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第一章【ダンジョンが出現した現代】
【閑話】勇者の卵達
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「お、おはよう勇くん!」
「おはよう姫花ちゃん。可愛い髪飾りだね、似合ってるよ」
「そ、そう? 昨日買って貰ったの! 勇君は今日も可愛いね!」
「……ありがと」
とある市立中学校。そこに通う少年──御剣 勇は、何時もと代わり映えのしない毎日に退屈していた。
中学二年生で身長は一四五センチ、体重四五キロ。細身の体と艷やかな黒髪のショートボブに愛らしい顔。その整った容姿と、まるで小学生の様な姿の勇は、老若男女犬猫鳥全てに愛されていた。
そんな勇は何時も通り登校し、何時も通り女子に声を掛けられ、何時も通りに誉めて喜ばせる。そんな何時も通りの日々。
勇という少年は、大抵のことは少し習ったり練習してしまえば何でも出来てしまう、ギフテッドかつ器用万能な少年だった。
「おはよう勇くん! 今日も可愛いね!」
「……おはよう。薫ちゃんも可愛いね」
「おはよう、勇くん」
「……おはようございます、三崎先生。頭撫でないで下さい」
「ちょっとだけ……ね?」
「……ちょっとだけですよ」
性格は明るく真っ直ぐで、毎朝登校すれば色んな人から声を掛けられる。女子達からは黄色い声を常に掛けられ、先生には自から挨拶されたりする程だ。
「勇! 今度の大会、助っ人頼めるか!?」
「明後日の大会だよね? 良いよ」
「勇くん! この前のテストで解んないところがあって……教えて欲しいんだけど……」
「良いよ、また今度勉強会しよっか」
「……うん!」
成績は文武両道。テストは当然百点で、最低点数は九六点。運動も得意で、初めての動きも少し練習すれば直ぐにものにしてしまう程だった。
そのため勇を頼りにする生徒は多く、しかし勇はそれを何の苦とも思っていなかった。
だがそんな退屈な日々は、ヘァッチャ・ダの世界侵略宣言によって打ち砕かれたのだった。
授業中、突然起きた地震。
そして避難中に頭の中で響いてきた上位存在の声にパニックになったり、気絶したりするクラスメート達。
そんな途方もない存在がもたらした未知の情報の数々に、 勇は僅かに怯むだけで未知の圧に歯を食い縛り耐え、挙げ句に笑みを浮かべていた。
勇は、今の状況を好ましく思っていた。何なら唐突に現れたこの非日常を、己の為のものだとさえ考えていた。
そして勇は、自身の才能はこの時のためにあったのだと確信した。
そう考えたら後は速い。ヘァッチャ・ダとやらの発言と脳内に投映されたものから見るに、ダンジョンを攻略して世界を救うには、自分一人の力では難しいだろう。
ならばと、今の状況で自身と同じ様に圧に耐え立っているものを探す。
そうしてクラスを見回せば、案の定の存在が立っていた。最初に目に入ったのは、幼馴染の三人だった 。
「……敵……か」
普段は落ち着いた様子の垂れ目を吊り上げ、その良く鍛えられた細身の体に力を込めて身抜刀の構えを取っている男──剣道部のエース、霧海 将。
その名の通り、剣道の試合では霧や海と切り合いをする様な柔らかい立ち会いをする天才だ。
……そのかわりか、プライベートではよく居眠りをして先生に怒られている。
「クソッ……オイ、大丈夫か!?」
何かに備えるよう、全身に力を入れてその大きな体に見合う筋肉を隆起させる五分刈りの男── 野球部のエース、大樹柱 豪。
彼は日によく焼けた肌の中学生らしからぬ大きな体の持ち主で、彼はその恵まれた肉体とセンスによって、様々なポジションで満点の活躍をする天才だ。
……だが、勉強は苦手な様で、時折一緒に勉強したりしている。
「へぇ~~~~……ッ!」
その端正な見た目にそぐわない、獰猛な獣の様な笑みを浮かべる女──弓道部のエース、天雨 響香。
切れ長の目を持つ、ポニーテールのよく似合う物静かな彼女は、その凍る様な冷たい雰囲気で場を支配し、必ず的に矢を当てる凄い娘だ。
