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舞い上がるのは誰
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「あー…あぁ、うん…。
さて、ここに連れてこられた理由はわかっておるな?」
――流したぁぁぁぁぁ!
国王は女性たちと、その見かけについて触れることなく対話することにしたらしい。普通に始めようとしている国王と、高笑いするミシェルを交互に見比べた参列者は信じられないと凝視した。
その視線を受けた国王は、「触れるな、触れるんじゃない。コレをどう扱っていいのかわからんのだ…。」という思いを必死に隠した。
「ち、父上…。この姿…」
「生憎と、今は父としてここにいるわけではない。国を統べるものとしてここにいる。
して、どうだ。貴様らが先日やらかしたこと、何か考えることはあったか?」
何が何でも女装について触れたくないらしい。女装の解除が認められないことを悟った彼らはまたもその目に涙を浮かべる。
見かけだけは美女であるため、瞳にうっすらと涙の膜を張り、少し俯いて儚げな雰囲気が醸し出されれば、男だと分かってはいてもくらっとくる者はいるもので、ひっそりと「うっ…」と言う呻き声が聞こえた。それでも国王は何が何でもこの状況に触れたくなかった。
「…泣いておってもわからん。さあ。貴様らの今の心境を話すがよい。」
「…正直、なんと言えばいいのかわかりません…。ただ、シエナ嬢を王族の妻として迎えようとしたことは、明らかに間違いだったということははっきりと言えます。」
「ん゛ん゛ーっ!?」
「私は…クリスティーナ嬢があんなに苦労をしていたとは思いもしませんでした。貴族の令嬢の大変さも…。殿下に近づくものをしっかりと見極め、時にはお諫めしなくてはなりませんでした。
私は自分が何もできないことがよくわかりました…。」
「俺…いえ、私は、殿下の剣として研鑽を積まなくてはならなかったのに怠っていました。クリスティーナ嬢が日々積み重ねていたことを知って、自分が恥ずかしくなりました。」
「僕は、クリスティーナ嬢がシエナを虐めていると言われたことを何も考えずに鵜呑みにしました。毎日あんなに大変なことを繰り返しやっているあの方が、そんな下らないことをするわけがなかったと…自分の甘さを思い知りました。」
「ん゛ーっ!ん゛ん゛ん゛っ!!」
「そうか。多少進歩したということは理解した。
…クリスティーナ嬢が本気を出すとこうも変化するとは恐ろしいのう…。」
いまだ猿轡を外してもらえないシエナは女装子たちの間で暴れていたが、これに触れても話は進まぬと、国王はまたも流していた。流されたことにシエナは愕然として、目をかっぴらいて国王を凝視している。
「して、クリスティーナ嬢。こやつらに何か言っておきたいことがあるか?この場で何を言っても不敬に問うことはない。もともと儂が発端でもある。甘んじて受け入れよう。」
「ありがとうございます。
…そうですわね。言ってやりたいことはあの夜会の日にすべて言ったと言えばそうなのですが…。
お聞きしたいことが二つほど。」
「ん゛ん゛ん゛っ!!」
「ふむ。続けよ。」
「ひとつは、淑女教育、楽しかったですか?」
「ん゛っん゛ーん゛っ!!」
「楽しいわけないだろう!?あんなの出来るわけない!」
「あら。なんて下品な御令嬢だこと。
淑女教育が足りなかったかしら?あと感情をそんなに剥き出しにするなんて…王妃教育もやり直さないとだめね?」
クリスティーナはニッコリと嗤う。その手には何処から取り出したのか、ハンナ愛用の鞭がある。屋敷を出る際にハンナに無言で差し出されたものだ。
彼らは少し前のめりになっていた姿勢を慌てて正し、己の言葉を言い換える。
「申し訳ありません。思わず…。
非常に良い経験をさせて頂いたと思っておりますが、なかなかに習得は難しゅうございました。」
「そうですわねえ。
それに…楽しくないことを毎日続けるのは大変でしたでしょう?」
「ん゛ーっん゛ん゛っ!!」
ぴしりと音が響く。ハンナと同じソレに、五人がびくりと体を揺らす。
「シエナさん、煩いわ。いい加減お黙りになって?
