電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

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1章 第4部 動き始めた運命

61話 交差する刃と刃

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 レイジと那由他は普通より一回り大きい通路を走りながら、ゆきたちのいるアーカイブスフィアがある部屋へと急ぐ。
 この状況、どんな手段を使ったかは知らないが、敵が攻め込んで来たとみるべきだろう。こうなってしまえば敵との戦闘は避けられない。なのでレイジは万全の状態で戦えるように、不安要素を再び確認してみた。

(――森羅しんらが言ってた力って、やっぱりこれのことだよな……)

 走りながらも、宙に映し出された画面を操作してレイジの内部情報を調べていく。
 エデンに入ってからも確認したのだが、レイジのデュエルアバターには前までなかったプログラムが一つ追加されていたのだ。見た感じアビリティのようなものだが、その効果はまったくの謎。実際に起動して使ってみるとわかるのだろうが、えたいがしれないため躊躇ちゅうちょせざるを得なかった。

(このアビリティ……、なんかすごく嫌な予感がするんだが……。――まあ、なにが起こるかわからないし、今は放っておこう。後でゆきに調べてもらえばいいしな)

 このプログラムからは、なにやら禍々まがまがしいものを感じてしまう。きっと本来デュエルアバターに組み込むものではない、異質ななにかが。その証拠にこれほどの容量が大きいプログラムが追加されたにも関わらず、レイジのデュエルアバターには一切の支障がない。このことでなにがおかしいのかというと、本来容量の問題でデュエルアバターに組み込めるアビリティは原則一つ。だが今のレイジの場合、抜刀のアビリティのほかにもう一つ、この謎のアビリティが使える状態なのだ。もはやシステム面の制約を、完全に無視してしまっているといってよかった。
 走りながらいろいろ思考していると、ふと那由多が口を開いた。

「レイジ!」
「ッ!?」

 その危機感がこもった彼女の声で、レイジは現状の事態をすぐさま把握はあく
 開いていた画面を閉じ、アイテムストレージから刀を取り出して那由他に声をかけた。

「那由他! 手前の奴の相手は任せたぞ!」

 前方からせまりくる影は二つ。その一番前の猛スピードで突っ込んでくる少女の相手を那由他に任せ、レイジは奥にいる少女目掛けて疾走を開始。

「アハハ、ワタシに目もくれずとは、いい度胸ですね! レイジ先輩! 隙がありすぎですよ!」

 奥にいる少女のところへ向かおうとするレイジだが、そううまくはいかない。
 レイジを襲うのは加速の勢いを十二分に加えた水の槍。標的目掛けて一直線に走る閃光はあまりに速く、軌道を読むだけでも至難のわざ。奥にいる少女に意識を集中していたレイジにとって、彼女の攻撃をさばききるのはもはや不可能。防ごうとしたとしても間に合わず、つらぬかれてしまうだろう。
 だがレイジはその槍が届かない事を知っていた。ゆえに光には目もくれず、ただ奥の少女へと突き進んで行く。なぜならレイジの後ろには、頼りになるパートナーがいるのだから。

「光、あまりオレばっかに気を取られてるとやられるぞ?」
「え?」

 光がレイジの忠告に唖然あぜんとしたその刹那。

「ふっふっふっ! そうですよー! なんたってレイジにはパートナーである、那由他ちゃんがついてるんですからねー!」

 光の放った槍撃の軌道上に、一発の銃弾が割り込みその一撃をみごとにはじいてみせたのだ。

「そんな!?」

 もはやなにが起きたか理解できていない光。
 レイジが一瞬後方を見ると、そこには那由他が一丁のハンドガンをかまえて引き金を引いた直後。そう、なんと那由多は神業かみわざ的銃さばきで、光の槍の軌道上に弾丸を放っていたのだ。

「さあ、行ってください! レイジ! 彼女の相手は那由他ちゃんにお任せあれ!」
「頼んだ!」

 光の横をすり抜け、そのまま前進。これでレイジと彼女をさまたげる者はいなくなった。レイジはさやから刀を抜く。
 彼女の方もレイジの意図に気づき、すでに動いていた。背丈せたけほどある巨大な太刀たちを鞘から抜き、疾走を。あとはお互い全力でぶつかり合うだけだ。 
 そして。

「アリス!」
「レージ!」

 やいばと刃が激しく交差し火花を散らせ、鋭い金属音が辺り一帯に響き渡る。そしてレイジとアリスはつばぜり合いになりながら、互いに見つめ合った。
 そこには瞳を歓喜の色に染めた少女。家族であり戦友でもあった、レイジにとって誓いを果たすべき女の子の一人。アリス・レイゼンベルトの姿が。

「フフフ、さあ、レージ! 待ちに待った最高の闘争劇を始めましょう!」

 心底うれしそうに、闘争の開幕を告げてくるアリス。

「望むところだ! アリス! アイギスのメンバーとして、オレはお前をつ!」

 そして始まる。久遠レイジとアリス・レイゼンベルトの闘争劇が今ここに。
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