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3章 第4部 逃走劇
149話 那由他への連絡
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レイジはエデン協会ヴァーミリオンの事務所内の窓際にもたれかかって、那由他に連絡を入れていた。ほかのみんなはというといつでもエデンに向かえる準備をし、レイジが戻ってくるのを待っている状況である。
「こっちは準備万端だ。いつでも行けるぞ」
「了解しました! では、行くとしますか! カノンを自由にしに! じゃあ、レイジ、切りますね!」
「那由他、その前に一ついいか?」
那由他が通話を切ろうとした瞬間、レイジはふと彼女を呼び止める。ちょうどいい機会なので、一つ彼女に伝えたいことがあったのだ。
「おや? どうしましたか? そんなに改まって? ま、まさか那由他ちゃんに愛の告白でも! キャー!」
すると那由他が、相変わらずのはじけたテンションで黄色い声を上げてきた。
「まあ、告白という観点においては、遠からずかもしれないな」
「マジですか!? とうとう那由他ちゃんの恋が実る時が来るとは! はっ、こうしてはいられません! まずいつでも聞けるように、会話の録音を! そして用意していた婚姻届けを、今すぐ取りに行かないと!」
「おい、前半はまだわかるが、婚姻届けっていきなり段階飛ばしすぎじゃないのか?」
通話の向こうでなにやらあわただしくする那由多に、ツッコミを入れざるを得ない。
「ふっふっふっ、なにを言いますか! レイジがわたしを選んだ以上、那由他ちゃん大勝利ルートに入ったも同然! 遅かれ早かれそうなる運命なんですから、全は急げですよ! もしかしたらレイジの気が変わって、ほかの女の子に乗り換える恐れもありますからねー! ええ、ただでさえあなたの周りにはカワイイ子が多いですし、逃げられないように地を固めておかないと! ふっふっふっ!」
するとさぞ得意げに自身の思いを熱くかたる那由多。最後には少し怖いことをまぜながらだ。
そんな彼女のペースにいると、いつまでたっても話が進みそうにないので流れを切ることにする。
「じゃあ、時間もないことだし、言うぞ。あと、わかってるとは思うが、そういう告白じゃないからな」
「――あはは……、さすがにこの状況で愛の告白はないですもんねー。では、心して聞くのでどうぞ!」
「――まあ、なんだ。那由他にはここ最近、無茶ばかり言ってたからさ。制御権の破壊の件や、アイギスに残ってもらう件。そしてなにより今回のカノンを自由にする計画なんて、どれだけわがままを言ったものか」
そう、最近レイジは那由他に無理なお願いを多々しているのだ。柊那由他という少女が、久遠レイジの願いをなんでも叶えようとしてくれることを利用して。
このことに関しては那由他の意志を無理やりねじ曲げているような気がして、あまり使いたくない手段。それをここ数日間、レイジのわがままで使いまくったせいで、罪悪感を感じているのであった。
「あー、確かに昨日は驚かされましたよ! カノンの現状を打開するわたしの考えを聞かれたので答えたら、その案を実行しようとするんですから! あんなもしもの継ぎはぎだらけのプラン、どう考えても実現は難しいというのに」
実はカノンが外に出られると聞いて、昨日那由他にたずねてみたのだ。カノンを本当に自由にする手段はないのかと。そうすると那由他は、あるもしものプランを答えてくれた。聞くからに実現が困難な、綱渡りレベルの考えを。
「ははは、那由他のことは、誰よりも信頼してるからな。あんたが本気を出せば、きっと最善の方向まで持ってってくれるってさ。現にあのプランを、ここまで完璧な計画に仕上げてくれただろ?」
「あはは、あれだけ必死に頼みこまれましたからねー! これまでも何度かレイジが頼んできたことがありましたが、あそこまで切実だったのは初めてでしたし!」
那由多はほめられたことで声をはずませながらも、昨日のことをしみじみかたる。
そう、彼女のプランを聞いた瞬間これだと思い、必死に頼み込んだのだ。制御権の破壊や、アイギスに残ってもらうよう願った時のように、反則技を使って。あの時はカノンのことで頭が一杯であり、ワラにもすがりたい状態。そんな中光がさし込んだため、もはやみずからの想いを口にし無我夢中に。
