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1章 第2部 電子の世界エデン
37話 依頼達成
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レイジと結月はらせん階段を上がり、三階へとたどり着く。ここは基本トラップなどなくゆきの仕事場や私室、談話室や客室といった割と普通の構造をしているのだ。そして一番奥の部屋には、アーカイブスフィアが保管していた。
広々とした通路を通り、ゆきが普段いる彼女の仕事部屋の前に到着。ノックした後、扉を開き中へと入った。部屋の中に入ると広々とした空間に、武器やガーディアン、メモリースフィアなどがあたりに散乱し、なかなかの散らかりっぷりである。相変わらずガサツなゆきらしい部屋であった。
すると魔女帽子を再びかぶったゆきが出迎えてくれる。
「初め! まして! かたぎりゆづき。剣閃の魔女ことゆきだよぉ! 早速だけど、注文を受けていたデュエルアバターを渡すからこっちに来てぇ!」
ゆきはさきほど出会ったときのように、スカートの裾をつまんでゆうがにお辞儀してくる。
この様子、どうやら始めからやり直したいらしい。
「――えっと……。ゆき……、ちゃん……?」
さっきのこともあるため、おずおずたずねる結月。
「ちゃんづけするなぁ! あと、ゆきとゆづきが会ったのはこれが初めてなんだからぁ! そうだよねぇ!」
ゆきはビシッと指を突き付け、激しく同意を求めてくる。よほどさっきの件を思い出したくないのだろう。
「おーい、ゆき。さすがにさっきのことをなかったことにするのは、無理だと思うぞ」
「あー! あー! なんにも聞こないー! ゆきはゆづきと初めて会ったんだもん! だからあんな耐え難い屈辱は受けてない!」
ゆきは耳をふさぎながら、必死にごまかそうとする。
その反応は本当に自分たちと同い年なのかと、疑問に思うほど子供っぽかった。
「ゆき、いろいろとごめんね。これからは同年代の子として接するから、仲良くしよう」
そんな現実を受け入れようとしないゆきに、結月はにっこりほほえみながら手を差し出す。
「うー、もう子供扱いしない?」
「もちろんよ。さっきまではちょっとした勘違いのせい。今度からは気を付けるから安心して」
「――そ、そうしてくれるなら考えないでもないかなぁ。――まぁ、適当によろしくー」
テレくさそうに結月の手を取り、握手するゆき。
「――でも、私たちといる時は、帽子を没収ね!」
これでこの件は無事に解決できたと安心していると、結月が見事に期待を裏切りだした。さっきのゆきに接していたように、ハイテンションでゆきの魔女帽子をバッと取り上げる。
「えー!? なんでそうなるんだぁ!?」
「ゆきはお人形さんみたいにかわいいんだから、帽子で隠すなんてもったいないよ! うん、やっぱりかわいいー! ねえ、抱きしめていい? いいよね! えいっ!」
キャーと黄色い声を上げながら、もう抑えきれないとグイグイゆきの方へ詰め寄る結月。
「抱き付こうとするなぁ! くおん助け……! ぐふっ!」
ゆきは抱き付かれるのを拒もうとするが、その抵抗むなしく結月の豊満な胸にぼふっと顔から埋まった。
どうやら結月のかわいいものに目がない性格は、自重できないらしい。きっとこれからもこんな感じで、ゆきは彼女に愛でられていくのだろう。一応助けることもできたが、結月が幸せそうなのでしばらく放っておくことにした。
「あー、癒されるー。もうこのまま家まで持って帰りたいぐらい!」
結月はすりすりゆきの頭をほおずりし、ぎゅーと抱きしめる力を強める。
さすがにゆきが不憫になってきたので、助け船を出してやることに。
