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―― 僕は 英雄になれただろうか? ――
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僕の彼女は、頑張り屋さんだった。
眩しいほど強く、夜を照らすような人だった。
僕が道を間違えそうになると、君は笑って僕を支えてくれた。
光ることを忘れた彼女を
どうしても 受け入れられない。
左手に隠した願いは 空のままで
君の知らない世界を さまよっていた。
いつか心が消えていくなら
せめて 怒りのかぎり 呪うように歌おう。
守りたいものを守れるなら
すべてを受け入れて 明日みらいを殺そう――。
愛していた。
守ることさえできなかった悲しみを 願いの残像を
過ぎ行く時の中で 何度もつかみ取ろうとした。
僕の過ちを止めてくれる彼女は、
もう、ここにはいない。
願いのカケラよ。一度だけなら 叶えてくれるだろうか?
暗い部屋の中。
僕は 右手に持った包丁を――ためらうことなく、心臓に突き刺した――。
* * *
インターネットの闇サイトで知り合った男3人組が、女性Aを拉致・監禁のちに殺害した。
闇サイト「闇の派遣会社」で出合い、犯罪によって金を得る目的で共謀。
帰宅途中だった会社員女性Aを拉致し、自動車内に監禁。
「お願いします、殺さないで、死にたくない」などと必死で命乞いをした。
屋外駐車場で、被害者Aを脅迫してキャッシュカードの暗証番号を聞き出し、金品を奪ったほか、Aの顔面に粘着テープを何重にも巻きつけたり、金槌で数十回にわたり頭部を殴打するなどして殺害。
その後、3人はAの死体を山中に遺棄し、奪ったキャッシュカードで預金の引き出しを図ったが、Aが生前に教えた暗証番号は虚偽だったため、引き出しには失敗。3人はさらなる犯罪を計画していたが、加害者の1人が解散後に自首したことで事件が発覚した。
本事件は、インターネット上の掲示板を通じて集まった加害者らが利欲目的で、初めて顔を合わせてからわずか数日後に、それまで面識のない帰宅途中のごく普通の女性会社員を拉致・監禁し、惨殺した事件として、大きく報道された。
僕は 今朝方になっても帰らぬ彼女を 心配していた。
どうしても、この報道が他人事に思えなかったからだ。
予感は、みごとに的中してしまった。
「いつか結婚しようね」
そう言った彼女の顔が 鮮明に浮かんでは 消えていった。
彼らの判決には、5年という月日が必要だった。
彼らは初犯であり、逮捕歴がなかったために減刑が言い渡された。
このことに納得がいかず、僕は多くの署名を集めて裁判官に訴えつづけた。
彼女の亡骸は、つめたい墓石の下に眠る。
死んだ者よりも、生きている者を守るのが裁判官の役目なら
僕は 喜んで‐殺人者‐になるだろう。
事件当日。彼女の誕生日プレゼントに渡すはずだった『クマのぬいぐるみ』が、とても重くなった。ヒビ割れた現実に、置き去りにされた物。「子どもじゃない」と拒まれても渡そうと決めていたのに……。
彼女は キャッシュカードの暗証番号にこう答えていたという。
「1371」
彼女は伝えたかったのだろう。犯罪なんて、意味がないという事を――。
「生きたい」という懇願を無視し、頭部を金槌で何十回も殴打し、
彼女を殺害した犯人らを 許せる わけがない。
心を ぜんぶ 焼き尽くすような 黒い衝動が、僕を突き動かした。
犯人らを呪い殺す方法があると聞けば、どこへだって行った。
わずかな可能性に すがる おもいで。
中東アジアの秘境だろうと、アフリカの未開の地であろうとも。
探して、 探して、 探しつくした。
* * *
―――それは、ある古書店で巡り合った。
『時間を遡る方法』
この本に書かれた事が、もし本当に可能なら――
君が 泣いた夜に
僕は 戻れるかも知れない
『皆既月食』の夜に、僕は儀式を実行に移した。
供物をささげよう。僕の すり切れた命で かまわないなら。
彼女へ 渡すはずだった『クマのぬいぐるみ』をそっと撫でて、
手に持った包丁を――ためらうことなく、心臓に突き刺した――。
もどれ! もどれ!
