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どれもこれも花は毒でしかない
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「だってあなたはflowerじゃないでしょう?一人でだって生きられるじゃないですか!この人がいないと死ぬわけでもないのにどうして?!」
その言葉を聞いた時、自分の顔が酷く醜く歪むのが分かった。
俺だって。俺だってflowerだったら、正々堂々性別すらも関係なくコイツの傍にいられたのに。何もかも投げうって喉から手が出て血反吐を撒き散らすほどコイツのことが好きだって、俺には何の特権も与えられていない。
気がついたら、口を突いて出ていた言葉。
「…死ぬほど好きだから、じゃ理由にならないんですか」
取り戻せない言葉は血と涙に塗れた本心。
「コイツのことが死にたくなるほど好きだから、一緒にいたかったんです」
死ねない俺が死んでもいいほど愛しているという事実は、運命の絆の前では何の効力もない。酷く気まずかった。今ここで俺だけが、部外者だ。
「でも、仕方ないです。俺はコイツの運命の相手じゃなかったんだから、どんなに好きになったって死ぬことすら出来ない。俺には…あなたが、ひどく羨ましい」
上手く笑えただろうか。どうして俺ってやつは、いつもいつでも叶わないものばかりを追いかけてしまうんだろう。今度ばかりはもう、嗤うしかない。運命の女神に袖にされた男の末路なんて天地開闢から無数に語られてきていて、少なくとも俺の判断が間違っていないことだけは確信できるから辛うじて救われている。自己肯定感と敗北感とが絶妙にブレンドされたモノトーンのマーブルをコーヒーカップの中でかき混ぜながら、これまでの日々を振り返る。
楽しかった。楽しかったんだよな。
幸せで溢れていた。
喧嘩もしたし、悩みもした、男同士で先なんてないんだって諦めようとしたことは何百回もあるけどそれでも手放せなかった。でも、
俺のこの気持ちと、誰かの生き死にを
天秤にかけるつもりはない。
たとえ死にそうに辛くても俺はきっと、死ねないから。
「…じゃあ、な」
幸せに、とは願えなかった。俺のいない場所で彼女でも誰でもいい、俺以外の誰かと幸せになるお前はどうしても見たくなかった。だから顔をあげることも出来なかったし、振り返るのは止めたし、触れることさえせずに背を向けた。
同棲、しなくてよかったな。
そんなどうでもいい感想しか浮かんでこない程に心は空っぽで、在り来たりの人生しか歩んでいなかった自分にこんなドラマみたいに劇的な出来事が訪れたりするんだなと他人事のように思っていた。
家までの道を歩いていたんだと思う。意識が拡散しすぎて定かではないけれど通い慣れたはずの道で今まで気づきもしなかった場所に花屋があるのが見えた。
途端に胃から吐き気が逆流して、慌てて道端に屈みこむ。花びら、だ。
美しく咲き誇る花たちが色とりどりに語りかけてくる。
”綺麗でしょ”
”こっちを見て”
”私だけを見て!”
