剣を仰げば。

七星北斗

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1.手の平

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 剣の道を行く若者よ、その覇道を極めよ。折れればガラクタ、貫けば宝剣となるだろう。

 木流、火流、土流、金流、水流の五剣流がこの世界の一般的な剣の流派である。

 それらの剣技を身に付けようと、我こそはという強者が集う。

 手の平から鉄錆びの匂い、足の裏の皮も擦りきれそうになってぬるりとした。

「いてっ」

 剣の作法で身体中ぼろぼろだ。学びやでの序列が最下層の俺は、劣悪な環境でしか生きれない。

「腹減った」

 道場の床に寝そべり、朝食のことを考えた。たまには腹いっぱい白飯が食べたいのだが、如何せんポイントがないのである。

「お兄ちゃん、ご飯できたよ」

「ありがとう」

 私たち兄妹は、才能があると故郷を離れて都市部まで剣の修行へやってきた。

 いつものことながら床にはたくさんの赤い足跡、過酷な状況でも諦めず鍛練を繰り返す。これが私の自慢のお兄ちゃん。

「でも、まずは手当てをして、床掃除をしなくちゃね」

 床には血でできた足跡が、くっきりと残っている。一体どれだけの数をこなせばこうなるのか、私には想像することもできない。

 お兄ちゃんは、どの流派にも属していない。正しくは属せなかったのだ。剣の才能がないのではない、属性の適正が五剣流に該当しなかったのである。

 妹である私は、水流に属性適正があった。

 各流派のお兄ちゃんへの扱いは最低である。私がどれだけ才能があるか説明しても、兄の待遇は変わることはなかった。

 悔しい。

 しかし三日後には、五行剣技祭が開催される。お兄ちゃんは、そこで特別枠の参加を許された。きっと誰もが度肝を抜かれるだろう。

 そこで私は、言ってやるのだ。お兄ちゃんは、最強なのだと。あなたたちが馬鹿にした兄は、どれだけ素晴らしい人物なのかを。

「お兄ちゃん、ご飯食べたらさ。私と立ち合い勝負しようよ」

「やだ」

「いいじゃんやろうよ」

「嫌だ」

「じゃあ立ち合い勝負が終わったら、緑茶飲もうよ。友達からいいお茶貰ったんだよ。お兄ちゃん好きでしょ」

「はぁー…一合だけだぞ」

「やったー」

 食事を済ませ、道着に着替え。正座をして向き合い、お辞儀をする。相手に敬意を示し、感謝をする。

 お互いに木刀を握り、相手の出方を探る。

 お兄ちゃんなら、これにどう対応する?

「水流、波木」

 波を邪魔する大木を、力と気の流れに合わせて切り倒す技。

「一点」

 兄の技は高速な足捌きと体ごと押し込むような動作、ただの木刀の先端による突き技。

 それだけで私の木刀は折れた。衝撃で尻餅をつき、汗がさっと引いた。やっぱりお兄ちゃんは凄い。

 兄の剣技は、存在する流派のどの技とも違う。言ってしまえば無から生まれた剣術、無剣流とでも呼ぶべきか。

「お兄ちゃんだーい好き」

 抱きつく私に戸惑いながらも、兄は頭を撫でてくれた。
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