原初のヒーロー

七星北斗

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七転八倒5

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 朝、目を覚ますと、万利のテントはなく、あれ?どこに行ったんだと困惑する彼方。

 周りをきょろきょろと見回すと、地面に文字が書かれていることに気づいた。

「頑張れ」

 その書かれた三文字を見た彼方は、万利の心情を理解する。

 …別に足手まといとか思っていなかったのだ。万利にはたくさん助けられた。それなのに何でだよ。

 しかし、試験は今日で終わりだ。

 泣いても笑っても、試験を合格できなければ意味がない。

 よし、万利を探しながら、クエストも探すことにしよう。

 まずは朝御飯の調達、試験終了の刻限は日暮れだったはず。

 今日は休みなしで、歩きっぱなしになるだろうから、多めに食料調達しておこう。

 そう意気込んで食料調達へ向かうと、万利とばったり会う。

「!?」

 万利は驚いた顔で、あわわわわとしている。

 逃げようとする万利の手を、彼方は逃がさないと掴んだ。

「僕達はチームを組んだはずだろ?何で一人で別行動をするんだよ」

 万利は俯き、彼方と目を合わせない。

「ごめん、やっぱりチームは解散させてほしい。やっぱり一人の方がいいみたい」

「本気でそう思ってる?」

 彼方の言葉に、万利は黙り込んだ。

「僕はさ、ホントにヒーローになれるのか?どうせ無理だろうって、頭の中でずっと考えている」

 黙って彼方の言葉を、万利は聞いていた。

「だけど、やっぱりヒーローになりたいって気持ちの方が大きいことに気づいたんだ」

「うん」

 言葉を聞き終えた万利は頷く。

「私も、最初は誰かのためになる物を作りたくて、発明品を作り始めたんだよ」

「それが今は情報屋なんだから、凄いよな」

「ありがと」

 彼方の言葉に、純粋に感謝の言葉が出てきた。

「それに僕は、チームというよりも、万利はパートナーだと思ってる」

「…それって、どういう意味?」

 万利はかぁーっと顔が熱くなるのを感じた。

「えっ?そのままの意味だけど」

 万利の言葉に困惑しながら、当然だろという表情をする。

「馬鹿っ」

 何だか無性に腹が立つ。あんな恥ずかしいセリフ言われたのは初めてだ。

 彼方の馬鹿。ズルいよ、反則だよ。

 だから、私もお返しする。

 万利は彼方の首に手回し、唇を押し付けた。

 勢いで唇にキスをしてしまった万利。ほっぺにキスをするつもりだったのに。

 お互いが、顔から蒸気が出るのではないかと思うほど顔が赤い。

 やってしまった。万利の頭の中はパニックになっている。

 彼方も頭の中が凄いことになっていた。柔らかいなんだこれ。

 お互いに、一瞬時間が止まったという風に動かなくなり、ハッと目覚めて、サッと距離を取る。

「ごめん」

「僕こそごめん」

 しばらくの間、二人は目を合わせることができなかった。
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