声なき叫びが耳の奥でぐるぐると渦巻く。赤、白、ピンク、黄色、紫、青、何百もの色の変化、形の相違、それでも皆溢れんばかりの生命力でその煌めきを、美しさを、誇示している。
花の匂いに噎せ返る。吐き気が込み上げる。花、花、花、咲いて散ればみすぼらしく枯れるだけのお前たちが俺を狂わせる。
この日以来、俺の世界から一切の花の色が消えた。
【flower】ーー【owner】にwaterをしてもらうことで生きながらえる特殊な人間。身体のどこかに浮き出た花の模様がflowerの証となり、自分だけのパートナーとなるownerを見つけてparingすることで花が完成する。定期的に体液を交換するwaterをすることで、健やかな花を咲かせ、その花びらは効能の高い万能薬として高値で取り引きされる。
だからこそflowerは悪用されないように国家に保護され、身の安全を保障され、その稀有性から様々な特権が付与されている。花として生まれた不自由さと引き換えに、約束された生活を手に入れられるその旨味を手放す人間は少ない。
身柄を保護され、次代へと繋ぐためにその生活と生命の維持を保障されているflowerと同等にパートナーである【owner】にも付随した権利が与えられるため、互いの結び付きは固くなり容易には離れない。俗にいう利害関係の一致というヤツだ。
両者の関係に性別は影響しないため、同性同士の場合は体液の交換は間接的にしか行われない。例えば血液を直接皮膚に染み込ませる程度でも構わないが、量や頻度によって当然効果が長持ちする期間は変わってくる。
だが異性だった場合、一番容易なのは唾液の交換、即ちキスをすること。年齢や立場、好みにもよるだろうが、キスなんてしてしまえばもう後はなし崩しだ。身体の関係を持つことが何ら不思議ではない。即ち、恋人になって結婚する道筋が自然だということだ。その方が次代に遺伝子を繋げる可能性も高まるためにむしろ推奨されているくらいだ。
アイツの相手が、身目麗しく若い女の子だったというだけで、もう充分俺の人生は詰んでいる。
別にownerとしての特権が必要なヤツではない。本人のずば抜けた能力と容姿を持ってすれば、他者からの援助など全くなくても自身の力で切り開いていける未来が幾らでもあっただろう。だが、彼女にしてみたら幸運が目の前の棚から転がり落ちてきたんだ。高学歴でイケメンで高収入も約束されている男が自分のパートナーだなんて、シンデレラもびっくりのサクセスストーリーだ。
勿論、何事にも例外はあって、運命共同体である二人が運命をすり抜けて生き延びる方法もなくはない。だが彼女は決してアイツを放しはしないだろう。そしてアイツは人の生き死にを無視できるような冷徹な男じゃない、そんな奴なら俺が好きになったりしない。
俺の手から奪われた日常という名の幸せは「青春」という印字が施された美しいアルバムの中に収まって回顧するだけのものになってしまった。気の迷いやら時間の経過による解決なんて存在しない未来で、迷子のままぼんやりと断たれた道の先を見つめているだけ。足下は断崖絶壁。転がり落ちるのは簡単だがそれによってアイツの心がどう痛むのかと考えればそれすら選択肢に上らない。
日々は進む。あの日の別れから徹底的に避け続ける俺の心情を汲んだものか、アイツからの連絡も途絶えた。どんな言い訳をしても意味がないと分かっているからこその潔さに救われながら絶望している。
その言葉を聞いた時、自分の顔が酷く醜く歪むのが分かった。
俺だって。俺だってflowerだったら、正々堂々性別すらも関係なくコイツの傍にいられたのに。何もかも投げうって喉から手が出て血反吐を撒き散らすほどコイツのことが好きだって、俺には何の特権も与えられていない。
気がついたら、口を突いて出ていた言葉。
「…死ぬほど好きだから、じゃ理由にならないんですか」
取り戻せない言葉は血と涙に塗れた本心。
「コイツのことが死にたくなるほど好きだから、一緒にいたかったんです」
死ねない俺が死んでもいいほど愛しているという事実は、運命の絆の前では何の効力もない。酷く気まずかった。今ここで俺だけが、部外者だ。
「でも、仕方ないです。俺はコイツの運命の相手じゃなかったんだから、どんなに好きになったって死ぬことすら出来ない。俺には…あなたが、ひどく羨ましい」
上手く笑えただろうか。どうして俺ってやつは、いつもいつでも叶わないものばかりを追いかけてしまうんだろう。今度ばかりはもう、嗤うしかない。運命の女神に袖にされた男の末路なんて天地開闢から無数に語られてきていて、少なくとも俺の判断が間違っていないことだけは確信できるから辛うじて救われている。自己肯定感と敗北感とが絶妙にブレンドされたモノトーンのマーブルをコーヒーカップの中でかき混ぜながら、これまでの日々を振り返る。
楽しかった。楽しかったんだよな。
幸せで溢れていた。
喧嘩もしたし、悩みもした、男同士で先なんてないんだって諦めようとしたことは何百回もあるけどそれでも手放せなかった。でも、
俺のこの気持ちと、誰かの生き死にを
天秤にかけるつもりはない。
たとえ死にそうに辛くても俺はきっと、死ねないから。
「…じゃあ、な」
幸せに、とは願えなかった。俺のいない場所で彼女でも誰でもいい、俺以外の誰かと幸せになるお前はどうしても見たくなかった。だから顔をあげることも出来なかったし、振り返るのは止めたし、触れることさえせずに背を向けた。
同棲、しなくてよかったな。
そんなどうでもいい感想しか浮かんでこない程に心は空っぽで、在り来たりの人生しか歩んでいなかった自分にこんなドラマみたいに劇的な出来事が訪れたりするんだなと他人事のように思っていた。
家までの道を歩いていたんだと思う。意識が拡散しすぎて定かではないけれど通い慣れたはずの道で今まで気づきもしなかった場所に花屋があるのが見えた。
途端に胃から吐き気が逆流して、慌てて道端に屈みこむ。花びら、だ。
美しく咲き誇る花たちが色とりどりに語りかけてくる。
”綺麗でしょ”
”こっちを見て”
”私だけを見て!”