……ただし、中身は変人だ。継ぎ矢をするかしないかの位置を狙って二本目を射ると言うチキンレースを大会中にやって快感を得ているらしい。
「ダンジョンッ……! まさか現実にこんな事が──この世界は現実じゃない!?!?」
癖のある長い髪を振り乱しなが、わけの分からないことを言う女子。勇の幼馴染である三人の幼馴染──森山 真奈。
普段から猫背気味で落ち着きのない彼女は、幼馴染曰く幼少期から病弱でコミュニケーション能力が育っていない上に、その時に与えられた様々な本で得た知識が交通事故を起こし、その所為で頭が混線して落ち着けないとかなんとか。
……だが幼馴染を通して知り得た彼女の知識量やその引出しは素晴らしい。その知識が活かせる力──例えば魔法を得たら……。
「ねえ、今の聞いた!?」
そうして、勇は仲間を集ってダンジョンへと挑戦するチームを作ろうとするのであった。
■
そして時は進み、第二次スタンピードの日。
「ぐっ、何だ!?」
突き上げるような衝撃に叩き起こされた勇は、スマホを手にリビングへと駆け下りた。
ダンジョンが出現した日と第一次スタンピードを経験した勇は、即座に地震でないと見抜いたのだ。
リビングにあるテレビを付ければ、やはりスタンピードが発生したようで、アナウンサーが速報を読み上げている。
スマホを開きSNSを見ると、トレンドにもスタンピードの文字が。そのタグをタップすれば、スタンピードが起きた現場の映像が目に入る。
未知の化物。銃による生き物の殺害。逃げ惑う人々。襲われて死ぬ人間。
「うぇ……」
「勇、大丈夫か?」
「勇、どうしたの?」
「お兄ちゃん……」
その悲惨な映像に怖じ気付き吐きそうになるも、不安そうにしている家族や妹達を安心させるために「大丈夫」と微笑んだ。
自身より大きな妹に抱きかかえられ、ニュース映像を眺める。
これでハッキリした。ダンジョンは危険で、恐ろしい物だと。
「……」
「駄目だよ、お兄ちゃん」
「……わかってるさ」
勇は、普段から自分には出来るからと、様々な問題に首を突っ込む癖があった。
それを理解していた勇の妹──結城は、勇を行かせないと言うかのように抱く力を強めた。
勇は力を緩める様な腕をたたき合図し、妹や両親を落ち着かせるため、形だけの言葉を返した。
翌日、学校でダンジョンについて全校集会が開かれた。しかしそこで伝えられた内容は、勇や一部の者にとって喜ばしくない内容だった。
「皆さんの気持ちはよーーく解ります。行きたいですよねダンジョン。ですが、我が校では──他の学校もそうですが──生徒だけでダンジョンに入ることを校則で禁止します」
それは、ダンジョンへ入る事を禁止する新たに制定された校則だ。しかし、その理由は理解出来るものだった。
ざわついたり文句を言う生徒が出始める。それを校長は一喝する。
「静かに! ──先ほども伝えましたが、私もダンジョンに入りたいという君達の気持ちは物凄く解るんです、私ももう少し若かったら真っ先に入っていたはずですからね」
校長の言葉に、生徒や教員が共感したりギョッとしたりすることで体育館は静けさを取り戻した。
「ダンジョンでの冒険、宝箱。モンスターとの戦い、勝利。そして手に入る未知のアイテム、宝石や貴金属、回復薬……ワクワクが止められる訳が無い」
勇も思わず頷いた。ダンジョンが出現して以降、SNSやニュースでは様々な情報があふれ出していた。
腕に覚えのあるインフルエンサー達がダンジョンに挑み、そこで見つけた宝箱から得た宝石や未知のアイテム達。
それらアイテムを調べて貰う動画や、実際に使ってみる動画は軒並み大バズリして、稀に見る程の再生数を稼いでいた。
「ですが、ダンジョンはそんな夢ばかりのものではありません。ダンジョンが出現して以降、トラブルや死傷者、行方不明者が絶えず、文字通り迷宮入りした事件も起き続けています。大の大人や警察官、自衛隊などの戦闘訓練を受けた者でさえ無傷では済みませんでした」
勇や他の生徒は、連日伝えられる事件について思い出した。最初はお調子者が怪我をして帰ってくるくらいのものだったが、お宝があると伝えられて以降、謎の事件が相次いだのだ。
