ZOID・of the・DUNGEON〜外れ者の楽園〜

黒木箱 末宝

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第一章【ダンジョンが出現した現代】

生まれた意味の実感

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「た゛だ゛い゛ま゛ー゛ー゛……」
「お帰りー」
「お帰りお疲れー」

 その日の夜、何時も通り疲れきった様子で姉が帰宅する。そんな姉を母と労いつつ、俺は手に入れた回復薬について相談する。すると姉は、回復薬を一目みて、母同様「かーちゃんが飲め」と母第一な考えに基づいて即答した。

いいのかええんか?」という俺の疑問に対し、姉はアトピーにより掻き毟ってボロボロになった肌を見つつ「かーちゃんが一番だし」と、過去に母へかけた苦労を思い出した様子を見せながら答えた。

「わかった。んじゃ、ほい」
「おう」

 回復薬(小)を母に渡すと、何の迷いもなく木の蓋を抜き──取れない。

「……開けて」
「おう」

 代わり俺が蓋を引っこ抜いて渡すと、母は回復薬(小)を飲んだ。

「……どんな味?」
「何か……リンゴっぽい?──お!」

 そんな会話を交わしていると、ほんのりと母が光りだした。

「うわ」
「ちょっと、大丈夫?」
「……うん、なんとも無い」

 心配したように姉が問うが、母曰く何とも無いとのこと。
そして暫くすると光が収まり、直後に母が歓声を上げて立ち上がった。

「お~!  大器、これ凄いよ!」

 母曰く、身体の節々の痛みが薄まり、調子が良くなって更に体が軽くなったと言う。 

「……ねぇ大器」
「おうさ」

 喜ぶ母を見つつ、姉は俺に対して声をかける。それは喜びの含まれたものだが、大まかな意思を察するに“もっと回復薬あれ取って来い”と言うものだろう。俺はそれに“当然”と了承の意思を返して強く頷いた。

 その後、胃腸の調子も良くなったのか、母は腹を押さえてトイレに駆け込んだ。それをみて、俺と姉は喜び笑ったのだった。



 尚、姉にゴブ薬を渡して塗らせてみた。すると、姉の肌の傷跡が治り始めたのだ。

「……大器、すまんけどこれ私にくれん?」
「ええよ。ゴブリンしばけば手に入るし」

 傷跡が無くなり綺麗になった肌を撫でつつ、涙目になった姉の頼みを快諾する。

 実際、俺は七年もの間家族に負担をかけていた。それが自身の有り余る暴力性で解決出来るなら、それがどれ程良いことか。俺はダンジョンの出現した今の世界に感謝した。



 その後、姉の塗った薬と同じ臭いが俺のパーカーから臭ったことに母が気付き、更にそのパーカーの袖が切れていることに気付いた母が、俺を問い詰め、怪我を黙っていた事をしこたま怒られるのだった。



 ■



「おはよう大器。飯できたよ」
「ん~……飯?」

 翌日、調子の良さそうな母に起こされた俺は、久し振りに用意された手作りの朝食に驚いた。

「どうしたいきなり……」
「応援よ、応援」
「……ああ、成る程」

 それが何を意味しているか察した俺は「確実に手に入る物じゃないぞ」と言いつつも「まぁ頑張るわ」と期待に答えると伝えた。

 そうしてしっかりと朝食を食べて準備を終えた俺は、母と姉に笑顔で見送られて、ダンジョンに来た。

「うっわ……何でこんなに……」

 しかし、昨日以上に増えた野次馬達に、辟易してしまう。

「すんませーん、とおりまーす……あれ?」

 野次馬の囲いを抜けると、何故か神主達がダンジョンをバリケードで封鎖しようとしていた。それは困ると、小走りで神主へと近付き、理由を聞くことに。

「こんにちは、お疲れ様でーす」
「ああ、こんにち──あ!  あなたは、昨日の!  ちょっダメですよ入るのは!」
(チッ……ダメだったか)

 昨日と同じように軽く済ませてダンジョンに入ろうとする。だがしかし、今日は止められてしまった。

「入るのダメになったんです?」

 そうダンジョンを指差し確認すると、神主は苦い顔をして理由を教えてくれた。

「ええ、はい。何でもダンジョンでの死傷事故や行方不明者が続出しているらしく……それで今朝、市の方から電話で“ダンジョンを封鎖しろ!”と……」

 神主の言う理由に納得する。しかし、それはそれとしてダンジョンに入りたいので、何とか入れないか神主を説得することにした。

「え~でも俺は大丈夫でしたよ?  それにダンジョンの主はゲームのために入って来いって言ってますし……」
「……いや、そう言われましても……はぁ、わかりました。今回も無事に帰ってきたてくださいね?」

 説得に折れた様子の神主。その表情を見るに、危険なダンジョンから無傷で生還した俺の実力に諦めたのか……それともダンジョンの主であるヘァッチャ・ダの言葉を思い出し、止めるのはマズイと考えたのか……まぁどっちでも良いが。
 
