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1章 第2部 電子の世界エデン
35話 結月の暴走?
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「久遠くん。事情はよくわからないんだけど、とりあえず光ちゃんと話がついたってことでいいのよね?」
光が去ってすぐ、結月が心配そうにたずねてきた。
「ああ、心配かけてわるいな、結月。まあ、いろいろあったがなんとかなったよ」
「おい、そこの女ったらしのくおん。緊急事態というのに、敵といちゃつくとはどういう了見なんだぁ?」
突然、聞きなれた子供っぽい声からの聞きづてならない言葉が上空から振ってきた。
見上げると、一人の少女が空からふわふわとゆっくり下りてくる。やや大きめの魔女帽子を深くかぶり、漆黒のゴスロリ服を着た少女。一番の特徴はなんといっても、小学生ぐらいの低すぎる身長だろう。きっとレイジたちよりもかなり歳下なはず。低い背丈と深く魔女帽子をかぶっているせいで、相変わらずその素顔はよく見えなかった。
「ゆきがどうしてここに?」
「はぁ!? くおんが緊急事態って言うから、このゆきがわざわざ! 来てやったんだろうがぁ!」
優雅に地面に着地したゆきは、レイジにビシッと指を突き付け言い放ってくる。
「あー、そういえばそんなこと言ったような……」
心当たりがありすぎるため、ぽりぽり頭をかくしかない。
「で? なに! 来てみたら来てみたで、もう全部丸く収まっててゆきの出番が完全になし! おまけに呼び出した奴に、なんでここにいるんだって言われる始末! あー! なんか無性に腹が立ってきたぁ! ゆきの労力は一体なんだったんだぁ!」
|地団駄じだんだ》を踏み、キィィーっと不満を爆発させるゆき。
確かに今ごろ来られても感があるが、そんなこと口にしたら強制ログアウトさせられるに決まっている。なのでそのことに関してのツッコミはせず、興奮状態のゆきを手で制しながらなだめようと。
「とりあえず落ち着け。確かにゆきの出番はなかったけど、裏を返せば大事がなくてよかったってことだろ? それにオレの私情で、あの天下の剣閃の魔女様の手をわずらわせるわけにいかなかったしさ」
「――くぅ……、そうだけどぉ」
今だ納得がいかないのか、ぷくーとほおを膨らませるゆき。
「こうして心配して、駆けつけてくれただけでも十分だ。ほんと感謝してるよ」
「だ、誰がくおんの事なんか心配するもんかぁ! こんな下っ端がいくら危険にさらされようがゆきの知ったこっちゃない! だ、だから最大速度で飛ばしてなんかいないもん! わかったぁ!?」
ゆきはぴょんぴょん飛び跳ねながら、必死に主張してくる。
「――お、おう。そうか……」
「ねえ、ねえ、久遠くん! この子がもしかして!」
そうこうしていると結月がレイジの上着の袖をクイクイ引っ張り、話しに加わってきた。それもなにやらはずんだ声で。よく見るとどこかそわそわしているようにも見える。
「ああ、剣閃の魔女こと、名前はゆきだ」
「改めて初めまして、ゆづき。ゆきのことはゆきって呼んでくれていいよぉ」
ゆきはスカートの裾をつまんで、ゆうがにお辞儀する。その動作はかなり様になっていて、剣閃の魔女と呼ばれるだけの風格をかもし出していたといっていい。
「ほんと! じゃあ、そう呼ばせてもらうね! ゆきちゃん!」
そんなかっこよく決めていたゆきに、結月は視線を合わせようと中腰に。そしてぱぁぁと顔をほころばせながら、優しく話しかける。その様子はまるで小さい子どもを相手にするような感じであり、ゆきのかっこつけた自己紹介の雰囲気を完全につぶしていた。
