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2章 第1部 十六夜学園
76話 那由他と夜の学園
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レイジと那由他がいるのは十六夜学園の校舎内。中にはもう誰もおらず静まり返っており、二人の足音がコツンコツンと響き渡っている。それもそのはず現在の時刻は夜中。生徒はもちろん、教員まで帰った学園に誰もいるはずがない。いるとしたら警備員ぐらいだが、今回はいないそうだ。なんでも人払いのため、断ったとかなんとか。
校舎内は電気がついていなかったが、差し込む月明かりにより案外明るい。淡い青色の光がいい感じに周囲を照らし、どこか神秘的な雰囲気をただよわせていた。
(革新派との会合……。罠かもしれないが、今の状況的に行くしかないよな……)
なぜレイジたちがこんな夜中に学園へ来ているのかというと、呼び出されたから。アポルオンの巫女派のアイギスと今後について話がしたいと。しかもその相手はなんと、例の革新派のメンバー。なのでさすがに無視するわけにもいかず、情報を得るため那由他と共に指定された場所へ向かっている最中なのであった。
(――とはいっても、まずはこっちをどうにかしないと……)
レイジはさっきから頭を痛める原因を作っている那由他の方を見る。
彼女はこれから起こるであろう緊迫した状況を前にまったく臆せず、いつもと同じ。いや、それ以上のハイテンション。もはやスキップでもしそうな勢いで、夜の学園を楽しんでいた。
「ラーラーラー♪ かわいい、かわいい那由他ちゃんはー♪、レイジの嫁ー♪、二人でどこまでもー♪」
謎の歌を口にしながら、はずむ足取りで進む那由他。
少し前まではなんとかツッコミをこらえて放っておいたが、これ以上は無理だろう。なのでレイジはあきれながらも注意する。
「おーい、さっきからかまったら負けだと思って注意しなかったが、さすがに限界だぞ。なんて歌を口ずさんでるんだ?」
「なにって? ふっふっふっ! 那由他ちゃんとレイジのラブソングに決まってるじゃないですかー!」
那由多はくるりと振り返り、とびっきりの笑顔でウィンクしてくる。
「――ラブソングって……。――はぁ……、いつもハチャメチャだが、今日は一段と変な方向に飛ばしてるな……」
「あはは、だって夜の学園なんですよ! これがテンション上がらずにどうするんですかー! ここから起こるイベントは数知れず、男女の距離を縮めるものばかり! 那由他ちゃんにとって、まさにチャンスタイム! なので!」
頭を抱えていると、那由多が胸元近くで両腕をブンブン振りながらはしゃぎだす。
「はっ、嫌な予感……」
そんな彼女の不穏な言葉に思わずあとずさろうとする。
こういう時の那由多はまず間違いなく行動を起こす。ゆえに逃げるべきだと動いたのだが。
「キャー! レイジ! 那由他ちゃん怖いー!」
那由他は少しわざとらしい悲鳴をあげて、レイジの腕にギュッと抱きついてきた。
相手は執行機関のエージェント。その身のこなしはすさまじく、すぐさま彼女につかまってしまった。それにより女の子特有の甘い香りと、むにっとマシュマロみたいなやわらかい感触が襲ってくる。
「やはりそうくるか!? 離せ!」
このままではまずいと、動揺しながらもなんとか那由他を引き離す。
「怖がってる女の子にひどいじゃないですかー! ここは安心させるためにも、手をつないであげる場面! ささ、お手を那由他ちゃんに!」
するとほおを膨らませ、うったえてくる那由多。そして手を差し出し、甘えた口調でねだってきた。
しかし怖がっていないのが明白なため、すぐさま正論を言い放つ。
「あのな、全然怖がってないだろ。そもそも那由他はお化けとか怖がる性格じゃないし」
「や、やだなー、そんなわけないですってばー!? ほら、人は見かけによらないといいますし、こんなかわいらしい弱点を持っていてもおかしくありません!」
那由多は両ほおに指を当て、かわいらしくほほえんでくる。ただその笑みは少しひきつっていた。
