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5章 第2部 ゆきの家出
206話 相馬の考え
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「わぁ! このお肉おいしすぎるー! くおん、付け合わせのニンジン全部あげるから、そのお肉と交換しよぉ?」
隣に座っているゆきがお肉をおいしそうにほおばり、幸せそうに目を細める。そして目をキランと光らせ、交渉してきた。
時刻は十二時ごろ。レイジとゆきがいるのは現実の十六夜島にある、高級ホテル。その最上階に位置する上流階級用のレストランである。店内は重厚感あふれるカーペットが敷かれ、非常におしゃれな内装。ガラス張りの窓からは、十六夜島の街並みを一望できる。これが夜ならば見事な夜景が広がっており、とてもロマンチックな雰囲気をかもしだしていただろう。ここは相馬がランチに指定した場所であり、今日はおごってくれるのだそうだ。
ちなみに現在やりとりしているのは、並べられた料理の中でもメインディッシュにあたるもの。ちょこんと盛られた最上級クラスのステーキである。
「おい、全然見合ってないじゃないか。しかもそのニンジン、初めからどけてたのを見るに、嫌いなものだろ。ついでに押し付けようとするな」
運ばれてすぐゆきが付け合わせのニンジンをいやそうに端にどけるのを、レイジは見逃してはいなかったのだ。
「むぅ、くおんのけちぃ。ならせめてこのニンジンのやつ食べてよぉ」
ゆきはほおを膨らませ、付け合せのニンジンをフォークで運んでこようと。
「ははは、好き嫌いしてると大きくなれないぞ?」
「よけいなお世話だぁ! もう、いいよぉ! この程度、一人で食べてみせるもん! ぐぬぬ、大きくなるためにも、ぱく……」
付け合せのニンジンとにらみ合い、そして意を決して口にほりこんだ。
どうやら大きくなるというワードに反応し、がんばることを決めたらしい。
「――うぅ……、やっぱり苦手だぁ……」
「おお、えらい、えらい、よくできました」
涙目にながら食べるゆきの頭をなでてやる。
いつもなら子ども扱いするなと怒ってきそうだが、今はそれどころではないらしく素直に受け入れていた。
そんなゆきのさわがしさに、相馬はため息を。
「――はぁ……、白神家の人間なのだから、もっと優雅に食べれないものか?」
「おいしく食べるのが一番でしょー。ただでさえこんな高級店、連れてきてもらったことないのにさぁ。ねぇ、くおん」
ゆきはそっぽを向き、レイジに同意を求めてくる。
「うん? オレは相馬さんにプライベートで、結構連れてきてもらったことあるけどな」
相馬には狩猟兵団レイヴン時代、よくアリスと一緒にこういった店でおごってもらっていたのである。これも彼に気に入られていたがためなのだろう。
「え? そうまにいさんの妹である、ゆきを差し置いてぇ? ずるくなーい!」
その事実に身を乗り出し、抗議するゆき。
「俺に力を貸してくれる者には、当然の褒美だ。悔しければゆきも、兄の手伝いにはげむのだな。そうすれば連れてきてやるのも、やぶさかではないぞ?」
「ゆきも、そうま兄さんの私兵に……、じゅるり……」
彼女は相馬の私兵になって、おごってもらっている光景を想像しているようだ。よだれをすすりながら、妄想にふ
けだす。
「ゆき、食べ物でつられそうになってるぞ?」
「はっ!? ゆきとしたことが!?」
ゆきははっと我に返り、あわててよだれをふく。
「まったく……、ゆきよ、この程度で懐柔されそうになるとは、将来が心配になってくるぞ」
もはや見てられないと、こめかみを押さえる相馬。
「うるさいなぁ。それに文句ならゆきにだってあるもん! そうまにいさんがアポルオンと手を結んでるせいで、どれだけゆきに厄介ごとがふってきたと思ってるのぉ!」
あきれる相馬に、ゆきは今回の本題を使って抗議を。
「――ふむ……、おおかた父さんあたりに、次期当主になれとでも言われたところか?」
