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2章 第3部 戦争の開幕
101話 森羅の狙い
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アリスを倒し、レイジは通路を先へと進んでいく。
そしてようやく那由他がいるフロアにたどり着き、レイジが目にした光景は。
「いい加減、負けを認めたらどう! 森羅ちゃんの方が柊那由他より、ずっとレイジくんのことを想ってるんだから!」
「笑わせないでください! 那由他ちゃんの方がずっと、ずーと! レイジのことを想っています!」
那由他と森羅が両手でつかみ合いながら、激しく言い争いをしている真っ最中であった。
視線で火花を散らしながら、互いに一歩も引かない状況。どうやらさっきからずっと言い合っているみたいだ。
ただアリスの時のようにそこまで険悪なムードではなく、仲のいい姉妹同士の口喧嘩みたいなほほえましい感じがするのは気のせいだろうか。
「くす、ならあたしはそのずっとずっとはるか彼方レベルね!」
「あはは、ではわたしはそのはるか彼方より上の、那由他の果てレベルですかねー!」
「ふざけないで! 森羅ちゃんの想いが、あなたごときに負けるはずない!」
森羅は胸にドンっと手を当て、きっぱりと言い放つ。
「それはこちらのセリフです! そもそも柊森羅とわたしでは、くつがえせない徹底的な差があるんですからねー!」
那由他はほおにポンポン指を当てながら、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「それって?」
「ふっふっふっ、ズバリ! 那由他ちゃんはレイジのパートナーという、メインヒロインポジにいるということです! だからレイジと結ばれるのは、この那由他ちゃん! 柊森羅みたいな、どこぞの中ボスポジごときに負けるはずがありません!」
両腰に手をあて、胸を張りながらドヤ顔で宣言する那由多。
「ふふふ、甘いね! メインヒロインと結ばれるなんて、今どき古い! そう、時代は裏ヒロインとのカップリングよ! 影ながら主人公を支え続け、終盤の壮大なドラマと共にメインヒロインと立場が逆転するの! そして晴れてレイジくんと結ばれる、これぞ正しく森羅ちゃんルート! うん、完璧な脚本ね!」
森羅は胸に手を当て、もう片方の手のひらを空高くへと向ける。そしてうっとりしながら、期待に胸を膨らませた。
「ほぉ、メインヒロインの那由他ちゃんにケンカを売るとは、いい度胸ですね!」
「――はぁ……、まったく、自分のことをメインヒロイン、メインヒロインって思い上がりもほどほどにしときなさい。パートナーポジなんて平凡すぎて、大抵は普通のヒロインどまりでしょ? メインを張りたいなら、昔再会を誓った囚われのお姫様レベルでないとねー」
青筋を立てる那由多に、森羅はやれやれと肩をすくめながら現実を突き付ける。
「――なんですか? そのおとぎ話のような話しは? あはは、そんなの現実であるはずがないじゃないですかー」
「――現実は残酷なのよ。――そういうわけだから、そこらのヒロインなんて眼中にないの! 役者不足だから出直してきなさい! あなたの分も森羅ちゃんが、レイジくんとハッピーエンドを迎えてあげるから!」
ありえないありえないとあっけからんに笑う那由他に、森羅はあわれみのまなざしを。そして腕を横に振りかざしながら、自信満々に告げた。
「――ぐぬぬ、言わせておけば好き勝手言ってくれますね……。ならば!」
レイジとしては、目の前で起きている状況に頭を悩ますしかない。
さっきのアリスとのシリアス展開のあとに、この気の抜けるような言い争い。しかも二人の雰囲気的にまだまだ続きそうときた。もはや関わると、めんどくさいことになるのは間違いなし。なので二人に気づかれないよう、静かに先に進もうとすると。
しかし。
「レイジと結ばれるのはメインヒロインである、この那由他ちゃんですよね!」
「レイジくんと結ばれるのはこの裏ヒロインである、森羅ちゃんだよね!」
見事、那由他と森羅につかまってしまった。二人はレイジに有無を言わさない勢いで問いただしてくる。