「オレとしては今までカノンをずっと待たせた分、少しでも早く彼女の力になってやりたかったからさ。それに現実でカノンを外に連れ出すのは、今この時をもってほかになかっただろ? だから多少無理を押し通してでも、わがままを言わせてもらったんだ」
普通に考えて、カノンを現実で自由にするのはこの時しかないと思った。もしこの時を逃せば、序列二位側に隔離されているカノンを見つけ出し、救出なりしなくてはならない。だが今ならカノンがすぐそばまで来てくれているため、連れ出すのは容易であろう。
もちろん急な話だったので、また次の機会にと回せるかもしれない。だがそうなるといつになることやら。おそらくこの機会を機に、次はアポルオンの内部争いが完全に収束するまで出してもらえないだろう。ゆえにレイジは今動くことを決めたのだ。なにより早くカノンを自由にしてやりたいがために。
「カノンに対するその熱意に押され、さらにはあのプランの最大の問題点に奮闘し兆しをさしてくれました! そこまでお膳立てをされたら、那由他ちゃんが尽力をつくさないわけにはいきませんものねー!」
「あー、あの問題点か……。一応なんとかしてみたが、あれで本当によかったのかどうかは今だ不安が……」
レイジは例の件で少し不安をおぼえるしかない。
実は今回の那由他のプラン、一つ最大の難関があった。これに関してはあの那由他でもお手上げというほど。もはや聞いただけで挫折しそうな案件だ。ただレイジには一つ、心当たりがあったのだ。それを頼りに、なんとか話を聞いてもらえるところまでもっていけたのである。だがその相手が相手だけに、今後どういう影響を及ぼすかまったく予想がつかず、不安しかないのであった。
「いえいえ、おそらく現状打てる、最善手で間違いありませんよ! 言うならば、レイジはジョーカーを引き当てたといっていい! いろいろリスクはあるかもしれませんが、効果は抜群。切り札になること間違いなしです!」
もはや彼女のお墨付きと、背中を押してくれる那由多。
「そうだといいんだがな……。――まあ、なにはともあれ話をまとめると、那由他には世話になりっぱなしだし、せっかくの機会だから言っとく。――ありがとな。これまで那由他にどれだけ助けてもらったことか。ははは、もう、感謝しきれないほどだよ」
そしてレイジは少しテレくさそうにしながらも、今回もっとも言いたかったこと。那由多への感謝を万感の思いを込めて伝えた。
「こっちは準備万端だ。いつでも行けるぞ」
「了解しました! では、行くとしますか! カノンを自由にしに! じゃあ、レイジ、切りますね!」
「那由他、その前に一ついいか?」
那由他が通話を切ろうとした瞬間、レイジはふと彼女を呼び止める。ちょうどいい機会なので、一つ彼女に伝えたいことがあったのだ。
「おや? どうしましたか? そんなに改まって? ま、まさか那由他ちゃんに愛の告白でも! キャー!」
すると那由他が、相変わらずのはじけたテンションで黄色い声を上げてきた。
「まあ、告白という観点においては、遠からずかもしれないな」
「マジですか!? とうとう那由他ちゃんの恋が実る時が来るとは! はっ、こうしてはいられません! まずいつでも聞けるように、会話の録音を! そして用意していた婚姻届けを、今すぐ取りに行かないと!」
「おい、前半はまだわかるが、婚姻届けっていきなり段階飛ばしすぎじゃないのか?」
通話の向こうでなにやらあわただしくする那由多に、ツッコミを入れざるを得ない。
「ふっふっふっ、なにを言いますか! レイジがわたしを選んだ以上、那由他ちゃん大勝利ルートに入ったも同然! 遅かれ早かれそうなる運命なんですから、全は急げですよ! もしかしたらレイジの気が変わって、ほかの女の子に乗り換える恐れもありますからねー! ええ、ただでさえあなたの周りにはカワイイ子が多いですし、逃げられないように地を固めておかないと! ふっふっふっ!」
するとさぞ得意げに自身の思いを熱くかたる那由多。最後には少し怖いことをまぜながらだ。
そんな彼女のペースにいると、いつまでたっても話が進みそうにないので流れを切ることにする。
「じゃあ、時間もないことだし、言うぞ。あと、わかってるとは思うが、そういう告白じゃないからな」
「――あはは……、さすがにこの状況で愛の告白はないですもんねー。では、心して聞くのでどうぞ!」