声なき叫びが耳の奥でぐるぐると渦巻く。赤、白、ピンク、黄色、紫、青、何百もの色の変化、形の相違、それでも皆溢れんばかりの生命力でその煌めきを、美しさを、誇示している。
花の匂いに噎せ返る。吐き気が込み上げる。花、花、花、咲いて散ればみすぼらしく枯れるだけのお前たちが俺を狂わせる。
この日以来、俺の世界から一切の花の色が消えた。
【flower】ーー【owner】にwaterをしてもらうことで生きながらえる特殊な人間。身体のどこかに浮き出た花の模様がflowerの証となり、自分だけのパートナーとなるownerを見つけてparingすることで花が完成する。定期的に体液を交換するwaterをすることで、健やかな花を咲かせ、その花びらは効能の高い万能薬として高値で取り引きされる。
だからこそflowerは悪用されないように国家に保護され、身の安全を保障され、その稀有性から様々な特権が付与されている。花として生まれた不自由さと引き換えに、約束された生活を手に入れられるその旨味を手放す人間は少ない。
身柄を保護され、次代へと繋ぐためにその生活と生命の維持を保障されているflowerと同等にパートナーである【owner】にも付随した権利が与えられるため、互いの結び付きは固くなり容易には離れない。俗にいう利害関係の一致というヤツだ。
両者の関係に性別は影響しないため、同性同士の場合は体液の交換は間接的にしか行われない。例えば血液を直接皮膚に染み込ませる程度でも構わないが、量や頻度によって当然効果が長持ちする期間は変わってくる。
だが異性だった場合、一番容易なのは唾液の交換、即ちキスをすること。年齢や立場、好みにもよるだろうが、キスなんてしてしまえばもう後はなし崩しだ。身体の関係を持つことが何ら不思議ではない。即ち、恋人になって結婚する道筋が自然だということだ。その方が次代に遺伝子を繋げる可能性も高まるためにむしろ推奨されているくらいだ。
アイツの相手が、身目麗しく若い女の子だったというだけで、もう充分俺の人生は詰んでいる。
別にownerとしての特権が必要なヤツではない。本人のずば抜けた能力と容姿を持ってすれば、他者からの援助など全くなくても自身の力で切り開いていける未来が幾らでもあっただろう。だが、彼女にしてみたら幸運が目の前の棚から転がり落ちてきたんだ。高学歴でイケメンで高収入も約束されている男が自分のパートナーだなんて、シンデレラもびっくりのサクセスストーリーだ。
勿論、何事にも例外はあって、運命共同体である二人が運命をすり抜けて生き延びる方法もなくはない。だが彼女は決してアイツを放しはしないだろう。そしてアイツは人の生き死にを無視できるような冷徹な男じゃない、そんな奴なら俺が好きになったりしない。
俺の手から奪われた日常という名の幸せは「青春」という印字が施された美しいアルバムの中に収まって回顧するだけのものになってしまった。気の迷いやら時間の経過による解決なんて存在しない未来で、迷子のままぼんやりと断たれた道の先を見つめているだけ。足下は断崖絶壁。転がり落ちるのは簡単だがそれによってアイツの心がどう痛むのかと考えればそれすら選択肢に上らない。
日々は進む。あの日の別れから徹底的に避け続ける俺の心情を汲んだものか、アイツからの連絡も途絶えた。どんな言い訳をしても意味がないと分かっているからこその潔さに救われながら絶望している。
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