「――おーい、結月。堪能してるところ悪いが、そろそろ離してやらないとゆきが窒息死するぞ……」
「――あ……、私ったら、また、つい……」
「――はぁ、はぁ……。まさか胸に埋もれさすとはぁ……。胸が小さいゆきの当て付けかぁ!?」
ようやく解放されたゆきは、自身のつつましい胸に手を当てながら涙目で文句を。
確かに二人の胸を見比べると、これほどもまでかというほどの戦力差があった。まったいらに近いゆきと、あのスタイルのいいアリス以上に豊満な結月。これが同い歳とは、到底考えられない。
「――あはは……、ごめんね……。でも、胸が大きくてもいいことはあまりないよ? 肩がこったり、男の子の視線が気になったりとか、いろいろ大変だもの」
すると結月はどこかはずかしそうに目をふせながら、困った笑みを浮かべる。
「うわぁ、この人本気で言ってやがるよぉ! それは持たざる者にとって、超! 超! 贅沢すぎる悩みだというのに!」
だがゆきにはまったく共感を得られなかったらしい。彼女は両腕をグッと上へ伸ばし、悔しそうに抗議する。
「え、そうなの?」
「――こ、この余裕はやはり、胸の戦力さかぁ……。クソッ! 今に見てろぉ! ゆきは今成長期真っ盛りなんだから、まだまだ望みがあるんだもん!」
ゆきは腰に両手を当て、つつましい胸を張りながら根拠のない主張を。
「いや、オレたちと同い年だともう絶望的だろ。それ……」
これにはさすがにツッコミを入れずにはいられなかった。
その瞬間ゆきの方から、なにかがものすごい速さで放たれる。
「なっ!?」
レイジのほおをかすったそれは、後方の壁に激突。冷や汗をかきながら振り返ると、壁の方に一本の細身の剣が突き刺さっていた。
そしておそるおそるゆきの方を見る。そこには鬼の形相で、怖い笑顔を浮かべるゆきの姿が。
「ふふふふふっ、くおん、よほどゆきに殺されたいようだなぁ? いいよぉ、今ちょうど世界の理不尽さに怒りをぶちまけたかったところだから、その腹いせにー!」
「――だ、大丈夫だ、ゆき。世の中には小さいほうがいいという人間もいる。だからそう落ち込むな。それに背も低
いから、より求められるジャンルが増えているんだぞ」
「誰が幼女体型だぁ! 余計悪いだろうがぁ!」
なんとかゆきの怒りを鎮めようとフォローした言葉だったが、逆に火に油をそそぐ形になってしまったらしい。その証拠にゆきの方から第二射の剣が。さっきのよりもさらに速い一撃であり、しかも完全に直撃コースであった。
「ッ!? あぶねー」
ゆきの攻撃を、取り出した刀でなんとか払い落とす。
どうやら相当キレているようで、このまま放っておくとゆきのアビリティをフルに使ってきそうな勢いだ。
「そこまで! 私が悪かったから、久遠くんのことは許してあげて! このとおり! ね!」
そんな危ない状況の中、結月がゆきの前に立へ。そして手を合わせ必死に謝ってくれる。
「――はぁ……、もういい。ゆきも少し大人げなかったと思うから、ここはゆづきに免じて許しといてあげるー。命拾いしたなぁ、くおん」
腕を組みながら、ふんっだとそっぽを向くゆき。
「――ははは……、ああ、まったくだ」
「結月。さっさと渡すもの渡すから手を出して」
そしてゆきは結月に取られた魔女帽子を奪い返し、自身のアイテムストレージに入れる。どうやら帽子のことはあきらめたようだ。かぶったらさっきのやり取りが再び繰り返されると、ふんだのだろう。
それからゆきは結月へと手を差し出した。
「うん、お願いするね。――わっ、なにか出てきた!?」
結月がその手をつかんだ瞬間、ゆきの周りにいくつもの画面が現れる。そこにはレイジに理解できそうにない、数字や言葉の羅列がいくつも表示されていた。
