181 / 253
4章 第3部 謎の少女と追いかけっこ
176話 休憩
しおりを挟む
「――えっへへ……、さすがに疲れたかな……」
「――ははは……、昨日からほとんど情報収集に明け暮れてたから、疲れるのも無理はないさ。それにしても、まったく進展がないとは……」
カノンとレイジはテーブルにぐったり伏せ、力なく笑う。
現在レイジとカノンがいるのは、現実の白神コンシェルン本部のビル内にあるなかなかおしゃれな喫茶店。店内はクラシック音楽が流れ、落ち着いた雰囲気がただよっている。もはや疲れたときにゆっくりするには、もってこいの場であった。このビル内はエデン協会本部でもあるため、協会に属する者たち用の様々な施設がある。ここもその中の一つであった。
すでに冬華に条件を言い渡されてから一日が経っており、時刻は朝十時ごろ。レイジたちはファントムとのやり取りから、エデン財団について夜遅くまで調べていたのだ。そして今日も引き続き朝から調べていたのだが、ほとんど手掛かりがつかめない状態。なので少し休憩をと、この喫茶店へ来たというわけだ。ちなみに結月は一端家に戻りながら、独自に情報を集めてくれるとのこと。
「うん、がんばってるけど、全然手掛かりがつかめないんだよ。聞き込みはもちろん、情報屋を当たってもダメだったしね」
「一応カノンが寝てから、エデン財団側のアーカイブポイントへ張り込んだりしたが、成果はなかったな。こうなると力づくしかなさそうだ」
さすがにエデン財団上層部の情報となると、普通のやり方では歯が立たないらしい。今のレイジたちだと彼らにケンカを売るぐらいしなければ、情報を手にいれられそうになかった。
「メモリースフィアの運搬中を、狙いに行くのかな?」
「とりあえず一つの案としてはだな。シティーゾーンとかで戦力を雇って、襲撃するぐらいしか現状思いつかないし。ともあれ少し休憩だ。このくたくたの状況で戦場に向かうのは、得策じゃない。それにもっと別のアプローチを考えた方が、いい気がする。どこがエデン財団上層部とつながってるかわからない以上、徒労に終わる可能性大だからな」
まだ目星がついていれば、襲撃の案は現実的といっていい。強制ログアウトから得たデータでアーカイブポイントの場所を特定したり、そのまま運搬中のメモリースフィアを奪ったり。もちろんこの手段は厳重な警備を相手にしないといけないためリスクが。しかし事態を進展に導く可能性があるゆえ、わるい賭けではないはずだ。しかし現状外れる可能性が高く、しかもその一回一回の徒労は半端ない。ゆえに別の方法をとる方が、明らかに建設的だろう。
「賛成かな。よし、しばらくお茶して、リフレッシュしよう! それからまた、もうひとがんばりだね!」
カノンはどんよりムードを変えようと、手をパンっと合わせにっこりほほえむ。
「カノンはこのまま休んでくれていいぞ。こんな闇雲の状況で、わざわざ出向く必要はない。なにか手掛かりをつかむまで、オレに任せて待っといてくれ」
「レージくんががんばってるのに、そうはいかないんだよ」
レイジの気遣いに対し、カノンは胸元近くで両手をぐっとにぎりやる気をあらわに。
「だけどな」
付き合ってくれるのはありがたいが、現状どれも成果をあまり見込めない。しかもそれなりにハードなので、疲労もたまる。クリフォトエリアに通い詰めていたレイジならば、慣れているのでそこまで苦に感じないのだがカノンは違う。エデンにいる時はずっと巫女の間にいたため、外で動くのは慣れていないはず。よってよけいに疲労がたまるのではないかと心配なのだ。
「あのね、レージくん。本音を言うと、今すごく充実してるんだよ。これまでは巫女の間から出れなかった分、みんなに頼りっぱなしだった。でも今なら私も一緒に戦える。それがすごくうれしいの」
するとカノンは胸に手を当て、ほがらかに笑いながら告白する。
そのどこか満足げな表情に、なにも言い返せなくなってしまう。
「だからお願い。私にもっと手伝わせてほしいんだよ」
「――カノン……」
「それにね、今まで味わえなかった外の景色にふれられることが、すごく新鮮でたまらないの。ほら、ずっと隔離されてた鬱憤を、思う存分晴らせる感じかな。言ってしまうと、まだまだ暴れ足りないんだよ!」
そして目をキラキラ輝やかせて、楽しげにウィンクしてくるカノン。
そういえばアビスエリアの十六夜島からカノンを逃がす時、緊迫した中でも彼女がはしゃいでいたのを思い出す。
「わかった。そういうことなら、もうしばらく付き合ってもらうことにするか」
本人が苦にせず楽しんでいるなら、止めるのは無粋というもの。なのでここは彼女の願いを聞き入れることに。
「そうこなくっちゃなんだよ!」
「では、美月もその日頃の鬱憤晴らしに、お付き合いしてもよろしいでしょうか?」
カノンがやる気に満ちていると、一人の少女が会話に割り込んできた。
「大歓迎だよ! 仲間は多い方が楽しいからね! ――あれ? あなたは……、どちらさんなのかな?」
仲間ができたとノリノリで歓迎してしまうカノンであったが、そこでふとおかしいことに気づきちょこんと首をかしげる。
「――キミはもしかして……」
突如話に加わってきた少女の声に聞き覚えがあった。あれは確か上位序列ゾーンに入る許可をもらいに連絡したときに。
才気あふれるオーラが際立だつ、茶色がかった髪をした少女。その瞳はどことなく見るものすべてがつまらないといった、かわいた印象が。
「クス、これは申し遅れました。片桐結月の妹の美月です。今回は姉さんに代わって、二人の手伝いに来ました」
美月はスカートの裾をつかんで優雅にお辞儀し、協力を申し出てくるのであった。
