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5章 第2部 ゆきの家出
204話 家出?
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白神家の会談から一日がたち、現在朝の九時ごろ。
レイジは十六夜島の街道を歩きながら、ゆきに呼ばれた場所に向かっている真っ最中。
「くおんー、こっちだよぉ!」
待ち合わせ場所である広場に到着すると、ゆきが大きく手を振ってきた。
ここは十六夜島にある、広々とした広場。さまざまないろとりどりの花が植えられ、中心付近にはこの広場のシンボル的な存在。デザインの凝った大きな噴水が水をまきあげ、すずしげな雰囲気をただよわせている。現在青空が広がるすがすがしい朝ゆえ、ジョギングや散歩をしている人がちらほら見かけた。
「よお、ゆき、エデンじゃなく、現実で会おうだなんてどういう風の吹き回しだ?」
「ゆきにもいろいろあるんだもん! はい、これ、もってぇ」
「ああ、って、重!? なんだこの荷物は? どっか旅行にでも出かける気か?」
ゆきに渡されたのは、大きな旅行カバンといっていい代物。中はパンパンに入れられており、非常に重い。この荷物の量を見るに、ただのお出かけとは明らかに違うようだ。
「そんなわけないだろぉ。家出だよぉ! 家出! あんな無茶な命令してくるとうさんたちのところに、これ以上いてられるかぁ!」
そっぽを向きながら、ほおを膨らませるゆき。
「なるほど。着替えとか入ってるから、こんなにも重いのか」
「絶対、中をのぞいたりしないでよぉ!」
パンパンのバッグに注目していると、ゆきが指をレイジに突き付け顔を赤らめながら注意してきた。
家出ということは服だけでなく、替えの下着なども入っているはず。なのでいろいろとはずかしいのだろう。
「ははは、安心しろ。ゆきみたいなお子様の着替えなんて、興味ないからさ」
「ムカ、だれが幼児体型だぁ!」
つい出た本音に、ゆきはぷんすか怒りをあらわにレイジの足を蹴ってくる。
「イタッ!? わるかったから、蹴るのはやめてくれ」
「まったくー、くおんはデリカシーがなさすぎるー! 相手は同い年の女の子なんだからなぁ!」
むーっと恨みがましい視線を向けてくるゆき。
「そういえばそうだったな。見た目が小学生レベルすぎて、時々素で忘れてしまうよ」
彼女はレイジと同い年なのだが、見た目はどうみても小学生。しかもゆきのにじみ出る子供っぽさもあいまって、よけいに年下の女の子に見えて仕方ない。なのでその事実に、今だ慣れないのであった。
「あぁん? 今度は腹に、おもいっきり頭突きでも食らわせてやろうかぁ?」
そんなレイジの正直な発言に、ゆきは先ほど以上に青筋を立てる。そしてドスのきいた声で、突撃するかまえをとりだした。
このままではレイジの腹に、全力の頭突きが飛んでくるはめになるだろう。デュエルアバターならとくに問題はないだろうが、さすがに生身の身体にはご遠慮いただきたい。ゆえにすぐさま手を合わせ、なだめることに。
「わるかったって。だからそんな突撃態勢をとらないでくれ」
「ふんだ! どうせゆきは幼児体型ですよーだぁ」
背中を向け、両腰に手を当てながらすねだすゆき。
子供扱いに過剰な反応をするところを見るに、内心かなり気にしているらしい。さすがにこのままではかわいそうなので、話を別の話題にもっていくことに。
「ところで家出したなら。行く当てはあるのかよ?」
「ふっふーん、ゆきは電子の導き手として稼ぎまくってるから、ホテルなりなんなり利用するもん! それより今後どう動くかが問題だぁ」
ゆきはレイジの方へ振り返り、得意げに答える。
「どう動くかねー。その様子だと次期当主の件、完全に拒否する気なんだな」
「当たり前だろぉ。ゆきにそんな大役つとまるはずないし、なによりゆきは人前なんかに立ちたくない。引きこもって、自分の好きなことをするのぉ! だからあんな無茶な要求、飲めるはずないよぉ!」
ゆきはよほどいやなのか、胸をドンッとたたきながらきっぱり否定の意を。
「まあ、こうなる予感はしていたが、どうにかなる問題なのか?」
「正直、難しいだろうねぇ。ことのスケールがあまりに深刻すぎるもん。いくらゆきが拒否ったところで、父さんが折れてくれるはずないよぉ、――はぁ……」
肩をすくめ、深いため息をこぼすゆき。
「まあ、ことは白神家の次期当主問題に収まらず、白神コンシェルンの統括問題、さらにはエデンの危機とまできてるもんなぁ」
まだ白神家だけの問題なら、ゆきのわがままも通っただろう。