そして伝えられるニュースの中には、ダンジョンでアイテムを巡ってのトラブルや死傷者事件が起きたと言うものもあった。
「……我が校や他校が校則を作ってまでダンジョンへ入る事を禁止するのには、君達を怪我や死ぬ事から守る意味があります。どうか分かってください。そして、もし君達が傷付き亡くなったら、家族や友達が悲しみ苦しむ事を覚えておいてください」
校長の話は、徹頭徹尾で生徒達を想うもの。だがしかし、それでも大人しくできないのが若者の性だ。
勇や一部の生徒は、ダンジョンが危険で早急に攻略すべきと考え、新たに【ダンジョン対策同好会】を開くのだった。
その同好会の活動は、ただひたすらにダンジョンについての情報を集めるというものだった。
顧問は何時も勇の頭を撫でてくる三崎先生に頼み、メンバーを集う。その結果、幼馴染三人とその幼馴染である真奈が参加した。
その他にもダンジョンに危機感を持つ者や、ダンジョンで暴れたり利益を得たい欲望の強い者も集まった。
そして話し合いの結果、恐らくダンジョンへ入る事の禁止は解かれると考え、攻略情報を得る為に近場のダンジョン出現地点へと向かう事になった。
■
様々な圧力や、ダンジョンの所為で成績の落ち始めた生徒が出始めたことにより、条件付きでダンジョンへ入ることが許された。
そして同好会が正式に部活と成ったある日、高山緑地に出現したダンジョンの入口前で、遠巻きにダンジョンを眺める野次馬の中に勇達はいた。
彼等彼女等は、所謂ところの正義感の強い若者達であり、その年特有の全能感に突き動かされた勇者達でもあった。
ある日、学校での授業中に巻き怒ったダンジョンの出現事件。脳内に響くヘァッチャ・ダの侵略宣言。そして巻き起こったスタンピード。
何処か今に不満を覚えていた彼等は、これだと言わんばかりにそれぞれ相性の良い者同士を集い、ダンジョンへと挑むチームを組んだ。
勇達がダンジョンに来た目的は、侵略者の生み出したダンジョンを攻略して日本を──延いては世界を救うためだ。
しかし、全員が全員そういった正義感だけで動き出した訳では無いが、今はそれを置いておく。
しかしそんな彼等は今、バッチリ決めた装備を身に付けながらも、ダンジョンへ踏み出すことができないでいた。
その理由は周囲の人達にあった。
彼等は中学生であり、未成年。野次馬達に始まり、警察官や神主、受付の巫女にまでダンジョンに挑むことを止められていたのだ。
そんな彼等も周囲の説得の末に、渋々ではあるがダンジョンへの挑戦を一時的に止めたのだ。
では何故、未だに彼等がこの場にいるのかと言うと、ダンジョンに詳しい人に中の話を聞くか、もしくは一緒に連れていってもらうお願いをするためだった。
そのため、彼等は一番近いダンジョンかつ挑戦者がいると言うこの高山ダンジョンで待ち伏せしているのだ。
勇達がダンジョンでの作戦を交えつつ話していると、ダンジョンの入口に波紋が浮かび上がった。
そしてその波紋から、容姿を隠した大柄の男が出て来た。
「あ、来た!」
「あの人が高山の挑戦者……」
勇達の声に反応して、高山ダンジョンの挑戦者──大器が一瞬此方を見ると、直ぐに巫女の元へと向かっていった。
「行こう!」
「うん!」
「あの、すみま──」
勇達が小走りで近付いて声をかけようとしたその時であった。大器が徐にバックパックを下ろして中に手を入れ、中から熊とみまごう程に大きな何かを取り出したのだ。
取り出したそれを、大器は巫女達に良く見える位置へと放り出した。
その正体は、コーザティブウルフの死体だった。
そして大器は政府の人間に画像を見せ、ダンジョンの情報を話していた。
「うっ……あ……」
勇達は大器へ声をかけようとした。しかし、死体になっていても怖気の走るオーラを放つコーザティブウルフを見て、足が竦んでしまい一言も声が出せなくなっていた。
誰も一言も話せないなか、大器だけが普段通りに動いており、情報を話し終えるとそのまま帰っていった。
その背中を、そこにいる全ての人が畏怖の目で見ていた。
そして更に時が進んだある日、勇者の卵はダンジョンへと入る。
そこで自分達が自惚れた愚か者で、その上で大器がどれ程ヤバイか認識するのであった。
「おはよう姫花ちゃん。可愛い髪飾りだね、似合ってるよ」
「そ、そう? 昨日買って貰ったの! 勇君は今日も可愛いね!」
「……ありがと」
とある市立中学校。そこに通う少年──御剣 勇は、何時もと代わり映えのしない毎日に退屈していた。
中学二年生で身長は一四五センチ、体重四五キロ。細身の体と艷やかな黒髪のショートボブに愛らしい顔。その整った容姿と、まるで小学生の様な姿の勇は、老若男女犬猫鳥全てに愛されていた。
そんな勇は何時も通り登校し、何時も通り女子に声を掛けられ、何時も通りに誉めて喜ばせる。そんな何時も通りの日々。
勇という少年は、大抵のことは少し習ったり練習してしまえば何でも出来てしまう、ギフテッドかつ器用万能な少年だった。
「おはよう勇くん! 今日も可愛いね!」
「……おはよう。薫ちゃんも可愛いね」
「おはよう、勇くん」
「……おはようございます、三崎先生。頭撫でないで下さい」
「ちょっとだけ……ね?」
「……ちょっとだけですよ」
性格は明るく真っ直ぐで、毎朝登校すれば色んな人から声を掛けられる。女子達からは黄色い声を常に掛けられ、先生には自から挨拶されたりする程だ。
「勇! 今度の大会、助っ人頼めるか!?」
「明後日の大会だよね? 良いよ」
「勇くん! この前のテストで解んないところがあって……教えて欲しいんだけど……」
「良いよ、また今度勉強会しよっか」
「……うん!」
成績は文武両道。テストは当然百点で、最低点数は九六点。運動も得意で、初めての動きも少し練習すれば直ぐにものにしてしまう程だった。
そのため勇を頼りにする生徒は多く、しかし勇はそれを何の苦とも思っていなかった。
だがそんな退屈な日々は、ヘァッチャ・ダの世界侵略宣言によって打ち砕かれたのだった。
授業中、突然起きた地震。
そして避難中に頭の中で響いてきた上位存在の声にパニックになったり、気絶したりするクラスメート達。
そんな途方もない存在がもたらした未知の情報の数々に、 勇は僅かに怯むだけで未知の圧に歯を食い縛り耐え、挙げ句に笑みを浮かべていた。
勇は、今の状況を好ましく思っていた。何なら唐突に現れたこの非日常を、己の為のものだとさえ考えていた。
そして勇は、自身の才能はこの時のためにあったのだと確信した。
そう考えたら後は速い。ヘァッチャ・ダとやらの発言と脳内に投映されたものから見るに、ダンジョンを攻略して世界を救うには、自分一人の力では難しいだろう。
ならばと、今の状況で自身と同じ様に圧に耐え立っているものを探す。
そうしてクラスを見回せば、案の定の存在が立っていた。最初に目に入ったのは、幼馴染の三人だった 。
「……敵……か」
普段は落ち着いた様子の垂れ目を吊り上げ、その良く鍛えられた細身の体に力を込めて身抜刀の構えを取っている男──剣道部のエース、霧海 将。
その名の通り、剣道の試合では霧や海と切り合いをする様な柔らかい立ち会いをする天才だ。
……そのかわりか、プライベートではよく居眠りをして先生に怒られている。
「クソッ……オイ、大丈夫か!?」
何かに備えるよう、全身に力を入れてその大きな体に見合う筋肉を隆起させる五分刈りの男── 野球部のエース、大樹柱 豪。
彼は日によく焼けた肌の中学生らしからぬ大きな体の持ち主で、彼はその恵まれた肉体とセンスによって、様々なポジションで満点の活躍をする天才だ。
……だが、勉強は苦手な様で、時折一緒に勉強したりしている。
「へぇ~~~~……ッ!」
その端正な見た目にそぐわない、獰猛な獣の様な笑みを浮かべる女──弓道部のエース、天雨 響香。
切れ長の目を持つ、ポニーテールのよく似合う物静かな彼女は、その凍る様な冷たい雰囲気で場を支配し、必ず的に矢を当てる凄い娘だ。
……ただし、中身は変人だ。継ぎ矢をするかしないかの位置を狙って二本目を射ると言うチキンレースを大会中にやって快感を得ているらしい。
「ダンジョンッ……! まさか現実にこんな事が──この世界は現実じゃない!?!?」
