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[19]悪魔の王

-199-:私が来ては不都合でしたか?

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 卑怯は承知の上!それでもベルタは、ダナ達の方へと向かって重戦車のように猛突進するガンマを後ろから斬りつけた。

 だけど、振り返られ、挙句に手甲でガードされてしまった。

「うくぅッ!」
 手甲さえも斬り通せない己の力の無さに、悔しさを露わにする。

 そのまま腕を振り切られてしまい、押し飛ばされてしまった。

 それでも体勢を立て直して、さらなる剣撃を放つ。


 そんなベルタの戦いを目の当たりにして、ダナは今さら大勢を従えて避難に移るのは無理と判断。

 この場で迫りくるガンマを迎え撃つべく、レイピアを構えた。


「たぁりゃぁぁーッ!」
 ガンマを足止めできないと判断したベルタは、(こいつで足止めしてみせる!)言葉の通りにガンマの足首を狙って剣撃を放つ。

 ところが、ヒョイッと軽く跳躍されて、放った剣撃は空を斬るだけに至った。

 ガンマは振り返り、「ブァーカ。ヒヒッ」人を馬鹿にしたような笑顔が瞬時にして歪んだ。


 その歪みは物理的に発生していた。


 衝撃に飛ばされたガンマの巨体が路上に転がる。

 ベルタはダナを、ダナはベルタを見やるが、お互いにその場から一歩も動いていない。

 そんな中、倒れるガンマの背中に急降下キックをお見舞いする一人の少女の姿。

「オノレは誰に向かって口聞いとんのじゃあ!」
 さらにもう一度垂直にジャンプ。続けてストンピングをお見舞いする。

「ルーティ?どうして、ここに?」
 突然のルーティの出現にベルタ、ダナ二人そろって驚いた。

刹那セツナはんのマスターから、ヒューゴが通っとる道場にココミの従兄が来るさかい、来てくれ言われて、ココミと一緒に向かってる最中やったんです」
 告げながら、ガンマの背中を踏みにじる。

「刹那の!?しかし、刹那はすでにライフの体を失っているはず」
 ダナが指摘した通り、紫蛇竜パープルドレイクの刹那はすでに兵士ポーンの駒を獲られており、盤上から退場している。

 退場した駒と契約を結ぶメリットが見当たらない。

「次のセカンドゲームに備えて、失われた駒たちのマスターを探しているのですよ」
 ココミ・コロネ・ドラコットがダナたちの後ろから姿を現した。

 セカンドゲーム…通常のチェスでは、第2戦を意味する。

 だけど、案の定、彼ら識界の住人達は勘違いを起こし、勝ち上がった後に行われる決勝戦を“セカンドゲーム”と呼んでいた。

 なので。

「は、はぁ…」何も知らないベルタとダナは、訳の分からないまま納得した。

「ンガァーッ!」
 ストンピングを繰り返すルーティを跳ね除けて、ガンマが勢いよく立ち上がった。

 飛ばされたルーティは、転がりながらもすぐさま体勢を整えて、体に付いたホコリポンポンと叩く。

「さすがはオリンピアのニセ天使と言ったところでしょうか」
 ココミが皮肉を込めながら称賛する。そして、「ルーティ。いけますか?」訊ねた。

 ところが、当のルーティは諦めたかのように肩をすくめて見せている。

「こない頑丈なヤツはウチでは骨が折れるわ。コールブランドはんに来てもろて正解やったわ」
 ルーティの口から出た名前に、ベルタ、ダナ、二人して戦慄した。

「ル、ルーティ?コールブランド様も、ご一緒されているのですか?」
 の問いに、「はい~」いかにも良いコトをしましたと言わんばかりの笑みを見せて答えてくれた。

「あ、あの方を…ここへ…」
 驚愕し、呟くダナに。

「私が来ては不都合でしたか?」
 隣に現れた車椅子の女性の姿に、ダナは思わず飛び退いてしまった。

「どうしたのです?ダナ。私の顔に何か付いていますか?」
 訊ねてくるコールブランドに、ダナはただ小刻みに首を横に振るだけ。

 コールブランドが、ダナ達の前へと出た。

「ダナ、貴女のご主人様に気に入られたい気持ちは解らないでもありません。しかし!」
 振り向いたコールブラントの目は底知れぬ厳しさに満ち溢れていた。

「しかし!何なのです?その煽情的な姿は!今は、夜の床を共にしているのではないのですよ!少しは戦いを意識した格好をなさい!」
 叱られてしまい、ダナは萎縮、頭を下げる。

 一方。

 ついでに「ベルタ!貴女も何て格好をしているのです!二人して、揃いも揃って動けば下着が見えそうな破廉恥な格好を。ベルタ!そもそも貴女は男性ではなかったのですか!」

 コールブランドの衝撃的発言に、ダナに引率されていた皆が、とたんにざわめいた。

 誰もが、ベルタをニューハーフの類と疑いの目を向ける。

 映らぬことを忘れたカメラマンが、思わずベルタにカメラを向けてしまう。

 スカートの裾を手で押さえるダナから、矛先をルーティへと変えた。

「ルーティ!ボサっとしていないで、さっさとっておしまいなさい!」
 容赦ない命令が下る。

 と、ルーティは立ち上がったガンマに向けて口を開け。

 ボンッと音を立てて、口から火の玉を吐いた。

 弾道軌道を描いて、火の玉はガンマに命中。しかし。

 小さな爆発を起こしただけで、致命傷には至らなかった。

 すると。

「ルーティ!」
 コールブランドの金切り声がルーティの鼓膜に突き刺さる。

「貴女!何を呆けた戦いをしているのです!?そんな、撫でるような攻撃ではネズミ一匹殺せはしませんよ!」
 とんでもない事に、コールブランドは脇とはいえ基幹道路で、”殺す”という言葉を傍目も気にせずに連発した。 

「で、でも、こんな人通りの多い場所では」「言い訳は聞きません!」
 コールブランドはさらに前へと出た。

「だったら、敵を追いやるまでです」
 告げると、コールブランドの足元に魔方陣が展開!彼女を甲冑姿へと変えて行く。


 キュルキュルキュル。

 先ほどまで聞くことは無かったキャタピラー音。そして。

 ガッシャンと重量感のある金属音が鳴り響く。

 居合わせた誰もが、コールブランドの姿に大きく目を見開いた。

「コ、コールブランド…様?、そ、それが…貴女様の・・甲冑姿…??」
 驚愕するダナがコールブラントに訊ねた。

「そうです。これでも手緩いくらいです」
 告げたコールブランドの姿は―。

 車椅子を、腰から下をキャタピラーへと換装し、右腕にはミニガン、左腕にスモークディスチャージャー、そして肩には無反動砲を備えた、見るからに“人間戦車”へと姿を変えていた。

 コールブランドの姿に危機を察知したガンマが道路を横切り走り出す。が。

 ブゥゥゥゥゥンッ!と右腕に装着されたミニガンが唸りを上げる。

 1分間に2000発発射できるミニガンの弾丸が、アスファルトを削り、マンホールを蜂の巣にしてゆく。

 あまりにも容赦の無い攻撃に、ガンマは逃げ遂せないと判断、宙へと跳んだ。が。

 コールブランドの右目にヘッドアップディスブレーが展開!空中のガンマを照準に捉える。

「ファイア!」
 掛け声と共に、肩の無反動砲が砲口からガスと火を吹き出して、発射された砲弾はガンマに着弾!大爆発を起こした。

「敵を追うも火力!仕留めるも火力!ですわ!」
 周囲にまるで配慮しない火力バカたる台詞を吐いた。



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