貴女はいつまで経ってもひよっこのままね。
甘えん坊や、出来の悪い子は可愛いと言われているけれど、鵜呑みにしてはいけないわ。忘れてはいけないのは、そう思ってくれるのは親だけと言うことよ。それでも度が過ぎれば、厭われるだけ。
もっと言えば、赤の他人からしたら鬱陶しいの。それも成人しても己の言動を振り返れないなんて、みっともないわ。甘えるのは家族だけにしてちょうだい。
…もっとも…」
ちらりとシエナの父と姉を見れば、そこにある感情は良いモノではない事は明らかだ。
「もう、ご家族の一員として見てもらえることは、無さそうね。」
自身の家族がきている事にも気がついていなかったのだろう。クリスティーナの視線の先を見て、その人たちの顔を見て、自分が家族から完全に見放されたことにようやく気づいたらしい。顔を真っ赤にして俯いたのは怒りか、羞恥か…。そのどちらでも自分には関係ないとクリスティーナは無視する事にしたが、ふと思い出した。
「ああ…そうだわ。ご存知ないでしょうから教えて差し上げますが、貴女のお母様、離縁されて行方知れずだそうよ?お母様はもともと見放されていたようだけれど、追い出される引き金を引いてしまったのは貴女。貴女は誰かを幸せになんて、できないのね。
いえ、違うわね。貴女は、貴女だけが幸せなら、親兄弟も、他人も、どうなろうと構わないのよね?最初から誰かを幸せにする気など無い、それがシエナ・ドミナントと言う女性だった、それだけね。
ーーその本性に気づかず、まんまと騙されたお馬鹿さんたちは、皆に甘やかされ過ぎたのね。可哀想に。誰も、教えてくれなかったのだもの。子どもの頃に気づきの種を撒かれなければ、気付くための土台もできないのだから。」
憐みの視線をシエナの側に立つ四人に向ければ、羞恥で俯いた。
周囲に目をやれば、彼らの幼少期に教師だった者たちや、側付きだった者たちの顔が見えた。彼らは気づいただろうか。自分たちもまた何も成すことができなかった事に。
「まあ、いい歳になって、周りを見れば気づきそうなものなのに気づけないあたり、うつけであることには変わりないわね。
…結局のところ、誰しもが自分が幸せなら良いのよね。シエナさんはその傾向が強すぎた。あなた達もまた彼女と同じ人種なのよね。
--私は…三歳から淑女教育を始めて、五歳からは王妃教育が始まりました。苦しかったわ。毎日遊び呆けるあなた達が疎ましかった。あなた達の落ち度を私に押し付ける教師や側付きが本当に嫌いだった。
それを見て見ぬ振りをした国王には失望したわ。」
槍玉に上がった人物は顔を真っ赤にして俯く。唯一国王だけは顔を背けることなくクリスティーナの顔をじっと見て、頭を下げた。
「…あなた方は鞭を振るわれたのが成人していらしてからで良かったですわね?ハンナは厳しいけれど優しいから理不尽はなかったでしょう?」
静かにうなずく四人に笑いかけて、宣言しておく事にした。
「まあ、私は必ず幸せになるからいいわ。テオドール様のことも必ず幸せにするつもりですの。」
そう言うと、愛しい婚約者の顔をみる。
笑顔を向けられ、自分もまた笑い返す。それだけでも幸せなのだ。
「ところで女装、本当によくお似合いですわ。それを職業になさる気はおあり?」
思ってもみなかったであろう質問に全員の目がコレでもかと大きくかっぴらいて首をぶんぶん勢いよく横に振られた。
「あら、残念だわ。」
さて、ここに連れてこられた理由はわかっておるな?」
――流したぁぁぁぁぁ!
国王は女性たちと、その見かけについて触れることなく対話することにしたらしい。普通に始めようとしている国王と、高笑いするミシェルを交互に見比べた参列者は信じられないと凝視した。
その視線を受けた国王は、「触れるな、触れるんじゃない。コレをどう扱っていいのかわからんのだ…。」という思いを必死に隠した。
「ち、父上…。この姿…」
「生憎と、今は父としてここにいるわけではない。国を統べるものとしてここにいる。
して、どうだ。貴様らが先日やらかしたこと、何か考えることはあったか?」
何が何でも女装について触れたくないらしい。女装の解除が認められないことを悟った彼らはまたもその目に涙を浮かべる。
見かけだけは美女であるため、瞳にうっすらと涙の膜を張り、少し俯いて儚げな雰囲気が醸し出されれば、男だと分かってはいてもくらっとくる者はいるもので、ひっそりと「うっ…」と言う呻き声が聞こえた。それでも国王は何が何でもこの状況に触れたくなかった。
「…泣いておってもわからん。さあ。貴様らの今の心境を話すがよい。」
「…正直、なんと言えばいいのかわかりません…。ただ、シエナ嬢を王族の妻として迎えようとしたことは、明らかに間違いだったということははっきりと言えます。」
「ん゛ん゛ーっ!?」
「私は…クリスティーナ嬢があんなに苦労をしていたとは思いもしませんでした。貴族の令嬢の大変さも…。殿下に近づくものをしっかりと見極め、時にはお諫めしなくてはなりませんでした。
私は自分が何もできないことがよくわかりました…。」
「俺…いえ、私は、殿下の剣として研鑽を積まなくてはならなかったのに怠っていました。クリスティーナ嬢が日々積み重ねていたことを知って、自分が恥ずかしくなりました。」