そしてゆきは手を使わず、目視による操作でどんどん作業を進めていく。その姿はさっきまでの子供みたいなゆきではなく、剣閃の魔女としての威厳がにじみ出ていたといってよかった。
「はい、受け渡しおしまいー。ついでにさっきの戦闘データをゆきなりに分析して、カスタマイズしといたからぁ」
しばらくたってゆきはつないでいた手を放し、おわりを知らせる。
「わー、ゆき、ありがとう。これで思う存分、力を発揮できるよ!」
「ふっふーん、期待しといてよねぇ。なんたってそのデュエルアバターはゆき手ずから、ゆづき専用に調整し作り上げた傑作。そこいらの電子の導き手と比べ物にならないと、|自負してるもん!」
ゆきはない胸を張りながら、エッヘンと得意げに力説する。
「あと武器の方はどうするー? それなりの額を払ってもらえれば、ゆづき用のオリジナルの武器を作ってあげるけどぉ?」
電子の導き手が武器やガーディアンなどを製造する時は、まずエデンで売られている様々な素材を買って組み合わせる。そこから自分たちが作ったプログラムを、組み込んでいくという流れ。
もちろん強力な武器を製造するなら値段が高い高品質の材料と、時間をかけ念入りに組み込んだプログラムを用意する必要が。こういうのは両方ともコピーすることができず、一から用意しないといけないので資金と手間がかかってしまうらしい。ちなみに材料を買う方法はエデンのアイテム販売システムにアクセスし、欲しい材料を要求する。そうすることでシステムが用意して値段を付けてくるので、あとはそれを購入するだけであった。
「うーん、私はアビリティで作れるからいらないかな。それよりもゆきってデュエルアバターだけでなく、武器まで作れるんだ」
「ふっふーん、伊達に剣閃の魔女と呼ばれてないからねぇ! デュエルアバターや武器はもちろん、ガーディアンやはたまたセキュリティーの壁まで、依頼さえあればなんだって用意してみせるもん!」
実際のところSSランクの剣閃の魔女に依頼を頼めるなら、そのクオリティ上、いくら金をだしても元がとれるといわれるほど。そのため彼女みたいな高位ランクの電子の導き手とつながりがあるのは、クリフォトエリアに関わる者にとってものすごいアドバンテージになるのであった。
「一つ言っておくと、ゆきはかなりすごいぞ。日本だけでなく世界各国の政府やら軍がその力を求めて、直々に依頼してくるからな。とりあえず困ったことがあったら、剣閃の魔女に依頼すればいいってのが当たり前になってるほどだ」
彼女は非常に優秀な電子の導き手なので、政府や軍といった最上位のところからも依頼がきた。アバターや武器の製造依頼はもちろん、改ざんを使っての様々な分析、テロリストの潜伏先の調査などその依頼は数しれず。一番厳重とされている政府側のアーカイブポイントのセキュリティーを、任せられたりもしていた。
「え? それっていくらなんでもすごすぎない?」
「まあねぇ! でも有名になりすぎたせいで、変なところから狙われたりとか大変なんだぁ。あー、人気者はつらいなぁー」
ゆきはやれやれと肩をすくめながらも、まんざらでもない笑みを。
このように政府や軍との深いつながりがあるゆえ、そのデータを求めてテロリストたちがゆきのアーカイブスフィアを狙うのはよくある話であった
「だからそのためのオレたちってわけだ。ゆきとアイギスはいろいろと契約を結んでいて、たまにゆきの私兵みたいな感じで働くことがある。護衛やら、おつかいやらかなりこき使われることになるから、今のうちに覚悟しといた方がいいぞ」
「ふっふーん、つまりゆづきもくおんと同じく、ゆきを雇い主みたいに扱わないといけないんだよぉ」
「――そうなんだ……。ということはゆきとは友達感覚で付き合ったら、ダメってことなのね……」