もはや図星なのが丸わかりである。
「ないない。というかむしろ、お化けの方があんたを怖がりそうだぞ。ははは」
「ぶー、失礼なー! こんないたいけな女の子に向かって、デリカシーがなさすぎです!」
腹を抱えて笑っていると、那由多がほおに手を当てわざとらしく泣き崩れだす。
「……なあ、那由他。今までだまっていたが、オレには霊感があるんだ。だから今、那由他の後ろに子供の霊がいるのも見えていてな……」
そんななかなか認めようとしない那由多に、彼女の後ろを指さしながら深刻そうに告げた。
「はぁ? レイジ、なに言ってるんですか? 霊なんてこの世にいるはずがない。どうせ錯覚ですよ、錯覚! あはは!」
するとばかばかしいと笑い飛ばしてくる那由多。
「おい、さっきの会話の流れからして、ここは怖がって抱き付きにくるところだろ?」
「ハッ、しまった!? キャー、レイジ、怖いー!」
那由他はハッと我に返り、怖がる演技をしながら再び抱き付こうと。
そんな彼女を今度はとらえ、頭に軽いチョップをくらわす。
「遅いわ!」
「――むむむ、那由他ちゃん一生の不覚……。ええい! 怖がる乙女(おとめ)作戦失敗! ならば次は! レイジ! わたし疲れてきちゃいました! だから保健室でお休みしましょうよー! あそこならベッドがありますし!」
涙目で被弾箇所を押さえる那由多。しかし彼女はすぐさま気を取り直し、懲りずに別のアプローチで攻めだす。
レイジとしてはかまうとまた話がめんどうになるので、彼女を放って歩みを進めた。
「なんたって今は誰もいない! つまりなにをしてもオッケー! もう存分にイチャイチャを! あ、もしかしてレイジは教室でいけないことをしちゃいたい派ですか? 那由他ちゃんはどっちでもいいですからねー! ――あ、あれレイジは? ハッ、待ってくださいってばー」
那由多は両ほおに手を当て、キャッキャッと一人で盛り上がり始める。だがすぐにレイジがいないことに気づき、こちらに手を伸ばしながら駆け寄ってきた。
「――はぁ……、まったく……。なんで那由他はこうなってしまったんだ? アイギスに入ってすぐの頃はもっと普通の……、いや、ただのイタイ奴だっただろ?」
天を仰ぎみながら、ため息をつくしかない。
アイギスに入ってすぐの頃、彼女はさわがしくはあったがこんな猛アピールをしてくることはなかった。少し問題はあったものの普通に同僚としての関係で、色恋沙汰ほとんどない。だがいつからか急にこんな感じで、せまってきたのである。
「あはは……、あのー、レイジ。そろそろわたしをイタイ子呼ばわりするの、止めてもらえます? さすがに怒っちゃいますよ?」
そんなことを考えていると、那由他がレイジの肩を後ろからがっしりつかみ、引きつった笑みで抗議してきた。
なので振り返りながらも、さぞ当然に告げてやる。
「いや、ほんとのことだし」
「あのですね! 那由他ちゃんは純粋無垢な可愛らしい女の子! そんないたいけなわたしに、よくイタイなどと貶す発言ができますね!? もはや全国の那由他ちゃんファンが大暴動を起こす事案ですよ! これ!」
那由多は自身の胸をドンっとたたき、ぷんすか主張してくる。
「あー、ハイハイ。そこは別にどうでもいいから」
「ひどい!?」
「それより、どうして那由他が付きまとうようになったかだ」
ショックを受けているを彼女を放って、再び話を戻す。
「ぶー、なんですー。文句あるんですかー? そんなの那由他ちゃんがレイジに、恋しちゃったからに決まってるでしょー」
那由他はふてくされながらも答えてくれた。
そこには冗談などまったくなく、森羅の時のように心からの言葉とわかってしまう。
「――恋しちゃったねー……。那由他とオレにそういう事が起こる出来事なんてあったけ? まさか一目惚れとか?」
「失礼な! 那由他ちゃんはそんなチョロインではありません! 正真正銘レイジにヒロインとして攻略されたからに決まってます!」
「は? 攻略? オレがいつ那由他に?」
胸を張りながら力説する那由多に、首をひねるしかない。
発言が少し謎だが、言いたいことはなんとなくわかる。ただそのことについての心当たりがなかなか思い出せなかった。
