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本編

07.温泉

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突然、空から大型の鳥が泉に落っこちた。
「父さん!?」
近くに居たエルフが泉に飛び込んだので派手な水渋きがかかる。
リリファルシアンさんはあらあらまぁまぁと口元に手を当てている。
「誤解のないように言っておきますと私と紫水シスイ夫婦めおとではありません」
落ちた鳥を追って泉に飛び込んだスイさんを追ってリリファさんがゆっくり泳いでいく。
スイさんが持ち上げたのは白い羽根の生えた黄土色の髪の男の人だった。気絶しているみたい。
リリファさんは黄土色の髪の人を見てコメントした。
「私を呼ばないで泉に落ちるなんて危険極まりない。裏側に落ちなくて良かったです。
……おやこれは随分と危篤ですね」
「どうしてこんなに穢れているんだ。魔王が心を乱したか」
スイさんは焦った口調でリリファさんに話しかけている。
「いいえ、クロウはそういう子ではなかった筈です。
ルース…… 紫水シスイが不用意に近付いたんでしょう。
目覚めたら話を聞かなければ」
リリファルシアンさんに促されスイさんが手を放すとシスイさんが泉に浮いた。
あれ、死んでないのかな……
「目を覚ますまでこのままで良いでしょう。
まぁどういう事情であれ紫水シスイがこちらに来たのは収入です。
彼が居れば貴方達のダンジョンが作りやすい」
ダンジョン?
「あのそれってどういうことでしょうか」
私がおそるおそる質問するとリリファさんが女神の微笑みを浮かべた。
「全てのダンジョンで紫水シスイに敵になって貰いましょう」

私たちは移動の疲れを癒すため温泉に入ることになった。
ちなみにエリオスさんはもう入っている。
「獣も男女も混浴ってどうなの?」
紅一点のミアンさんがつっこみを入れている。
「スイさんは耳が出てますよね」
やっぱりエルフ耳。さっき濡れたからだろう。
「ぼくは異形だからね。このぐらいで済んで良かった」
「僕泉入ったら溶けるんじゃないか?」
ヨウさんは温泉の縁を行ったり来たりしてる。
「私は入りたくないな」
ラズさんは眉間に皺を寄せている。
「服のまま入れるのよね。水のような、水じゃないような」
何の恐れもなく未暗さんが入る。
私も入らなくちゃ。
水につかると女の子に戻る訳だけどそんな漫画があったような。
ちゃぽーん、と水面に波紋が広がる。
温かさは覚えるけれど水圧を感じない。
「あぁこれは人間に戻りそうですね……」
水面に手だけ入れたラズさんの鎖が消えている。
スイさんが物珍しそうにラズさんに声をかけた。
紫水シスイ様の腕輪? 外れたんだ、それ」
「死神も遠のいている。嫌だな、戻れなくなりそうです」
ラズさんが頭からずるっと落ちたので慌ててミアンさんが駆け付ける。
黒髪の男の人が抱き上げられた。あれ?
「ラズ、髪の色戻ってるわよ」
「白髪は老化ですから」
「貴方私よりずっと若いのに。
それに重いわ。鎖はなくなったのに。
……背も伸びた?」
「私の血が呪われて居なければ、こんな姿だったんでしょうね」
ラズさんは水面に映った自分の姿を見て驚いている。
「うわ誰ですこのイケメン!!」
ラズさんはミアンさんから降りて距離をあける。
「ラズ?」
「この知らない男みたいな外見で未暗にくっつくの嫌ですね」
「あら、子供の頃とそんな変わらないじゃない」
「……」
あー、これは、幼馴染の初恋のお姉さんに大きくなってからも
相手にしてもらえない的な……
ふとスイさんの方をみると
「だいたい想像通りだと思うよ」と言われた。
このエルフ、心が読めるのかしら。
春華はるかちゃん、君は何歳なの?」
「十四です」
耳の出た翠さんに声をかけられた。
そう言えば元の姿に戻ってたな。
服はあのままだけど何故かスカートになってる。
浮力のない温泉だから平気だけど。
「そうか。
僕は子供時代がなかったから実はあまりわからないのだけれど、人間界では幼い子を巻き込むのは論外なんだろう。ごめんね」
「シスイさん、早く目覚めるといいですね」
「あの人もいつもあぁな訳ではないんだけど、魔王が絡むとね。
あ、そろそろ目覚めるな」
スイさんは温泉を出て行ってしまった。そう言えばヨウさんが居ない。
アオスジアゲハの青い部分を紫色にしたような蝶が何故か私の頭に止まった。

温泉から出たら、リリファルシアンさんとシスイさんがお茶を飲んでいた。
スイさんはお茶くみをしている。
「皆さんもどうぞ」
リリファルシアンさんに促され、私、ミアンさん、ラズさんも
丸テーブルの席につきお茶を飲む。いつの間にかヨウさんが帰ってきていた。
「で、そこの。
今は子供の姿をしているが、俺の身体だろう。
クロウをどうする気だ」
夢で見た時はレモンイエローの髪だった気がするが。
黄土色の髪になったシスイさんに話しかけられた。
「シスイさんはどうするつもりなんですか?」
「本当は説得するつもりだったが、終わる前に体力が尽きてしまった。
リリファの泉で休んだらまた戻る。
つまりお前達は邪魔だな」
「貴方のマイペースな説得に付き合っていたら国が滅びます」
ラズさんがつっこみをいれた。
「そこのがクロウを殺せるとは思わないけどな。
誘惑されれば気分が悪い。
俺の身体ならあいつも転ぶかもしれないし」
いやいや私は誘惑した覚えはありませんが。
「自分の手で救いたいのル…… 紫水シスイ
今にも形取りそうな殺気をみなぎらせヨウさんが聞く。
「殺すのも、生かすのも、救うのも。
クロウは俺のものだから」
「自分のものならちゃんと管理して下さい!
人に迷惑かけない!」
手枷と白髪が戻りつつあるラズさんが立ち上がって怒る。
「お前も俺の玩具だろう。
逆らうのか」
紫水シスイ様、ラズをからかってると話が進みません」
スイさんがシスイさんの後ろに立ち耳打ちをした。
「ですから、紫水と皆さんに提案です。
これから私が泉の中にダンジョンを張りますから、紫水はダンジョンでラスボスをお願いいたします。
紫水は皆さんを倒しクロウ様を救う機会が出来、皆さんは人類をかえりみない紫水を倒す機会が出来ます。泉内はボス戦以外はシュミレーションシステムを取ってありますからある程度命の保証はありますし、抗魔力向上用や戦闘能力向上用の優れたシステムが」
リリファルシアンさんが熱弁すると、紫水さんが口をはさんだ。
「私には協力する理由はあまりないのだけどねぇ。
まぁリリファルシアンが思い描いていることはいくらか想像がつくから、子供達のために協力してもいいかな」
「そうでしょう、そうでしょう。
泉は精神に作用しますからトラウマ抉ったりすることもありますが頑張りましょうね」
あれ今リリファルシアンさん
さらっとひどいこと言わなかったか。
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