癖のある長い髪を振り乱しなが、わけの分からないことを言う女子。勇の幼馴染である三人の幼馴染──森山 真奈。
普段から猫背気味で落ち着きのない彼女は、幼馴染曰く幼少期から病弱でコミュニケーション能力が育っていない上に、その時に与えられた様々な本で得た知識が交通事故を起こし、その所為で頭が混線して落ち着けないとかなんとか。
……だが幼馴染を通して知り得た彼女の知識量やその引出しは素晴らしい。その知識が活かせる力──例えば魔法を得たら……。
「ねえ、今の聞いた!?」
そうして、勇は仲間を集ってダンジョンへと挑戦するチームを作ろうとするのであった。
■
そして時は進み、第二次スタンピードの日。
「ぐっ、何だ!?」
突き上げるような衝撃に叩き起こされた勇は、スマホを手にリビングへと駆け下りた。
ダンジョンが出現した日と第一次スタンピードを経験した勇は、即座に地震でないと見抜いたのだ。
リビングにあるテレビを付ければ、やはりスタンピードが発生したようで、アナウンサーが速報を読み上げている。
スマホを開きSNSを見ると、トレンドにもスタンピードの文字が。そのタグをタップすれば、スタンピードが起きた現場の映像が目に入る。
未知の化物。銃による生き物の殺害。逃げ惑う人々。襲われて死ぬ人間。
「うぇ……」
「勇、大丈夫か?」
「勇、どうしたの?」
「お兄ちゃん……」
その悲惨な映像に怖じ気付き吐きそうになるも、不安そうにしている家族や妹達を安心させるために「大丈夫」と微笑んだ。
自身より大きな妹に抱きかかえられ、ニュース映像を眺める。
これでハッキリした。ダンジョンは危険で、恐ろしい物だと。
「……」
「駄目だよ、お兄ちゃん」
「……わかってるさ」
勇は、普段から自分には出来るからと、様々な問題に首を突っ込む癖があった。
それを理解していた勇の妹──結城は、勇を行かせないと言うかのように抱く力を強めた。
勇は力を緩める様な腕をたたき合図し、妹や両親を落ち着かせるため、形だけの言葉を返した。
翌日、学校でダンジョンについて全校集会が開かれた。しかしそこで伝えられた内容は、勇や一部の者にとって喜ばしくない内容だった。
「皆さんの気持ちはよーーく解ります。行きたいですよねダンジョン。ですが、我が校では──他の学校もそうですが──生徒だけでダンジョンに入ることを校則で禁止します」
それは、ダンジョンへ入る事を禁止する新たに制定された校則だ。しかし、その理由は理解出来るものだった。
ざわついたり文句を言う生徒が出始める。それを校長は一喝する。
「静かに! ──先ほども伝えましたが、私もダンジョンに入りたいという君達の気持ちは物凄く解るんです、私ももう少し若かったら真っ先に入っていたはずですからね」
校長の言葉に、生徒や教員が共感したりギョッとしたりすることで体育館は静けさを取り戻した。
「ダンジョンでの冒険、宝箱。モンスターとの戦い、勝利。そして手に入る未知のアイテム、宝石や貴金属、回復薬……ワクワクが止められる訳が無い」
勇も思わず頷いた。ダンジョンが出現して以降、SNSやニュースでは様々な情報があふれ出していた。
腕に覚えのあるインフルエンサー達がダンジョンに挑み、そこで見つけた宝箱から得た宝石や未知のアイテム達。
それらアイテムを調べて貰う動画や、実際に使ってみる動画は軒並み大バズリして、稀に見る程の再生数を稼いでいた。
「ですが、ダンジョンはそんな夢ばかりのものではありません。ダンジョンが出現して以降、トラブルや死傷者、行方不明者が絶えず、文字通り迷宮入りした事件も起き続けています。大の大人や警察官、自衛隊などの戦闘訓練を受けた者でさえ無傷では済みませんでした」
勇や他の生徒は、連日伝えられる事件について思い出した。最初はお調子者が怪我をして帰ってくるくらいのものだったが、お宝があると伝えられて以降、謎の事件が相次いだのだ。
そして伝えられるニュースの中には、ダンジョンでアイテムを巡ってのトラブルや死傷者事件が起きたと言うものもあった。