こき使われるというところではなく、仲良くなれないところにがっかりする結月。
「………友達……。あ、いや……。ゴホン! まあ、ゆづきがどうしてもこのゆきと友達でいたいというなら、そ、そう接してくれてもいいよぉ! ゆ、ゆきは優しいから仕方なくなんだけどねぇ!」
ゆきは友達という言葉に反応してか、視線を逸らしながらテレくさそうに主張する。
「ありがとう! ゆき! これからもよろしくね!」
「光栄に思っていいからぁ! 普通ならゆきは友達というものを作らない主義なんだけど、今回は特別!」
「それってたんに今まで友達がいなかっただけじゃ……?」
「う、うるさい! くおん! ゆきはいつも仕事が忙しいからいないだけで、作ろうと思えばいくらでも作れるんだもん!」
レイジのツッコミに、ゆきは両腕をブンブン振って豪語しだす。
あきらかに強がりだとわかるのだが、これ以上この件に関わるのはかわいそうなので止めておいた。
「さっ、もうこれで用はないだろぉ。さっきのアーカイブスフィアを置いて、もう帰ってよねぇ」
そしてゆきは、シッシッと邪魔者を追い払うような仕草をしてくる。
「もう少しゆきとおしゃべりしたいんだけど、ダメなの?」
「そうしたいのも山々だけど、ゆきにはいろいろとやらなくてはいけないことがあるんだぁ。だからまた今度来た時にお願いー。あと、ここでゆっくりしていっていいけど、帰る時はこの建物内からログアウトしてねぇ」
ゆきの申し訳なさそうな表情をみるに、本当のことのようだ。
きっとアラン・ライザバレットの件で、那由他や軍から依頼されているのかもしれない。
「そっか。ならオレたちは邪魔にならないように、帰るとするか」
「残念だけどしかたないね。――はい、ゆき、これ依頼のメモリースフィア」
結月はさきほど手に入れたメモリースフィアを、ゆきに渡す。
「ありがとぉ。じゃ、またねぇ」
「うん、バイバイ」
「それじゃあな」
別れを済ませ、部屋から出ようとする。
「あ、そうだったぁ。くおん、少し話したいことがあるから残ってぇ」
しかしその直後、ゆきが急に呼び止めてくるのであった。
広々とした通路を通り、ゆきが普段いる彼女の仕事部屋の前に到着。ノックした後、扉を開き中へと入った。部屋の中に入ると広々とした空間に、武器やガーディアン、メモリースフィアなどがあたりに散乱し、なかなかの散らかりっぷりである。相変わらずガサツなゆきらしい部屋であった。
すると魔女帽子を再びかぶったゆきが出迎えてくれる。
「初め! まして! かたぎりゆづき。剣閃の魔女ことゆきだよぉ! 早速だけど、注文を受けていたデュエルアバターを渡すからこっちに来てぇ!」
ゆきはさきほど出会ったときのように、スカートの裾をつまんでゆうがにお辞儀してくる。
この様子、どうやら始めからやり直したいらしい。
「――えっと……。ゆき……、ちゃん……?」
さっきのこともあるため、おずおずたずねる結月。
「ちゃんづけするなぁ! あと、ゆきとゆづきが会ったのはこれが初めてなんだからぁ! そうだよねぇ!」
ゆきはビシッと指を突き付け、激しく同意を求めてくる。よほどさっきの件を思い出したくないのだろう。
「おーい、ゆき。さすがにさっきのことをなかったことにするのは、無理だと思うぞ」
「あー! あー! なんにも聞こないー! ゆきはゆづきと初めて会ったんだもん! だからあんな耐え難い屈辱は受けてない!」
ゆきは耳をふさぎながら、必死にごまかそうとする。
その反応は本当に自分たちと同い年なのかと、疑問に思うほど子供っぽかった。
「ゆき、いろいろとごめんね。これからは同年代の子として接するから、仲良くしよう」