 神主は昨日と同じように俺へ無事に帰るよう伝えると、ダンジョンの前においてあったバリケードを退かしてくれた。

「ありがとうございます。では」

 そう礼を言って、俺は溜め息をつく神主と騒めく野次馬達を背に、ダンジョンへと入るのだった。



 ■



 転移陣を利用して二階層に到着した俺は、ゴブリン狩りに精を出していた。

「おらゴブリン、 ゴブ薬を寄越せ!  回復を寄越せ!  そして死ねぇ!!」

 地図埋めをしながら、ゴブリンを慣れたように粉砕し続ける。しかし、ゴブ薬を僅かに落とすものの、回復薬を落とすゴブリンは皆無だった。

「チッやっぱりレアドロップか、あと二つくらい欲しいんだけどなぁ」

 一応、二階層にある宝箱から回復薬(小)を二つ手に入れることが出来た。だが、母の体を完治させ、姉にプレゼントするためには回復薬があと三つは欲しい。自分に使う用と予備も含めれば、もっと回復薬が必要になるだろう。

「……次の階層ならもっと手に入るのか?」

 宝箱は階層を進む度に増えており、しかも中身の品がランクアップしている事が分かった。しかも地図に記入した進行時間などを計算すると、階層毎に徐々に広くなっている。その事実を知った俺は、さらなるレアアイテムと回復薬を求めて、次の階層へと降りた。



「二階はゴブリンだったけど、三階はどうかな」

 ダンジョンは相変わらずの土の洞窟。遠くに見えるモンスターも、サイズと色のからしてゴブリンだろう。

(……ん?  何か少し違うな)

 そう頭の中で呟いて、俺は蓋のような小さな盾を構え、静かに進む。そうしてモンスターを視認できる距離に近付いた俺は、そのモンスターを見て大いに驚いた。

(ゲッ、あいつ弓持ってやがる!  遠距離攻撃はまだ早いだろ!)
「ギ?  ゲギャア!」
「うおっ!?」

 俺の気配に反応した様子の、弓を射つゴブリン──ゴブリンアーチャーは、枝を草紐で纏めた様な粗悪な矢筒から、これまた枝の先を削り尖らせただけの粗悪な矢を取り出し、木の棒と草紐で作られた粗悪な弓で矢を引き絞って放ってきた。

「うおっ!──お?」

 それに驚いて飛び下がるが、それに反して矢はあらぬ方向に飛び、手前からかなり離れた位置に突き刺さった。

「……ビビって損した」

 安堵し溜め息を吐く。だが、ゴブリンの矢の威力は脅威的だ。

 比較的真っ直ぐな枝を削っただけの矢とも言い難いそれは、ゴブリンの膂力りょりょくにより確かに放たれ、地面に深く突き刺さっている。

 遠くなら低い命中率故に脅威たり得ないが、遠距離武器を持っていない俺は、ゴブリンアーチャーに近接攻撃で攻めるしか無い。

 タイミングを見て突撃するのも手だが、そんなギャンブルに命をかけるのもバカらしい。だがこのままでは無事に先へと進むことも難しいだろう。

「どうしたもんかな~……あ、そうだ」

 いいことを思い付いた俺は、遠くから矢を放ち続けるゴブリンアーチャーを無視して二階層へと戻った。



「よし、別の階層からモンスターを持ってこれた。賭けだったけどうまく行ったぜ」
「……ギッ……ギギャァ……」

 二階から戻って来た俺は、ゴブリンを引きずって戻って来た。引きずられているゴブリンは、抵抗できないように折った四肢をダラリとぶら下げ、“殺せ”と言っているかのような呻き声を上げている。

 そんな俺の前に、ゴブリンアーチャーが再び現れた。

「ギッ?!  ギギャガァ!」
「お、効果有りだな」

 矢を放とうとするゴブリンアーチャーの前に、瀕死のゴブリンを盾にするよう掲げる。
 すると、ゴブリンアーチャーは矢先を下げ、俺を責めるかのように叫び出した。

「よし、行くか」

 そう呟くと、俺はゴブリンを前面に押し出し、ゴブリンアーチャーに向かって走り出した。

「ッ!  ギャガー!  ギギャー!!」
「伝わらないね~」

 ゴブリンアーチャーの放つ矢を避け、ゴブリンで受けつつ走る。ゴブリンアーチャーは仲間に矢を当ててしまったことに動揺し、二の矢を継げられていない。

「そら、受けとれ!」
「ギャ!?」

 程よい距離まで近付いたので、重りであるゴブリンを投げ付ける。そしてゴブリンを受け止め倒れたゴブリンアーチャーをゴブリン諸とも踏みつけ、棍棒を振り上げ、叩き付ける。

肉盾作戦これ便利だな」
「ギ──」

 容赦なく振り下ろされた棍棒は、ゴブリンの頭蓋をまとめて砕いた。

「ドロップアイテムは……お、回復薬!  へへ、やっぱ俺に向いてるのかもな、ダンジョン!」

 そんな事を言いながら、回復薬の入った瓶を丁寧にバックパックにしまう。

「……もしかしたら、この為に俺は生きていたのでは?」

 俺は、自身の存在意義かも知れない今の状況を噛み締めた。ダンジョンに潜ることを自身が望み、ダンジョンに潜ることを家族に求められ、俺はそれに答えられる。まさしく、仕事に求められる要素の理想そのままだった。

「クククク……へへへへ……!」

 過去一番の絶頂期を迎えた俺は、漸く訪れた自身の活躍する場の出現に喜びを実感し、一人静かに笑っていた。
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