「――いや、そういうのはいいから……。――それより那由他、今は先に進むことが先決だろ。二人がかりで森羅を倒し、向こうの計画を阻止するぞ」
逃げられなかったため、観念してしかたなく那由他の隣まで向かう。そして熱くなって暴走しかけている彼女を、正論で現実に戻した。このまま彼女たちの言い合いに巻き込まれている暇はない。レイジたちはすぐにでも森羅たちの計画を、止めなければならないのだから。
「――あはは……、まったくもってその通りですねー。――では、柊森羅! あなたの悪行もここまでです! わたしとレイジのラブラブコンビに、さっさとやられちゃってください!」
すると那由他は我に返ったようで、森羅に指をビシッと突きつけ宣言を。
「――くす、残念! どうやらアタシを倒すのが少し遅かったみたいね!」
形勢が不利になったというのに、森羅の表情には余裕の笑みが。
「まさかもう!」
「今リネットの方から、作業を終えたって連絡があったよ。ほら、うわさをすれば」
森羅の視線の先には光とリネットの姿が。
彼女たちがここに来たということは、すでに作業が完了し森羅たちの計画が成功したということ。どうやらレイジたちは間に合わなかったらしい。
悔やんでいると、リネットの様子がおかしいことに気付く。まるでなにかトラブルがあったかのように。
「森羅、ごめん! 少ししくじった」
「なにがあったの?」
「剣閃の魔女に邪魔された。あいつ入り口の方で暴れてると思ってたら、裏でアタシの改ざん領域にひそんでいたの。そして最後の最後でいきなりしゃしゃり出てきて、仕上げを妨害された。そのせいで当初の予定通りにできなかった」
ゆきが言っていた策とはこのことだったのだろう。真っ向から改ざんで挑んだ場合、リネットだけじゃなく森羅まで相手にしないといけない可能性が。そうなるといくらゆきでもさすがにキツイ。ゆえに敵の作業場に潜伏してチャンスをうかがいつつ、奇襲で一気にたたみ掛ける作戦をとったというわけだ。おそらく入り口付近にとどまったのも、リネットを油断させるための罠だったに違いない。
「ふーん、完成まじかの油断しているところを突いてくるとは、なかなかやるね、剣閃の魔女。計画のズレはどの程度?」
「入るには、あの場所で軽く改ざんを使わないといけなくなったぐらい。ほかは言われた通りにやっといた」
「よし、それなら許容範囲ね! あとは革新派の力を使って招き入れるプロセスを敷いてもらえば、うまくいくはず!」
ただゆきの妨害は完全ではなく、被害を少し抑えた程度だったみたいだ。
相手はSSランクの電子の導き手であるリネット。やはり一筋縄ではいかなかったようである。
「一体あなたたちは、なにをしでかしたんですか?」
「くす、ただ単にアビスエリアのセキュリティをいじって、誰でも入れるようにしただけよ! これで好きなだけ戦力を、あそこに放り込めるようになったってわけ! まあ、さすがにアビスエリアの十六夜島はノータッチだけどね!」
森羅は得意げにウィンクしながら、説明してくれる。
「なっ!? そんなことをしたら、アポルオンの存在が世界中に広まる恐れが!」
口元を押さえながら、驚愕する那由多。
そう、誰でもということは、アポルオンとまったく関わりのない人々でもアビスエリアに入れるということ。今まで表舞台になかった世界が広がっていると知れば、彼らはなにを思うだろうか。いづれアポルオンの存在が浮き彫りになってもおかしくはなかった。
「くす、きっと面白いことになるでしょうね! でも保守派なら情報操作を駆使して、案外うまく誤魔化すんじゃない? 向こうは自分たちの理想のために、なにがあってもアポルオンを存続させないといけないから!」
もし世界中に知れ渡れば、さすがにこれまで通りに動けるはずがない。アポルオンの支配が揺らぎ、今後の活動に支障をきたすであろう。そんなことになれば保守派が目指す完璧な秩序の世界の実現が遠のく恐れがあるため、彼らとしてはなにがなんでもとどめておきたい事案。情報隠ぺいに全力を尽くすはず。革新派もそれを見越して今回の計画を実行したということ。でないと自分たちの首をも絞めかねないのだから。
「――それでリネット、あと例の件はうまくいった?」
「そっちは完璧、安心して」
(例の件だって?)