「――まあ、なんだ。那由他にはここ最近、無茶ばかり言ってたからさ。制御権の破壊の件や、アイギスに残ってもらう件。そしてなにより今回のカノンを自由にする計画なんて、どれだけわがままを言ったものか」
そう、最近レイジは那由他に無理なお願いを多々しているのだ。柊那由他という少女が、久遠レイジの願いをなんでも叶えようとしてくれることを利用して。
このことに関しては那由他の意志を無理やりねじ曲げているような気がして、あまり使いたくない手段。それをここ数日間、レイジのわがままで使いまくったせいで、罪悪感を感じているのであった。
「あー、確かに昨日は驚かされましたよ! カノンの現状を打開するわたしの考えを聞かれたので答えたら、その案を実行しようとするんですから! あんなもしもの継ぎはぎだらけのプラン、どう考えても実現は難しいというのに」
実はカノンが外に出られると聞いて、昨日那由他にたずねてみたのだ。カノンを本当に自由にする手段はないのかと。そうすると那由他は、あるもしものプランを答えてくれた。聞くからに実現が困難な、綱渡りレベルの考えを。
「ははは、那由他のことは、誰よりも信頼してるからな。あんたが本気を出せば、きっと最善の方向まで持ってってくれるってさ。現にあのプランを、ここまで完璧な計画に仕上げてくれただろ?」
「あはは、あれだけ必死に頼みこまれましたからねー! これまでも何度かレイジが頼んできたことがありましたが、あそこまで切実だったのは初めてでしたし!」
那由多はほめられたことで声をはずませながらも、昨日のことをしみじみかたる。
そう、彼女のプランを聞いた瞬間これだと思い、必死に頼み込んだのだ。制御権の破壊や、アイギスに残ってもらうよう願った時のように、反則技を使って。あの時はカノンのことで頭が一杯であり、ワラにもすがりたい状態。そんな中光がさし込んだため、もはやみずからの想いを口にし無我夢中に。
「オレとしては今までカノンをずっと待たせた分、少しでも早く彼女の力になってやりたかったからさ。それに現実でカノンを外に連れ出すのは、今この時をもってほかになかっただろ? だから多少無理を押し通してでも、わがままを言わせてもらったんだ」
普通に考えて、カノンを現実で自由にするのはこの時しかないと思った。もしこの時を逃せば、序列二位側に隔離されているカノンを見つけ出し、救出なりしなくてはならない。だが今ならカノンがすぐそばまで来てくれているため、連れ出すのは容易であろう。
もちろん急な話だったので、また次の機会にと回せるかもしれない。だがそうなるといつになることやら。おそらくこの機会を機に、次はアポルオンの内部争いが完全に収束するまで出してもらえないだろう。ゆえにレイジは今動くことを決めたのだ。なにより早くカノンを自由にしてやりたいがために。
「カノンに対するその熱意に押され、さらにはあのプランの最大の問題点に奮闘し兆しをさしてくれました! そこまでお膳立てをされたら、那由他ちゃんが尽力をつくさないわけにはいきませんものねー!」
「あー、あの問題点か……。一応なんとかしてみたが、あれで本当によかったのかどうかは今だ不安が……」
レイジは例の件で少し不安をおぼえるしかない。
実は今回の那由他のプラン、一つ最大の難関があった。これに関してはあの那由他でもお手上げというほど。もはや聞いただけで挫折しそうな案件だ。ただレイジには一つ、心当たりがあったのだ。それを頼りに、なんとか話を聞いてもらえるところまでもっていけたのである。だがその相手が相手だけに、今後どういう影響を及ぼすかまったく予想がつかず、不安しかないのであった。
「いえいえ、おそらく現状打てる、最善手で間違いありませんよ! 言うならば、レイジはジョーカーを引き当てたといっていい! いろいろリスクはあるかもしれませんが、効果は抜群。切り札になること間違いなしです!」
もはや彼女のお墨付きと、背中を押してくれる那由多。
「そうだといいんだがな……。――まあ、なにはともあれ話をまとめると、那由他には世話になりっぱなしだし、せっかくの機会だから言っとく。――ありがとな。これまで那由他にどれだけ助けてもらったことか。ははは、もう、感謝しきれないほどだよ」
そしてレイジは少しテレくさそうにしながらも、今回もっとも言いたかったこと。那由多への感謝を万感の思いを込めて伝えた。
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