電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

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2章 第2部 隠された世界

84話 ファントムの提案

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 レイジたちはファントムの小鳥型のガーディアンを連れて、アビスエリアにある十六夜いざよい島内部の市街地を歩いて行く。ここはクリフォトエリアの十六夜島と基本同じ構造をしているらしいが、利用できる施設の関係上少し違っているらしい。
 ここは廃墟ふうでないため、普通の街中を歩いているような感覚が。ただ誰もいないため辺りは静まり返っており、なんともいえない孤独感が襲ってくる。まるで自分たち以外の人々が、急に消えてしまったかのように。
 今こうしている間にも、ファントムがアビスエリアのデータベースにアクセスして情報を閲覧えつらんしていた。ただこの十六夜島は権限による侵入制限があるため、実際に内部のゾーンへ向かわないとよりくわしいことはわからないとか。
 ちなみにまだこの場所は十六夜島に入ってすぐ。アポルオン関係者の権限があれば誰でも入れるため、執行機関でも入れるとのこと。なんでもこの近くに執行機関用の施設があるらしい。そのため見知った顔に出会う可能性も。今はファントムの手引きをしている真っ最中であるため、できれば会いたくない状況なのだが。
 しかしこんな時に限って。

「あれ? どうしてレイジと結月がアビスエリアに?」

 なんと会いたくないと思っていた那由他に、偶然出会ってしまったのだ。
 ファントムのガーディアンはいち早く反応し、レイジの肩から近くの木々へと移動していた。

「げっ、那由他。まさかこんな時にでくわすなんて……」
「……彼女に勘付かれるとやりにくくなるから、ここは適当に誤魔化すのよん……」
「――誤魔化すったって……」

 小声でファントムがオーダーを。
 ファントムにしてみればレイジたちに接触するにあたり、一番注意を払っていた少女に運悪く会ってしまったのである。下手すると侵入したのがばれて、計画が台無しにされかれない。それにこれはレイジたちにもあまりよろしくない状況。ここでファントムの依頼がおわってしまうと、報酬の情報が手に入らないのだから。

「――おやおやー、レイジの様子がおかしい……。これは那由他ちゃんになにか隠し事でもあるのでは……」

 戸惑っていると、那由他がのぞき込み小首をかしげてきた。

「――ははは……、ま、まさか。那由他みたいな頼りになって、しかもかわいい最高のパートナーに隠し事なんてあるはずないだろ?」

 まずいと思い、ここは適当に那由他を持ち上げ誤魔化すことに。

「――やだなー、レイジ! そんな調子のいいこと言っても、那由他ちゃんは誤魔化されませんよー、あはは」

 那由他はレイジの背中をバシバシたたきながらも、はにかんだ笑みを浮かべる
 さすがにこんな見え透いた手は通用しないと思ったが、案外効いているようだ。

「――えっと……、那由他はどうしてここに? 私たちはこのアビスエリアが怪しいと思って、様子を見に来たんだけど!」

 そこへ結月がすかさずフォローを。

「ふむ、レイジたちもここにたどり着きましたか。わたしも昨日の会談で、アラン・ライザバレットや革新派の狙いはアビスエリア。特にここの十六夜島だと思っていたんですよ! あのアポルオンのことを知らないゆきちゃんの調査結果にも、クリフォトエリアの十六夜島が怪しいとありましたしね!」
「ってことはここが敵の本命?」
「はい、可能性は高いと思いますよ! 彼らの第一目標は保守派の計画を止めること。なのでまずは保守派の力を削ぎ、有利な状況を作ろうとするはず。となると一番大打撃を与えられそうなのは、アポルオンに最も関係性があるであろうアビスエリアの十六夜島ではないかと!」

 この場所はアポルオンにとって、とても意味合いのある場所のはず。もしここでなんらかの事件を起こし事態を深刻なものにできれば、今後革新派側が動きやすくなるかもしれない。

「どういった手を考えてるかはわかりませんが、相手に災禍さいかの魔女の力があります。あれならここのシステムを狂わせたりして、やばいことを起こせる気がしません?」

 ファントムも言っていたが、アビスエリアは不安定という話。電子の導き手の十八番である改ざんだといろいろいじれるみたいなので、森羅の力ならばさらに踏み込めるのかも。

「確かに。革新派にとって自分たちの首を絞めることになるかもしれないけど、保守派の計画が成功したらすべてが終わりだもんな。それならいっそ賭けに出て、大打撃を与えに行こうとしてもおかしくはないか」
「ですです! そういうわけでこの十六夜島になにか隠された秘密はないか、調べてたんですよ! ですがさすがにわたし一人では手詰まりでして……。だから結月にさらに内部へ連れていってもらったり、ゆきちゃんに事情を説明して調べてもらったりしようかなーと考えてました」

