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[25]澱み

-278-:圧倒的じゃないか、わが軍は

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 VRアンデスィデを終えたクレハたちは、黒玉門前教会を後にした。


 まさか、あの程度の連中に、高砂・飛遊午が苦戦を強いられていたとは…。


 黒側の協力を得て変則ルールを適用する事となり、特別に黒側の盤上戦騎ディザスター相手にVRアンデスィデを行う事となった。

 白側は鈴木・くれは駆る爆炎紅龍フレア・ドラゴンのボンバートン。クィックフォワードの実のお姉さんだ。

 ちなみに城砦ルークの駒でもある。

 対する黒側はヒデヨシこと山田・疾駆やまだ・らいだ駆る骸骨亡者スケルトンのキャサリン、ヒデアキこと洲出川・宗郎すでかわ・むねお駆る耳翼吸血鬼チョンチョンのスグル、ゲンナイこと中松・一世なかまつ・いっせい駆る騒暴死霊ポルターガイストのウッズェの兵士ポーン3騎。

 駒の強さはもとより、あまりの圧勝ぶりにクレハは思わず。
「圧倒的じゃないか、わが軍は」
 呟いてしまった。

 まさに瞬殺だった。

 ポルターガイストのウッズェだけは、遠隔攻撃端末(ビット)による攻撃能力を、本来のマスターを得て申し分なく発揮するも、開始1分も経たない内に、他の騎体共々、戦闘不能に陥った。

 3騎も出撃しながら、1分以内にすべて倒されてしまったのである。



 フレア・ドラゴンのボンバートンはガンランチャーと同じく砲撃戦主体の騎体であるが、さらに破壊力のある弾丸を保有し、着弾した箇所を跡形も無く吹き飛ばしていた。

 これには盾を持つ騎体であっても、そう長くは持ちこたえらずに、次々と戦闘不能状態へと陥っていった。

「銃身がブレードの対戦車ライフル銃“スマートライフルソードか…厨二心をくすぐる一品だわ、コレ」
 メイン武器が超気に入った様子。

 武器交換をせずとも、瞬時にして射撃戦から近接戦に移行できる代物である。

「コレならロボやツウラも難なく倒せたのになぁ」
 悔やまれてならない。



 クレハはヒューゴたちと別れる事に。

 さすがのノブナガも、一度明智・信長としてキョウコの前に姿を現した以上、もはやチーム戦国のリーダー、ノブナガとして姿を晒す訳にもいかず、今日は姿を現さなかった。

 なので、魔者を持たないキョウコを、ヒューゴが送っていく事となった。

 パーティーの後、消息を絶ったケイジロウと首無しデュラハンのジェレミーアたちがいつ何時キョウコを再び襲わないとも限らない。

 それに、あの夜の事は何としてでもキョウコに悟られてはならない。


 クレハが一人歩く道中は、人通りは少ないものの、復興事業に取り掛かるダンプカーが行き交い、騒音と排気ガスがすさまじい。

 喉を傷めそうだ。マスクをしておけば良かったと後悔した。

 静かにバス停で待つ。

 それにしても。

 猪苗代・恐子を送ってゆく高砂・飛遊午の何とも楽しそうな顔。

(タカサゴのヤツ、キョウコちゃんの事、好きだったのかな…)
 キョウコの事を何かと気に掛けていたし、代わりにアンデスィデに参戦するとも宣言していた。

 今日も、彼がキョウコを送って行くと言った時に、一緒に付いて行くとは言い出せなかった。

 何だか、お邪魔虫みたいじゃない。

 そんな気がしてならなかった。

「ノブナガのヤツ、自分が来れないのなら、せめて魔者だけでもキョウコちゃんのボディーガードによこせってんの!」
 手際の悪いノブナガに腹立たしさを感じる。

 今か今かとバスを待っていられずに、道路へと首を伸ばしてバスが来ないかを待ちわびる。

 すると、中学生だろうか?野球のユニフォームを着た少年たちの集団が自転車に乗ってやって来た。

 ダンゴ状態で車道を走っている。

(うわぁ…交通ルールくらい守れよ。一列になって走ってくれなきゃ、走っている車に迷惑でしょうが。しかもここ、ダンプカーが頻繁に通るし…)
 危ないので車道から首を引っ込めた。

 しばらく待つ…。

 ………。

 ………!?ん?

 クレハは再びバス停から車道へと首を伸ばした。

「アレ?」
 野球少年の集団が見当たらない。

 クレハは辺りを見回した。

 お店に立ち寄るにも、彼らのいた場所からバス停まではお店など一つも無いし、入り込む道路すら無い。

 彼らは忽然と姿を消してしまった。

「何で?どうして?」
 再び辺りを見回す。

 おかしい!

 さっきまで、あんなに行き交っていたダンプカーが一台も通り過ぎない。

(これって、まさか!)
 以前、キョウコが襲われた状況と全く同じ。

 首無しデュラハンのジェレミーアに襲われたシチュエーションとまるで同じではないか。

「ま、マジか…。で、何で私のところへ来るのよぅ」
 どうすれば、この固有結界から抜け出せるのか?辺りをキョロキョロと見渡すも、出口らしきものは一切見当たらない。

「ハロ~」
 顔半分を隠す反面マスクを被った男性が、バス停に設けられている時刻表の裏から顔を出した。

「ヒィッ!」
 恐ろしさのあまり、声にならない。

 半歩退くのがやっと。

 呼び出す魔者もいない。高砂・飛遊午もいない。

 この状況、紛れも無くピンチだ!

 そしてとうとう、時刻表の裏から、ジェレミーアがその姿を現した。
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