しかし今回ばかりはそうもいってられない。ことの大きさから見て、なんとかなるレベルをとうに超えているのだ。守たちからすれば、もはやなりふりかまっていられる状況でないのは明白。ゆきをなんとしてでも舞台に上がらせるはず。
「とりあえず家を出て意思表明はしたけど、これじゃ、全然たりない。今のうちになにか手を打っとかないと、いずれ強制的に受けざるおえない状況に追い込まれるだろうねぇ。だからこれから作戦会議だぁ! ゆきとくおんで、この緊急事態をなんとかするぞぉ!」
ゆきは右手をグッと掲げ、気合いをいれる。
どうやら彼女はいくら劣勢でも、あきらめる気はないようだ。
「盛り上がっているとこわるいんだが、オレは強制参加なのか?」
「当たり前だろぉ? 元はといえば、誰のせいでこうなったと思ってるんだぁ?」
レイジの腕をグイッと引っ張り、ジト目で問いただしてくるゆき。
彼女が守たちの要求を飲むはめになったのは、レイジがエデンの巫女であるマナの力を借りようとしたため。ゆえに彼女の言い分は、確かにもっともである。
「だけどオレにもアイギスでの仕事があってだな。いつまでもゆきに付きっきりというわけには……」
ゆきの力になってはやりたい。だがレイジにもレイジのやるべきことがある。カノンが巫女派を設立した今、レイジの力が必要になってくるはずなのだから。
「ふっふーん、もちろん那由多には許可とってるぞぉ。あとカノンにもオッケーもらったしねぇ」
するとゆきは不敵な笑みを浮かべ、レイジの退路を断ってくる。
どうやら先回りされ、手を打たれていたらしい。
「なんだって? これからいろいろ忙しくなるんじゃ、なかったのか?」
「今忙しいのは主に準備の方らしいよぉ。だからくおんみたいな戦力は、あまり必要ないってさぁ」
今は地固めが忙しいみたいなので、荒事関連は必要ないらしい。
となるとしばらくレイジはヒマをもて余すことに。結果、ゆきの件を断るいいわけがなくなってしまった。
「――くっ、逃げる口実が……」
「おい、こらー、本音はそっちかよぉ!」
「――じょ、冗談だよ。で、なにか策はあるのか」
ぷんすか詰め寄ってくるゆきをごまかし、しかたなく話を進める。
もはやレイジはゆきの次期当主回避の案件を、手伝うしかないようだ。ゆえにあきらめ協力することに。
「とりあえず手当たり次第、当たってみるつもりー。ということでまずは荷物をいったん預けて、エデンに向かうぞぉ!」
こうしてレイジとゆきは、次期当主の件を回避するため動きだすのであった。
レイジは十六夜島の街道を歩きながら、ゆきに呼ばれた場所に向かっている真っ最中。
「くおんー、こっちだよぉ!」
待ち合わせ場所である広場に到着すると、ゆきが大きく手を振ってきた。
ここは十六夜島にある、広々とした広場。さまざまないろとりどりの花が植えられ、中心付近にはこの広場のシンボル的な存在。デザインの凝った大きな噴水が水をまきあげ、すずしげな雰囲気をただよわせている。現在青空が広がるすがすがしい朝ゆえ、ジョギングや散歩をしている人がちらほら見かけた。
「よお、ゆき、エデンじゃなく、現実で会おうだなんてどういう風の吹き回しだ?」
「ゆきにもいろいろあるんだもん! はい、これ、もってぇ」
「ああ、って、重!? なんだこの荷物は? どっか旅行にでも出かける気か?」
ゆきに渡されたのは、大きな旅行カバンといっていい代物。中はパンパンに入れられており、非常に重い。この荷物の量を見るに、ただのお出かけとは明らかに違うようだ。
「そんなわけないだろぉ。家出だよぉ! 家出! あんな無茶な命令してくるとうさんたちのところに、これ以上いてられるかぁ!」
そっぽを向きながら、ほおを膨らませるゆき。
「なるほど。着替えとか入ってるから、こんなにも重いのか」
「絶対、中をのぞいたりしないでよぉ!」
パンパンのバッグに注目していると、ゆきが指をレイジに突き付け顔を赤らめながら注意してきた。
家出ということは服だけでなく、替えの下着なども入っているはず。なのでいろいろとはずかしいのだろう。
「ははは、安心しろ。ゆきみたいなお子様の着替えなんて、興味ないからさ」
「ムカ、だれが幼児体型だぁ!」
つい出た本音に、ゆきはぷんすか怒りをあらわにレイジの足を蹴ってくる。
「イタッ!? わるかったから、蹴るのはやめてくれ」
「まったくー、くおんはデリカシーがなさすぎるー! 相手は同い年の女の子なんだからなぁ!」
むーっと恨みがましい視線を向けてくるゆき。
「そういえばそうだったな。見た目が小学生レベルすぎて、時々素で忘れてしまうよ」