彼女たちはまだほかにもなにかを、しでかしたみたいだ。しかも話の流れ的に、そっちはとどこおりなく、うまくいったらしい。
「そう、ならここにはもう用はないね! 外は形勢が逆転されてるみたいだし、ログアウトして帰ろっか!」
森羅がこの場から立ち去ろうとするのを見て、那由他は取り出した愛銃のデザートイーグルに力を込める。
そんな彼女に森羅は手で制しながら、忠告する。
「止めときなさい、柊那由他。戦力的にはこちらが有利。しかも今さらあたしたちを倒したところで、なにもかも手遅れよ」
「ッ!? ですがこのまま黙って見過ごすわけには……」
那由他はどう動くか迷っているようだ。
こちらは二人で、向こうは三人。戦力的には見るからに不利。レイジはもちろん那由他も森羅との戦闘でだいぶ消耗しているはずなので、このままやり合うのは非常に分が悪い。しかも向こうの計画が成功してしまったため、強制ログアウトのリスクをこうむってまで戦う意味があるのかと。
「そうだ。柊那由他は放っておいて、レイジくんに伝えておきたいことがあるの」
すると森羅はレイジのすぐそばまで来て、意味ありげに耳打ちしてきた。
「レイジくん、まずはあたしたちをここから逃がして。そしてあとで一昨日アリス・レイゼンベルトと会ってた廃ビルに、片桐結月と剣閃の魔女と一緒に来てほしい。もちろん柊那由他には内緒で。もしレイジくんがたずね人に会いたいならね!」
「え?」
よくわからないが、今回の騒動はここでおわりではないらしい。
まだレイジたちにはやるべきことがあるみたいだ。
「じゃあね! レイジくん! あと柊那由他も! 行きましょう、二人とも!」
森羅は手を大きく振ったあと、リネットたちをつれこの場を去っていった。
「レイジ、今なにを吹き込まれたんですか?」
すると那由多が怪訝そうにたずねてくる。
「あとで説明する。とりあえずここは森羅たちを見逃し、オレたちも帰ろう。ちょっと野暮用ができた」
森羅たちを見逃すことを進言し、レイジたちもこの場を去るのであった。
そしてようやく那由他がいるフロアにたどり着き、レイジが目にした光景は。
「いい加減、負けを認めたらどう! 森羅ちゃんの方が柊那由他より、ずっとレイジくんのことを想ってるんだから!」
「笑わせないでください! 那由他ちゃんの方がずっと、ずーと! レイジのことを想っています!」
那由他と森羅が両手でつかみ合いながら、激しく言い争いをしている真っ最中であった。
視線で火花を散らしながら、互いに一歩も引かない状況。どうやらさっきからずっと言い合っているみたいだ。
ただアリスの時のようにそこまで険悪なムードではなく、仲のいい姉妹同士の口喧嘩みたいなほほえましい感じがするのは気のせいだろうか。
「くす、ならあたしはそのずっとずっとはるか彼方レベルね!」
「あはは、ではわたしはそのはるか彼方より上の、那由他の果てレベルですかねー!」
「ふざけないで! 森羅ちゃんの想いが、あなたごときに負けるはずない!」
森羅は胸にドンっと手を当て、きっぱりと言い放つ。
「それはこちらのセリフです! そもそも柊森羅とわたしでは、くつがえせない徹底的な差があるんですからねー!」
那由他はほおにポンポン指を当てながら、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「それって?」
「ふっふっふっ、ズバリ! 那由他ちゃんはレイジのパートナーという、メインヒロインポジにいるということです! だからレイジと結ばれるのは、この那由他ちゃん! 柊森羅みたいな、どこぞの中ボスポジごときに負けるはずがありません!」
両腰に手をあて、胸を張りながらドヤ顔で宣言する那由多。
「ふふふ、甘いね! メインヒロインと結ばれるなんて、今どき古い! そう、時代は裏ヒロインとのカップリングよ! 影ながら主人公を支え続け、終盤の壮大なドラマと共にメインヒロインと立場が逆転するの! そして晴れてレイジくんと結ばれる、これぞ正しく森羅ちゃんルート! うん、完璧な脚本ね!」