「そこまでわかってるのなら話は早いよぉ! さっさとアポルオンなんかと縁(えん)を切って、白神コンシェルン側に戻ってきてぇ! そうまにいさんだって、白神家を裏切るのは内心心苦しいと思ってるはずでしょー?」
ゆきは相馬の心情にうったえかけ、必死に説得を試みる。
「仮に俺が戻ったとしてどうなると思うんだ?」
「そんなのとうさん、かえでねえさん、そうまにいさんが力を合わせれば、アポルオンの件ぐらいなんとかなるよねぇ?」
ゆきは少し不安げに首をかしげる。
「ふん、認識が甘いな、ゆき。一つ断言しておこう。俺が白神家についたところで、アポルオンの介入は止まらない。なにせ保守派はどんな手を使ってでも、管理者の力を奪おうとしてるんだ。その勢いは革新派との戦いより、優先するほどにな」
すると相馬が彼女の楽観的考えを、変えられない事実で打ち砕いてきた。
「え? そんなになのぉ?」
「ははは、まさか革新派の騒動が二の次って、どれだけ管理者の力を欲してるんですか?」
革新派のクーデターは、もはやアポルオン内の一大事といっていい事件。それは保守派
にだって変わらないはずなのに、それよりも優先することがあるとは。よほど彼らはその計画とやらに、ご執心のようだ。
となればアポルオンによる白神コンシェルンへの介入。これはレイジたちが思っている以上に、ヤバイ案件なのかもしれない。
「俺もくわしいことはわからん。ただ彼ら保守派の計画を完遂するには、管理者の力がどうしても必要らしい。つまりだ。もはや白神コンシェルンがいくら抵抗したところで、結末は変わらない。ならば我々は、被害を最小限に抑えるべく行動すべきではないか?」
「え? もしかして相馬さんがアポルオン側についたのって、白神コンシェルンを守るために?」
「ハハハ、このままではすべて奪われかねんだろ? ならばやることは一つ。始めから向こうに協力し、その貢献を持って立ち位置を確立する。最悪、傀儡になりはてる形になるかもしれんが、完全に乗っ取られるよりはましだろう」
相馬は手をぐっとにぎり、今後の事態を見すえる。
つまり相馬は相馬なりに、白神コンシェルンを守ろうとしていたということ。
もはや本気を出した保守派に勝てる可能性は低い。となれば早いうちに負けを認め、少しでも被害を少なくするほかないというもの。ゆえに相馬のとった行動は、必ずしも白神コンシェルンを裏切ったとは言えないのだ。結果的に見ると最善の選択なのかもしれなかった。
「ちなみに今のところは順調だぞ。序列二位サージェンフォード家当主と、わるくない同盟を結べている。このまま駒としての役割をまっとうし続ければ、それなりの全権は任せてもらえるぐらいにな」
「そうまにいさんが、まさかそこまで考えていたなんてぇ……」
彼の真実に、ゆきは目を丸くする。
まさか唯我独尊、野心家の相馬がここまで自分たちのことを思っていたのかと。
「なにやら自分の野望のため裏切ったと思われがちだが、俺は俺なりに白神コンシェルンの身を案じて、動いていたというわけだ」
相馬はワインを一口飲みながら、すずしげに笑う。
「じゃあ、もしかして相馬さんがここまで権力を集めてきたのって、全部白神コンシェルンを救うためなんですか?」
「え? そうなのそうまにいさん……」
もしそうだとしたら、これまでの相馬の見え方が180度変わってくる。すべては白神コンシェルンを救うため、上を目指していたのだと。
その可能性に、二人で思わず尊敬のまなざしを向ける。
「ハハハ、まさか。オレはそんなに聖人君子はないぞ。俺には俺の野望がある。今回の件はたまたまそれが重なっただけのこと。サージェンフォード家との結びつきと、白神コンシェルンの代表の座。この二つが手に入れば、我が覇道もさらに進むからな!」
相馬はその期待を笑い飛ばし、本音を熱くかたる。
「――はぁ……、やっぱりそうまにいさんはそうまにいさんだぁ。感動して損したよぉ」
ゆきは肩を落とし、笑うしかないようだ。
「そういうわけだから、媚(こび)を売っとくなら今のうちだぞ、ゆき。お前の兄はいづれ天下をとる男なのだからな! ハハハ!」
そして相馬は立ち上がり、手をバッと前に出しながら声高らかに宣言する。
そこには夢みたいなあいまいなものはなく、なにがなんでも実現してみせるという気迫であふれていた。
「おぉ! これぞまさしく王たる風格! さすがは相馬様! ブリジットは一生あなた様についていきます!」
そんな相馬の力説に、どこからともなく現れるメイド服姿のブリジット。
彼女は祈るように手を組み、テンション高く感服の意を。
「って、いたんですか!? ブリジットさん!?」
「当たり前です。主人にいついかなるときもお仕えするのが、メイドの務めなのですから!」
ブリジットは胸に手を当て、さぞ当然とばかりに主張する。
「ささ、みなさま私にかまわず、お食事をお楽しみくださいませ」
そしてブリジットは相馬のすぐ後ろに待機し、レイジたちに食事の再開を勧める。
「ブリジットの言う通りだな。冷めてしまっては、せっかくの料理がもったいない。食事を再開するとしよう」
相馬は席に座り、ワインを一口。そして優雅に食事を再開する。
「ははは、そうですね。うん? オレの肉がない? ハッ!? まさかゆき!? 取りやがったな!?」
ブリジットには少しわるい気もするが、もっともな意見なので食事を再開することに。
そこでふと気づく。先程まであったステーキが、レイジの皿から消えていたのだ。
「えー、ゆきー、くおんがなにをいってるか、わからないよぉー、もぐもぐ」
レイジの問い詰めに、ゆきはかわいくとぼけだした。幸せそうになにかをほおばりながらだ。
「なにかわいくとぼけてやがる。その口の中にあるのが証拠だろうが!」
もはや犯人は一目瞭然。なのでゆきの肩をつかみ、力を入れる。
「きゃー、そうま兄さん、くおんが乱暴しようとするー」
対してゆきは卑怯なことに、相馬へ助けを求めだした。
さすがに兄である相馬の前、さらには公衆の目もある。なのでそう強く責めることはできそうになかった。
「――くっ……、ゆきにまんまとやられるとは……」
「ハハハ、ゆきにしてやられるとは、久遠もまだまだだな」
そんな感じでレイジたちは、にぎやかなランチを楽しむのであった。
隣に座っているゆきがお肉をおいしそうにほおばり、幸せそうに目を細める。そして目をキランと光らせ、交渉してきた。
時刻は十二時ごろ。レイジとゆきがいるのは現実の十六夜島にある、高級ホテル。その最上階に位置する上流階級用のレストランである。店内は重厚感あふれるカーペットが敷かれ、非常におしゃれな内装。ガラス張りの窓からは、十六夜島の街並みを一望できる。これが夜ならば見事な夜景が広がっており、とてもロマンチックな雰囲気をかもしだしていただろう。ここは相馬がランチに指定した場所であり、今日はおごってくれるのだそうだ。
ちなみに現在やりとりしているのは、並べられた料理の中でもメインディッシュにあたるもの。ちょこんと盛られた最上級クラスのステーキである。
「おい、全然見合ってないじゃないか。しかもそのニンジン、初めからどけてたのを見るに、嫌いなものだろ。ついでに押し付けようとするな」
運ばれてすぐゆきが付け合わせのニンジンをいやそうに端にどけるのを、レイジは見逃してはいなかったのだ。
「むぅ、くおんのけちぃ。ならせめてこのニンジンのやつ食べてよぉ」
ゆきはほおを膨らませ、付け合せのニンジンをフォークで運んでこようと。
「ははは、好き嫌いしてると大きくなれないぞ?」
「よけいなお世話だぁ! もう、いいよぉ! この程度、一人で食べてみせるもん! ぐぬぬ、大きくなるためにも、ぱく……」
付け合せのニンジンとにらみ合い、そして意を決して口にほりこんだ。
どうやら大きくなるというワードに反応し、がんばることを決めたらしい。
「――うぅ……、やっぱり苦手だぁ……」
「おお、えらい、えらい、よくできました」
涙目にながら食べるゆきの頭をなでてやる。
いつもなら子ども扱いするなと怒ってきそうだが、今はそれどころではないらしく素直に受け入れていた。
そんなゆきのさわがしさに、相馬はため息を。
「――はぁ……、白神家の人間なのだから、もっと優雅に食べれないものか?」
「おいしく食べるのが一番でしょー。ただでさえこんな高級店、連れてきてもらったことないのにさぁ。ねぇ、くおん」
ゆきはそっぽを向き、レイジに同意を求めてくる。
「うん? オレは相馬さんにプライベートで、結構連れてきてもらったことあるけどな」
相馬には狩猟兵団レイヴン時代、よくアリスと一緒にこういった店でおごってもらっていたのである。これも彼に気に入られていたがためなのだろう。
「え? そうまにいさんの妹である、ゆきを差し置いてぇ? ずるくなーい!」
その事実に身を乗り出し、抗議するゆき。
「俺に力を貸してくれる者には、当然の褒美だ。悔しければゆきも、兄の手伝いにはげむのだな。そうすれば連れてきてやるのも、やぶさかではないぞ?」
「ゆきも、そうま兄さんの私兵に……、じゅるり……」
彼女は相馬の私兵になって、おごってもらっている光景を想像しているようだ。よだれをすすりながら、妄想にふ
けだす。
「ゆき、食べ物でつられそうになってるぞ?」
「はっ!? ゆきとしたことが!?」
ゆきははっと我に返り、あわててよだれをふく。
「まったく……、ゆきよ、この程度で懐柔されそうになるとは、将来が心配になってくるぞ」
もはや見てられないと、こめかみを押さえる相馬。
「うるさいなぁ。それに文句ならゆきにだってあるもん! そうまにいさんがアポルオンと手を結んでるせいで、どれだけゆきに厄介ごとがふってきたと思ってるのぉ!」
あきれる相馬に、ゆきは今回の本題を使って抗議を。
「――ふむ……、おおかた父さんあたりに、次期当主になれとでも言われたところか?」
「そこまでわかってるのなら話は早いよぉ! さっさとアポルオンなんかと縁(えん)を切って、白神コンシェルン側に戻ってきてぇ! そうまにいさんだって、白神家を裏切るのは内心心苦しいと思ってるはずでしょー?」
ゆきは相馬の心情にうったえかけ、必死に説得を試みる。
「仮に俺が戻ったとしてどうなると思うんだ?」
「そんなのとうさん、かえでねえさん、そうまにいさんが力を合わせれば、アポルオンの件ぐらいなんとかなるよねぇ?」
ゆきは少し不安げに首をかしげる。
「ふん、認識が甘いな、ゆき。一つ断言しておこう。俺が白神家についたところで、アポルオンの介入は止まらない。なにせ保守派はどんな手を使ってでも、管理者の力を奪おうとしてるんだ。その勢いは革新派との戦いより、優先するほどにな」
すると相馬が彼女の楽観的考えを、変えられない事実で打ち砕いてきた。
「え? そんなになのぉ?」
「ははは、まさか革新派の騒動が二の次って、どれだけ管理者の力を欲してるんですか?」
革新派のクーデターは、もはやアポルオン内の一大事といっていい事件。それは保守派
にだって変わらないはずなのに、それよりも優先することがあるとは。よほど彼らはその計画とやらに、ご執心のようだ。
となればアポルオンによる白神コンシェルンへの介入。これはレイジたちが思っている以上に、ヤバイ案件なのかもしれない。
「俺もくわしいことはわからん。ただ彼ら保守派の計画を完遂するには、管理者の力がどうしても必要らしい。つまりだ。もはや白神コンシェルンがいくら抵抗したところで、結末は変わらない。ならば我々は、被害を最小限に抑えるべく行動すべきではないか?」
「え? もしかして相馬さんがアポルオン側についたのって、白神コンシェルンを守るために?」
「ハハハ、このままではすべて奪われかねんだろ? ならばやることは一つ。始めから向こうに協力し、その貢献を持って立ち位置を確立する。最悪、傀儡になりはてる形になるかもしれんが、完全に乗っ取られるよりはましだろう」
相馬は手をぐっとにぎり、今後の事態を見すえる。
つまり相馬は相馬なりに、白神コンシェルンを守ろうとしていたということ。
もはや本気を出した保守派に勝てる可能性は低い。となれば早いうちに負けを認め、少しでも被害を少なくするほかないというもの。ゆえに相馬のとった行動は、必ずしも白神コンシェルンを裏切ったとは言えないのだ。結果的に見ると最善の選択なのかもしれなかった。
「ちなみに今のところは順調だぞ。序列二位サージェンフォード家当主と、わるくない同盟を結べている。このまま駒としての役割をまっとうし続ければ、それなりの全権は任せてもらえるぐらいにな」
「そうまにいさんが、まさかそこまで考えていたなんてぇ……」
彼の真実に、ゆきは目を丸くする。
まさか唯我独尊、野心家の相馬がここまで自分たちのことを思っていたのかと。
「なにやら自分の野望のため裏切ったと思われがちだが、俺は俺なりに白神コンシェルンの身を案じて、動いていたというわけだ」
相馬はワインを一口飲みながら、すずしげに笑う。
「じゃあ、もしかして相馬さんがここまで権力を集めてきたのって、全部白神コンシェルンを救うためなんですか?」
「え? そうなのそうまにいさん……」
もしそうだとしたら、これまでの相馬の見え方が180度変わってくる。すべては白神コンシェルンを救うため、上を目指していたのだと。
その可能性に、二人で思わず尊敬のまなざしを向ける。
「ハハハ、まさか。オレはそんなに聖人君子はないぞ。俺には俺の野望がある。今回の件はたまたまそれが重なっただけのこと。サージェンフォード家との結びつきと、白神コンシェルンの代表の座。この二つが手に入れば、我が覇道もさらに進むからな!」
相馬はその期待を笑い飛ばし、本音を熱くかたる。
「――はぁ……、やっぱりそうまにいさんはそうまにいさんだぁ。感動して損したよぉ」
ゆきは肩を落とし、笑うしかないようだ。
「そういうわけだから、媚(こび)を売っとくなら今のうちだぞ、ゆき。お前の兄はいづれ天下をとる男なのだからな! ハハハ!」
そして相馬は立ち上がり、手をバッと前に出しながら声高らかに宣言する。
そこには夢みたいなあいまいなものはなく、なにがなんでも実現してみせるという気迫であふれていた。
「おぉ! これぞまさしく王たる風格! さすがは相馬様! ブリジットは一生あなた様についていきます!」
そんな相馬の力説に、どこからともなく現れるメイド服姿のブリジット。
彼女は祈るように手を組み、テンション高く感服の意を。
「って、いたんですか!? ブリジットさん!?」
「当たり前です。主人にいついかなるときもお仕えするのが、メイドの務めなのですから!」
ブリジットは胸に手を当て、さぞ当然とばかりに主張する。
「ささ、みなさま私にかまわず、お食事をお楽しみくださいませ」
そしてブリジットは相馬のすぐ後ろに待機し、レイジたちに食事の再開を勧める。
「ブリジットの言う通りだな。冷めてしまっては、せっかくの料理がもったいない。食事を再開するとしよう」
相馬は席に座り、ワインを一口。そして優雅に食事を再開する。
「ははは、そうですね。うん? オレの肉がない? ハッ!? まさかゆき!? 取りやがったな!?」
ブリジットには少しわるい気もするが、もっともな意見なので食事を再開することに。
そこでふと気づく。先程まであったステーキが、レイジの皿から消えていたのだ。
「えー、ゆきー、くおんがなにをいってるか、わからないよぉー、もぐもぐ」
レイジの問い詰めに、ゆきはかわいくとぼけだした。幸せそうになにかをほおばりながらだ。
「なにかわいくとぼけてやがる。その口の中にあるのが証拠だろうが!」
もはや犯人は一目瞭然。なのでゆきの肩をつかみ、力を入れる。
「きゃー、そうま兄さん、くおんが乱暴しようとするー」
対してゆきは卑怯なことに、相馬へ助けを求めだした。
さすがに兄である相馬の前、さらには公衆の目もある。なのでそう強く責めることはできそうになかった。
「――くっ……、ゆきにまんまとやられるとは……」
「ハハハ、ゆきにしてやられるとは、久遠もまだまだだな」
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