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1.始まりの絶望。

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【貴方は、この世界の真実が知りたいですか?

 この扉を開けば、貴方は戻ってくることはできないかもしれません。

 それでも行くのですか?】

【YES or No】

「YES」

 魔王を倒し、ようやく終わったゲーム。

 しかし終わりではなく、これは始まりだった。

 十年後のゲームの世界。そんな世界が実際するわけがない。

 気づけば始まりの村、カトレアに立っていた。

 レベルも一、スキルゼロ。職業は変わらず死神。

 死神はレアな職業で、転職するにはレベル四十以上という条件があったハズだが?

 更に疑問が生まれる。確かにここはカトレアだが、このゲームのリアルさは何だ?

 いくらリアルを追求したゲームとはいえ、ここまでの世界観を作れるものなのか?

 体感で感じる空気や暖かさ、土を踏む感触。

 ここはエクストラステージの可能性もある。

 しかし今それを考えてもしょうがない。

 金銭はいくらかあるし、まずはカトレアの武具店で武具を入手しなければ。

 そう思って店に入る。そしたら馴染みの親父さんがいて……あれ、この人老けたな。

「あんたは……出てってくれ」

 親父さんの第一声がそれだった。

「ハッ!?」

 何で?

「いいから出てってくれ」

 仕方なく店から出ると、親父さんが大声で叫ぶ。

「みんなー、出てきてくれ。奴が、奴が帰ってきやがった」

 え!!何の話?

 すると村人たちが、俺を取り囲むように集まった。

「何しにきやがった」

「また私たちを苦しめるつもりね」

「お前さえいなければ……俺の娘は」

「○してやる」

 ○してやるって怖いなオイっ。

 俺が何をしたというんだ?

「まあまあ、落ち着きなさい」

 村人たちの視線は一ヶ所に集まった。

「村長」

「勇者様もお疲れのようですし、一度私の家でお休みしていただきましょう」

「しかし……」

「私に任せなさい」

「あ……わかりました」

 そうして連れこられたのは、村の中でも少し大きな住宅。

「お入りください」

「はい、ありがとうございます」

「この部屋をどうぞお使いくださいませ」

「わかりました」

「私は夕飯の支度を致しますね」

 そういって村長は離れていった。

 簡素なベッドに横になり考える。

 これからどうしようかな?

 だけど、どうして俺は嫌われているんだ?

 心当たりがないんだけどな。

 数十分ほどで料理ができたようで、村長が部屋をノックする。

「料理ができましたよ」

「あ、はい。ありがとうございます」

 簡素な部屋の椅子に案内されて座る。

 出された料理は、薄い塩味の肉の入った湯だった。

 何の肉だろう?

「あの、どうして俺は村人から嫌われているのですか?」

「どうしてとは?」

「だって、俺は何もしてないじゃないですか?」

「あれだけのことをしておきながら」

「一体何の話をしているんですか?」

「やれやれ、どうやら本当にわからないようですね」

「だって、俺は魔王を倒した英雄だろ?」

 村長はタメ息を吐いた。

「貴方が十年前、レベル上げと称して、村周辺のラビットウルフを絶滅させてしまったじゃないですか?」

 十年前?確かにラビットウルフを、数え切れないくらい殺したことはあるけど。

「でもあれは魔物だし、ゲーム内でいくら殺してもリポップするはずでしょ?」

「ゲーム……ゲームですって!カトレアの数少ない食料源である、ラビットウルフが絶滅したら、この村がどうなるかがわからないのですか?」

 だって、ここはゲーム内でしょ?

 あれ?体が痺れる。

「やっと薬が効いたようですね」

 俺は椅子から転げ落ちて、激しく体を打ち付ける。

「貴方が食べた肉は、飢餓で死んだ私の孫娘ですよ」

 激しく吐き気を催す。

「ウオェェェっ」

 体が痺れながらも、吐瀉物を吐く。

 俺は、服を脱がされて縛り付けられる。そして何度も棍棒のようなもので、村人数人に殴り付けられた。

「ごめんなさい、ごめんなさい。許してください」

 痛い、何で俺がこんな目に。

「妻が死んだ俺の気持ちがわかるか?」

「息子を返せ」

 この世界はなんなんだ?

 俺はここで死ぬのか?
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