「ゆ、ゆきちゃん!? まさかのちゃんづけ!?」
当然そんなふうに接してくると思っていなかったであろうゆきは、面をくらっている様子。
「ゆ、ゆ、ゆづきー」
そしてゆきは引きつった笑みを浮かべながら、拳を震わせる。
もし今の発言をしたのがレイジなら、間違いなく攻撃が飛んでくるところだろう。それもそのはず彼女は子ども扱いされることを、なにより嫌っているのだから。
「落ち着けゆき。ゆきは剣閃の魔女。この程度のことでキレるわけがない……」
しかし相手が相手だけに、なんとかこらえるゆき。
結月に注意した方がいいかもしれないが、子供扱いされているゆきの様子が面白いのでもうしばらくだまっておくことにした。
「――それより、くおん! 引きこもり主義のゆきを外に出した責任、どうとってくれるんだぁ?」
ゆきは怒りの矛先をレイジに変えることにしたらしく、腰に両手を当てて問いただしてきた。
「――仕方ない。追加料金を払うということでどうだ?」
「ふふーんだ! 金なんてもう稼ぎまくってるからいらないもん。そう、ゆきが欲しいのは、ゆきの言うことをなんでも聞いて楽させてくれる、都合のいい下僕! ちょうど久遠みたいな人材が欲しいなぁ。だからー、ゆき専属の下僕になってよぉ。そしたらご主人様であるゆきが、たっぷりこき……、いや、かわいがってやるぞぉ」
ゆきは得意げに自身の胸へと手を当てながら、悪魔じみた要求をしてくる。
もちろんそれに対する答えは決まっていた。
「ははは、誰がそんな自殺行為みたいなことするやつがい……」
「わかった! 私がゆきちゃんの下僕になってあげるよ!」
「――あ、いた……」
レイジが言葉を言いおえる前に、結月が手をビシッと上げノリノリで立候補しだす。
その反応に意味がわからないと、戸惑いを隠せず不審がるゆき。
「え? なんでゆづきがくいついてくるんだぁ……?」
「そうだ! ゆきちゃん! 私のことは気軽に、結月お姉ちゃん! って呼んでほしいなぁ! さあ、呼んでみて!」
結月は目を輝かせながら、ゆきへグイグイ詰め寄っていく。
さっきの回線で話していた時とまったく違うその態度。どうやらゆきに実際に会ってその見ためから、今まで抱いていた畏怖するイメージが完全に壊れたようだ。
「――ゆ、ゆづき……お姉ちゃん……」
そんな彼女の圧に押されてか、ゆきはおずおずとお姉ちゃん呼びを。
「キャー! ゆきちゃんに、お姉ちゃんって呼ばれちゃったー!」
それに対し結月は両ほおに手を当て、なにやらもだえ始めた。
「――ッ、じゃなーい! ――ゆづき! さっきからいったいなに! その態度はぁ!」
とうとう抑えていた怒りが爆発したらしく、両腕を思いっきり上げて猛抗議するゆき。
「あはは、ごめんね。ゆきちゃんがあまりにもかわいいから、ついお姉さんはしゃいじゃった! ――ところで一つ気になってることがあるんだけど確めていい? でも断られそうだからお先に失礼して、ていっ!」
結月はてへへとテレ笑いしながら、反省を。しかしそう見えたのもつかの間、すぐにさっきのハイテンションに戻り、ゆきの魔女帽子を問答無用で取り上げた。
「な、なななぁ」
そして魔女帽子を取られたことで、ゆきの素顔があらわに。きれいな長い黒髪に、あどけない顔立ち。その素顔と黒いゴスロリ服、さらに低い背丈の三つが合わさり、まるでかわいらしいお人形さんみたいな少女であった。
そんなゆきを見て、結月はテンションが爆上がりしたらしい。 ぴょんぴょんその場で飛び跳ね、黄色い声をあげだす。
「キャー! 私の思った通り、ゆきちゃんはお人形さんみたいで可愛いー! 帽子で隠すのがもったいなさすぎるよ!」