「またまたー、あんな盛大にフラグを立てていたのを、忘れるはずがないじゃないですか! わたしなんて、今でも一字一句覚えてるんですから! あはは、それにしてもレイジがまさかあんなにも、那由他ちゃんのことを想ってくれていただなんてねー! もう、いっそ、あれをプロポーズの言葉にしちゃいません? そしたらすぐにでも婚姻届けにハンコを押しちゃいますよー!」
那由多はニヤニヤと笑いながら、肘でレイジを小突いてくる。そしてクルクルとはずむ足取りで回ってから、手を祈るように組んでかわいらしくウィンクしてきた。
どうやらレイジは彼女に好かれてもおかしくないほどのフラグを、立ててしまっているらしい。
(――あ、なるほど。きっと那由他が言ってるのはあの時のことか……)
そこでようやく心当たりを思い出した。アイギスに入ってすぐのとある事件のことを。
おそらく彼女の抱える問題に、レイジが手を出したやつだろう。今思うと確かにあの時から那由他のレイジに対する反応が変わっていったような。
「するか。あれはそういう意味で言ったんじゃないんだからな」
「あはは、残念! まあ、そういうわけなので日頃から猛アピールをして、少しでも早くレイジを振り向かせようと頑張ってるんです! 恋する乙女、那由他ちゃん! 健気でしょー?」
那由多は拳を胸元近くでぐっとにぎり、満面の笑顔を。その表情はまさに恋する女の子。まぶしいほど輝いていたといっていい。
「だからレイジ攻略計画はまだまだおわりません! ――ささ! 二人で夜の学園探検の続きをしましょう! 屋上なんてどうですか? ロマンチックな天体観測とかできますよー! そこで二人だけの星座を、キャー!」
そして目を輝かせて、再びグイグイアピールしてくる那由多。
浮かれているのか完全になにをしに来たのか忘れている状態だ。なのでレイジは今ここにいる理由を告げ、彼女を正気に戻すことに。
「――いや、呼ばれてるだろ。ほら、さっさと行かないと、貴重な情報源を逃してしまうぞ」
「ガガーン!? そうでしたー!?」
こうしてレイジたちは目的の場所へと向かうため足を進める。
(難儀な話だ。那由他のためにも、こうやってスルーし続けるしかないなんて……。そろそろ本格的に、那由他の奴もどうにかしてやらないといけないな……)
レイジは歩きながらも、那由他の抱える問題についてふと思うのであった。
校舎内は電気がついていなかったが、差し込む月明かりにより案外明るい。淡い青色の光がいい感じに周囲を照らし、どこか神秘的な雰囲気をただよわせていた。
(革新派との会合……。罠かもしれないが、今の状況的に行くしかないよな……)
なぜレイジたちがこんな夜中に学園へ来ているのかというと、呼び出されたから。アポルオンの巫女派のアイギスと今後について話がしたいと。しかもその相手はなんと、例の革新派のメンバー。なのでさすがに無視するわけにもいかず、情報を得るため那由他と共に指定された場所へ向かっている最中なのであった。
(――とはいっても、まずはこっちをどうにかしないと……)
レイジはさっきから頭を痛める原因を作っている那由他の方を見る。
彼女はこれから起こるであろう緊迫した状況を前にまったく臆せず、いつもと同じ。いや、それ以上のハイテンション。もはやスキップでもしそうな勢いで、夜の学園を楽しんでいた。
「ラーラーラー♪ かわいい、かわいい那由他ちゃんはー♪、レイジの嫁ー♪、二人でどこまでもー♪」
謎の歌を口にしながら、はずむ足取りで進む那由他。
少し前まではなんとかツッコミをこらえて放っておいたが、これ以上は無理だろう。なのでレイジはあきれながらも注意する。
「おーい、さっきからかまったら負けだと思って注意しなかったが、さすがに限界だぞ。なんて歌を口ずさんでるんだ?」
「なにって? ふっふっふっ! 那由他ちゃんとレイジのラブソングに決まってるじゃないですかー!」
那由多はくるりと振り返り、とびっきりの笑顔でウィンクしてくる。
「――ラブソングって……。――はぁ……、いつもハチャメチャだが、今日は一段と変な方向に飛ばしてるな……」