 今のところあまり進展がないのか、頭を悩ませながら答える那由多。

「そっか、執行機関の権限だと、ここから先に入れないもんね。それなら私の権限を使って管理区ゾーンに行ってみる? さすがに上位序列ゾーンにはお父さんに。ううん、ばれたくないから次期当主である、妹の美月に頼めばなんとかなるかも」

 すると結月が自身の胸に手を当て、名乗りを上げる。

「結月、お願いできますか? 出来れば上位序列ゾーンの方の件も掛け合ってほしいのですが。今のあのおかただと序列二位側に話をつけたり、いろいろめんどうな手続きを踏まないといけないらしいので」
「任せて。この一大事なら美月も許可してくれると思うし」

 話がどんどん先に進んでいってしまう。那由他がついてくるとなると、ファントムにはあまりよろしくないはず。だがこの流れでは自然にこうなってしまうのも仕方ないだろう。

「ありがとうございます! いやー、二人ともベストタイミングで来てくれました! これでもっとくわしく調べられますし、うまくいけば行動を起こそうとしてる革新派を見つけられるかもしれません! ――ではでは、さっさく向かいましょう! と言いたいのですが、そろそろあのガーディアン破壊してもいいですかねー? 誰だか知りませんが、これ以上ここにいてもらうわけにはいきませんので!」

 突然那由他は近くの木にとまって様子をうかがっていたファントムのガーディアンに、愛銃であるデザートイーグルを突きつけた。
 さすがは那由他。どうやら初めから気付いていたらしい。

「ちょーと! タンマ! 物騒なことはやめて一度話し合おう!」

  ファントムは身の危険を感じ、すぐさま静止の言葉を投げかける。 

「まったくー、レイジー。また変な女にたぶらかされたんじゃありません? これってばれたら大変なことになるかもしれませんよ?」

 ほおを膨らませ、ジト目で注意してくる那由多。

「あー、それはだな……。こっちもいろいろあって……」
「あまり柊那由他とは関わりたくなかったが、仕方ない! こうなれば彼女にも話しを持ち掛けるべき!」

 どうしようかと頭をかいていると、ファントムが意を決したのかガーディアンを再びレイジの肩にとまらせた。

「ワタシはあの有名なファントムなのよん!」
「――伝説の情報屋……。――はぁ……、よりにもよって一番連れて来ちゃダメな人じゃないですかー! もう問答無用で仕留めるべきです! これ以上ここの情報を渡すわけにはいきませんので!」

 那由他はあきれながらも、銃口を小鳥型のガーディアンに突き付け引き金に力を込めようとする。
 彼女の銃の腕前ならすぐさま飛んで逃げたとしても、一寸いっすんの狂いなく打ち抜くだろう。そう、彼女のアビリティを使えばいとも容易く。
 するとファントムはやられるわけにはいかないと、とんでもない情報を暴露した。

「わー!? とっておきの情報を教えるから! 今回の大騒動における本当の狙いは、このアビスエリア関係なんだってさー」
「その情報、本当ですか?」

 那由多は真剣なまなざしで問い詰める。

「間違いないねー。くわしくはわからないけど、なにかシステムを書き換えるみたいな話を小耳に挟んだからさー! それで提案! ひいらぎさんはこのアビスエリアの隠された構造とかを知りたいはず。でも優秀な電子の導き手を呼べないってわけで、ワタシを使えばいいのよん!」

 ファントムはSSランクの電子の導き手。よって彼女に手伝ってもらえば、かなりの成果を上げてくれるのは間違いない。今はただでさえ時間がない状況なので、相手が最悪でも受けた方がいいのかもしれなかった。

「ふむ、データ収集を手伝えば、そのデータのコピーをくれるというわけですか」
「そうそう、どうかなー。悪い話じゃないよねー。はい、お二人さんも、説得よろしくー」

 ファントムが加勢しろとうながしてくる。
 一応ファントムから手に入れるはずだった情報は得れたが、まだビジネスパートナーになってくれる話が残っていた。ここまで来たなら、ぜひそちらの件も通しておきたいので説得するべき。

「那由他、ここは手伝ってもらった方がいいんじゃないか? 厄介な相手なのはわかるが、ウデは確かなはずだし」
「うん、ファントムさん、すごく頼りになる味方になってくれると思うよ」
「――はぁ……、わかりました。二人もなにか取引きしてるみたいなので、ここはその話に乗ることにしましょうかー」

 レイジたちがファントムの肩を持つところからなにかを察してくれたのか、那由他は折れて銃をしまってくれた。

「ふうー、なんとか話はまとまったねー! ではデータ収集の続きをよろしくなのよん!」

 なんとかピンチを切り抜け、安堵の息をつくファントム。そして気を取り直し、先をうながしてきた。
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