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1章 第3部 レイジの選択
43話 幸運の女神
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「レイジ、あなたはどちらを選んでもいいんですよ! たとえそれが、アリスさんのいるレイヴンに戻ったとしてもね!」
那由他は立ち上がり、タッタッタと前へ。そしてくるりと一回転してレイジの方へと振り返り、バッと両腕を広げながらまぶしい笑顔を向けてくる。
それは迷っているレイジの背中を、押してくれるように。
「おいおい、アイギスを取り仕切ってる、那由他がそれを言ったらダメだろ。結月が入ってくれたとはいえ、オレが
抜けたらまた人手不足に逆戻りだぞ」
実際三人いたとしてもきついのにまた二人だけになってしまったら、アイギスにとって大きな痛手は明白。特に今はアラン・ライザバレットの件というヤバイ仕事があるのに、那由他と新人の結月二人だけではさすがに荷が重すぎるはず。
「そういう細かいことは、わたしがなんとかしておくのでご安心ください! 今大事なのは、久遠レイジがこれからどうしたいかのはず!」
那由他はどんっと胸をたたき、優しくさとしてくれる。
「――そうかもしれないけど……」
「まー、さすがにわたしとレイジが抜けるとあってはあと処理が大変ですが、とりあえずなんとかなるでしょう!」
腕を組みほおに指を当てて、とんでもないことを口にする那由他。
「ちょっと待て!? なんで那由他までアイギスを出ていくことに、なってるんだ!?」
これには思わず手で制しながら、ツッコミを入れるしかない。
もはや彼女の言葉がまったく理解できない。レイジにはまだ出ていく理由があるが、那由他にはそれがないはず。なのにどうしてレイジと一緒に那由他も、アイギスを出ていく話になっているのだろうか。
「そんなのレイジについて行くからに、決まってます! 離れ離れになってしまったら力になれないんですから、妥当な判断でしょ? まさか送り出してハイさようなら、なんて無責任なこと、あなたの幸運の女神である柊那由他ちゃんがすると、思ってたんですか?」
すると那由他は胸に手を当て、満面の笑顔でさぞ当然のごとく主張してきた。
「……あのな、仮についてきたとしても、なにもすることないだろ?」
「ありますよ!」
「え?」
一切の迷いなく即答してくる彼女に、開いた口がふさがらなくなってしまう。
「だって一人でこのままレイヴンに戻ったら、絶対後悔しますよね? 今もアリスさんの手を離したことに苦しんでいるレイジです。きっと今度は、アイギスで手に入れるべきだった答えをあきらめてしまったことに、苦しむはず……。それをこれからずっと一人で耐えきれますか?」
「―ッ!?」
きっと彼女の言うとおりになってしまうのだろう。ただでさえアイギスに来る前、カノンとアリスのことで散々迷ってきたレイジである。アリスの手を再び取るということは、そんな昔のころの自分にまた戻るだけ。しかもここで戻ればおそらく、次はない。もうアリスから離れられず、カノンのことで自分を責め続けるはずだ。
「レイジは優しすぎるから、余計に責任を感じて傷ついてしまう。そうなることがわかってるのに、あなたを一人で行かせるなんて、できるはずないじゃないですか……。――だからあのお方には申しわけないのですが、レイジについて行くことを優先させてもらうんですよ」
胸を両手でぎゅっと押さえ、切実な瞳で訴えてくる那由他。
「――気持ちはありがたいけど、さすがにわるいよ。それにいくら那由他でも、この迷いは……」
「ふっふっふっ! なめないでください! レイジがどれだけ落ち込んでいたとしても、那由他ちゃんの元気パワーを注入して、無理やりにでも明るくさせて見せるんですから! なのでいつもみたいに振り回しまくって、自分を責めてるヒマなんて与えてあげません! ほら! これなら少しは気がまぎれそうでしょ?」
那由他は胸元近くで手をグッとにぎり、はじけんばかりの笑顔を。そしてかわいらしく小首をかしげてくる。
そんな彼女の陽だまりのような明るさは、不思議なことにレイジを納得させてしまっていた。きっと那由他がそばで笑ってくれていたら、それだけで気が楽になるはずだと。もはや降参だと、笑うしかなかった。
「――ははは、ものすごく疲れそうだから勘弁してほしいけど、確かに落ち込んでる暇はなさそうだな」
