98 / 253
2章 第3部 戦争の開幕
94話 闘争という名のデート
しおりを挟む
レイジと那由他が遺跡風の通路を進んでいると、再び広い部屋に出た。
見渡せば、巨大な獣型ガーディアンが破壊されているのが見える。どうやらこの場所を守っていた防衛用のガーディアンなのだろう。そして部屋の中央には輝く金色の髪をした少女、アリス・レイゼンベルトの姿が。
「――アリス……」
「ようやく来てくれたわね、レージ。もうこっちはウォーミングアップも終わって、待ちくたびれてたところよ。これがデートなら、彼女を待たせた罪で彼氏失格ね」
アリスがほおに手をあて、冗談交じりに文句を言ってくる。
「いや、無茶言うなよ。ほとんど手掛かりがない状況で、ここまで来るのがどれほど大変だと思ってるんだ?」
「もう、そこは美人な彼女のために、死にもの狂いで頑張るところだわ。――フフフ、まあ今回は許してあげる。デートで彼氏を待つドキドキ感を味わえたから。でも次は頑張ってちょうだい!」
アリスは軽い足取りで、レイジのすぐ目の前へと。そしてこちらをのぞきこみながら、楽しげにウィンクしてきた。
もはややり合う前だというのに、いつもと変わらない反応をするアリス。なのでレイジもいつものように応えてやった。
「気を付けるよ。遅れた罰とかで、いきなり斬りかかられても困るしな。っていうかアリスの場合だと、どういう結果でもそうなりそうな気が」
「一理あるわね。先に待っててくれたら嬉しさで。同時なら運命を感じて、その勢いでみたいになるのかしら?」
「ははは、とんだ物騒な彼女だ。まあ、実際オレたちのデートでは特に問題はないか。どうせやることは変わらないんだからな」
あまりのアリスらしい発言に、笑ってしまう。
「じゃあ、そろそろ始めるとするか」
だがすぐさま気を引き締めて刀に手を掛けた。今は急いでいるため、彼女とのなにげない会話はここまでだ。
「あら? もう談笑タイムは終わりなのかしら?」
「ああ、わるいがこっちも急いでるんだ。だからかたらうのは、お互い剣を交えながらにさせてもらうさ。いつものように、な?」
「フフフ、そうね。じゃあ、始めるわよ! この部屋にいるのはアタシとレージの二人だけ! だから存分に闘争という名のデートを楽しみましょう!」
アリスは両腕をバッと広げ、まるで歌うかのごとく声高らかに宣言した。
そう、ここから先の楽しみは二人の闘争劇の中でやればいい。それこそ久遠レイジとアリス・レイゼンベルトのデートであるのだから。
しかしレイジとアリスが不敵な笑みを浮かべていると、急にツッコミが割り込んできた。
「ふー、ぶー、異議ありー! ここにかわいいかわいい那由他ちゃんがいますよー! なぜカウントされてないのでしょうかねー?」
那由多は手を上げ、いない者扱いされていることに抗議しだす。そして両ほおに指を当てながら、おかしいなーといった感じに首をかしげてきた。
「あら、いたの? レージのことしか眼中になくて、あなたがいることに今初めて気付いたわ。――ほんと、空気を読んでくれないかしら。せっかく盛り上がってたのに、水を差すなんて」
するとほおに手を当て、ひどくあきれた感じに苦情をぶつけるアリス。
「あはは、この人は相変わらずしゃくに障りますねー。それとデートとか彼女とか、変な言い回しをするのを止めてくれません? あなたはただ戦いたいだけなんですから、誤解を招くようなこと言わないでください!」
対して那由多は腕をぶんぶん振りながら、必死にうったえる。
「――はぁ……、どうやら軽い愛しか抱けないあなたには、アタシとレージの深淵のごとく深い愛を理解することができないようね。なんだかあわれに思えてくるわ。自身をかえりみない、あなたたちヒイラギの愛は……」
どこか悲しげな瞳で、ふくみのある謎の発言を口にするアリス。
わかることはアリス・レイゼンベルトが柊那由他を、心の底からあわれんでいるということだけ。まるで柊那由他という少女の根底を、すべて見透かしているように。
「――なんなんでしょう……。ひどくけなされてるかと思えば、今度は謎のあわれみを……。――ええい! とりあえず那由他ちゃんのレイジに対する愛が軽いと侮辱した罪は、決して見逃せません! レイジ! 先に行ってください! この女はわたしが引導を渡しておきますので!」
那由他は堪忍袋の緒が切れたらしい。ぷんすか怒りをあらわにしながら、レイジとアリスの間に割って入る。そしてアリスに勢いよく指を突き付け、宣戦布告した。
「わるい、那由他。この相手だけはどうしても譲れないんだ」
そんなやる気満々の那由他を静止して、前に出る。
今回アリスの相手だけはどうしても譲れなかった。レイジの選んだ道を突き進むためにも、彼女との立ち位置をここではっきりさせておきたいのだ。もちろんただ単にこの盛り上がっている最高の舞台で、アリスと闘争を繰り広げたい気持ちもあったのだが。
「フフフ、さすがレージ! ヒイラギナユタ、そういうことだから、この場所にあなたの出番はないの。相手ならまた今度してあげるから、さっさと先に行きなさい。アタシとレージのデートの邪魔よ」
「――ムムム、アリス・レイゼンベルトの指図を受けるのは気に食わないですが、レイジの頼みとあれば仕方ありません。ここは大人しく引きましょう」
レイジの頼みに、しぶしぶ身を引いてくれる那由他。
「那由他、あとのことは頼んだ。さすがにアリスと全力でやり合うとなれば、勝つにせよ負けるにせよギリギリなはず。だから……」
いくらレイジでもアリスと戦えば、おそらくただでは済まない。それゆえあとのことはすべて彼女に任せっきりになってしまうのだ。なのであとは那由多がどうにかしてくれることを信じるしかなかった。
「はい、お任せあれ! ここから先はわたしがなんとかしますので、レイジはなにも心配せず、アリス・レイゼンベルトと戦うことだけに集中してください! では、ご武運を!」
さすがレイジのパートナー。すべてを察してくれたみたいだ。那由多は胸に手を当て、陽だまりのような笑顔で引き受けてくれる。
そして彼女はそのまま駆け出し、アリスの横を通って先へと進んでいった。
「やっと邪魔者はいなくなったわね。これで存分にレージとやり合える……。フフフ、今度は前の時みたいに逃がさないわよ!」
アリスはうっとりとした表情で、背丈程ある太刀を取り出し臨戦態勢を。
「ははは、安心しろ。せっかくアリスとやり合うのにふさわしい舞台が整ってるんだ。だからここからは私情を優先して、最後まで付き合ってやるよ。オレかアリス、どちらかがぶっ倒れるその時までな!」
はしゃぐ彼女に、レイジも刀をかまえ応えてやった。
「――フフフ、そうこなくっちゃ! さあ、レージ! 再び狂おしくも甘美な、最高のダンスをおどりましょう!」
「ああ、ここに一幕の決着をつけよう、アリス・レイゼンベルト!」
レイジとアリスは互いに宣言し、同時に地を蹴る。
そしてここに二人だけの闘争劇が幕を開けた。
見渡せば、巨大な獣型ガーディアンが破壊されているのが見える。どうやらこの場所を守っていた防衛用のガーディアンなのだろう。そして部屋の中央には輝く金色の髪をした少女、アリス・レイゼンベルトの姿が。
「――アリス……」
「ようやく来てくれたわね、レージ。もうこっちはウォーミングアップも終わって、待ちくたびれてたところよ。これがデートなら、彼女を待たせた罪で彼氏失格ね」
アリスがほおに手をあて、冗談交じりに文句を言ってくる。
「いや、無茶言うなよ。ほとんど手掛かりがない状況で、ここまで来るのがどれほど大変だと思ってるんだ?」
「もう、そこは美人な彼女のために、死にもの狂いで頑張るところだわ。――フフフ、まあ今回は許してあげる。デートで彼氏を待つドキドキ感を味わえたから。でも次は頑張ってちょうだい!」
アリスは軽い足取りで、レイジのすぐ目の前へと。そしてこちらをのぞきこみながら、楽しげにウィンクしてきた。
もはややり合う前だというのに、いつもと変わらない反応をするアリス。なのでレイジもいつものように応えてやった。
「気を付けるよ。遅れた罰とかで、いきなり斬りかかられても困るしな。っていうかアリスの場合だと、どういう結果でもそうなりそうな気が」
「一理あるわね。先に待っててくれたら嬉しさで。同時なら運命を感じて、その勢いでみたいになるのかしら?」
「ははは、とんだ物騒な彼女だ。まあ、実際オレたちのデートでは特に問題はないか。どうせやることは変わらないんだからな」
あまりのアリスらしい発言に、笑ってしまう。
「じゃあ、そろそろ始めるとするか」
だがすぐさま気を引き締めて刀に手を掛けた。今は急いでいるため、彼女とのなにげない会話はここまでだ。
「あら? もう談笑タイムは終わりなのかしら?」
「ああ、わるいがこっちも急いでるんだ。だからかたらうのは、お互い剣を交えながらにさせてもらうさ。いつものように、な?」
「フフフ、そうね。じゃあ、始めるわよ! この部屋にいるのはアタシとレージの二人だけ! だから存分に闘争という名のデートを楽しみましょう!」
アリスは両腕をバッと広げ、まるで歌うかのごとく声高らかに宣言した。
そう、ここから先の楽しみは二人の闘争劇の中でやればいい。それこそ久遠レイジとアリス・レイゼンベルトのデートであるのだから。