「なんてことしてくれたんだぁ! ゆづ、ぐふっ!?」
ぷんすか怒りをあらわにして抗議しにいくゆきであったが、途中でぼふっと結月の豊満な胸へ顔をうずめることに。なにが起こったかというと、結月が彼女をぎゅーと抱きしめたのだ。
この様子からして結月はかわいいものに、目がないタイプのようだ。だからさっきから異様にテンションが高かったのだろう。
「――まさかゆきの素顔を暴くところまでいくとは……、すごいな結月。たぶんゆきの素顔をここまではっきり見たのは、エデンでオレたちが初めてだと思うぞ」
結月の胸に埋まりじたばたするゆきを見ながら、関心の言葉を投げかける。
「え? 久遠くんも見たことないの?」
「ああ、ゆきは素顔をさらすのが嫌いらしく、常時帽子を深くかぶって隠してるからな。それにしても素顔がこんな感じだったとは……。ははは……、なんか今までの暴挙も許してしまいそうな勢いだ」
結月の言う通りここまで愛くるしい外見だと、そう思わずにはいられない。
するとゆきは結月をやっとのことで押しのけ、涙目になりながらも助けを求めてきた。
「い、いい加減にしろぉ! ――くおん! ゆづきは一体どういう性格をしてやがるんだぁ! 絶対ゆきに対してケンカ売ってるだろぉ、これー!」
「いや、オレも驚いてるぞ。結月がまさかここまでするとは……」
「あれ? 私は久遠くんに言われたことを思い出して、小さな子供と接するようにしてるよ? だからこんなふうに遠慮なく、愛でてるんだけど?」
結月はアゴに指を当てながら、不思議そうに首をかしげてくる。
「あー、なるほど。そういうことか。あれはゆきのわがままを耐える時用の話なんだ。ついでに言うとゆきが一番嫌うのは、子ども扱いされることだ」
レイジの説明した言葉の意味を勘違いしていたため、さっきからあんな態度をとっていたのだろう。まさかよりにもよって真逆の解釈をしてしまうとは。
「……え……? そんなの聞いてないんだけど……」
レイジの訂正に、結月は顔を青ざめる。取り返しのつかないことをやってしまったというような顔でだ。
「ふふふふふっ、つまり元凶はくおん! お前だったてわけかぁ! 散々な目にあわされたこの落とし前、どうとるきだぁ!」
ゆきは拳をポキポキ鳴らしながら、鬼の形相で問いただしてきた。
そこに込められているのは明確な殺意であり、いつゆきの攻撃が飛んできてもおかしくない状況である。
「――あはは……、ごめんね……。えっと……ゆき、……ちゃん……?」
結月はなんとかゆきをなだめようと、おそるおそる声をかける。
「ゆづきもゆづきだもん! ゆきはこんなに背が低くて胸もほとんどない! だけど二人と同い年なんだからぁ!」
次の瞬間、ゆきは自身の胸へドンっと手を当てながら、怒りに任せてとんでもないカミングアウトをしてきた。
「え!? 同い年だったの!? もっと歳下の女の子かと!?」
「それはオレも初耳だぞ。かなり歳下のわがままなガキじゃ、なかったのか?」
あまりの衝撃的事実に、レイジも結月も唖然としながら正直な感想を言ってしまう。それがゆきをさらに怒らせるとわかっていてもだ。
「えーん! 二人なんて地獄に落ちて消え失せてしまえー! このバカどもぉ!」
そんな二人の正直すぎる発言に、ゆきのプライドはズタズタに引き裂かれてしまったらしい。結月から帽子を取返
し、涙をごしごしこすりながら捨てゼリフと共に去っていってしまった。
「――行っちゃったね……」
「――ああ……」
レイジたちは事態を飲み込めず、ただ呆然と立ち尽くすしかない状況。ただわかることは、ゆきが今までの怒りがなくなってしまうほど傷ついたらしい。そのおかげでレイジたちは一応助かったみたいだ。
「……えっと……、久遠くん、これからどうすればいいんだろ……?」
「――まあ、とりあえずゆきのいるところに、向かえばいいんじゃないか……?」
こうしてレイジと結月は、改めてゆきがいる場所へと歩き始めるのだった。
光が去ってすぐ、結月が心配そうにたずねてきた。
「ああ、心配かけてわるいな、結月。まあ、いろいろあったがなんとかなったよ」
「おい、そこの女ったらしのくおん。緊急事態というのに、敵といちゃつくとはどういう了見なんだぁ?」
突然、聞きなれた子供っぽい声からの聞きづてならない言葉が上空から振ってきた。
見上げると、一人の少女が空からふわふわとゆっくり下りてくる。やや大きめの魔女帽子を深くかぶり、漆黒のゴスロリ服を着た少女。一番の特徴はなんといっても、小学生ぐらいの低すぎる身長だろう。きっとレイジたちよりもかなり歳下なはず。低い背丈と深く魔女帽子をかぶっているせいで、相変わらずその素顔はよく見えなかった。
「ゆきがどうしてここに?」
「はぁ!? くおんが緊急事態って言うから、このゆきがわざわざ! 来てやったんだろうがぁ!」
優雅に地面に着地したゆきは、レイジにビシッと指を突き付け言い放ってくる。
「あー、そういえばそんなこと言ったような……」
心当たりがありすぎるため、ぽりぽり頭をかくしかない。
「で? なに! 来てみたら来てみたで、もう全部丸く収まっててゆきの出番が完全になし! おまけに呼び出した奴に、なんでここにいるんだって言われる始末! あー! なんか無性に腹が立ってきたぁ! ゆきの労力は一体なんだったんだぁ!」
|地団駄じだんだ》を踏み、キィィーっと不満を爆発させるゆき。
確かに今ごろ来られても感があるが、そんなこと口にしたら強制ログアウトさせられるに決まっている。なのでそのことに関してのツッコミはせず、興奮状態のゆきを手で制しながらなだめようと。
「とりあえず落ち着け。確かにゆきの出番はなかったけど、裏を返せば大事がなくてよかったってことだろ? それにオレの私情で、あの天下の剣閃の魔女様の手をわずらわせるわけにいかなかったしさ」
「――くぅ……、そうだけどぉ」
今だ納得がいかないのか、ぷくーとほおを膨らませるゆき。
「こうして心配して、駆けつけてくれただけでも十分だ。ほんと感謝してるよ」
「だ、誰がくおんの事なんか心配するもんかぁ! こんな下っ端がいくら危険にさらされようがゆきの知ったこっちゃない! だ、だから最大速度で飛ばしてなんかいないもん! わかったぁ!?」
ゆきはぴょんぴょん飛び跳ねながら、必死に主張してくる。
「――お、おう。そうか……」
「ねえ、ねえ、久遠くん! この子がもしかして!」
そうこうしていると結月がレイジの上着の袖をクイクイ引っ張り、話しに加わってきた。それもなにやらはずんだ声で。よく見るとどこかそわそわしているようにも見える。
「ああ、剣閃の魔女こと、名前はゆきだ」
「改めて初めまして、ゆづき。ゆきのことはゆきって呼んでくれていいよぉ」
ゆきはスカートの裾をつまんで、ゆうがにお辞儀する。その動作はかなり様になっていて、剣閃の魔女と呼ばれるだけの風格をかもし出していたといっていい。
「ほんと! じゃあ、そう呼ばせてもらうね! ゆきちゃん!」
そんなかっこよく決めていたゆきに、結月は視線を合わせようと中腰に。そしてぱぁぁと顔をほころばせながら、優しく話しかける。その様子はまるで小さい子どもを相手にするような感じであり、ゆきのかっこつけた自己紹介の雰囲気を完全につぶしていた。
「ゆ、ゆきちゃん!? まさかのちゃんづけ!?」
当然そんなふうに接してくると思っていなかったであろうゆきは、面をくらっている様子。