「あはは、だって夜の学園なんですよ! これがテンション上がらずにどうするんですかー! ここから起こるイベントは数知れず、男女の距離を縮めるものばかり! 那由他ちゃんにとって、まさにチャンスタイム! なので!」
頭を抱えていると、那由多が胸元近くで両腕をブンブン振りながらはしゃぎだす。
「はっ、嫌な予感……」
そんな彼女の不穏な言葉に思わずあとずさろうとする。
こういう時の那由多はまず間違いなく行動を起こす。ゆえに逃げるべきだと動いたのだが。
「キャー! レイジ! 那由他ちゃん怖いー!」
那由他は少しわざとらしい悲鳴をあげて、レイジの腕にギュッと抱きついてきた。
相手は執行機関のエージェント。その身のこなしはすさまじく、すぐさま彼女につかまってしまった。それにより女の子特有の甘い香りと、むにっとマシュマロみたいなやわらかい感触が襲ってくる。
「やはりそうくるか!? 離せ!」
このままではまずいと、動揺しながらもなんとか那由他を引き離す。
「怖がってる女の子にひどいじゃないですかー! ここは安心させるためにも、手をつないであげる場面! ささ、お手を那由他ちゃんに!」
するとほおを膨らませ、うったえてくる那由多。そして手を差し出し、甘えた口調でねだってきた。
しかし怖がっていないのが明白なため、すぐさま正論を言い放つ。
「あのな、全然怖がってないだろ。そもそも那由他はお化けとか怖がる性格じゃないし」
「や、やだなー、そんなわけないですってばー!? ほら、人は見かけによらないといいますし、こんなかわいらしい弱点を持っていてもおかしくありません!」
那由多は両ほおに指を当て、かわいらしくほほえんでくる。ただその笑みは少しひきつっていた。
もはや図星なのが丸わかりである。
「ないない。というかむしろ、お化けの方があんたを怖がりそうだぞ。ははは」
「ぶー、失礼なー! こんないたいけな女の子に向かって、デリカシーがなさすぎです!」
腹を抱えて笑っていると、那由多がほおに手を当てわざとらしく泣き崩れだす。
「……なあ、那由他。今までだまっていたが、オレには霊感があるんだ。だから今、那由他の後ろに子供の霊がいるのも見えていてな……」
そんななかなか認めようとしない那由多に、彼女の後ろを指さしながら深刻そうに告げた。
「はぁ? レイジ、なに言ってるんですか? 霊なんてこの世にいるはずがない。どうせ錯覚ですよ、錯覚! あはは!」
するとばかばかしいと笑い飛ばしてくる那由多。
「おい、さっきの会話の流れからして、ここは怖がって抱き付きにくるところだろ?」
「ハッ、しまった!? キャー、レイジ、怖いー!」
那由他はハッと我に返り、怖がる演技をしながら再び抱き付こうと。
そんな彼女を今度はとらえ、頭に軽いチョップをくらわす。
「遅いわ!」
「――むむむ、那由他ちゃん一生の不覚……。ええい! 怖がる乙女(おとめ)作戦失敗! ならば次は! レイジ! わたし疲れてきちゃいました! だから保健室でお休みしましょうよー! あそこならベッドがありますし!」
涙目で被弾箇所を押さえる那由多。しかし彼女はすぐさま気を取り直し、懲りずに別のアプローチで攻めだす。
レイジとしてはかまうとまた話がめんどうになるので、彼女を放って歩みを進めた。
「なんたって今は誰もいない! つまりなにをしてもオッケー! もう存分にイチャイチャを! あ、もしかしてレイジは教室でいけないことをしちゃいたい派ですか? 那由他ちゃんはどっちでもいいですからねー! ――あ、あれレイジは? ハッ、待ってくださいってばー」
那由多は両ほおに手を当て、キャッキャッと一人で盛り上がり始める。だがすぐにレイジがいないことに気づき、こちらに手を伸ばしながら駆け寄ってきた。
「――はぁ……、まったく……。なんで那由他はこうなってしまったんだ? アイギスに入ってすぐの頃はもっと普通の……、いや、ただのイタイ奴だっただろ?」
天を仰ぎみながら、ため息をつくしかない。
アイギスに入ってすぐの頃、彼女はさわがしくはあったがこんな猛アピールをしてくることはなかった。少し問題はあったものの普通に同僚としての関係で、色恋沙汰ほとんどない。だがいつからか急にこんな感じで、せまってきたのである。