森羅は胸に手を当て、もう片方の手のひらを空高くへと向ける。そしてうっとりしながら、期待に胸を膨らませた。
「ほぉ、メインヒロインの那由他ちゃんにケンカを売るとは、いい度胸ですね!」
「――はぁ……、まったく、自分のことをメインヒロイン、メインヒロインって思い上がりもほどほどにしときなさい。パートナーポジなんて平凡すぎて、大抵は普通のヒロインどまりでしょ? メインを張りたいなら、昔再会を誓った囚われのお姫様レベルでないとねー」
青筋を立てる那由多に、森羅はやれやれと肩をすくめながら現実を突き付ける。
「――なんですか? そのおとぎ話のような話しは? あはは、そんなの現実であるはずがないじゃないですかー」
「――現実は残酷なのよ。――そういうわけだから、そこらのヒロインなんて眼中にないの! 役者不足だから出直してきなさい! あなたの分も森羅ちゃんが、レイジくんとハッピーエンドを迎えてあげるから!」
ありえないありえないとあっけからんに笑う那由他に、森羅はあわれみのまなざしを。そして腕を横に振りかざしながら、自信満々に告げた。
「――ぐぬぬ、言わせておけば好き勝手言ってくれますね……。ならば!」
レイジとしては、目の前で起きている状況に頭を悩ますしかない。
さっきのアリスとのシリアス展開のあとに、この気の抜けるような言い争い。しかも二人の雰囲気的にまだまだ続きそうときた。もはや関わると、めんどくさいことになるのは間違いなし。なので二人に気づかれないよう、静かに先に進もうとすると。
しかし。
「レイジと結ばれるのはメインヒロインである、この那由他ちゃんですよね!」
「レイジくんと結ばれるのはこの裏ヒロインである、森羅ちゃんだよね!」
見事、那由他と森羅につかまってしまった。二人はレイジに有無を言わさない勢いで問いただしてくる。
「――いや、そういうのはいいから……。――それより那由他、今は先に進むことが先決だろ。二人がかりで森羅を倒し、向こうの計画を阻止するぞ」
逃げられなかったため、観念してしかたなく那由他の隣まで向かう。そして熱くなって暴走しかけている彼女を、正論で現実に戻した。このまま彼女たちの言い合いに巻き込まれている暇はない。レイジたちはすぐにでも森羅たちの計画を、止めなければならないのだから。
「――あはは……、まったくもってその通りですねー。――では、柊森羅! あなたの悪行もここまでです! わたしとレイジのラブラブコンビに、さっさとやられちゃってください!」
すると那由他は我に返ったようで、森羅に指をビシッと突きつけ宣言を。
「――くす、残念! どうやらアタシを倒すのが少し遅かったみたいね!」
形勢が不利になったというのに、森羅の表情には余裕の笑みが。
「まさかもう!」
「今リネットの方から、作業を終えたって連絡があったよ。ほら、うわさをすれば」
森羅の視線の先には光とリネットの姿が。
彼女たちがここに来たということは、すでに作業が完了し森羅たちの計画が成功したということ。どうやらレイジたちは間に合わなかったらしい。
悔やんでいると、リネットの様子がおかしいことに気付く。まるでなにかトラブルがあったかのように。
「森羅、ごめん! 少ししくじった」
「なにがあったの?」
「剣閃の魔女に邪魔された。あいつ入り口の方で暴れてると思ってたら、裏でアタシの改ざん領域にひそんでいたの。そして最後の最後でいきなりしゃしゃり出てきて、仕上げを妨害された。そのせいで当初の予定通りにできなかった」
ゆきが言っていた策とはこのことだったのだろう。真っ向から改ざんで挑んだ場合、リネットだけじゃなく森羅まで相手にしないといけない可能性が。そうなるといくらゆきでもさすがにキツイ。ゆえに敵の作業場に潜伏してチャンスをうかがいつつ、奇襲で一気にたたみ掛ける作戦をとったというわけだ。おそらく入り口付近にとどまったのも、リネットを油断させるための罠だったに違いない。
「ふーん、完成まじかの油断しているところを突いてくるとは、なかなかやるね、剣閃の魔女。計画のズレはどの程度?」