「僕は、クリスティーナ嬢がシエナを虐めていると言われたことを何も考えずに鵜呑みにしました。毎日あんなに大変なことを繰り返しやっているあの方が、そんな下らないことをするわけがなかったと…自分の甘さを思い知りました。」
「ん゛ーっ!ん゛ん゛ん゛っ!!」
「そうか。多少進歩したということは理解した。
…クリスティーナ嬢が本気を出すとこうも変化するとは恐ろしいのう…。」
いまだ猿轡を外してもらえないシエナは女装子たちの間で暴れていたが、これに触れても話は進まぬと、国王はまたも流していた。流されたことにシエナは愕然として、目をかっぴらいて国王を凝視している。
「して、クリスティーナ嬢。こやつらに何か言っておきたいことがあるか?この場で何を言っても不敬に問うことはない。もともと儂が発端でもある。甘んじて受け入れよう。」
「ありがとうございます。
…そうですわね。言ってやりたいことはあの夜会の日にすべて言ったと言えばそうなのですが…。
お聞きしたいことが二つほど。」
「ん゛ん゛ん゛っ!!」
「ふむ。続けよ。」
「ひとつは、淑女教育、楽しかったですか?」
「ん゛っん゛ーん゛っ!!」
「楽しいわけないだろう!?あんなの出来るわけない!」
「あら。なんて下品な御令嬢だこと。
淑女教育が足りなかったかしら?あと感情をそんなに剥き出しにするなんて…王妃教育もやり直さないとだめね?」
クリスティーナはニッコリと嗤う。その手には何処から取り出したのか、ハンナ愛用の鞭がある。屋敷を出る際にハンナに無言で差し出されたものだ。
彼らは少し前のめりになっていた姿勢を慌てて正し、己の言葉を言い換える。
「申し訳ありません。思わず…。
非常に良い経験をさせて頂いたと思っておりますが、なかなかに習得は難しゅうございました。」
「そうですわねえ。
それに…楽しくないことを毎日続けるのは大変でしたでしょう?」
「ん゛ーっん゛ん゛っ!!」
ぴしりと音が響く。ハンナと同じソレに、五人がびくりと体を揺らす。
「シエナさん、煩いわ。いい加減お黙りになって?
貴女はいつまで経ってもひよっこのままね。
甘えん坊や、出来の悪い子は可愛いと言われているけれど、鵜呑みにしてはいけないわ。忘れてはいけないのは、そう思ってくれるのは親だけと言うことよ。それでも度が過ぎれば、厭われるだけ。
もっと言えば、赤の他人からしたら鬱陶しいの。それも成人しても己の言動を振り返れないなんて、みっともないわ。甘えるのは家族だけにしてちょうだい。
…もっとも…」
ちらりとシエナの父と姉を見れば、そこにある感情は良いモノではない事は明らかだ。
「もう、ご家族の一員として見てもらえることは、無さそうね。」
自身の家族がきている事にも気がついていなかったのだろう。クリスティーナの視線の先を見て、その人たちの顔を見て、自分が家族から完全に見放されたことにようやく気づいたらしい。顔を真っ赤にして俯いたのは怒りか、羞恥か…。そのどちらでも自分には関係ないとクリスティーナは無視する事にしたが、ふと思い出した。
「ああ…そうだわ。ご存知ないでしょうから教えて差し上げますが、貴女のお母様、離縁されて行方知れずだそうよ?お母様はもともと見放されていたようだけれど、追い出される引き金を引いてしまったのは貴女。貴女は誰かを幸せになんて、できないのね。
いえ、違うわね。貴女は、貴女だけが幸せなら、親兄弟も、他人も、どうなろうと構わないのよね?最初から誰かを幸せにする気など無い、それがシエナ・ドミナントと言う女性だった、それだけね。
ーーその本性に気づかず、まんまと騙されたお馬鹿さんたちは、皆に甘やかされ過ぎたのね。可哀想に。誰も、教えてくれなかったのだもの。子どもの頃に気づきの種を撒かれなければ、気付くための土台もできないのだから。」
憐みの視線をシエナの側に立つ四人に向ければ、羞恥で俯いた。
周囲に目をやれば、彼らの幼少期に教師だった者たちや、側付きだった者たちの顔が見えた。彼らは気づいただろうか。自分たちもまた何も成すことができなかった事に。
「まあ、いい歳になって、周りを見れば気づきそうなものなのに気づけないあたり、うつけであることには変わりないわね。
…結局のところ、誰しもが自分が幸せなら良いのよね。シエナさんはその傾向が強すぎた。あなた達もまた彼女と同じ人種なのよね。
--私は…三歳から淑女教育を始めて、五歳からは王妃教育が始まりました。苦しかったわ。毎日遊び呆けるあなた達が疎ましかった。あなた達の落ち度を私に押し付ける教師や側付きが本当に嫌いだった。
それを見て見ぬ振りをした国王には失望したわ。」
槍玉に上がった人物は顔を真っ赤にして俯く。唯一国王だけは顔を背けることなくクリスティーナの顔をじっと見て、頭を下げた。
「…あなた方は鞭を振るわれたのが成人していらしてからで良かったですわね?ハンナは厳しいけれど優しいから理不尽はなかったでしょう?」
静かにうなずく四人に笑いかけて、宣言しておく事にした。
「まあ、私は必ず幸せになるからいいわ。テオドール様のことも必ず幸せにするつもりですの。」
そう言うと、愛しい婚約者の顔をみる。
笑顔を向けられ、自分もまた笑い返す。それだけでも幸せなのだ。
「ところで女装、本当によくお似合いですわ。それを職業になさる気はおあり?」
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