾーンや保管区ほかんくゾーンといった特殊な場所が、一定間隔で配置されている形だ。あとクリフォトエリアという特別な場所もあり、このアースの地下に存在していた。
 ちなみにこのスクランブル交差点のような場所もまた、ある程度の間隔で用意されているのだ。そして人々にはメインエリアのエントランスみたいな感じで、使われることが多かった。

久遠くおんくん、それなら話しができる、落ち着いたところに行こうよ。とりあえずどこかの喫茶店にでも行く?」

 制服でなく私服姿の結月が声をかけてくる。その外見はエデン用のアバターにも関わらず、本人とまったく同じである。このメインエリア、さらには戦場であるクリフォトエリアはエデンのシステム上の制約により、アバターを現実の自分の姿と同じにしないといけない。なので決められた期間ごとに専用のスキャナーを使って全身のデータを取り、本人と同じ外見のアバターにするのであった。
 ちなみに現在レイジと結月が使っているのはデュエルアバター。結月の方は事前にデータを取っておいて、レーシスに用意してもらっていたらしい。これは戦場であるクリフォトエリア限定で力を振るう事ができるアバターなのだが、他のエリアだと普通のアバターと全く同じ仕様になっていた。なぜ今使っているのかというと、クリフォトエリアに向かうにはデュエルアバターでないと入れないからだ。

「――あ、あまり表沙汰おもてざたにできない話なら、私の部屋に招待してもいいけど……」

 結月は手をモジモジしながら、提案してくる。
 エデンの一番のコンセプトとなっているのは人々がセフィロトの様々なサポートのもとデータに直接触れて、より効率的な作業をするというもの。その性質上この世界はゲームのような感覚ではなく、データを扱う作業場という側面が強かった。そのためエデンには居住スペースやビジネスゾーンのように、なんらかの作業をするための場所がいくつも用意されているのである。
 今回結月が言っているのは、個人がエデンでの作業場を借りることができる居住スペースのことであろう。これらは基本高層マンションの形をとっており、一室を借りる形式。部屋の中は独立した広い空間になっていて、払った家賃やちんの分いくらでも大きく設定できるのだ。値段はそこまで高くなく学生でも気軽に借りられるようになっていて、一度契約するといつでもその場所に直接入れたり、人を招待出来るようになるのであった。

「さすがにそこまでしなくていいよ。いざとなればビジネスゾーンにある、アイギスの事務所にでも行けばいい話だし」

 ビジネスゾーンも基本は居住スペースのようなものだが、こっちは高層マンションだけでなくオフィスビルや、その仕事にあった外観の様々な形の建物が立ち並び密集している。ようはビジネス街のような形式をとっていた。
 こちらは社会人などの働く人がメインの場所。これはより効率的に作業をするため現実の仕事場だけでなく、エデンにも同じような仕事場を作っておくのがもはや一般的になっているからだ。このエデンに仕事場となる事務所を用意してあると、依頼や営業なのですぐさま相手側の事務所がある場所の近くに移動することができ、現実の移動時間を無駄にしなくてすむ。なのでアイギスの場合も、エデン用の事務所に来客があればすぐさまエデンに入って依頼を聞く流れであった。
 ちなみにエデンでのアバターを現実と同じにしないといけないのは、こういった仕事関係の事情がふくまれていたりするらしい。

「それならよかった。誘っておいてなんだけど、久遠くんを呼ぶなら急いで部屋を片付けないといけなかったから。あはは……」

 結月はほおを赤らめながら、むねをなでおろす。
 その様子からして、あまり見つかりたくないものがあったのかもしれない。さっきはさらっと流してしまったことであったが、よく考えてみるとすごく興味が湧いてきてしまった。

「――なんかそういわれると、急に行ってみたい気が……。ははは、わるい、結月。やっぱりくわしく説明したいか
ら、お邪魔させてもらおうかな」
「あはは、アイギスの事務所がこっちにもあるなら、もう行く必要ないよね? だからまたの機会に!」

 頭の後ろに手をやりながらたずねると、結月はにっこり微笑んで却下してきた。

「――クッ……、仕事中ってことで真面目に考えすぎてて、選択をミスったか……」

 自分のミスに思わず肩を落とす。
 うまくいけば結月みたいなかわいい女の子の部屋に入れるという、思春期の男子としてはありがたい貴重な体験が出来たかもしれなかったのだが。

「それでどうしよっか?」
「――まあ、とりあえず適当に歩いて、人通りが少ないところでも行くか。そこで軽く説明してから、オレたちの戦場であるクリフォトエリアに向かおう」
「うん、いいね! そうしよう!」

 レイジの提案に、結月はどこかうれしそうに賛成してくる。
 やることが決まったので、レイジたちはメインエリアを歩いて行くことにした。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

after the rain

ノデミチ
青春
雨の日、彼女はウチに来た。 で、友達のライン、あっという間に超えた。 そんな、ボーイ ミーツ ガール の物語。 カクヨムで先行掲載した作品です、

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...