そんな現実を受け入れようとしないゆきに、結月はにっこりほほえみながら手を差し出す。
「うー、もう子供扱いしない?」
「もちろんよ。さっきまではちょっとした勘違いのせい。今度からは気を付けるから安心して」
「――そ、そうしてくれるなら考えないでもないかなぁ。――まぁ、適当によろしくー」
テレくさそうに結月の手を取り、握手するゆき。
「――でも、私たちといる時は、帽子を没収ね!」
これでこの件は無事に解決できたと安心していると、結月が見事に期待を裏切りだした。さっきのゆきに接していたように、ハイテンションでゆきの魔女帽子をバッと取り上げる。
「えー!? なんでそうなるんだぁ!?」
「ゆきはお人形さんみたいにかわいいんだから、帽子で隠すなんてもったいないよ! うん、やっぱりかわいいー! ねえ、抱きしめていい? いいよね! えいっ!」
キャーと黄色い声を上げながら、もう抑えきれないとグイグイゆきの方へ詰め寄る結月。
「抱き付こうとするなぁ! くおん助け……! ぐふっ!」
ゆきは抱き付かれるのを拒もうとするが、その抵抗むなしく結月の豊満な胸にぼふっと顔から埋まった。
どうやら結月のかわいいものに目がない性格は、自重できないらしい。きっとこれからもこんな感じで、ゆきは彼女に愛でられていくのだろう。一応助けることもできたが、結月が幸せそうなのでしばらく放っておくことにした。
「あー、癒されるー。もうこのまま家まで持って帰りたいぐらい!」
結月はすりすりゆきの頭をほおずりし、ぎゅーと抱きしめる力を強める。
さすがにゆきが不憫になってきたので、助け船を出してやることに。
「――おーい、結月。堪能してるところ悪いが、そろそろ離してやらないとゆきが窒息死するぞ……」
「――あ……、私ったら、また、つい……」
「――はぁ、はぁ……。まさか胸に埋もれさすとはぁ……。胸が小さいゆきの当て付けかぁ!?」
ようやく解放されたゆきは、自身のつつましい胸に手を当てながら涙目で文句を。
確かに二人の胸を見比べると、これほどもまでかというほどの戦力差があった。まったいらに近いゆきと、あのスタイルのいいアリス以上に豊満な結月。これが同い歳とは、到底考えられない。
「――あはは……、ごめんね……。でも、胸が大きくてもいいことはあまりないよ? 肩がこったり、男の子の視線が気になったりとか、いろいろ大変だもの」
すると結月はどこかはずかしそうに目をふせながら、困った笑みを浮かべる。
「うわぁ、この人本気で言ってやがるよぉ! それは持たざる者にとって、超! 超! 贅沢すぎる悩みだというのに!」
だがゆきにはまったく共感を得られなかったらしい。彼女は両腕をグッと上へ伸ばし、悔しそうに抗議する。
「え、そうなの?」
「――こ、この余裕はやはり、胸の戦力さかぁ……。クソッ! 今に見てろぉ! ゆきは今成長期真っ盛りなんだから、まだまだ望みがあるんだもん!」
ゆきは腰に両手を当て、つつましい胸を張りながら根拠のない主張を。
「いや、オレたちと同い年だともう絶望的だろ。それ……」
これにはさすがにツッコミを入れずにはいられなかった。
その瞬間ゆきの方から、なにかがものすごい速さで放たれる。
「なっ!?」
レイジのほおをかすったそれは、後方の壁に激突。冷や汗をかきながら振り返ると、壁の方に一本の細身の剣が突き刺さっていた。
そしておそるおそるゆきの方を見る。そこには鬼の形相で、怖い笑顔を浮かべるゆきの姿が。
「ふふふふふっ、くおん、よほどゆきに殺されたいようだなぁ? いいよぉ、今ちょうど世界の理不尽さに怒りをぶちまけたかったところだから、その腹いせにー!」
「――だ、大丈夫だ、ゆき。世の中には小さいほうがいいという人間もいる。だからそう落ち込むな。それに背も低
