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[13]ミドルゲームスタート!!

-124-:草間・涼馬だ

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 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 少しばかり時間を遡り―。


 いくら待てども、一向に通学路に姿を現さない高砂・飛遊午にしびれを切らした草間・涼馬は、仕方なく高砂邸前までやってきた。

 今日は病気だろうか?

 少しばかり心配になる。

 インターホンを押しても……反応はナシ。

 玄関の引き戸に手を掛けるも、鍵が掛かっているじゃないか!

 2、3歩下がって、2階の窓を見やるも、気配は感じられず。…留守だ。

 何て事だ…。

「ふっ。まんまとしてやられたな。この僕とした事が」
 すっかりと騙されてしまった自身に苦笑した。

 さて。

 仕方が無い。大人しく学校へ行くとするか。

 マウンテンバイクに跨った瞬間、マウンテンバイクの後輪が浮く感覚が。

 構わず大地を蹴って前進を試みるも、マウンテンバイクは一向に前進してくれない。

「何がどうなっている!」
 振り向くと。

「チョイ。チョイ待ちや」
 髪をツインテールに結った少女が、後輪部分を掴んで持ち上げていた。しかも片手だけで!?

「何をやっているんだ?君は」
 少女に訊ねるも。

「逃げられへんように掴んどるだけや。気ィ悪ぅせんといて」
 掴まれている時点で、もの凄く腹立たしい。

「どこの中学生だ?こんな事をして、何が楽しい?」
 憤慨して見せるも。

「楽しゅうてやってるワケやない。チョイとお兄さんにウチらの話を聞いてもらいたいだけなんや」

「こんな笑えないイタズラをされて、大人しく話を聞くとでも思っているのか?」
 話をする気なんてサラサラ無い。
 この手が離れた瞬間に、一気に走り抜けてやろうと画策していた。

 そんな魂胆は少女に見透かされており。

「手ぇ放した瞬間に逃げ出すつもりやろ?そうは問屋が卸さへん」
 ことごとく腹立たしい。リョーマは中指で眼鏡をクィッと上げた。

「これほどまでに人様のジャマをしてまで、聞いて欲しい話とは何だ?」
 折れたつもりは無い。あくまでも逃げ出すチャンスをうかがう。

 すると、少女の傍らに、ようやくたどり着いた小柄な女性がリョーマに会釈して見せた。
 彼女は、大きな本を両手に抱えていた。

 少し、息を切らせながら。

「ふぅぅ。はぁ、始めましてぇ、私、ココミ・コロネ・ドラコットと申します」


 叫霊バンシーのツウラが言っていたココミ様のお出ましだ。

 ようやくと言おうか、これほどまでに人様の邪魔をしておいてと言おうか、とにかく、普通に声を掛ける配慮は持ち合わせていないのか?この連中は。

「なかなか立派なモノをお持ちのようで」
 いきなりのココミの物言いに。

 もう少し、さりげない会話の入り方は思いつかないのか?
 高砂・飛遊午は、こんな礼儀知らずな連中に加担しているのか?

 彼の人間性を疑う。

 取り敢えず……。

 マウンテンバイクから降りた。
 しかし、決してハンドルからは手を離さない。

 隙あらば、颯爽とサドルに跨り、一気にこの場から走り去ってやる。

 しかし、そうは事が上手く行くはずもなく。

 ツインテールの少女は未だに後輪を掴んだまま。

(コイツ…)
 少女の見かけに惑わされていた自身に腹立たしさを覚える。

「仕方が無いな。話を聞こうか。ココミ・コロネ・ドラコット」
 事情を知らないよりは、知っておいても損は無いだろうと踏んで、取り敢えず話を聞くことにした。

「では、貴方様のお名前をお教え願えないでしょうか?」
 他人様を捕まえておいて、名前さえもリサーチしていなかったのか?

「草間・涼馬だ」

「?」少女は首を傾げると「それだけですか?ヒューゴさんたちとは制服が異なるようですが」
 この少女は自分が高砂・飛遊午と顔見知りなのは存じているらしい。
 随分と、中途半端なリサーチをしてくれるものだ。

「城塞西高校の草間・涼馬。これでいいかな」
 中指で眼鏡を押し上げる。

「では、貴方様の隣にいる、この子はルーティ。先程から大変ご迷惑をお掛けしましたが、どうか、気を悪くなさらないで下さい」
 言ってくれるが、現在進行形でご迷惑を被っている。

「では、お急ぎのようなので、手短に用件をお伝え致します」
 分かっていて、この調子なのか!?

 あきれ果てている最中、ココミは手にする本を広げて見せた。

 白紙のページから浮き出る市松模様。

 そして、盤上に展開するチェスの駒たち。

「あらまぁ。まったく驚かれないのですね?」
 見下すような眼差しで本を眺めるリョーマに、ココミの方が驚いて見せた。

「お前…リアクション薄いのぉ」
 告げるルーティに。

「いいから、さっさと話を進めろ!」
 情け容赦なく、ココミたちに説明を続けるよう求めた。
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