意識がなくなるまで、呪文のように繰りかえす。
けれど、
本当に戻れる 保証なんて どこにもない。
だけど、
悲しい世界に 居場所もない。
* * *
気が付けば、僕の魂は『クマのぬいぐるみ』へと宿っていた。
お腹には、血の付いた包丁が刺さっている。
床には、僕の体が血を流して横たわっていた。
カレンダーを見れば、事件の夜に違いない。
凍てつく空を駆けて、犯行現場へと急いだ。
夜を照らす光を求めて
失くした 美しい月を求めて
こぼれ落ちる 彼女の命を 掴みとるため――。
* * *
男が、彼女の顔面および頭部に粘着テープを数十回横方向に巻きつけ、
その上から さらに縦方向に貼り付けていた。
僕は、腹から包丁をひき抜き
犯人の 眼玉を めがけて突っ込んだ。
空を飛ぶ「ぬいぐるみ」が襲ってきて、男らは混乱しただろう。
逃げるように現場から去ろうと犯人らの心臓を目がけて突き刺した。
彼らは、かならず 犯行を繰り返すだろう。
「愛」は誰もが持っていて、
誰しもが 誰かに与える 黄金の輝き を放つだろう。
でも、それは『免罪符』に成りえるだろか。
だから、僕が正義の旗をかかげよう。
これを愚かと言えるだろうか?
ひとり刺し、ふたり目。さんにん目を刺し殺す。
動かなくなるまで見届けると、彼女のもとへ行く。
2度と 発せない声を 届けに。
(助けにきたよ もう大丈夫…
だから、安心していいよ)
怯える彼女の拘束を解き、僕はゆっくりと死んでゆく。
―― 僕は 英雄になれただろうか? ――
* fin
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
眩しいほど強く、夜を照らすような人だった。
僕が道を間違えそうになると、君は笑って僕を支えてくれた。
光ることを忘れた彼女を
どうしても 受け入れられない。
左手に隠した願いは 空のままで
君の知らない世界を さまよっていた。
いつか心が消えていくなら
せめて 怒りのかぎり 呪うように歌おう。
守りたいものを守れるなら
すべてを受け入れて 明日みらいを殺そう――。
愛していた。
守ることさえできなかった悲しみを 願いの残像を
過ぎ行く時の中で 何度もつかみ取ろうとした。
僕の過ちを止めてくれる彼女は、
もう、ここにはいない。
願いのカケラよ。一度だけなら 叶えてくれるだろうか?
暗い部屋の中。
僕は 右手に持った包丁を――ためらうことなく、心臓に突き刺した――。
* * *
インターネットの闇サイトで知り合った男3人組が、女性Aを拉致・監禁のちに殺害した。
闇サイト「闇の派遣会社」で出合い、犯罪によって金を得る目的で共謀。
帰宅途中だった会社員女性Aを拉致し、自動車内に監禁。
「お願いします、殺さないで、死にたくない」などと必死で命乞いをした。
屋外駐車場で、被害者Aを脅迫してキャッシュカードの暗証番号を聞き出し、金品を奪ったほか、Aの顔面に粘着テープを何重にも巻きつけたり、金槌で数十回にわたり頭部を殴打するなどして殺害。
その後、3人はAの死体を山中に遺棄し、奪ったキャッシュカードで預金の引き出しを図ったが、Aが生前に教えた暗証番号は虚偽だったため、引き出しには失敗。3人はさらなる犯罪を計画していたが、加害者の1人が解散後に自首したことで事件が発覚した。
本事件は、インターネット上の掲示板を通じて集まった加害者らが利欲目的で、初めて顔を合わせてからわずか数日後に、それまで面識のない帰宅途中のごく普通の女性会社員を拉致・監禁し、惨殺した事件として、大きく報道された。
僕は 今朝方になっても帰らぬ彼女を 心配していた。
どうしても、この報道が他人事に思えなかったからだ。
予感は、みごとに的中してしまった。
「いつか結婚しようね」
そう言った彼女の顔が 鮮明に浮かんでは 消えていった。
彼らの判決には、5年という月日が必要だった。
彼らは初犯であり、逮捕歴がなかったために減刑が言い渡された。
このことに納得がいかず、僕は多くの署名を集めて裁判官に訴えつづけた。
彼女の亡骸は、つめたい墓石の下に眠る。
死んだ者よりも、生きている者を守るのが裁判官の役目なら
僕は 喜んで‐殺人者‐になるだろう。
事件当日。彼女の誕生日プレゼントに渡すはずだった『クマのぬいぐるみ』が、とても重くなった。ヒビ割れた現実に、置き去りにされた物。「子どもじゃない」と拒まれても渡そうと決めていたのに……。
彼女は キャッシュカードの暗証番号にこう答えていたという。
「1371」
彼女は伝えたかったのだろう。犯罪なんて、意味がないという事を――。
「生きたい」という懇願を無視し、頭部を金槌で何十回も殴打し、
彼女を殺害した犯人らを 許せる わけがない。
心を ぜんぶ 焼き尽くすような 黒い衝動が、僕を突き動かした。
犯人らを呪い殺す方法があると聞けば、どこへだって行った。
わずかな可能性に すがる おもいで。
中東アジアの秘境だろうと、アフリカの未開の地であろうとも。
探して、 探して、 探しつくした。
* * *
―――それは、ある古書店で巡り合った。
『時間を遡る方法』
この本に書かれた事が、もし本当に可能なら――
君が 泣いた夜に
僕は 戻れるかも知れない
『皆既月食』の夜に、僕は儀式を実行に移した。
供物をささげよう。僕の すり切れた命で かまわないなら。
彼女へ 渡すはずだった『クマのぬいぐるみ』をそっと撫でて、
手に持った包丁を――ためらうことなく、心臓に突き刺した――。
もどれ! もどれ!
意識がなくなるまで、呪文のように繰りかえす。
けれど、
本当に戻れる 保証なんて どこにもない。
だけど、
悲しい世界に 居場所もない。
* * *
気が付けば、僕の魂は『クマのぬいぐるみ』へと宿っていた。
お腹には、血の付いた包丁が刺さっている。
床には、僕の体が血を流して横たわっていた。
カレンダーを見れば、事件の夜に違いない。
凍てつく空を駆けて、犯行現場へと急いだ。
夜を照らす光を求めて
失くした 美しい月を求めて
こぼれ落ちる 彼女の命を 掴みとるため――。
* * *
男が、彼女の顔面および頭部に粘着テープを数十回横方向に巻きつけ、
その上から さらに縦方向に貼り付けていた。
僕は、腹から包丁をひき抜き
犯人の 眼玉を めがけて突っ込んだ。
空を飛ぶ「ぬいぐるみ」が襲ってきて、男らは混乱しただろう。
逃げるように現場から去ろうと犯人らの心臓を目がけて突き刺した。
彼らは、かならず 犯行を繰り返すだろう。
「愛」は誰もが持っていて、
誰しもが 誰かに与える 黄金の輝き を放つだろう。
でも、それは『免罪符』に成りえるだろか。
だから、僕が正義の旗をかかげよう。
これを愚かと言えるだろうか?
ひとり刺し、ふたり目。さんにん目を刺し殺す。
動かなくなるまで見届けると、彼女のもとへ行く。
2度と 発せない声を 届けに。
(助けにきたよ もう大丈夫…
だから、安心していいよ)
怯える彼女の拘束を解き、僕はゆっくりと死んでゆく。
―― 僕は 英雄になれただろうか? ――
* fin
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
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