所詮、顔面至上主義の世界ですから

芹澤紗凪

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8.変化

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楽団が次の曲を奏で始め、カナリアは優雅に退場した。
その背を、無数の視線が追う。羨望、驚愕、憧憬――それらが渦を巻いて、まるで風のように彼女を包み込んでいた。

「……あれが本当に、カナリア様……?」
「ロウフェン家の“忘れられた令嬢”だったはずよ……!」
「まるで別人じゃない……!」

さざ波のような噂が広がっていく。
その輪の中に、ロウフェン侯爵夫妻もいた。

「一体ここへはどうやって…いや、それより、まさか……あれが、我が娘とは……」

侯爵夫人は扇子を持つ手をわずかに震わせ、夫へと囁いた。
「随分……カナリアは変わったのね。あんなに美しかったなんて…。もしかしたら、あのリリアより――」

「……ふむ。王太子殿下が自ら誘うとはな」
侯爵は唇を引き結び、ちらりと周囲の貴族たちの視線を確認した。

――王家に見初められるかもしれない。
その一点が、彼の思考のすべてを塗り潰した。

「リリア」
呼びかけに、リリアがはっと顔を上げる。
「な、なんでしょうお父様……」

「カナリアのそばへ行ってきなさい。カナリアが殿下のお気に召したようだ。リリアまで接点ができれば万々歳だ。」

「……え……?」

母も微笑んで頷く。
「そうよ、リリア。あなた、妹として、姉を支えてあげなさい。数週間見ないうちにまさかこんなに綺麗になっていたなんて……嬉しい誤算だわ。ねぇ、殿下と仲良くできれば――」

それは、ほんの数週間前まで「地味で厄介な娘」として扱っていた態度とはまるで別人のようだった。
リリアはその変わりように、心のどこかでぞっとするものを感じた。

(……どうしてみんな、そんな簡単に……)

両親はすでに――“王家との繋がり”を夢見て笑っていた。



人々の喧噪の中、カナリアは微笑を絶やさず、丁寧に挨拶をして回る。
その一つ一つの所作に、まるで計算されたような優雅さが宿っていた。

内心では、わずかに苦笑していた。
(――結局、間違ってなかったわね。この世界の人たちも権力と外見にしか興味がない)

背後で聞こえる両親の声が、遠い雑音のように響く。
「カナリア! まさか王太子殿下にお誘いを受けるなんて! 本当に、誇らしいことだわ!」

「よくやった、カナリア。これを機に、また家の名を……」

(……勝手なものね)

けれど、カナリアの唇には、穏やかな笑みが浮かんだままだった。
彼女は軽く一礼し、ゆっくりと身を翻す。

遠くで、王太子が再びこちらを見ていた。
その視線は、確かにカナリアという名を刻みつけていた。
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