「……我が校や他校が校則を作ってまでダンジョンへ入る事を禁止するのには、君達を怪我や死ぬ事から守る意味があります。どうか分かってください。そして、もし君達が傷付き亡くなったら、家族や友達が悲しみ苦しむ事を覚えておいてください」
校長の話は、徹頭徹尾で生徒達を想うもの。だがしかし、それでも大人しくできないのが若者の性だ。
勇や一部の生徒は、ダンジョンが危険で早急に攻略すべきと考え、新たに【ダンジョン対策同好会】を開くのだった。
その同好会の活動は、ただひたすらにダンジョンについての情報を集めるというものだった。
顧問は何時も勇の頭を撫でてくる三崎先生に頼み、メンバーを集う。その結果、幼馴染三人とその幼馴染である真奈が参加した。
その他にもダンジョンに危機感を持つ者や、ダンジョンで暴れたり利益を得たい欲望の強い者も集まった。
そして話し合いの結果、恐らくダンジョンへ入る事の禁止は解かれると考え、攻略情報を得る為に近場のダンジョン出現地点へと向かう事になった。
■
様々な圧力や、ダンジョンの所為で成績の落ち始めた生徒が出始めたことにより、条件付きでダンジョンへ入ることが許された。
そして同好会が正式に部活と成ったある日、高山緑地に出現したダンジョンの入口前で、遠巻きにダンジョンを眺める野次馬の中に勇達はいた。
彼等彼女等は、所謂ところの正義感の強い若者達であり、その年特有の全能感に突き動かされた勇者達でもあった。
ある日、学校での授業中に巻き怒ったダンジョンの出現事件。脳内に響くヘァッチャ・ダの侵略宣言。そして巻き起こったスタンピード。
何処か今に不満を覚えていた彼等は、これだと言わんばかりにそれぞれ相性の良い者同士を集い、ダンジョンへと挑むチームを組んだ。
勇達がダンジョンに来た目的は、侵略者の生み出したダンジョンを攻略して日本を──延いては世界を救うためだ。
しかし、全員が全員そういった正義感だけで動き出した訳では無いが、今はそれを置いておく。
しかしそんな彼等は今、バッチリ決めた装備を身に付けながらも、ダンジョンへ踏み出すことができないでいた。
その理由は周囲の人達にあった。
彼等は中学生であり、未成年。野次馬達に始まり、警察官や神主、受付の巫女にまでダンジョンに挑むことを止められていたのだ。
そんな彼等も周囲の説得の末に、渋々ではあるがダンジョンへの挑戦を一時的に止めたのだ。
では何故、未だに彼等がこの場にいるのかと言うと、ダンジョンに詳しい人に中の話を聞くか、もしくは一緒に連れていってもらうお願いをするためだった。
そのため、彼等は一番近いダンジョンかつ挑戦者がいると言うこの高山ダンジョンで待ち伏せしているのだ。
勇達がダンジョンでの作戦を交えつつ話していると、ダンジョンの入口に波紋が浮かび上がった。
そしてその波紋から、容姿を隠した大柄の男が出て来た。
「あ、来た!」
「あの人が高山の挑戦者……」
勇達の声に反応して、高山ダンジョンの挑戦者──大器が一瞬此方を見ると、直ぐに巫女の元へと向かっていった。
「行こう!」
「うん!」
「あの、すみま──」
勇達が小走りで近付いて声をかけようとしたその時であった。大器が徐にバックパックを下ろして中に手を入れ、中から熊とみまごう程に大きな何かを取り出したのだ。
取り出したそれを、大器は巫女達に良く見える位置へと放り出した。
その正体は、コーザティブウルフの死体だった。
そして大器は政府の人間に画像を見せ、ダンジョンの情報を話していた。
「うっ……あ……」
勇達は大器へ声をかけようとした。しかし、死体になっていても怖気の走るオーラを放つコーザティブウルフを見て、足が竦んでしまい一言も声が出せなくなっていた。
誰も一言も話せないなか、大器だけが普段通りに動いており、情報を話し終えるとそのまま帰っていった。
その背中を、そこにいる全ての人が畏怖の目で見ていた。
そして更に時が進んだある日、勇者の卵はダンジョンへと入る。
そこで自分達が自惚れた愚か者で、その上で大器がどれ程ヤバイか認識するのであった。
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