彼女はレイジと同い年なのだが、見た目はどうみても小学生。しかもゆきのにじみ出る子供っぽさもあいまって、よけいに年下の女の子に見えて仕方ない。なのでその事実に、今だ慣れないのであった。
「あぁん? 今度は腹に、おもいっきり頭突きでも食らわせてやろうかぁ?」
そんなレイジの正直な発言に、ゆきは先ほど以上に青筋を立てる。そしてドスのきいた声で、突撃するかまえをとりだした。
このままではレイジの腹に、全力の頭突きが飛んでくるはめになるだろう。デュエルアバターならとくに問題はないだろうが、さすがに生身の身体にはご遠慮いただきたい。ゆえにすぐさま手を合わせ、なだめることに。
「わるかったって。だからそんな突撃態勢をとらないでくれ」
「ふんだ! どうせゆきは幼児体型ですよーだぁ」
背中を向け、両腰に手を当てながらすねだすゆき。
子供扱いに過剰な反応をするところを見るに、内心かなり気にしているらしい。さすがにこのままではかわいそうなので、話を別の話題にもっていくことに。
「ところで家出したなら。行く当てはあるのかよ?」
「ふっふーん、ゆきは電子の導き手として稼ぎまくってるから、ホテルなりなんなり利用するもん! それより今後どう動くかが問題だぁ」
ゆきはレイジの方へ振り返り、得意げに答える。
「どう動くかねー。その様子だと次期当主の件、完全に拒否する気なんだな」
「当たり前だろぉ。ゆきにそんな大役つとまるはずないし、なによりゆきは人前なんかに立ちたくない。引きこもって、自分の好きなことをするのぉ! だからあんな無茶な要求、飲めるはずないよぉ!」
ゆきはよほどいやなのか、胸をドンッとたたきながらきっぱり否定の意を。
「まあ、こうなる予感はしていたが、どうにかなる問題なのか?」
「正直、難しいだろうねぇ。ことのスケールがあまりに深刻すぎるもん。いくらゆきが拒否ったところで、父さんが折れてくれるはずないよぉ、――はぁ……」
肩をすくめ、深いため息をこぼすゆき。
「まあ、ことは白神家の次期当主問題に収まらず、白神コンシェルンの統括問題、さらにはエデンの危機とまできてるもんなぁ」
まだ白神家だけの問題なら、ゆきのわがままも通っただろう。
しかし今回ばかりはそうもいってられない。ことの大きさから見て、なんとかなるレベルをとうに超えているのだ。守たちからすれば、もはやなりふりかまっていられる状況でないのは明白。ゆきをなんとしてでも舞台に上がらせるはず。
「とりあえず家を出て意思表明はしたけど、これじゃ、全然たりない。今のうちになにか手を打っとかないと、いずれ強制的に受けざるおえない状況に追い込まれるだろうねぇ。だからこれから作戦会議だぁ! ゆきとくおんで、この緊急事態をなんとかするぞぉ!」
ゆきは右手をグッと掲げ、気合いをいれる。
どうやら彼女はいくら劣勢でも、あきらめる気はないようだ。
「盛り上がっているとこわるいんだが、オレは強制参加なのか?」
「当たり前だろぉ? 元はといえば、誰のせいでこうなったと思ってるんだぁ?」
レイジの腕をグイッと引っ張り、ジト目で問いただしてくるゆき。
彼女が守たちの要求を飲むはめになったのは、レイジがエデンの巫女であるマナの力を借りようとしたため。ゆえに彼女の言い分は、確かにもっともである。
「だけどオレにもアイギスでの仕事があってだな。いつまでもゆきに付きっきりというわけには……」
ゆきの力になってはやりたい。だがレイジにもレイジのやるべきことがある。カノンが巫女派を設立した今、レイジの力が必要になってくるはずなのだから。
「ふっふーん、もちろん那由多には許可とってるぞぉ。あとカノンにもオッケーもらったしねぇ」
するとゆきは不敵な笑みを浮かべ、レイジの退路を断ってくる。
どうやら先回りされ、手を打たれていたらしい。
「なんだって? これからいろいろ忙しくなるんじゃ、なかったのか?」
「今忙しいのは主に準備の方らしいよぉ。だからくおんみたいな戦力は、あまり必要ないってさぁ」
今は地固めが忙しいみたいなので、荒事関連は必要ないらしい。
となるとしばらくレイジはヒマをもて余すことに。結果、ゆきの件を断るいいわけがなくなってしまった。
「――くっ、逃げる口実が……」
「おい、こらー、本音はそっちかよぉ!」
「――じょ、冗談だよ。で、なにか策はあるのか」
ぷんすか詰め寄ってくるゆきをごまかし、しかたなく話を進める。
もはやレイジはゆきの次期当主回避の案件を、手伝うしかないようだ。ゆえにあきらめ協力することに。
「とりあえず手当たり次第、当たってみるつもりー。ということでまずは荷物をいったん預けて、エデンに向かうぞぉ!」
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