「――ははは……、昨日からほとんど情報収集に明け暮れてたから、疲れるのも無理はないさ。それにしても、まったく進展がないとは……」
カノンとレイジはテーブルにぐったり伏せ、力なく笑う。
現在レイジとカノンがいるのは、現実の白神コンシェルン本部のビル内にあるなかなかおしゃれな喫茶店。店内はクラシック音楽が流れ、落ち着いた雰囲気がただよっている。もはや疲れたときにゆっくりするには、もってこいの場であった。このビル内はエデン協会本部でもあるため、協会に属する者たち用の様々な施設がある。ここもその中の一つであった。
すでに冬華に条件を言い渡されてから一日が経っており、時刻は朝十時ごろ。レイジたちはファントムとのやり取りから、エデン財団について夜遅くまで調べていたのだ。そして今日も引き続き朝から調べていたのだが、ほとんど手掛かりがつかめない状態。なので少し休憩をと、この喫茶店へ来たというわけだ。ちなみに結月は一端家に戻りながら、独自に情報を集めてくれるとのこと。
「うん、がんばってるけど、全然手掛かりがつかめないんだよ。聞き込みはもちろん、情報屋を当たってもダメだったしね」
「一応カノンが寝てから、エデン財団側のアーカイブポイントへ張り込んだりしたが、成果はなかったな。こうなると力づくしかなさそうだ」
さすがにエデン財団上層部の情報となると、普通のやり方では歯が立たないらしい。今のレイジたちだと彼らにケンカを売るぐらいしなければ、情報を手にいれられそうになかった。
「メモリースフィアの運搬中を、狙いに行くのかな?」
「とりあえず一つの案としてはだな。シティーゾーンとかで戦力を雇って、襲撃するぐらいしか現状思いつかないし。ともあれ少し休憩だ。このくたくたの状況で戦場に向かうのは、得策じゃない。それにもっと別のアプローチを考えた方が、いい気がする。どこがエデン財団上層部とつながってるかわからない以上、徒労に終わる可能性大だからな」
まだ目星がついていれば、襲撃の案は現実的といっていい。強制ログアウトから得たデータでアーカイブポイントの場所を特定したり、そのまま運搬中のメモリースフィアを奪ったり。もちろんこの手段は厳重な警備を相手にしないといけないためリスクが。しかし事態を進展に導く可能性があるゆえ、わるい賭けではないはずだ。しかし現状外れる可能性が高く、しかもその一回一回の徒労は半端ない。ゆえに別の方法をとる方が、明らかに建設的だろう。
「賛成かな。よし、しばらくお茶して、リフレッシュしよう! それからまた、もうひとがんばりだね!」
カノンはどんよりムードを変えようと、手をパンっと合わせにっこりほほえむ。
「カノンはこのまま休んでくれていいぞ。こんな闇雲の状況で、わざわざ出向く必要はない。なにか手掛かりをつかむまで、オレに任せて待っといてくれ」
「レージくんががんばってるのに、そうはいかないんだよ」
レイジの気遣いに対し、カノンは胸元近くで両手をぐっとにぎりやる気をあらわに。
「だけどな」
付き合ってくれるのはありがたいが、現状どれも成果をあまり見込めない。しかもそれなりにハードなので、疲労もたまる。クリフォトエリアに通い詰めていたレイジならば、慣れているのでそこまで苦に感じないのだがカノンは違う。エデンにいる時はずっと巫女の間にいたため、外で動くのは慣れていないはず。よってよけいに疲労がたまるのではないかと心配なのだ。
「あのね、レージくん。本音を言うと、今すごく充実してるんだよ。これまでは巫女の間から出れなかった分、みんなに頼りっぱなしだった。でも今なら私も一緒に戦える。それがすごくうれしいの」
するとカノンは胸に手を当て、ほがらかに笑いながら告白する。
そのどこか満足げな表情に、なにも言い返せなくなってしまう。
「だからお願い。私にもっと手伝わせてほしいんだよ」
「――カノン……」
「それにね、今まで味わえなかった外の景色にふれられることが、すごく新鮮でたまらないの。ほら、ずっと隔離されてた鬱憤を、思う存分晴らせる感じかな。言ってしまうと、まだまだ暴れ足りないんだよ!」
そして目をキラキラ輝やかせて、楽しげにウィンクしてくるカノン。
そういえばアビスエリアの十六夜島からカノンを逃がす時、緊迫した中でも彼女がはしゃいでいたのを思い出す。
「わかった。そういうことなら、もうしばらく付き合ってもらうことにするか」
本人が苦にせず楽しんでいるなら、止めるのは無粋というもの。なのでここは彼女の願いを聞き入れることに。
「そうこなくっちゃなんだよ!」
「では、美月もその日頃の鬱憤晴らしに、お付き合いしてもよろしいでしょうか?」
カノンがやる気に満ちていると、一人の少女が会話に割り込んできた。
「大歓迎だよ! 仲間は多い方が楽しいからね! ――あれ? あなたは……、どちらさんなのかな?」
仲間ができたとノリノリで歓迎してしまうカノンであったが、そこでふとおかしいことに気づきちょこんと首をかしげる。
「――キミはもしかして……」
突如話に加わってきた少女の声に聞き覚えがあった。あれは確か上位序列ゾーンに入る許可をもらいに連絡したときに。
才気あふれるオーラが際立だつ、茶色がかった髪をした少女。その瞳はどことなく見るものすべてがつまらないといった、かわいた印象が。
「クス、これは申し遅れました。片桐結月の妹の美月です。今回は姉さんに代わって、二人の手伝いに来ました」
美月はスカートの裾をつかんで優雅にお辞儀し、協力を申し出てくるのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる