電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

文字の大きさ
101 / 253
2章 第3部 戦争の開幕

97話 現れた助っ人

しおりを挟む
「どんだけ湧いてくんだよ。斬っても斬ってもキリがねー」
「思ったよりもハードっすね。もううちの連中は全員やられ、残りはホノカを含む三人っすか……」

 ほのかたちは天高くそびえる十六夜いざよいタワーの玄関口で、防衛線を敷いていた。ただ現状の戦況はかなり劣性といっていい。レイジたちがどこかに座標移動した後、ほのかとエデン協会ヴァーミリオンたちは奮闘し結構な数の狩猟兵団たちを倒していった。だが向こうはここら一帯にかなりの数の部隊を配置していたらしく、増援が次々と。そのため次第に数で押されるようになって、気付けばアキラとエリーとほのかの三人だけに。しかも連戦続きによりデュエルアバターの破損具合はもちろん、精神的消耗もきびしかった。

「出来ればもう少しだけ時間を稼いでおきたかったですが、この増援の量をさばくのはこちらの消耗具合からして無理そうですね。こうなれば最後に少しでも多くの敵を道連れにするしか……」

 これ以上の時間稼ぎは不可能と判断し、最後は玉砕ぎょくさい覚悟で突貫とっかんすべきかと思考をめぐらす。
 そんな中突然、遠くの方でエンジン音が。
 敵の集団の後方に視線を移すと、一台のバイクがこちらに全速力で近づいていた。

「あれはもしかして!」

 ほのかが期待に満ちた目で見つめる中、バイクはスピードを落とさずさらに加速。オブジェクトとして配置されている廃車に、前輪を浮かしながら突っ込んでいった。そしてそのまま廃車に乗り上げ、バイクは空中へと勢いよくとび上がる。そしてそのまま狩猟兵団の集団の頭上を飛び越え、ほのかたちが立っている場所のすぐ近くに着地した。
 エンジンを止め降りてきたのは一人の少年。

とおる先輩! 来てくれたんですね!」
「誰かと思えばトオルセンパイじゃないっすか」

 そんな透にエリーと一緒に駆け寄る。
 彼はほのかやエリーより一つ年上で、名前は如月きさらぎ透。ほのかと同じ軍人で、階級は少尉。一見すると温厚な少年だが、その物腰に一切の隙はない。もはや若くして熟練されたプロの兵士といってよく、デュエルアバターの腕は超一流であった。
 ちなみに狩猟兵団側の方はただ者でない乱入者を警戒してか、ほのかたちの出方をうかがっていた。

「ほのか待たせたね。エリーも久しぶり」
「――えっと、それにしてもすごい登場の仕方でしたね」
「ほんとっすよ。どこかの映画みたいな登場シーンを、ああも華麗かれいに再現するとは。透先輩って案外ああいうのに憧れてたりするんすか?」
「はは、違うよ。今回のは新堂しんどう中尉の命令でね。よくわからないけど遅れて登場するヒーローは演出が命とか言って、この改造バイクを渡されたんだよ」

 二人で彼の派手な登場に驚いていると、透は頭の後ろに手を当てながら苦笑気味にことの真相を教えてくれる。
 どうやらほのかや透の上司である女性、新堂中尉の差し金らしい。

「――あはは……、やっぱり新堂中尉の趣味でしたか……。透先輩はいつも隠密行動が基本ですから、おかしいと思ってたんですよ」
「へぇ、てめぇがよくエリーがうわさしてた、凄ウデの先輩って奴か」

 透と話していると、アキラが急に割り込んできた。

「ボクの名前は如月透。軍人で階級は少尉だ。よろしく」
「おう、俺は紅炎アキラだ。さっそくだが少し手伝え。今こっちとら、奴らをぶっ飛ばすのに人手が足りてねぇんだ」
「任せてくれ。遅れた分、きっちり働かせてもらうよ。だからみんなは少し休んでおくといい。その間にボクがあらかた片づけておくから」

