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3章 第4部 逃走劇
156話 カノンvsルナ
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カノンはレイジたちに足止めを任せ、アビスエリアの十六夜島を出るため走っていた。
現在は高級住宅地の密集地から、ビルが立ち並ぶビジネス街へ足を踏み入れたところ。ゆきの索敵によるナビゲートを受けているため、まだ敵とは遭遇していない。先程先行してくれたヴァーミリオンのメンバーたちが、いい感じに敵の足止めをしてくれているらしいので、この先もしばらくは安全のこと。
しかし。
「かのん! 敵が猛スピードでそっちにー!?」
このまま無事逃げ切れると思った矢先、通信回線からゆきのあわてた声が。
「とうとう、見つけましたよ。カノン」
そして上空からルナが降りてきた。
「――ルナ……、――えっへへ……、見つかっちゃったんだよ」
彼女に見つかったことで緊張感がひた走る。
「危ないところでした。上空から捜索できなければ、見失うところでしたよ」
ルナは風に乗って、ふわりと優雅に着地。そして胸をなでおろした。
「ルナ、一応お願いしてみるんだけど、見逃してもらえないかな?」
「カノン、学園内でも言いましたが、私はアポルオン序列二位サージェンフォード家次期当主。なのでその責務をまっとうしなければならないのです。たとえ尊敬するお方の願いを踏みにじろうとも……」
カノンの頼みに、ルナは心苦しそうに目をふせる。
力になってあげたいのはやまやまだが、立場上そうするわけにはいかないという葛藤が痛いほど伝わってきた。
「そうだよね。ルナにも立場があるもんね」
「カノン、一ついいでしょうか? あなたは今のアポルオンを変えるといいましたよね。それについてアルスレイン家はなんと?」
「――えっへへ……、残念なことに、まったく聞き入れてもらえないんだよ。アルスレイン家の悲願は今も昔も変わらない。保守派の考えそのものだから……」
がっくり肩を落としながら、素直に現実を告白する。
今のところカノンの理想は、アルスレイン家内だと受け入れられていない。というのもアルスレイン家の思想はアポルオンを生んだ事からもわかる通り、秩序による不変の世界を追い求めている。ゆえにいくらカノンがアルスレイン家にうったえたところで、力を貸してくれそうにないのだ。
「では、カノンは完全に家に背いてまで……」
するとルナはなにか思うことがあるのか、胸をぎゅっと押さえつらそうな表情を。
「本来なら大人しく家の意向にしたがい、役目をまっとうすべきなんだろうけどね。でも間違ってるとわかってて、見過ごすことなんてできないんだよ!だから私は自分の信念を貫く!」
譲れない志を胸に、みずからの想いを宣言する。
これが正しいのか、カノンにはわからない。でも自分は間違っていると感じたのだ。秩序による不変の世界より、人々が自由に生きていける世界の方が素晴らしいと。ゆえにカノン・アルスレインは立ち上がる。自身の正義観がおさえきれない衝動となってさけぶがゆえに。
「――自分の信念を貫く……」
そんなカノンの主張に、ルナは瞳に迷いの色を浮かべ重々しくつぶやいた。その動揺はまるで心に強い衝撃を受けているかのようだ。
ただここまで過剰に反応されると、少しはずかしくなってきてしまい笑ってごまかすことに。
「なんだかすごくたいそうなことを言ってるように、聞こえるかもしれないね。でも実際はただ、自分のしたいことをやってるだけなんだよね、えへへ」
「いえ、カノンはやっぱりすごい人です。私なんかと違い、まぶしすぎるほどに……」
あまりにもまぶしいと目を細めながら、心底尊敬の念をあらわにするルナ。
「――あぁ、本当に申しわけない気持ちでいっぱいです。あなたのような素晴らしいお方に剣を向けることになるとは……。ですが今の私には、こうすることしかできない。未熟な私をどうかお許しください……」
そしてルナは最大限の敬意を払いながら、頭を下げ謝罪を。
「――それではカノン、参ります。すべてはアポルオンの理想のために!」
それから彼女は愛刀であるエストックを取り出し、カノンに突き付けた。
「わるいんだけど、つかまるわけにはいかないんだよ。私はここから出て、歩きださないといけないから!」
きらびやかに装飾された剣を取り出し、負けじと対峙する。
説得はもはや不可能。となれば押し通るしかない。
「風よ、打ち放て」
先に動いたのはルナ。彼女は手を前に突き出しアビリティを発動。起こるのは風の唸り。突然一筋の激しい風が吹いたかと思うと、次の瞬間カノン目掛けて大気を圧縮した砲弾が放たれた。
地面をけずりながらせまるところを見るに、その風の砲弾の破壊力は相当なもの。直撃すれば強烈な衝撃破が襲い、大ダメージはまのがれないだろう。もちろん威力もそうだが、もう一つ問題が。それは速度だ。もはや弾丸のごとく大気を切り裂き押しよせるため、不意を突かれたカノンに回避するのは不可能。なので防御するしかない。
そんな襲いかかる脅威を前に、カノンがとった行動とは。
「風よ、打ち放って!」
「なっ!?」
ルナと同じく手を前に突き出した途端、風が唸りを上げてカノンの元へ。そしてまたたく間に大気が圧縮され、ルナと同じく風の砲弾を放った。
結果、風の砲弾同士が衝突。カノンの砲弾がルナの砲弾の軌道をずらし、着弾点を逸らすことに成功した。
「私と同じ風のアビリティですか!?」
「今のうちに距離を! 風よ」
ルナが驚愕している隙に、カノンは風に乗ってすぐさま移動を。
これは彼女が空を移動していたのと同じ原理。大気を足元に集めて乗り、あとはそれを操作する移動手段である。これにより通常時よりも早く移動でき、やろうと思えば上空を一跳びすることも可能であった。
だが今回は目立つわけにはいかないため、地面より少し上での低空飛行で逃げることに。
「カノン、逃がしませんよ! はぁっ!」
後方を見れば、ルナも風に乗って追ってくる。そして続けざまに大気を圧縮した砲弾を。
「そう簡単に逃がしてくれないよね」
再び放たれた荒れ狂う風の砲弾に、後ろを振り返って先程と同じ対処を。
こちらも風の砲弾を放ち、またもや軌道を逸らすことに成功する。
「とらえました」
しかし一筋の風が吹き抜けたかと思ったその時、嫌な予感が。
「追いつかれた!?」
なんとルナはカノンを追い抜き、前に出ていたのだ。
「カノン、同じアビリティのようですが、出力は私の方が上みたいですね。それならばこちらが有利。最大出力の一撃で押しつぶさせてもらいます」
風のアビリティをフルに使い、ルナは大技を繰り出そうと。彼女を中心としてこれまでとケタ違いの風が集結し、今放たれようとしていた。
ルナの言う通り、操る風の力比べではカノンが負けているのだ。ゆえに砲弾でのぶつけ合いも軌道を変えるのが精一杯。風の移動も、すぐに追いつかれてしまう。よってカノンの風では、今のルナの大技に太刀打ちできないのだが。
「うん、そうだね。やっぱり本職の風のアビリティには、勝てないみたいだよ。だから別の手でいかせてもらうんだよ!」
「なにを言っているのですか?」
絶対絶命の状況にも関わらず冷静なカノンを見て、ルナは困惑の表情を。
カノンはというと手を前に突き出し、自身の力を解き放つ。
「炎よ、燃え盛れ!」
「なっ!?」
次の瞬間、激しく燃え盛る炎の渦がルナを飲み込んだ。
現在は高級住宅地の密集地から、ビルが立ち並ぶビジネス街へ足を踏み入れたところ。ゆきの索敵によるナビゲートを受けているため、まだ敵とは遭遇していない。先程先行してくれたヴァーミリオンのメンバーたちが、いい感じに敵の足止めをしてくれているらしいので、この先もしばらくは安全のこと。
しかし。
「かのん! 敵が猛スピードでそっちにー!?」
このまま無事逃げ切れると思った矢先、通信回線からゆきのあわてた声が。
「とうとう、見つけましたよ。カノン」
そして上空からルナが降りてきた。
「――ルナ……、――えっへへ……、見つかっちゃったんだよ」
彼女に見つかったことで緊張感がひた走る。
「危ないところでした。上空から捜索できなければ、見失うところでしたよ」
ルナは風に乗って、ふわりと優雅に着地。そして胸をなでおろした。
「ルナ、一応お願いしてみるんだけど、見逃してもらえないかな?」
「カノン、学園内でも言いましたが、私はアポルオン序列二位サージェンフォード家次期当主。なのでその責務をまっとうしなければならないのです。たとえ尊敬するお方の願いを踏みにじろうとも……」
カノンの頼みに、ルナは心苦しそうに目をふせる。
力になってあげたいのはやまやまだが、立場上そうするわけにはいかないという葛藤が痛いほど伝わってきた。
「そうだよね。ルナにも立場があるもんね」
「カノン、一ついいでしょうか? あなたは今のアポルオンを変えるといいましたよね。それについてアルスレイン家はなんと?」
「――えっへへ……、残念なことに、まったく聞き入れてもらえないんだよ。アルスレイン家の悲願は今も昔も変わらない。保守派の考えそのものだから……」
がっくり肩を落としながら、素直に現実を告白する。
今のところカノンの理想は、アルスレイン家内だと受け入れられていない。というのもアルスレイン家の思想はアポルオンを生んだ事からもわかる通り、秩序による不変の世界を追い求めている。ゆえにいくらカノンがアルスレイン家にうったえたところで、力を貸してくれそうにないのだ。
「では、カノンは完全に家に背いてまで……」
するとルナはなにか思うことがあるのか、胸をぎゅっと押さえつらそうな表情を。
「本来なら大人しく家の意向にしたがい、役目をまっとうすべきなんだろうけどね。でも間違ってるとわかってて、見過ごすことなんてできないんだよ!だから私は自分の信念を貫く!」
譲れない志を胸に、みずからの想いを宣言する。
これが正しいのか、カノンにはわからない。でも自分は間違っていると感じたのだ。秩序による不変の世界より、人々が自由に生きていける世界の方が素晴らしいと。ゆえにカノン・アルスレインは立ち上がる。自身の正義観がおさえきれない衝動となってさけぶがゆえに。
「――自分の信念を貫く……」
そんなカノンの主張に、ルナは瞳に迷いの色を浮かべ重々しくつぶやいた。その動揺はまるで心に強い衝撃を受けているかのようだ。
ただここまで過剰に反応されると、少しはずかしくなってきてしまい笑ってごまかすことに。
「なんだかすごくたいそうなことを言ってるように、聞こえるかもしれないね。でも実際はただ、自分のしたいことをやってるだけなんだよね、えへへ」
「いえ、カノンはやっぱりすごい人です。私なんかと違い、まぶしすぎるほどに……」
あまりにもまぶしいと目を細めながら、心底尊敬の念をあらわにするルナ。
「――あぁ、本当に申しわけない気持ちでいっぱいです。あなたのような素晴らしいお方に剣を向けることになるとは……。ですが今の私には、こうすることしかできない。未熟な私をどうかお許しください……」
そしてルナは最大限の敬意を払いながら、頭を下げ謝罪を。
「――それではカノン、参ります。すべてはアポルオンの理想のために!」
それから彼女は愛刀であるエストックを取り出し、カノンに突き付けた。
「わるいんだけど、つかまるわけにはいかないんだよ。私はここから出て、歩きださないといけないから!」
きらびやかに装飾された剣を取り出し、負けじと対峙する。
説得はもはや不可能。となれば押し通るしかない。
「風よ、打ち放て」
先に動いたのはルナ。彼女は手を前に突き出しアビリティを発動。起こるのは風の唸り。突然一筋の激しい風が吹いたかと思うと、次の瞬間カノン目掛けて大気を圧縮した砲弾が放たれた。
地面をけずりながらせまるところを見るに、その風の砲弾の破壊力は相当なもの。直撃すれば強烈な衝撃破が襲い、大ダメージはまのがれないだろう。もちろん威力もそうだが、もう一つ問題が。それは速度だ。もはや弾丸のごとく大気を切り裂き押しよせるため、不意を突かれたカノンに回避するのは不可能。なので防御するしかない。
そんな襲いかかる脅威を前に、カノンがとった行動とは。
「風よ、打ち放って!」
「なっ!?」
ルナと同じく手を前に突き出した途端、風が唸りを上げてカノンの元へ。そしてまたたく間に大気が圧縮され、ルナと同じく風の砲弾を放った。
結果、風の砲弾同士が衝突。カノンの砲弾がルナの砲弾の軌道をずらし、着弾点を逸らすことに成功した。
「私と同じ風のアビリティですか!?」
「今のうちに距離を! 風よ」
ルナが驚愕している隙に、カノンは風に乗ってすぐさま移動を。
これは彼女が空を移動していたのと同じ原理。大気を足元に集めて乗り、あとはそれを操作する移動手段である。これにより通常時よりも早く移動でき、やろうと思えば上空を一跳びすることも可能であった。
だが今回は目立つわけにはいかないため、地面より少し上での低空飛行で逃げることに。
「カノン、逃がしませんよ! はぁっ!」
後方を見れば、ルナも風に乗って追ってくる。そして続けざまに大気を圧縮した砲弾を。
「そう簡単に逃がしてくれないよね」
再び放たれた荒れ狂う風の砲弾に、後ろを振り返って先程と同じ対処を。
こちらも風の砲弾を放ち、またもや軌道を逸らすことに成功する。
「とらえました」
しかし一筋の風が吹き抜けたかと思ったその時、嫌な予感が。
「追いつかれた!?」
なんとルナはカノンを追い抜き、前に出ていたのだ。
「カノン、同じアビリティのようですが、出力は私の方が上みたいですね。それならばこちらが有利。最大出力の一撃で押しつぶさせてもらいます」
風のアビリティをフルに使い、ルナは大技を繰り出そうと。彼女を中心としてこれまでとケタ違いの風が集結し、今放たれようとしていた。
ルナの言う通り、操る風の力比べではカノンが負けているのだ。ゆえに砲弾でのぶつけ合いも軌道を変えるのが精一杯。風の移動も、すぐに追いつかれてしまう。よってカノンの風では、今のルナの大技に太刀打ちできないのだが。
「うん、そうだね。やっぱり本職の風のアビリティには、勝てないみたいだよ。だから別の手でいかせてもらうんだよ!」
「なにを言っているのですか?」
絶対絶命の状況にも関わらず冷静なカノンを見て、ルナは困惑の表情を。
カノンはというと手を前に突き出し、自身の力を解き放つ。
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