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9.生きるとは、食べるということ。

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 イタタタ……体が痛い。しかし軽い打撲程度で済んで良かった。

 とりま、食料は確保できた。考えてみれば、このアイテムボックスなるものは、ホントに便利だな。

 アイテムボックスは、異世界ものの定番だが。この世界では、一般的に流通している。

 アイテムボックスの特徴としては、持ち運びが楽、安全性も高い。そして中に入れた物は、少しばかり劣化が遅れる。

 ニナの村にも、月一で商人が訪れていた。なのでアイテムボックスは、何度か見たことがある。

 だが、それなりに値が張り、買うことはできなかった。

 森から出て、師匠やフェネと合流し、俺たちは村へ帰った。

 各自、アイテムボックスから、森で捕った獲物を取り出す。

 師匠の場合、流石だとしか言えない。高ランクの魔物ばかりを狩っている。

 フェネの捕ってきた獲物は、ランクは高いけど、少し焦げ臭い‥‥と言うか焦げていた。

 俺が、グリズリーラビットをアイテムボックスから出すと、師匠は驚いた顔を見せる。それから優しく微笑んで、くしゃくしゃと頭を撫でてくれた。

「よく頑張ったな」

 師匠の労いの言葉や仕草、それがとても嬉しかった。

「フェネだって頑張ったもん」

「そうだな」

 ポンポンと師匠はもう片方の手で、フェネの頭に触れる。

「ミリーに頭触られるの好きー」

 フェネは、表情を輝かせて、とても嬉しそうだ。

 いつもニコニコ笑うフェネ、この笑顔に本当に救われる。だけど、疑問にも思う。

「フェネは、どうしていつも笑っていられるの?」

「んー?難しいことはわからないけど。マスターやミリーと一緒にいられるからだと思う。だって、幸せの匂いでいっぱいなんだもん」

「幸せの匂い?」

「うん、お日さまみたいな、ぽかぽかした匂いだよ」

 フェネの種族であるフェニックスと、何か関係があるのだろうか?特殊なものを感じ取れる的な?

「でも、何となくわかる気がする。俺も、フェネや師匠と一緒にいると、何だか温かい気持ちになるからさ」

 にひひっと師匠が笑う。俺をからかう時に、師匠はいつもそうやって笑うのだ。

「珍しいな、アサダがそんなことを言うとは。ホントに可愛い奴め」

 首に手を回され、距離が近くなる。師匠からは、果実のような甘い匂いがした。

「……師匠、森で木の実を食べたでしょ?」

「……何の話だ。ワシは知らんぞ」

「ジーっ……」

「じとー……」

「そんな目でワシを見るな」

「ミリー狡い。フェネも、木の実食べたい」

「……しょうがないか、後でこっそり食べようと思っていたのだが」

 腰の巾着袋から取り出されたのは、スターベリーだった。

 ぶどう味に少し酸っぱさのある、星の形をした黄色い木の実。それがスターベリーである。

「酸っぱーい。でも、甘ーい」

 もむもむとスターベリーを食べるフェネは、どこか小動物みたいで可愛いと思った。

 捕ってきた動物や魔物の肉を解体して、村中に配る。

 その日は、宴会が開かれ、お祭りのような賑やかさがあった。

 村が息を吹き返したように感じるが、まだまだ問題は山積みである。
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