「入るには、あの場所で軽く改ざんを使わないといけなくなったぐらい。ほかは言われた通りにやっといた」
「よし、それなら許容範囲ね! あとは革新派の力を使って招き入れるプロセスを敷いてもらえば、うまくいくはず!」
ただゆきの妨害は完全ではなく、被害を少し抑えた程度だったみたいだ。
相手はSSランクの電子の導き手であるリネット。やはり一筋縄ではいかなかったようである。
「一体あなたたちは、なにをしでかしたんですか?」
「くす、ただ単にアビスエリアのセキュリティをいじって、誰でも入れるようにしただけよ! これで好きなだけ戦力を、あそこに放り込めるようになったってわけ! まあ、さすがにアビスエリアの十六夜島はノータッチだけどね!」
森羅は得意げにウィンクしながら、説明してくれる。
「なっ!? そんなことをしたら、アポルオンの存在が世界中に広まる恐れが!」
口元を押さえながら、驚愕する那由多。
そう、誰でもということは、アポルオンとまったく関わりのない人々でもアビスエリアに入れるということ。今まで表舞台になかった世界が広がっていると知れば、彼らはなにを思うだろうか。いづれアポルオンの存在が浮き彫りになってもおかしくはなかった。
「くす、きっと面白いことになるでしょうね! でも保守派なら情報操作を駆使して、案外うまく誤魔化すんじゃない? 向こうは自分たちの理想のために、なにがあってもアポルオンを存続させないといけないから!」
もし世界中に知れ渡れば、さすがにこれまで通りに動けるはずがない。アポルオンの支配が揺らぎ、今後の活動に支障をきたすであろう。そんなことになれば保守派が目指す完璧な秩序の世界の実現が遠のく恐れがあるため、彼らとしてはなにがなんでもとどめておきたい事案。情報隠ぺいに全力を尽くすはず。革新派もそれを見越して今回の計画を実行したということ。でないと自分たちの首をも絞めかねないのだから。
「――それでリネット、あと例の件はうまくいった?」
「そっちは完璧、安心して」
(例の件だって?)
彼女たちはまだほかにもなにかを、しでかしたみたいだ。しかも話の流れ的に、そっちはとどこおりなく、うまくいったらしい。
「そう、ならここにはもう用はないね! 外は形勢が逆転されてるみたいだし、ログアウトして帰ろっか!」
森羅がこの場から立ち去ろうとするのを見て、那由他は取り出した愛銃のデザートイーグルに力を込める。
そんな彼女に森羅は手で制しながら、忠告する。
「止めときなさい、柊那由他。戦力的にはこちらが有利。しかも今さらあたしたちを倒したところで、なにもかも手遅れよ」
「ッ!? ですがこのまま黙って見過ごすわけには……」
那由他はどう動くか迷っているようだ。
こちらは二人で、向こうは三人。戦力的には見るからに不利。レイジはもちろん那由他も森羅との戦闘でだいぶ消耗しているはずなので、このままやり合うのは非常に分が悪い。しかも向こうの計画が成功してしまったため、強制ログアウトのリスクをこうむってまで戦う意味があるのかと。
「そうだ。柊那由他は放っておいて、レイジくんに伝えておきたいことがあるの」
すると森羅はレイジのすぐそばまで来て、意味ありげに耳打ちしてきた。
「レイジくん、まずはあたしたちをここから逃がして。そしてあとで一昨日アリス・レイゼンベルトと会ってた廃ビルに、片桐結月と剣閃の魔女と一緒に来てほしい。もちろん柊那由他には内緒で。もしレイジくんがたずね人に会いたいならね!」
「え?」
よくわからないが、今回の騒動はここでおわりではないらしい。
まだレイジたちにはやるべきことがあるみたいだ。
「じゃあね! レイジくん! あと柊那由他も! 行きましょう、二人とも!」
森羅は手を大きく振ったあと、リネットたちをつれこの場を去っていった。
「レイジ、今なにを吹き込まれたんですか?」
すると那由多が怪訝そうにたずねてくる。
「あとで説明する。とりあえずここは森羅たちを見逃し、オレたちも帰ろう。ちょっと野暮用ができた」
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