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[22]聖剣&魔剣

-232-:貴女を失った皆と顔を合わす事なんて、私、とても出来ないよ

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 ボウガンから放たれた矢は、それぞれ推進力を全開にしてアーマーテイカーを貫いた。

 全身に深く突き刺さる矢によって、アーマーテイカーは沈黙。

 そのまま落下を始めた。

「これでトドメだぁ!」
 イエヤスは追撃とばかりに、釘バットをフルスィング!

 アーマーテイカーの頭部が、ホームランをかっ飛ばしたように、遥か遠くへと消えて行ってしまった。

「クレハさん!!」
 魔導書に向かってココミが叫ぶ。

 落下してゆくアーマーテイカーの騎体は、矢を受けた肩部が千切れ、その他外部装甲が次々と剥がれ落ちてゆく。

 さらに、背部リアスカートまでもが外れて、アーマーテイカーはついに分解を始めた。


「これで、ようやくシズカちゃんを助けに行けるぜ」
 釘バットを肩に担いでアルルカンの援護に向かおうと。


「アイツら、行った?」
 背後から聞こえる、女性の問う声。

 イエヤスは振り返るも、背後には誰もいない。

 センサー類を確認するも、アーマーテイカーの残骸が引っ掛かるだけ。

 イエヤスは首を傾げて、「どこかの無線でも拾ったか?」

 だけど。

「まだ敵情報を獲得していないよ、イエヤス。それが、君がノブナガに勝てない理由だと、何故気付かない」
 突然、ライクからの通信が入った。

 と、ツウラが残念そうに溜め息を漏らした。


 黒玉教会では―。

「??敵情報を獲得していない?もしかして、クレハさんたち、まだ無事なのですか?」
 ココミは、敵であるライクに訊ねた。

「その通り。ツウラは気付いていたみたいだけど、あのまま見過ごしたら、後ろからの不意打ちは目に見えているからね。フェアプレイに反するけど、ボクから助言をさせてもらったよ」
 ココミには分からない事ばかりだった。

 どうして、敵であるツウラがクレハたちを、わざと見逃そうとするのか?まったく理由が掴めない。

 とはいえ、ライクは自軍へ助言をしたのだから、自分もクレハたちに何か助言をしないと、ここは帳尻が合わない。

 何か彼女たちに手助けとなる助言はできないだろうか?

 ココミは閃いた!

「クレハさん!敵に貴女たちの生存は知られてしまっています。今すぐ逃げて下さい!」
 ライクとツウラの通信が繋がっている傍で行われる助言。

 しかし、それは敵に情報を与えるだけの結果となった。


「あのバカ…」
 呆れてモノが言えない。

 情報を得たイエヤスは、バラバラに落ちてゆく残骸を隈なくチェック。中でもほぼ無傷なパーツをピックアップして照準に捉えた。

 ボウガンはもはや打ち止めとなっている為に、叫霊バンシー特有の叫び声を発射した。

 叫び声の標的となったのは、アーマーテイカーの背部リアスカート。ところが、リアスカート部分は落下途中に軌道修正を行って攻撃を回避した。

 間違いなく、アレにパイロットが乗っている!生存している。

 リアスカート部分が空中で変形して人型へ。真アーマーテイカー(便宜上)に変形!

 パーツがパーツなだけに、体は小さく手足も異様に細い。

 とてもではないが、これで白兵戦はムリだ。

「ガンランチャー、残り時間は!?」

「あと1分ありませんよぉ、クレハさぁん。ところで、また私を本名で呼んでますよ」
 咄嗟に出てしまう不手際は目をつむっておいてくれ。

 とにかく、この姿で残り時間を凌がねばならない。

 やたらめったら撃ちまくる叫び攻撃は、回避推力全開で避けまくり、それでも無理なら浮遊素をばらまいて即席バリアを張って防ぎ切る。

 そんな努力も空しく、ツウラの接近を許してしまった。

 ツウラの影が真アーマーテイカーに映る。

 やはり、釘バットで殴殺するつもりだ。なんて野蛮な。

「マズいすよォ、グレートにマズいスよォ。アイツら、あのバットで私たちをボコボコに殴り殺すつもりですよォ」
 解りきった相手の意図など解説してもらわなくても結構。

 残り時間を示すカウントに目を移す。残り15秒。

 そもそも、ココミが変な助言さえしなければ、難なく敵をやり過ごして、ガンランチャーに戻った瞬間に敵を蜂の巣にしてやるつもりだったのにぃ!