 透は前に出て、優しくほほえみかけてくる。

「ハハッ、この数を一人でやろうってのかぁ? 相手は上位ランクの集まりだというのに、大した自信だな、おい」

 よゆうに満ちた表情で提案する透に、アキラはツッコミを入れる。
 彼の疑問ももっともだ。相手側はそこいらにいる普通の狩猟兵団とは違う。そのほとんどがBランク以上で構成されているため、苦戦をいられるのは明白。そんな相手にたった一人で相手をするのはただのバカか、よほど自分の腕に自信を持っているかのどちらかだろう。もちろん透の場合は後者なのだが。

「フフ、トオルセンパイはすごいっすよ。なんたってこの自分同様、過酷な修羅場をくぐり抜けてきた歴戦の戦士。その強さはキリングマシーンの如く精確無慈悲な、狩人かりゅうどっすから!」

 エリーは透の両肩に後ろから手を置き、まるで自分のことのように誇らしげに解説する。

「はは、いくらなんでも言い過ぎだよ、エリー。それはボクなんかよりも隊長みたいな人を指す言葉だ」
「まあ、あの人は、自分らの中でも規格外すぎてヤバかったっすからね」

 透とエリーは共通の話題で盛り上がりだす。
 実際のところこの二人の関係はよくわかっていないのだ。昔一緒に戦っていたらしいが、一体どこでなのかは不明のまま。聞いても適当にはぐらかされ、答えてくれないのであった。

「さて、おしゃべりは止めて、そろそろ始めようか。向こうも待ちきれないようだしね」
「少しお待ちを」

 透が一本のダガーを取り出し一歩前に出たかと思うと、頭上高くから少女の声が。
 見上げると二人の人影が降りてきており、強い風を辺りにまき散らしながら着地した。

「ギリギリ間に合ったようですね。みなさんご苦労様です。私はサージェンフォード家次期当主、ルナ・サージェンフォード。わけあって加勢にきました」
「ルナの護衛の長瀬伊吹ながせいぶきだ。自分たちが来たからには、もう安心していいぞ」

 現れたのは誰もが目を奪われるほどの美貌びぼうを持つりんとした少女と、見ただけで凄ウデのエージェントを連想させるただ者ではなさそうな少女である。

「わぁ、ウワサ通り、きれいな人……」

 ルナのきれいな外見ときらびやかなオーラに、もはや見惚れてしまうしかない。

「――あれ、キミはどこかで……」

 ふと透がルナを見て首をひねる。

「ッ!? ――どうしてここにあなたが……」

 するとルナは口元に両手を当て、目を大きく見開いた。
 彼女に関してはほのかも少しは知っている。十六夜学園高等部の生徒会長を務める、完全無欠の姫君ひめぎみと称される有名人。ルナのすごいところはいつも優雅で余裕に満ち、まったく動じないところ。そんな彼女が今、心底動揺しているように見えるのは気のせいではないのだろう。

「ルナ、どうかしたか?」

 伊吹は透を見て固まるルナにたずねる。
 どうやら伊吹はルナの後ろに付き添っていたので、彼女の驚いた表情が見えていなかったらしい。 

「――い、いえ、なんでもありません……。――ご、ゴホン。今は彼らをどうにかするのが先決。この騒動を止めるためにも、ここをなんとしてでも死守せねば」

 ルナは咳払いを一つして、いつもの凛々りりしい彼女に戻る。

「みなさんどうかもう少しだけお力をお貸しください。行きますよ!」

 ルナは先頭に立ち手を横に振りかざしながら、全員にオーダーを。
 こうしてほのかたち全員は武器をかまえ、狩猟兵団の集団を迎え撃つのであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

after the rain

ノデミチ
青春
雨の日、彼女はウチに来た。 で、友達のライン、あっという間に超えた。 そんな、ボーイ ミーツ ガール の物語。 カクヨムで先行掲載した作品です、

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...