赤い池

ナカムラ

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赤い池

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 ある所へ私は、旅行に出かけた。
今まで様々な所に旅行に行ってきた。
どれもこれも大変だったが楽しい思い出だ。

 電車を乗り継ぎ、小さな駅に着いた。
とても、空気が清々しい。
都会からきた私にとって、それだけで来た甲斐があったと思えた。

 私は、更にバスを乗り継ぎその県で有名な観光地になっている池に向かった。

 あるバスの中でおばあさんに話しかけられた。
「お嬢さん、あの池に行くのかのう」
私は、微笑みながら、応えた。
「ええ、有名な池ですので、是非、行ってみたくて」

 おばあさんは、何故か暗い表情をして言った。
「そうか。そうか……。でもな、地元民は、あそこには、近づきもしないのじゃがな」
私は、訝しく思いながら言った。
「なぜですか?」

 おばあさんは、私の声が聞こえていないような感じで慌ててバスを降りた。

 ー何だったんだろうー

 私は、首を傾げた。

 バスから降りると、森の中をしばらく歩いた。
長い距離を歩いてきた私は、背中をグーンと伸ばし、深呼吸をした。
疲れたが、森の中のマイナスイオンを浴びながら、心地よい疲れだった。

 赤い池は、実際に見ると、写真で見た時よりも更に赤く池が染まっているように思えた。
何度も何度も朱色を重ねた様な色だった。

 この池には、藻がびっしり生えていて、その影響で赤く見えると何かで読んだことがあった。
空は、青々と晴れていて、赤い池とのコントラストが本当に美しい。
ここまで来て良かったとつくづく思っていると、周りを見渡すと、結構、多くの人がその地を訪れていた。
この景色ならばと合点がいく。

 もう少し、池に近づいてみようと足を一歩出してみた。

 その時だった。

 至る所から、悲鳴が聞こえる。
「ギャー!」
「ギャー!」
「ギャー!」
「ギャー!」
 
 私は、また首を傾げた。
誰か溺れたかなにかだろうと思うのだが、それにしても、悲鳴が短い。
何故だろうか。

 そう思っていると、後ろからミシミシと音が聴こえてきて、近づくにつれ、その音は、ゴロゴロという音に変わっていった。

 私は、振り向かなくても、大きな石が下に堕ちていく音だとすぐに予想できた。
その場から、すぐに逃げようとした。


「ギャー!」


 その頃、先程の老婆が、近所の老婆と話していた。
「今日も、あの池に行く若い観光客に出会ったよ。可哀想に……」
「仕方ないじゃろう。あの池に棲む竜神様への生け贄を与えないと竜神様の怒りから我々の村に災いが起こるのじゃから……。ここいらに住む者は、あの池には、行かないように代々伝えられてるし、血で染まる池を隠すために藻が生えていると嘘をついてきたからのう……」

「そうじゃのう……」
そう言いながら、老婆は、先程会った若い観光客に向かって手を合わした。



        了
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みんなの感想(1件)

小津万実(旧名・せいひつ)

なかなかに怖いオチですね。
面白かったです!

ナカムラ
2023.12.12 ナカムラ

ありがとうございます!
怖いてすよね!

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