電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

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3章 第2部 姫の休日

131話 レイジの妹?

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「マナか。まさかこんなところで会うなんて」
「あ! レイジにいさま! お久しぶりですぅ!」

 マナは花が咲いたかのように笑い、レイジに抱き付いてきた。
 現れたのは白神しらかみコンシェルンの最重要機密、エデンの巫女である天津あまつマナ。おっとりとした雰囲気をもち、小動物のような愛くるしい外見をした少女である。

「おっと、ははは、でも久しぶりといっても、ほんの数日前だけどな」

 会って早々全力で甘えてくるマナの頭を、やさしくなでてあげる。
  するとマナはくすぐったそうに目を細め、はしゃぎ気味に答えてきた。

「くす、マナにとってはそれぐらい長い時間だったんですよぉ! せっかくレイジにいさまみたいな素敵な人に出会えたんですから、もっとおしゃべりして一緒の時間を過ごしたかったんですぅ!」
「そうなのか? なら今度からはひまがあれば、マナのところに顔を出しにこようか?」

 ここまで懐かれているとなれば、無下にするわけにはいかない。実際マナはかなりの美少女。そんな彼女に兄のように慕われるのは全然わるい気がしなかった。

「わーい、ぜひお願いしますぅ!」

 両手を上げ、喜びをあらわにするマナ。

「えーと、にいさま呼びって、この子は久遠くおんくんの妹さんとかなにかなの?」

 レイジとマナとのやりとりを見て、結月が気になっていたことをたずねてきた。
 その問いに、マナは胸に手を当て満面の笑顔で答える。

「はい! レイジにいさまの妹の、久遠マナですぅ!」
「いやいや、マナの名字は天津だろ」
「くす、気持ちはレイジにいさまの妹、久遠マナという意味ですよぉ!」

 マナはレイジの腕に抱き着き、上目づかいではにかんだ笑みを浮かべてきた。
 そのしぐさはあまりにもかわいくて、内心ぐっときてしまうほどだ。

「まな、それだとゆきの妹じゃ、なくなるがいいのかぁ?」
「はわわ!? そうでしたぁ!? レイジにいさまもそうだけど、ゆきねえさまも私にとっては大切なお方。――うぅ、どうすればぁ……」

 ゆきのツッコミに、マナはあたふたしてながら両手で頭を抱える。
 その様子は冗談でもなんでもなく、まさしく本気。どちらかに優劣を付けれないため、必死に考えていた。

「あはは、マナちゃんも、ゆきに劣らずかわいいなぁ。私は片桐結月かたぎりゆづき! 仲よくしようね! マナちゃん!」

 そのほほえましい光景に結月は耐え切れなくなったのか、マナに詰め寄りあいさつを。かわいいものに反応してか、若干じゃっかんテンション高めである。
 だがそんな結月にマナはというと。

「はぁ」

 低いテンションで適当にうなづくマナ。もはやまったく興味がないといった感じだ。

「――あれ、なんだか反応が淡白たんぱくな気が……」

 そのあまりの対応の差に、結月は面を食らうしかないようだ。

「そんなことよりもレイジにいさま! ゆきねえさま! 私今度二人と一緒にどこかにおでかけしたいですぅ!」

 そしてマナは何事もなかったかのように、レイジたちの方にすりよってきた。

「しかもそんなことよりって言われた!?」
「なんですかぁ? 今こっちは取り込み中なので、あとにしてもらえますぅ? いえ、レイジにいさまとゆきねえさまとの貴重な時間が短くなるので、やっぱり遠慮しといてください」

 マナは結月に迷惑そうな視線を向けながら、そっけない態度を。
 彼女は完全に結月のことを、邪険じゃけんにしか扱っていない。その感じはゆきの父親である白神守しらかみまもるの時と同じ。取り付く島もないといったご様子。

「邪魔ものとしか扱われてない!? うぅ、カノンー」

  結月はまったく相手にされてないことがショックで、カノンのもとへ。

「はいはい、よしよし」
「なるほど。普通だとこうなるのか。それでどうしてマナがここにいるんだ?」

 カノンに頭をなでられなぐさめられている結月を見ながら、疑問に思っていたことを問う。

「父さんから頼まれたんだぁ。まなの面倒を見てくれって」
「実は守さんにこれまで通り働いてほしければ、ゆきねえさまたちのところに行かせろと、駄々をこねましてぇ。そのかいあって、こうして巫女のから外に出て来れたというわけですぅ」

 マナのわがままに、頭を痛めてしぶしぶ許可する守の姿が思い浮かぶ。
 彼女にストライキされればエデンの巫女の仕事が止まってしまうため、こうするしか方法はなかったようだ。

「さすがに外に連れていってはダメだけど、ゆきのアーカイブポイント内ならって話でなぁ。それで今は遊びに来てもらったついでに、少しまなに手伝ってもらってるんだぁ。二人でこの場所を、完全無欠の要塞にしようって流れでさぁ」

 マナは白神の最重要機密ゆえ外を出歩くのはマズイが、身内の安全な場所なら大丈夫という判断なのだろう。そのおかげ本来巫女の間に隔離されるしかなかったマナが、こうしてゆきの場所に遊びに来れたというわけだ。

「へえー、そうか。マナ、ゆきの手伝いご苦労様。偉いぞー」

 マナの頭をやさしくなでて、ほめてやる。

「ありがとうございますぅ! でもお手伝いといっても、ゆきねえさまと遊び感覚で楽しんじゃってるだけなんですけどねぇ!」

 するとぴょんぴょん飛び跳ねながら、はしゃぎ気味に報告を。

「マナちゃんだっけ。私はカノン。同じ巫女同士仲良くしようね」

 レイジたちが盛り上がっていると、今度はカノンが結月のリベンジと自己紹介を。

「うーん、まあ、同じ巫女ということで親近感は湧きますが、そこまで仲良くしたいとは思いませんねぇ」

 少し考えるマナであったがどうやらなつく基準に達していなかったらしく、そっけない反応を。
 ゆきの時のようにと少しは期待してみたが、マナの壁は厚かったようだ。

「――えっへへ……、レージくんたちみたいには、なついてくれないかー」

 カノンは残念そうに笑いながら、結月のもとへと。

「あのカノンでもダメなんて……。でも私負けないよ! かわいいマナちゃんに甘えてもらうためにね!」
「いえ、迷惑ですからやめてください」

 手をぐっとにぎり闘志を燃やす結月だが、速攻でマナに拒否られた。
 だがかわいいものスイッチが入っている結月は、そう簡単には止まらない。マナの迷惑そうな雰囲気をもろともせず、詰め寄りだす。

「マナちゃん、そう言わずに! 仲よくやろうよ!」
「なんなんですかぁ!? この人はぁ!?」
「結月、頑張れなんだよ!」

 レイジとゆきをおいて、むこうは、むこうで盛り上がっていく。
 とはいっても結月とカノンが、嫌がるマナを攻略しようと奮闘しているだけだが。

「――で、くおん。せっかく来てくれたのに悪いけど、ゆきはこれから用事があるんだぁ」
「ん? なにかあるのか?」
「うん、シティゾーンに用がねぇ」

 そんな彼女たちを放って、ゆきはこれから先の予定を伝えてきた。
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