「ゆ、ゆ、ゆづきー」
そしてゆきは引きつった笑みを浮かべながら、拳を震わせる。
もし今の発言をしたのがレイジなら、間違いなく攻撃が飛んでくるところだろう。それもそのはず彼女は子ども扱いされることを、なにより嫌っているのだから。
「落ち着けゆき。ゆきは剣閃の魔女。この程度のことでキレるわけがない……」
しかし相手が相手だけに、なんとかこらえるゆき。
結月に注意した方がいいかもしれないが、子供扱いされているゆきの様子が面白いのでもうしばらくだまっておくことにした。
「――それより、くおん! 引きこもり主義のゆきを外に出した責任、どうとってくれるんだぁ?」
ゆきは怒りの矛先をレイジに変えることにしたらしく、腰に両手を当てて問いただしてきた。
「――仕方ない。追加料金を払うということでどうだ?」
「ふふーんだ! 金なんてもう稼ぎまくってるからいらないもん。そう、ゆきが欲しいのは、ゆきの言うことをなんでも聞いて楽させてくれる、都合のいい下僕! ちょうど久遠みたいな人材が欲しいなぁ。だからー、ゆき専属の下僕になってよぉ。そしたらご主人様であるゆきが、たっぷりこき……、いや、かわいがってやるぞぉ」
ゆきは得意げに自身の胸へと手を当てながら、悪魔じみた要求をしてくる。
もちろんそれに対する答えは決まっていた。
「ははは、誰がそんな自殺行為みたいなことするやつがい……」
「わかった! 私がゆきちゃんの下僕になってあげるよ!」
「――あ、いた……」
レイジが言葉を言いおえる前に、結月が手をビシッと上げノリノリで立候補しだす。
その反応に意味がわからないと、戸惑いを隠せず不審がるゆき。
「え? なんでゆづきがくいついてくるんだぁ……?」
「そうだ! ゆきちゃん! 私のことは気軽に、結月お姉ちゃん! って呼んでほしいなぁ! さあ、呼んでみて!」
結月は目を輝かせながら、ゆきへグイグイ詰め寄っていく。
さっきの回線で話していた時とまったく違うその態度。どうやらゆきに実際に会ってその見ためから、今まで抱いていた畏怖するイメージが完全に壊れたようだ。
「――ゆ、ゆづき……お姉ちゃん……」
そんな彼女の圧に押されてか、ゆきはおずおずとお姉ちゃん呼びを。
「キャー! ゆきちゃんに、お姉ちゃんって呼ばれちゃったー!」
それに対し結月は両ほおに手を当て、なにやらもだえ始めた。
「――ッ、じゃなーい! ――ゆづき! さっきからいったいなに! その態度はぁ!」
とうとう抑えていた怒りが爆発したらしく、両腕を思いっきり上げて猛抗議するゆき。
「あはは、ごめんね。ゆきちゃんがあまりにもかわいいから、ついお姉さんはしゃいじゃった! ――ところで一つ気になってることがあるんだけど確めていい? でも断られそうだからお先に失礼して、ていっ!」
結月はてへへとテレ笑いしながら、反省を。しかしそう見えたのもつかの間、すぐにさっきのハイテンションに戻り、ゆきの魔女帽子を問答無用で取り上げた。
「な、なななぁ」
そして魔女帽子を取られたことで、ゆきの素顔があらわに。きれいな長い黒髪に、あどけない顔立ち。その素顔と黒いゴスロリ服、さらに低い背丈の三つが合わさり、まるでかわいらしいお人形さんみたいな少女であった。
そんなゆきを見て、結月はテンションが爆上がりしたらしい。 ぴょんぴょんその場で飛び跳ね、黄色い声をあげだす。
「キャー! 私の思った通り、ゆきちゃんはお人形さんみたいで可愛いー! 帽子で隠すのがもったいなさすぎるよ!」
「なんてことしてくれたんだぁ! ゆづ、ぐふっ!?」
ぷんすか怒りをあらわにして抗議しにいくゆきであったが、途中でぼふっと結月の豊満な胸へ顔をうずめることに。なにが起こったかというと、結月が彼女をぎゅーと抱きしめたのだ。