いから、より求められるジャンルが増えているんだぞ」
「誰が幼女体型だぁ! 余計悪いだろうがぁ!」
なんとかゆきの怒りを鎮めようとフォローした言葉だったが、逆に火に油をそそぐ形になってしまったらしい。その証拠にゆきの方から第二射の剣が。さっきのよりもさらに速い一撃であり、しかも完全に直撃コースであった。
「ッ!? あぶねー」
ゆきの攻撃を、取り出した刀でなんとか払い落とす。
どうやら相当キレているようで、このまま放っておくとゆきのアビリティをフルに使ってきそうな勢いだ。
「そこまで! 私が悪かったから、久遠くんのことは許してあげて! このとおり! ね!」
そんな危ない状況の中、結月がゆきの前に立へ。そして手を合わせ必死に謝ってくれる。
「――はぁ……、もういい。ゆきも少し大人げなかったと思うから、ここはゆづきに免じて許しといてあげるー。命拾いしたなぁ、くおん」
腕を組みながら、ふんっだとそっぽを向くゆき。
「――ははは……、ああ、まったくだ」
「結月。さっさと渡すもの渡すから手を出して」
そしてゆきは結月に取られた魔女帽子を奪い返し、自身のアイテムストレージに入れる。どうやら帽子のことはあきらめたようだ。かぶったらさっきのやり取りが再び繰り返されると、ふんだのだろう。
それからゆきは結月へと手を差し出した。
「うん、お願いするね。――わっ、なにか出てきた!?」
結月がその手をつかんだ瞬間、ゆきの周りにいくつもの画面が現れる。そこにはレイジに理解できそうにない、数字や言葉の羅列がいくつも表示されていた。
そしてゆきは手を使わず、目視による操作でどんどん作業を進めていく。その姿はさっきまでの子供みたいなゆきではなく、剣閃の魔女としての威厳がにじみ出ていたといってよかった。
「はい、受け渡しおしまいー。ついでにさっきの戦闘データをゆきなりに分析して、カスタマイズしといたからぁ」
しばらくたってゆきはつないでいた手を放し、おわりを知らせる。
「わー、ゆき、ありがとう。これで思う存分、力を発揮できるよ!」
「ふっふーん、期待しといてよねぇ。なんたってそのデュエルアバターはゆき手ずから、ゆづき専用に調整し作り上げた傑作。そこいらの電子の導き手と比べ物にならないと、|自負してるもん!」
ゆきはない胸を張りながら、エッヘンと得意げに力説する。
「あと武器の方はどうするー? それなりの額を払ってもらえれば、ゆづき用のオリジナルの武器を作ってあげるけどぉ?」
電子の導き手が武器やガーディアンなどを製造する時は、まずエデンで売られている様々な素材を買って組み合わせる。そこから自分たちが作ったプログラムを、組み込んでいくという流れ。
もちろん強力な武器を製造するなら値段が高い高品質の材料と、時間をかけ念入りに組み込んだプログラムを用意する必要が。こういうのは両方ともコピーすることができず、一から用意しないといけないので資金と手間がかかってしまうらしい。ちなみに材料を買う方法はエデンのアイテム販売システムにアクセスし、欲しい材料を要求する。そうすることでシステムが用意して値段を付けてくるので、あとはそれを購入するだけであった。
「うーん、私はアビリティで作れるからいらないかな。それよりもゆきってデュエルアバターだけでなく、武器まで作れるんだ」
「ふっふーん、伊達に剣閃の魔女と呼ばれてないからねぇ! デュエルアバターや武器はもちろん、ガーディアンやはたまたセキュリティーの壁まで、依頼さえあればなんだって用意してみせるもん!」
実際のところSSランクの剣閃の魔女に依頼を頼めるなら、そのクオリティ上、いくら金をだしても元がとれるといわれるほど。そのため彼女みたいな高位ランクの電子の導き手とつながりがあるのは、クリフォトエリアに関わる者にとってものすごいアドバンテージになるのであった。