しかしレイジとアリスが不敵な笑みを浮かべていると、急にツッコミが割り込んできた。
「ふー、ぶー、異議ありー! ここにかわいいかわいい那由他ちゃんがいますよー! なぜカウントされてないのでしょうかねー?」
那由多は手を上げ、いない者扱いされていることに抗議しだす。そして両ほおに指を当てながら、おかしいなーといった感じに首をかしげてきた。
「あら、いたの? レージのことしか眼中になくて、あなたがいることに今初めて気付いたわ。――ほんと、空気を読んでくれないかしら。せっかく盛り上がってたのに、水を差すなんて」
するとほおに手を当て、ひどくあきれた感じに苦情をぶつけるアリス。
「あはは、この人は相変わらずしゃくに障りますねー。それとデートとか彼女とか、変な言い回しをするのを止めてくれません? あなたはただ戦いたいだけなんですから、誤解を招くようなこと言わないでください!」
対して那由多は腕をぶんぶん振りながら、必死にうったえる。
「――はぁ……、どうやら軽い愛しか抱けないあなたには、アタシとレージの深淵のごとく深い愛を理解することができないようね。なんだかあわれに思えてくるわ。自身をかえりみない、あなたたちヒイラギの愛は……」
どこか悲しげな瞳で、ふくみのある謎の発言を口にするアリス。
わかることはアリス・レイゼンベルトが柊那由他を、心の底からあわれんでいるということだけ。まるで柊那由他という少女の根底を、すべて見透かしているように。
「――なんなんでしょう……。ひどくけなされてるかと思えば、今度は謎のあわれみを……。――ええい! とりあえず那由他ちゃんのレイジに対する愛が軽いと侮辱した罪は、決して見逃せません! レイジ! 先に行ってください! この女はわたしが引導を渡しておきますので!」
那由他は堪忍袋の緒が切れたらしい。ぷんすか怒りをあらわにしながら、レイジとアリスの間に割って入る。そしてアリスに勢いよく指を突き付け、宣戦布告した。
「わるい、那由他。この相手だけはどうしても譲れないんだ」
そんなやる気満々の那由他を静止して、前に出る。
今回アリスの相手だけはどうしても譲れなかった。レイジの選んだ道を突き進むためにも、彼女との立ち位置をここではっきりさせておきたいのだ。もちろんただ単にこの盛り上がっている最高の舞台で、アリスと闘争を繰り広げたい気持ちもあったのだが。
「フフフ、さすがレージ! ヒイラギナユタ、そういうことだから、この場所にあなたの出番はないの。相手ならまた今度してあげるから、さっさと先に行きなさい。アタシとレージのデートの邪魔よ」
「――ムムム、アリス・レイゼンベルトの指図を受けるのは気に食わないですが、レイジの頼みとあれば仕方ありません。ここは大人しく引きましょう」
レイジの頼みに、しぶしぶ身を引いてくれる那由他。
「那由他、あとのことは頼んだ。さすがにアリスと全力でやり合うとなれば、勝つにせよ負けるにせよギリギリなはず。だから……」
いくらレイジでもアリスと戦えば、おそらくただでは済まない。それゆえあとのことはすべて彼女に任せっきりになってしまうのだ。なのであとは那由多がどうにかしてくれることを信じるしかなかった。
「はい、お任せあれ! ここから先はわたしがなんとかしますので、レイジはなにも心配せず、アリス・レイゼンベルトと戦うことだけに集中してください! では、ご武運を!」
さすがレイジのパートナー。すべてを察してくれたみたいだ。那由多は胸に手を当て、陽だまりのような笑顔で引き受けてくれる。
そして彼女はそのまま駆け出し、アリスの横を通って先へと進んでいった。
「やっと邪魔者はいなくなったわね。これで存分にレージとやり合える……。フフフ、今度は前の時みたいに逃がさないわよ!」
アリスはうっとりとした表情で、背丈程ある太刀を取り出し臨戦態勢を。
「ははは、安心しろ。せっかくアリスとやり合うのにふさわしい舞台が整ってるんだ。だからここからは私情を優先して、最後まで付き合ってやるよ。オレかアリス、どちらかがぶっ倒れるその時までな!」
はしゃぐ彼女に、レイジも刀をかまえ応えてやった。
「――フフフ、そうこなくっちゃ! さあ、レージ! 再び狂おしくも甘美な、最高のダンスをおどりましょう!」
「ああ、ここに一幕の決着をつけよう、アリス・レイゼンベルト!」
レイジとアリスは互いに宣言し、同時に地を蹴る。
そしてここに二人だけの闘争劇が幕を開けた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる