凡人勇者の俺が生意気な神官少女の従者にされた件

まぐろ定食

文字の大きさ
1 / 11

ある日の勇者のモンスター退治

しおりを挟む
 スライムが あらわれた!

 ゆうしゃの こうげき!
 スライムに 1ダメージ!

 スライムの こうげき!ミス!
 ゆうしゃの かいしんのいちげき!
 スライムはたおされた……

「体よく追い出されたような気がする……」

 勇者はボヤいていた。

 故郷の村で15歳の誕生日を迎えたら、いきなり母親に勇者の使命があると告げられ、城の王様に会いに行くように勧められた。

「いやだ! 俺は父さんとは違うまっとうな職業について安定した暮らしをするんだ!」

 却下された。

 しぶしぶ城の王様に会いに行くと、

「お前が勇者か、冴えない顔だのう。まあよい、勇者候補は他にもたくさんいるから、お前には期待していない。そこの宝箱に入っているものを持っていけ」

 とだけ言われ、宝箱を開けるとヒノキの棒と5ゴールド(薬草がひとつ買える)が入っていた。

 ふざけんな。

 文句の一つでも言ってやりたかったが、怖い顔の大臣と二人の門番がこちらを睨んでいたのでやめておいた。

 とりあえず腹が減ったので家に帰ろうとすると、母親は家に入れさせてくれない。

「魔王を倒すまで帰ってきてはなりません、それが勇者の定め……」

 ドアの鍵を開けてくれなかった。ドアの向こうでは父親の声で「ついに刻がきたか…」という呟きが聞こえる。

 俺のテンションはだだ下がりだった。盛り上がってるのお前らだけだぞ。

 俺は仕方なく村の宿屋に止まるための7ゴールドを稼ぐことになった。

 この世界は魔物を倒すと多少のお金を落とすことがあるご都合主義な世界ではない。

 倒した魔物の一部を持ち帰り、ギルドに提出することで換金してもらえる仕組みだ。

 俺が倒せるのはせいぜいスライムぐらい。俺は近くの草原に行くことにした。

 スライムは、知能の低い非定型生物だ。ゲル状の身体に、目玉が二個ついている。どこにでもいるような魔物。

 草原でしばらく歩いていると、スライムを一匹見つけた。

 俺はにじり寄って、ヒノキの棒でこつん、と叩いてみた。何事も慎重さは大事だ。

 するとスライムはこちらに振り返り、その身体で飛びかかってきた!

「うわっ、気持ちわる!」

 俺は脅威よりもあの気持ち悪いヌルヌルに触れたくないという生理的嫌悪から、とっさに避けていた。スライムは完全にこちらを敵と認識したようで、しきりに体をうごめかせている。

 俺は今度はヒノキの棒を振りかぶると、思い切りスライムに叩きつける!

 ピギッ

 嫌な断末魔が聞こえると、スライムはへたり込み、液体のような形状で死んでしまった。

 「ええ……これ一体でも結構後味悪いんですけど」

 俺はスライムとはいえ、命を奪ったことに罪悪感を感じつつ、液体(元スライム)の一部を持ち帰った。


 これをギルドに届ければいいんだろう。ギルドは草原を越えた先の街にある。前も行ったことのある街だった。

「どういうことですか!ホブゴブリンは退治したはずでしょう!」

街のギルドに入ると、なにやら叫んでいる女の声がした。

「ですから、あなたが退治したのはただのゴブリンなんです」

「でも普通のゴブリンよりも大きかったわ!」

「個体差だったんですよ、太ったただのゴブリンだったんです」

「そんなの納得できない!」

 なにやら別の受付で騒いでいるようだが、こういうのは関わりあいにならないに限る。俺はスムーズに別の受付でスライムを換金した。

 スライム一体の換金額は3ゴールド、所持金は合計8ゴールドになったわけだが、街の宿屋に泊まるのは抵抗があった。

 街は物価が高い、つまり宿屋の料金も高いのだ。案の定、宿屋の宿泊代は10ゴールドだった。

 しかし日も暮れ、村に帰るには遅すぎる。俺は街の色々な宿屋を訪ね、どこも10ゴールド以上だということを知ると、一番安い宿屋に頼み込んで使わない倉庫に泊まらせてもらうことになった。8ゴールドで。

 冒険の第一日は、ホコリまみれの、蜘蛛が巣を張っている古倉庫。

 あたたかいベッドと、あたたかいご飯があった昨日までの生活とはうってかわって貧相になった俺の生活に、俺は両親に恨みの念を抱かずにいられなかった。

 腹の虫が鳴いている。今日は何も食べていなかった。

 宿屋の主人のお情けで廃棄のパンを頂いたが、フワフワとは程遠い食感、むしろゴワゴワだった。たぶんスポンジだと言われても信じる。

 俺は倉庫で寒さに震えながら目を瞑ると、勇者の使命、そして魔王ってなんなんだよ……と思いつつ、明日から一文なしでどうしよう……と絶望の念を抱かずにはいられなかった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...