この様子からして結月はかわいいものに、目がないタイプのようだ。だからさっきから異様にテンションが高かったのだろう。
「――まさかゆきの素顔を暴くところまでいくとは……、すごいな結月。たぶんゆきの素顔をここまではっきり見たのは、エデンでオレたちが初めてだと思うぞ」
結月の胸に埋まりじたばたするゆきを見ながら、関心の言葉を投げかける。
「え? 久遠くんも見たことないの?」
「ああ、ゆきは素顔をさらすのが嫌いらしく、常時帽子を深くかぶって隠してるからな。それにしても素顔がこんな感じだったとは……。ははは……、なんか今までの暴挙も許してしまいそうな勢いだ」
結月の言う通りここまで愛くるしい外見だと、そう思わずにはいられない。
するとゆきは結月をやっとのことで押しのけ、涙目になりながらも助けを求めてきた。
「い、いい加減にしろぉ! ――くおん! ゆづきは一体どういう性格をしてやがるんだぁ! 絶対ゆきに対してケンカ売ってるだろぉ、これー!」
「いや、オレも驚いてるぞ。結月がまさかここまでするとは……」
「あれ? 私は久遠くんに言われたことを思い出して、小さな子供と接するようにしてるよ? だからこんなふうに遠慮なく、愛でてるんだけど?」
結月はアゴに指を当てながら、不思議そうに首をかしげてくる。
「あー、なるほど。そういうことか。あれはゆきのわがままを耐える時用の話なんだ。ついでに言うとゆきが一番嫌うのは、子ども扱いされることだ」
レイジの説明した言葉の意味を勘違いしていたため、さっきからあんな態度をとっていたのだろう。まさかよりにもよって真逆の解釈をしてしまうとは。
「……え……? そんなの聞いてないんだけど……」
レイジの訂正に、結月は顔を青ざめる。取り返しのつかないことをやってしまったというような顔でだ。
「ふふふふふっ、つまり元凶はくおん! お前だったてわけかぁ! 散々な目にあわされたこの落とし前、どうとるきだぁ!」
ゆきは拳をポキポキ鳴らしながら、鬼の形相で問いただしてきた。
そこに込められているのは明確な殺意であり、いつゆきの攻撃が飛んできてもおかしくない状況である。
「――あはは……、ごめんね……。えっと……ゆき、……ちゃん……?」
結月はなんとかゆきをなだめようと、おそるおそる声をかける。
「ゆづきもゆづきだもん! ゆきはこんなに背が低くて胸もほとんどない! だけど二人と同い年なんだからぁ!」
次の瞬間、ゆきは自身の胸へドンっと手を当てながら、怒りに任せてとんでもないカミングアウトをしてきた。
「え!? 同い年だったの!? もっと歳下の女の子かと!?」
「それはオレも初耳だぞ。かなり歳下のわがままなガキじゃ、なかったのか?」
あまりの衝撃的事実に、レイジも結月も唖然としながら正直な感想を言ってしまう。それがゆきをさらに怒らせるとわかっていてもだ。
「えーん! 二人なんて地獄に落ちて消え失せてしまえー! このバカどもぉ!」
そんな二人の正直すぎる発言に、ゆきのプライドはズタズタに引き裂かれてしまったらしい。結月から帽子を取返
し、涙をごしごしこすりながら捨てゼリフと共に去っていってしまった。
「――行っちゃったね……」
「――ああ……」
レイジたちは事態を飲み込めず、ただ呆然と立ち尽くすしかない状況。ただわかることは、ゆきが今までの怒りがなくなってしまうほど傷ついたらしい。そのおかげでレイジたちは一応助かったみたいだ。
「……えっと……、久遠くん、これからどうすればいいんだろ……?」
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