電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

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5章 第4部 幽霊少女のウワサ

222話 今後の方針

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 すでに日が完全に沈み夜へと。ここは荒野こうやの中ゆえ街灯などのたぐいはなく、本来なら真っ暗だっただろう。しかし月の青白い光が周囲を照らしていたため、わりと明るく視界には困らなかった。

「とりあえず全員無事だったわけだけど」

 ゆき、マナ、花火を見渡す。
 みなとくにダメージをっておらず、動くのには支障がない状態であった。
 ちなみにあれからどうなったのか。まずナツメの黒炎の斬撃と真っ向からぶつかり合ったレイジであったが、そのあまりの威力に逃げることを選択。後方に跳んでやり過ごしていたのだ。そして車両に乗っていたゆきたちはというと、ナツメの黒炎をいち早く察知。車両が破壊される前に、みなで飛び降りたとのこと。

「全員じゃないっしょ! ウチの手塩にかけて作った軽装甲車がめちゃくちゃに! あー、これはもう修理、無理っぽいよねー」

 花火は髪をくしゃくしゃしながら、ショックを受けていた。
 そう、残念なことに彼女の軽装甲車は黒炎に飲まれ爆発。修理ができないほど大破してしまったのである。

「それはお気の毒だな……。――と、とりあえず今はあの敵のことだ。なんだかちょっかいかけるだけかけといて、すんなり去っていったけどなにが狙いだったんだ? あれじゃあ、まるで」

 花火に同情しながらも、さっきのことを思い出す。
 車両を破壊され、地上へと下ろされたレイジたち。そしてそこからナツメたちがとどめを刺しに来ると思いきや、そうはならなかった。というのも彼女たちは攻められるにも関わらず、すぐさま撤退していったのだから。

「あいさつ、またはこの件から手を引けという脅しとかだろうねぇ」
「だろうな。そしてあのただ者じゃない戦闘力。しかもあの黒い炎を行使したところを見るに、間違いなく普通の相手じゃない。となると有力なのはエデン財団上層部のエージェントということになるのか」
「ちょうど向こうも、この辺りを調査してるって話だったしねぇ」
「やっぱり今回の件、一筋縄ではいかなさそうだ。これまでとは違うバグに、さらにはエデン財団上層部の干渉まで」

 レイジたちの邪魔をしてきたところを見るに、向こうの狙いもバグの可能性がより高くなったといっていい。こうなると彼らとの戦闘は避けられなくなってくるだろう。

「ゆき、これからどうする?」
「そんなの決まってるよぉ! バグの件をどうにかしながら、ついでに上層部のやつらに目に物をみせてやるー! このままやられっぱなしで、終われるわけないもん!」

 ゆきは両腕を上げ、メラメラと闘志を燃やしだす。

「きゃはは、そうこなくっちゃ! 車両のカタキはもちろん、このさい強制ログアウトさせて向こうの情報をいただかないとね! 相馬さんのいい手土産てみやげになるし」

 花火はサムズアップしながら、ノリノリで同意を。

「確かに今後のことも考えたら、エデン財団上層部の情報を手に入れておくのは全然ありだな。前回はとり逃がしたが、今度はそうはいかない。やつらの尻尾しっぽをつかんでやる!」

 手のひらにこぶしを打ち付けながら、気合を入れる。
 カノンと一緒に追ったときは、とおるやルナたちに邪魔され貴重な情報源を逃がしてしまったのだ。ゆえに今度こそこのチャンスをものにしなければ。あとナツメほどの強者と決着がつくまでやり合いたいという、戦闘狂の嵯峨さがもあった。

「そうと決まればさっそく行動開始だぁ。やつらよりも早くバグを見つけ、先回りしとかないとなぁ」
「――あのぉ、エデン財団上層部の情報も大事だと思うんですが、マナ的にはバグの方を最優先で動いてほしいんですけどぉ……」

 三人で打倒エデン財団のエージェントに燃えていると、マナがおずおずと頼んできた。

「あ、安心しろぉ、まな。もちろんそのつもりだからぁ。これはもし鉢合わせたらの話で……、なぁ、くおん!」
「ああ、オレたちの目的はあくまでバグの解決だもんな、ははは……」

 ゆきとレイジは笑ってごまかす。ただ内心やりあう気満々なのだが。

「――うぅ、なんだか少し不安ですぅ」
「とにかくそろそろ調査を再開するか。花火、ほかの車両を出してくれ」
「しかたないなー。じゃあ、ぼろっちい普通の乗用車で」

 やれやれと肩をすくめ、割と投げやりに答えてくる花火。

「おい、軽装甲車からどれだけグレードダウンしてるんだよ」
「だってまた壊されたらたまったもんじゃないっしょ。だからやられても、痛くもかゆくもないやつにするってわけ。どうせあんなヤバい連中相手じゃ、いくらカスタマイズしたやつでも関係ないって」
「それはそうかもしれないが」

 確かに大型オオカミの攻撃やナツメの黒炎相手だと、いくら頑丈であろうがすぐに破壊されてしまうだろう。用意するのに手間と金がかかる以上、あまり高性能な車両を要求するのは少し気が引けた。

「というかそろそろ切り上げないー。ほらぁ、もうこんなに辺りが暗くなったし、明日また明るくなったら調査しようよぉ」

 花火に交渉こうしょうしていると、ゆきがレイジの上着をクイクイ引っ張りながら、おずおず提案してくる。

「おいおい、さっきまでの威勢はどこにいったんだよ。やつらより先に見つけて、先回りするんじゃなかったのか?」
「だってぇ、夜だと出るかもしれないしー。ウワサのあれが……」

 ゆきは手をもじもじさせ、不安げに目をふせる。

「うらめしやー」

 そこへ彼女のすぐ後ろに回り込んだ花火が、おばけのポーズをとりながらささやいた。

「うわぁぁぁ!? って、こらぁ! はなびー! なにおどかしにきてるんだぁー!」

 するとビクッと飛び上がるゆき。そしてうがーと両腕を上げながら、ぷんすか怒りをあらわに。
 それに対し手を合わせ、ほほえましそうに笑う花火。

「きゃはは、ごめん、ごめん、つい」
「まったくー、今度やったらただじゃおかないぞぉ」
「――あそぼ……、――あそぼ……」

 ゆきが腕を組みそっぽを向いていると、どこからともなく女の子の声が聞こえてきた。

「おい、言ってるそばからまたぁ!」

 彼女はまたからかわれたと思い抗議をしだす。

「え? ウチじゃないよ」
「となると、くおんかぁ?」
「オレはなにもしてないぞ?」
「え? もしかして、まな?」
「いえ、マナも違いますぅ」

 ゆきは声をかけていくが、みな首を横に振るだけで。

「じゃ、じゃあ、だれが……、ここにはもう誰も……」

 しだいにゆきの顔が真っ青になっていく。

「あっ」

 それからなにかに気づいたゆきは、震えながらレイジたちの後ろを指さした。

「で、でたぁーーー!? ふぎゅん……」

 そして大きく叫びながら、ヘナヘナと気絶するゆき。

「おい、大丈夫か!? ゆき」

 なので慌てて駆け寄り、倒れそうになる彼女の身体を支えた。

「――久遠……」
「――レイジにいさま……、あれ」

 するとどこか震えた声でみなが名前を呼んでくる。

「え?」

 マナが指さす方向に視線を移すとそこには。

「――あそぼ……、――あそぼ……」

 なんとそこには白いワンピースを着た幽霊の女の子が、ゆらゆらとちゅうに浮きながらほほえんでいたの
だ。

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