 イエヤスが釘バットで殴りかかって来た!

 バカの一つ覚えのごとく、とにかく振りかぶって殴打。一発目は難なく避けられる。

 だが、これを連続でやられると、結構危険極まりない。

 ならば!

 真アーマーテイカーでツウラの顔面をブン殴る。

 元々、人型とはいえ、ただのコアブロックシステムに過ぎない真アーマーテイカーの手は、殴ると同時にグシャグシャに潰れてしまった。

「痛ったぁい!」
 両者(共に魔者)同時に、痛みに声を上げる。

 分かってはいるけど、盤上戦騎ディザスターとなった魔者たちは、姿こそロボットでありながら、痛みを感じる。

 いざ、痛みを訴えられると、やはり攻撃した身として、とても申し訳なく思う。

 思わず「あ、ごめん」謝ってしまう。

 だけど。

「いいのよ、クレハ。このまま私たちをって頂戴」
 思わぬ敵魔者からの言葉に、クレハは戸惑いを隠せない。

「貴女…どうして私の名前を知っているの?」
 容赦なく振り回される釘バットを身を退いて躱す。

「クレハ。貴女とは、あまり仲良くならなかったし、お喋りもしなかったけど、貴女を失った皆と顔を合わす事なんて、私、とても出来ないよ」
 敵盤上戦騎の声が涙声へと変わってゆく。

「だから、どうして私の名前を―!?」
 今、彼女は自分を殺してしまった後の事を悔やみきれないと言った。

 その中に“皆”という単語ワードが。

 この魔者とは、もしかして、人が大勢集まる場所で出会っていると言うの?

 誰だ?

 頭を巡らせる。

「ブッ殺す!!」
 野球のバット振りで釘バットが襲い来る。

「アンタは!ちったぁ黙ってろ!」
 元のガンランチャーへと戻った瞬間、ツウラの両膝を撃ち抜き、猛進を止めた。

「ヒューゴとフラウに、よろしく伝えて…」
 ツウラの言葉を聞いて、(誰?この女。馴れ馴れしくタカサゴを名前で呼んで)機嫌を損ねる。

 高砂・飛遊午に近づく女性は、もれなく敵認定。

 しかも、相手は魔者だし、殺しても死なないので心も痛まない。

 だけど、フラウの名が出てきた事を考えると、彼女の知り合いかな?誰だろう?

 思えば。

 いつか、フラウに紹介してもらった、同じ制服姿なのに、何故か、スゴくオサレな眼鏡メガネ女子がいたのを思い出した。

「あ、彼女アイツか…」
 ようやく思い出した。確か、名前は…津浦ツウラ”・アンジェリーナさんだっけ。

 クラスメートのフラウ・ベルゲンがとても懐いていた相手だ。

 フラウから友達を奪ってしまうのは、とても心苦しいけれど。

 高砂・飛遊午を気安く名前で呼ぶこの女は、いなくなっても良い存在だ。

 クレハは“ソレはソレ、コレはコレ”と割り切った。

 なおもしつこく襲い来るイエヤス。

 ガンランチャーのハンドガンが、まるでマシンガンの如く唸りを上げて連続で火を吹く。

 叫霊バンシーツウラの両肩関節、両股関節を吹き飛ばし、最後に「アリーデヴェルチ」頭部に数発撃ち込んだ後、しっかり敬礼も忘れない。

 
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