「でしょ! でしょー! レイジみたいに物事を深く考える人には、那由他ちゃんのように明るく元気な超絶美少女を、そばに置いとくべきなんですよ! まさしく、相性抜群のカップルってやつですねー!」
レイジの素直な肯定に、那由他は上機嫌で調子のいいことを力説してくる。
「ついでにレイジの背負ってる重い重いなにかを、わたしも背負いましょう! わたしとレイジの最強コンビなら、どんな問題であろうとも万事解決ってね!」
「それは頼もしいけど、そもそも那由他はオレの抱えてる問題を知らないだろ? 前々からずっと言ってるが、教える気はないぞ」
得意げにウィンクしてくる那由他にはわるいが、それだけは譲れないと言い切った。
「ふっふっふっ、内容を教えてもらってなくても、できることはあります! レイジが選択を間違ったと後悔した時、それが正しかったんだって肯定してあげればいいんですから! だって自分を信じられなくても、あなたのかわいいかわいい那由他ちゃんのことなら、信じられますもんねー?」
すると那由他は座っているレイジの目の前に来て、中腰に。そして上からのぞき込みながら、かわいらしくにっこりほほえんできた。
まるでレイジが肯定することをわかっているかのような、自信に満ちあふれた感じでだ。もはやそんなふうに宣言されると、ものすごく反応に困ってしまう。なぜなら彼女の言う通りといっていいのだから。
「……そのいい方いろいろと、ずるすぎるだろ……」
「ふっふっふっ! だからレイジはレイヴンに戻っても、アイギスに残ろうともどちらでもいいんですよ! どの選択をしたとしても、わたしがどこまでもついて行って、味方になってあげるんですからね!」
「――まったく……、那由他にはかなわないな……」
彼女のまぶしすぎる宣言に、心からの本音をつぶやいてしまう。
(――那由他が味方でい続けてくれるってだけで、まさかここまで安心できるだなんて……)
そう、そのことをわかっただけで、いつの間にかアリスに対しての迷いがだいぶ楽になったといってよかった。彼女がそばにいるならば、自分の選んだ道を後悔せず前へ進めるだろうと。
「ねえねえ、レイジ! わたしに惚れ直しちゃいましたかー? もうあまりの感激で、那由他ちゃんへの好感度がうなぎのぼりでしょー」
心の中で彼女に感謝していると、那由他はグイグイ詰め寄りいつもの調子で猛アピールしてくる。
「ははは、もしそれがなければ惚れてたかもな」
「ガガーン! 那由他ちゃん、ここにきてまさかの痛恨のミスを!」
「――なあ、那由他。どうしてそこまでしてくれるんだ? オレたちの接点は一年前が最初のはず。なのに那由他は初めて会った時から、ずっと気にかけてくれてただろ」
口元を手で隠しなにやらショックを受けている那由他に、真剣な表情でたずねる。
これはずっと疑問に思っていたこと。初めて会った時からレイジの幸運の女神と宣言して、力になってくれると言い続けてきた少女。それが今やアイギスを捨ててまで、レイジについてきてくれるときた。いったいここまでしてくれる理由とは、なんなのだろうか。
「それは、ほら! 乙女の秘密ってやつですよー」
その疑問に彼女は言う気がないのか、すずしい顔でごまかしだす。
「あれだけ言ってくれてるのに、そこは譲れないのかよ」
「――ええ。でもどうか信じてほしい。柊那由他は久遠レイジのパートナーであり、幸運の女神。ずっとあなたの味方であり続ける女の子だと……」
祈るように手を組み、万感の想いを込めて告げてくる那由他。
その瞳には強い信念が宿っており、どれだけ本気なのかわかってしまう。きっと彼女はなにがあったとしても、その言葉を貫き通すのだろうと。
「その代わりと言ってはなんですが、わたしはレイジを信じてどこまでも! たとえ行き着く果てが地獄一直線でも、ついて行きますので!」
「ははは……、結局オレのパートナーは謎だらけってことか」
彼女の頼もしすぎる宣言に、どうやら折れるしかないようだ。
「あはは、そうですよ! 那由他ちゃんはミステリアスな、美少女エージェントなんですからねー。――さあ! 話もまとまった所で、お互い帰るとしましょうか! 明日からは忙しくなるはずですし! ほら、レイジ、行きますよ!」
那由他はレイジの手をつかんで引っ張り、立ち上がらせる。そしてそのままレイジの手を引いて軽い足取りで歩きだした。
「おい、一人で歩けるから、そう引っ張るなよ」