「一つ言っておくと、ゆきはかなりすごいぞ。日本だけでなく世界各国の政府やら軍がその力を求めて、直々に依頼してくるからな。とりあえず困ったことがあったら、剣閃の魔女に依頼すればいいってのが当たり前になってるほどだ」
彼女は非常に優秀な電子の導き手なので、政府や軍といった最上位のところからも依頼がきた。アバターや武器の製造依頼はもちろん、改ざんを使っての様々な分析、テロリストの潜伏先の調査などその依頼は数しれず。一番厳重とされている政府側のアーカイブポイントのセキュリティーを、任せられたりもしていた。
「え? それっていくらなんでもすごすぎない?」
「まあねぇ! でも有名になりすぎたせいで、変なところから狙われたりとか大変なんだぁ。あー、人気者はつらいなぁー」
ゆきはやれやれと肩をすくめながらも、まんざらでもない笑みを。
このように政府や軍との深いつながりがあるゆえ、そのデータを求めてテロリストたちがゆきのアーカイブスフィアを狙うのはよくある話であった
「だからそのためのオレたちってわけだ。ゆきとアイギスはいろいろと契約を結んでいて、たまにゆきの私兵みたいな感じで働くことがある。護衛やら、おつかいやらかなりこき使われることになるから、今のうちに覚悟しといた方がいいぞ」
「ふっふーん、つまりゆづきもくおんと同じく、ゆきを雇い主みたいに扱わないといけないんだよぉ」
「――そうなんだ……。ということはゆきとは友達感覚で付き合ったら、ダメってことなのね……」
こき使われるというところではなく、仲良くなれないところにがっかりする結月。
「………友達……。あ、いや……。ゴホン! まあ、ゆづきがどうしてもこのゆきと友達でいたいというなら、そ、そう接してくれてもいいよぉ! ゆ、ゆきは優しいから仕方なくなんだけどねぇ!」
ゆきは友達という言葉に反応してか、視線を逸らしながらテレくさそうに主張する。
「ありがとう! ゆき! これからもよろしくね!」
「光栄に思っていいからぁ! 普通ならゆきは友達というものを作らない主義なんだけど、今回は特別!」
「それってたんに今まで友達がいなかっただけじゃ……?」
「う、うるさい! くおん! ゆきはいつも仕事が忙しいからいないだけで、作ろうと思えばいくらでも作れるんだもん!」
レイジのツッコミに、ゆきは両腕をブンブン振って豪語しだす。
あきらかに強がりだとわかるのだが、これ以上この件に関わるのはかわいそうなので止めておいた。
「さっ、もうこれで用はないだろぉ。さっきのアーカイブスフィアを置いて、もう帰ってよねぇ」
そしてゆきは、シッシッと邪魔者を追い払うような仕草をしてくる。
「もう少しゆきとおしゃべりしたいんだけど、ダメなの?」
「そうしたいのも山々だけど、ゆきにはいろいろとやらなくてはいけないことがあるんだぁ。だからまた今度来た時にお願いー。あと、ここでゆっくりしていっていいけど、帰る時はこの建物内からログアウトしてねぇ」
ゆきの申し訳なさそうな表情をみるに、本当のことのようだ。
きっとアラン・ライザバレットの件で、那由他や軍から依頼されているのかもしれない。
「そっか。ならオレたちは邪魔にならないように、帰るとするか」
「残念だけどしかたないね。――はい、ゆき、これ依頼のメモリースフィア」
結月はさきほど手に入れたメモリースフィアを、ゆきに渡す。
「ありがとぉ。じゃ、またねぇ」
「うん、バイバイ」
「それじゃあな」
別れを済ませ、部屋から出ようとする。
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