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[28]白の中の者たち

-304-:ベルタ、お願い!貴女の力を貸して!

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 クレハは、女王騎を操作できるほどの霊力を持ち合わせてはいない。

「よって、あえなく城砦ルークの駒、爆炎紅龍フレアドラゴンのボンバートンさんとなってしまう訳ですが、砲撃戦特化に近いボンバートンさんで、果たして妲己に対抗できるか、どうか…」
 不安を滲ませた。

 ルークともなれば、効果魔法エフェクトマジックのカードを5枚も使える訳だが…よくよく考えてみれば、敵である妲己は、さらにそれをも超える9枚カードを使えるチート騎だった。

 一瞬イケると思ったのに、不安は未だ払拭できないまま。

「だから、僕も行くんです!」
 そんな時、タツローがココミの前に立った。

「クレハさんとの“コントラスト”なら、きっとオトギさんたちに勝てるはずです」
 え?

「しょうがないですねぇ…。それで行きましょう」
 承服しかねる面立ちで、妥協するココミを見やり、クレハは焦った。

「ちょ、ちょっと待ってよ」
 クレハの止める声に耳を貸さずに、ココミはc7兵士ポーンの駒を手に取り。

「ところでクレハさん。ベルタさんとの契約がまだでしたね?」
 訊ねてくるも、今、兵士の駒をd8女王クィーンにぶつけて弾き飛ばそうとしたよね?

 アンデスィデに参戦するとは言ったけど、あんなバッタに乗るなんて願い下げだ。

 しかも、アイツの武器、両手の鎌と背中の砲だけじゃなかったっけ。

 僧正ビショップとは名ばかりの、戦力外騎。

 契約画面ページが開かれ、今にもQRコード読み取りを迫ろうと構えるココミ・コロネ・ドラコット。

「大丈夫ですよ。クレハさん。僕とオトギさんでも、アルルカン3に対抗できたのですから」
 アイツ、騎士ナイトやったやないけ!

 今度の相手は女王なんだよ。最強の騎体なんだよ。

 それに、コイツらコントラストになるっつっても、バッタグラムになるには、いきなりものまねミミックのカードを使う(ドブに捨てる)事になるんだよ?

「では、QRコード1を読み取って下さい」
 こうなれば腹を括るしかない!ただし、絶対にバッタグラムの姿のままではいないからね!

 不本意な契約は完了した。

 これで。


 ココミは兵士の駒を、d8の女王クィーンの駒へとぶつけて弾き飛ばした。

「私はベルタさんで妲己をテイク!6つ脚火竜ファイアドレイクのベルタさんから漆黒潜龍ダークネスドラゴンのグラムさんへアンダープロモーション!!」

「えぇッ!?」
 クレハが驚く傍ら、ココミは声高らかにテイク&アンダープロモーション宣言をした。


 ちなみに、アンダープロモーションとは。


 兵士の駒が成り、つまりプロモーションする際、本来なら女王の駒に成るのだが、戦況により他の駒に成る事をアンダープロモーションと呼ぶ。

 戦況と言っても、状況は諸々なので、詳しくは説明しない。


 各々のスマホにアンデスィデを報せるメッセージアラームがなる。


(まさか、ウソでしょ!?このバカ、何でボンバートンじゃなくて、グラムに成るコトを選んじゃうのよ)

 呆れすらも、怒りすらも超越した感情。


 もう!破れかぶれだ!どうにでもなってしまえ!


「ベルタ、お願い!貴女の力を貸して!」「了解しました」
 魔法陣がクレハを包み込んでゆく。

 そして、リョーマを、タツローを戦場へと誘って行く。


 転送された先は、ベルタのコクピット内。

「やっぱりコレかよ!」
 転送されて、いきなり不満を爆発させた。

 グラムと同じバイク型コクピット。どうして!?

 まあ、パイロットスーツはガンランチャー搭乗時の魔法少女タイプのままで安心したけど。

 オトギがまとっていた、ボディーライン丸出しのセクシーパイロットスーツでなくて本当に良かった…クレハは心から安堵した。

 ハンドルを握り、フットペダルに足を掛ける。

 ムムム…。

(イタイわ…。イタ過ぎるわ。この格好。まるで小さな子供がアトラクションのバイクゲームをやっているみたいだわ…)

 ふと、小柄な声優が大型バイクに跨っていたSNS画像を思い出す…。

 恥ずかしさを通り越す屈辱感に塗れる。

 叩くようにしてカードホルダーを扇状に広げ、その中から融合合体フュージョンのカードを引いた。

「タツローくん!さっさと合体するわよ」
 コクピット仕様も気に入らないが、それ以上にバッタ型盤上戦騎ディザスターというのが気に入らない。

「ココミ。大変気が荒れているようですが、オトギを前にして冷静でいられますか?」
 頭上からのベルタの声。

「ごめんね、ベルタ。余計な心配を掛けちゃったね。私は大丈夫だよ。それよりも貴女は大丈夫なの?」
 ベルタにしてみれば、大切なマスターを奪われたのだ。以前にも同じ思いをしたのに、またもやマスターを奪われてしまうなんて。

「私の心配は無用です。アーマーテイカーを信じていますから」
 彼女の言う通りだ。今はヒューゴの治療に専念しているアーマーテイカーを信じよう。

「あの、クレハ」
 まだ何かあるのかな?クレハは頭上を見やった。

「私はどちら・・・でいれば良いのでしょうか?男性?それとも、今のまま女性がよろしいですか?」
 そんな質問、考えるまでもない。

「今のままでいてちょうだい。オッサンなんて、いるか!」
 キッチリ理由まで添えて。
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