「いやですよーだ! レイジは那由他ちゃんがついていないとダメなんですから、離してあげませーん!」
レイジの主張に、那由他ははしゃぎながらほほえみかけてくる。
こうして彼女に引っ張られるままに、レイジは川沿いをあとにするのであった。
那由他は立ち上がり、タッタッタと前へ。そしてくるりと一回転してレイジの方へと振り返り、バッと両腕を広げながらまぶしい笑顔を向けてくる。
それは迷っているレイジの背中を、押してくれるように。
「おいおい、アイギスを取り仕切ってる、那由他がそれを言ったらダメだろ。結月が入ってくれたとはいえ、オレが
抜けたらまた人手不足に逆戻りだぞ」
実際三人いたとしてもきついのにまた二人だけになってしまったら、アイギスにとって大きな痛手は明白。特に今はアラン・ライザバレットの件というヤバイ仕事があるのに、那由他と新人の結月二人だけではさすがに荷が重すぎるはず。
「そういう細かいことは、わたしがなんとかしておくのでご安心ください! 今大事なのは、久遠レイジがこれからどうしたいかのはず!」
那由他はどんっと胸をたたき、優しくさとしてくれる。
「――そうかもしれないけど……」
「まー、さすがにわたしとレイジが抜けるとあってはあと処理が大変ですが、とりあえずなんとかなるでしょう!」
腕を組みほおに指を当てて、とんでもないことを口にする那由他。
「ちょっと待て!? なんで那由他までアイギスを出ていくことに、なってるんだ!?」
これには思わず手で制しながら、ツッコミを入れるしかない。
もはや彼女の言葉がまったく理解できない。レイジにはまだ出ていく理由があるが、那由他にはそれがないはず。なのにどうしてレイジと一緒に那由他も、アイギスを出ていく話になっているのだろうか。
「そんなのレイジについて行くからに、決まってます! 離れ離れになってしまったら力になれないんですから、妥当な判断でしょ? まさか送り出してハイさようなら、なんて無責任なこと、あなたの幸運の女神である柊那由他ちゃんがすると、思ってたんですか?」
すると那由他は胸に手を当て、満面の笑顔でさぞ当然のごとく主張してきた。
「……あのな、仮についてきたとしても、なにもすることないだろ?」
「ありますよ!」
「え?」
一切の迷いなく即答してくる彼女に、開いた口がふさがらなくなってしまう。
「だって一人でこのままレイヴンに戻ったら、絶対後悔しますよね? 今もアリスさんの手を離したことに苦しんでいるレイジです。きっと今度は、アイギスで手に入れるべきだった答えをあきらめてしまったことに、苦しむはず……。それをこれからずっと一人で耐えきれますか?」
「―ッ!?」
きっと彼女の言うとおりになってしまうのだろう。ただでさえアイギスに来る前、カノンとアリスのことで散々迷ってきたレイジである。アリスの手を再び取るということは、そんな昔のころの自分にまた戻るだけ。しかもここで戻ればおそらく、次はない。もうアリスから離れられず、カノンのことで自分を責め続けるはずだ。
「レイジは優しすぎるから、余計に責任を感じて傷ついてしまう。そうなることがわかってるのに、あなたを一人で行かせるなんて、できるはずないじゃないですか……。――だからあのお方には申しわけないのですが、レイジについて行くことを優先させてもらうんですよ」
胸を両手でぎゅっと押さえ、切実な瞳で訴えてくる那由他。
「――気持ちはありがたいけど、さすがにわるいよ。それにいくら那由他でも、この迷いは……」
「ふっふっふっ! なめないでください! レイジがどれだけ落ち込んでいたとしても、那由他ちゃんの元気パワーを注入して、無理やりにでも明るくさせて見せるんですから! なのでいつもみたいに振り回しまくって、自分を責めてるヒマなんて与えてあげません! ほら! これなら少しは気がまぎれそうでしょ?」
那由他は胸元近くで手をグッとにぎり、はじけんばかりの笑顔を。そしてかわいらしく小首をかしげてくる。
そんな彼女の陽だまりのような明るさは、不思議なことにレイジを納得させてしまっていた。きっと那由他がそばで笑ってくれていたら、それだけで気が楽になるはずだと。もはや降参だと、笑うしかなかった。
「――ははは、ものすごく疲れそうだから勘弁してほしいけど、確かに落ち込んでる暇はなさそうだな」
「でしょ! でしょー! レイジみたいに物事を深く考える人には、那由他ちゃんのように明るく元気な超絶美少女を、そばに置いとくべきなんですよ! まさしく、相性抜群のカップルってやつですねー!」