「あはは……、あのー、レイジ。そろそろわたしをイタイ子呼ばわりするの、止めてもらえます? さすがに怒っちゃいますよ?」
そんなことを考えていると、那由他がレイジの肩を後ろからがっしりつかみ、引きつった笑みで抗議してきた。
なので振り返りながらも、さぞ当然に告げてやる。
「いや、ほんとのことだし」
「あのですね! 那由他ちゃんは純粋無垢な可愛らしい女の子! そんないたいけなわたしに、よくイタイなどと貶す発言ができますね!? もはや全国の那由他ちゃんファンが大暴動を起こす事案ですよ! これ!」
那由多は自身の胸をドンっとたたき、ぷんすか主張してくる。
「あー、ハイハイ。そこは別にどうでもいいから」
「ひどい!?」
「それより、どうして那由他が付きまとうようになったかだ」
ショックを受けているを彼女を放って、再び話を戻す。
「ぶー、なんですー。文句あるんですかー? そんなの那由他ちゃんがレイジに、恋しちゃったからに決まってるでしょー」
那由他はふてくされながらも答えてくれた。
そこには冗談などまったくなく、森羅の時のように心からの言葉とわかってしまう。
「――恋しちゃったねー……。那由他とオレにそういう事が起こる出来事なんてあったけ? まさか一目惚れとか?」
「失礼な! 那由他ちゃんはそんなチョロインではありません! 正真正銘レイジにヒロインとして攻略されたからに決まってます!」
「は? 攻略? オレがいつ那由他に?」
胸を張りながら力説する那由多に、首をひねるしかない。
発言が少し謎だが、言いたいことはなんとなくわかる。ただそのことについての心当たりがなかなか思い出せなかった。
「またまたー、あんな盛大にフラグを立てていたのを、忘れるはずがないじゃないですか! わたしなんて、今でも一字一句覚えてるんですから! あはは、それにしてもレイジがまさかあんなにも、那由他ちゃんのことを想ってくれていただなんてねー! もう、いっそ、あれをプロポーズの言葉にしちゃいません? そしたらすぐにでも婚姻届けにハンコを押しちゃいますよー!」
那由多はニヤニヤと笑いながら、肘でレイジを小突いてくる。そしてクルクルとはずむ足取りで回ってから、手を祈るように組んでかわいらしくウィンクしてきた。
どうやらレイジは彼女に好かれてもおかしくないほどのフラグを、立ててしまっているらしい。
(――あ、なるほど。きっと那由他が言ってるのはあの時のことか……)
そこでようやく心当たりを思い出した。アイギスに入ってすぐのとある事件のことを。
おそらく彼女の抱える問題に、レイジが手を出したやつだろう。今思うと確かにあの時から那由他のレイジに対する反応が変わっていったような。
「するか。あれはそういう意味で言ったんじゃないんだからな」
「あはは、残念! まあ、そういうわけなので日頃から猛アピールをして、少しでも早くレイジを振り向かせようと頑張ってるんです! 恋する乙女、那由他ちゃん! 健気でしょー?」
那由多は拳を胸元近くでぐっとにぎり、満面の笑顔を。その表情はまさに恋する女の子。まぶしいほど輝いていたといっていい。
「だからレイジ攻略計画はまだまだおわりません! ――ささ! 二人で夜の学園探検の続きをしましょう! 屋上なんてどうですか? ロマンチックな天体観測とかできますよー! そこで二人だけの星座を、キャー!」
そして目を輝かせて、再びグイグイアピールしてくる那由多。
浮かれているのか完全になにをしに来たのか忘れている状態だ。なのでレイジは今ここにいる理由を告げ、彼女を正気に戻すことに。
「――いや、呼ばれてるだろ。ほら、さっさと行かないと、貴重な情報源を逃してしまうぞ」
「ガガーン!? そうでしたー!?」
こうしてレイジたちは目的の場所へと向かうため足を進める。
(難儀な話だ。那由他のためにも、こうやってスルーし続けるしかないなんて……。そろそろ本格的に、那由他の奴もどうにかしてやらないといけないな……)
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