人魚はたゆたう

つづみゆずる

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それから数年、両親は物静かになった子供に目もくれず、仕事に明け暮れた。お決まりの様に、母はラップのかかった夕食におかえりなさいのメモを残していたが、父とは会話どころか顔を合わせる事すらほとんどなかった。

姉に身を捧げたはずが生き残ってしまった私が疎ましいのだろう。

学校でも家でも、暗い私ははみ出しモノで。いつも本を読んでいた。姉も年頃になると、妹より友達がいいのだろう、友達との外出ばかり増えていった。何かしら買ってきてくれた可愛いデザインの小物たちは、少しの安寧をもたらしてくれたが、姉から友達の話を聞かされると、すぐに虚しさに変わった。
何かを探す様に本を読み漁り、時間を埋めたが、虚しさは埋まらなかった。
詰まった本棚から一冊抜き取ると、できた本と本の隙間を見つめる。私には暗い、暗い淵の様に思えた。
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