レイジの素直な肯定に、那由他は上機嫌で調子のいいことを力説してくる。
「ついでにレイジの背負ってる重い重いなにかを、わたしも背負いましょう! わたしとレイジの最強コンビなら、どんな問題であろうとも万事解決ってね!」
「それは頼もしいけど、そもそも那由他はオレの抱えてる問題を知らないだろ? 前々からずっと言ってるが、教える気はないぞ」
得意げにウィンクしてくる那由他にはわるいが、それだけは譲れないと言い切った。
「ふっふっふっ、内容を教えてもらってなくても、できることはあります! レイジが選択を間違ったと後悔した時、それが正しかったんだって肯定してあげればいいんですから! だって自分を信じられなくても、あなたのかわいいかわいい那由他ちゃんのことなら、信じられますもんねー?」
すると那由他は座っているレイジの目の前に来て、中腰に。そして上からのぞき込みながら、かわいらしくにっこりほほえんできた。
まるでレイジが肯定することをわかっているかのような、自信に満ちあふれた感じでだ。もはやそんなふうに宣言されると、ものすごく反応に困ってしまう。なぜなら彼女の言う通りといっていいのだから。
「……そのいい方いろいろと、ずるすぎるだろ……」
「ふっふっふっ! だからレイジはレイヴンに戻っても、アイギスに残ろうともどちらでもいいんですよ! どの選択をしたとしても、わたしがどこまでもついて行って、味方になってあげるんですからね!」
「――まったく……、那由他にはかなわないな……」
彼女のまぶしすぎる宣言に、心からの本音をつぶやいてしまう。
(――那由他が味方でい続けてくれるってだけで、まさかここまで安心できるだなんて……)
そう、そのことをわかっただけで、いつの間にかアリスに対しての迷いがだいぶ楽になったといってよかった。彼女がそばにいるならば、自分の選んだ道を後悔せず前へ進めるだろうと。
「ねえねえ、レイジ! わたしに惚れ直しちゃいましたかー? もうあまりの感激で、那由他ちゃんへの好感度がうなぎのぼりでしょー」
心の中で彼女に感謝していると、那由他はグイグイ詰め寄りいつもの調子で猛アピールしてくる。
「ははは、もしそれがなければ惚れてたかもな」
「ガガーン! 那由他ちゃん、ここにきてまさかの痛恨のミスを!」
「――なあ、那由他。どうしてそこまでしてくれるんだ? オレたちの接点は一年前が最初のはず。なのに那由他は初めて会った時から、ずっと気にかけてくれてただろ」
口元を手で隠しなにやらショックを受けている那由他に、真剣な表情でたずねる。
これはずっと疑問に思っていたこと。初めて会った時からレイジの幸運の女神と宣言して、力になってくれると言い続けてきた少女。それが今やアイギスを捨ててまで、レイジについてきてくれるときた。いったいここまでしてくれる理由とは、なんなのだろうか。
「それは、ほら! 乙女の秘密ってやつですよー」
その疑問に彼女は言う気がないのか、すずしい顔でごまかしだす。
「あれだけ言ってくれてるのに、そこは譲れないのかよ」
「――ええ。でもどうか信じてほしい。柊那由他は久遠レイジのパートナーであり、幸運の女神。ずっとあなたの味方であり続ける女の子だと……」
祈るように手を組み、万感の想いを込めて告げてくる那由他。
その瞳には強い信念が宿っており、どれだけ本気なのかわかってしまう。きっと彼女はなにがあったとしても、その言葉を貫き通すのだろうと。
「その代わりと言ってはなんですが、わたしはレイジを信じてどこまでも! たとえ行き着く果てが地獄一直線でも、ついて行きますので!」
「ははは……、結局オレのパートナーは謎だらけってことか」
彼女の頼もしすぎる宣言に、どうやら折れるしかないようだ。
「あはは、そうですよ! 那由他ちゃんはミステリアスな、美少女エージェントなんですからねー。――さあ! 話もまとまった所で、お互い帰るとしましょうか! 明日からは忙しくなるはずですし! ほら、レイジ、行きますよ!」
那由他はレイジの手をつかんで引っ張り、立ち上がらせる。そしてそのままレイジの手を引いて軽い足取りで歩きだした。
「おい、一人で歩けるから、そう引っ張るなよ」
「いやですよーだ! レイジは那由他ちゃんがついていないとダメなんですから、離してあげませーん!」
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