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二人の笑顔
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魔王城から帰って、俺たちを出迎えたのは大臣だった。
「王様から話がある」とだけ告げられ、俺たちは城の王様に会いに行くことになった。
魔王であったミトラの兄は、自分のケリは自分でつけるとだけ残して、魔王城で別れてしまった。
久しぶりの謁見。最初に来たときは、あまり期待されていなかったな。そんなことを思っていると、王様が現れた。
大臣が耳打ちすると、王様は「え、まじで?」みたいな顔をしてから、咳払いをして話し始めた。
「えー、諸君らが魔王を討伐した者たちだということは、下の者から聞いている。魔王討伐報酬として、なんでも好きなものを与えよう」
俺は、ポカーンとしていた。
「なんでもいいんですか!?」
「できる範囲ならな」
なんだろう、金銀財宝?
ハーレム?
チート装備?
何にしようか……と一瞬思いかけたが、俺は考え直して。
「家を一軒下さい」
「ほう、どんな家がいいかね? 豪邸かね?」
王様は、それなら大丈夫だ、といった風に安心して聞いてくる。
「いえ、普通の家で構いません、この街に住みたいんです」
「謙虚な若者じゃのう! では、すぐに手配しよう。それで、あとの二人は……」
王様はアイとミトラにも尋ねていた。俺はその願いで満足だった。
一週間が経ち、実家からの引っ越しはほとんど済んだ。
魔王を倒した(救った)報告に実家に帰ると、母親はすぐに信じてくれなかった。ひどくないか?
「証拠はあるの! 証拠は!」
万引き犯か。俺はとりあえずヒノキの棒を見せると、なぜか母親は納得したようだった。
「さすが私の子ね」
数分前まで疑ってましたけど。
父親は「やはり勇者の血がなせる業」とか呟いていたが、ほっておこう。
引っ越した先は、街の中心部を少し外れた、買い物にも冒険にも便利な場所だ。
俺がここを選んだのには、わけがある。
玄関の呼び鈴が鳴った。そろそろ時間だ。
「お邪魔しますですよ! なんですかここ、結構いい家じゃないですか!」
白いローブの金髪少女が元気よく入ってきた。
「お邪魔しますね。あら、ラストさんお久しぶりです」
続けて、赤い髪の剣士な女の子が入ってきた。
「あ、これ新居移転祝いです」
小麦粉の麺類を渡された。
アイとミトラに、引っ越しが済んだら俺の家に来るよう伝えておいたのだ。話したいこともあるし、と伝えて。
「それでラスト、新居の居心地はどうですか?」
「悪くないよ。一人暮らしは大変だけどな」
そんな話をしながら笑い合う俺たち。俺は折を見て話を切り出した。
「二つ、約束を果たさなきゃならないと思ったんだ」
「約束? 魔王……兄さんは救ってくれましたし、他に何かありましたっけ?」
「忘れてるのかよ、ミトラ、お前には5万ゴールドの借りがあっただろ、それで……」
俺は金貨の袋を取り出した。魔王討伐の、金銭報酬だ。
「中にはきっちり5万ゴールド。こういうのは返しておかないとな」
ミトラとアイは、驚きながら顔を見合わせると、笑った。
「それならもういいんですよ、ラストにはそんなもの返してもらわなくてもいいぐらい、沢山のものを頂きましたから」
「でも……」
「じゃあ聞きますが、私を助けに来てくれたのは、5万ゴールドの件があったからですか?」
「違うに決まってるだろ!」
俺が、ミトラを助けたのは……
「友達、だから」
ミトラは笑顔だった。アイは、微笑ましくその様子を見ていた。
「まあ、どうしても引け目があるというのなら? いい方法があるんですけど?」
「な、なんだよ」
「そうですね、ラストさんとミトラには、いい方法がありますね」
アイはからかい気味に笑っている。
ミトラは、とびっきりの笑顔で俺に命令した。
「私の従者として、一緒に冒険しましょう!」
「あー、わたしの先約があるのに!」
アイはそう言いながらも楽しそうだった。
俺はまいったな、という顔をしながら。
「それじゃこれからもよろしく頼むよ、ご主人様」
と言ったのだった。
今日は快晴、空には鳥が飛び回り、川のせせらぎは澄んでいる。
俺の家で笑い合う、この二人の存在は。
俺にとって、5万ゴールドとは比較にならない価値があると感じたのだった。
【おしまい】
「王様から話がある」とだけ告げられ、俺たちは城の王様に会いに行くことになった。
魔王であったミトラの兄は、自分のケリは自分でつけるとだけ残して、魔王城で別れてしまった。
久しぶりの謁見。最初に来たときは、あまり期待されていなかったな。そんなことを思っていると、王様が現れた。
大臣が耳打ちすると、王様は「え、まじで?」みたいな顔をしてから、咳払いをして話し始めた。
「えー、諸君らが魔王を討伐した者たちだということは、下の者から聞いている。魔王討伐報酬として、なんでも好きなものを与えよう」
俺は、ポカーンとしていた。
「なんでもいいんですか!?」
「できる範囲ならな」
なんだろう、金銀財宝?
ハーレム?
チート装備?
何にしようか……と一瞬思いかけたが、俺は考え直して。
「家を一軒下さい」
「ほう、どんな家がいいかね? 豪邸かね?」
王様は、それなら大丈夫だ、といった風に安心して聞いてくる。
「いえ、普通の家で構いません、この街に住みたいんです」
「謙虚な若者じゃのう! では、すぐに手配しよう。それで、あとの二人は……」
王様はアイとミトラにも尋ねていた。俺はその願いで満足だった。
一週間が経ち、実家からの引っ越しはほとんど済んだ。
魔王を倒した(救った)報告に実家に帰ると、母親はすぐに信じてくれなかった。ひどくないか?
「証拠はあるの! 証拠は!」
万引き犯か。俺はとりあえずヒノキの棒を見せると、なぜか母親は納得したようだった。
「さすが私の子ね」
数分前まで疑ってましたけど。
父親は「やはり勇者の血がなせる業」とか呟いていたが、ほっておこう。
引っ越した先は、街の中心部を少し外れた、買い物にも冒険にも便利な場所だ。
俺がここを選んだのには、わけがある。
玄関の呼び鈴が鳴った。そろそろ時間だ。
「お邪魔しますですよ! なんですかここ、結構いい家じゃないですか!」
白いローブの金髪少女が元気よく入ってきた。
「お邪魔しますね。あら、ラストさんお久しぶりです」
続けて、赤い髪の剣士な女の子が入ってきた。
「あ、これ新居移転祝いです」
小麦粉の麺類を渡された。
アイとミトラに、引っ越しが済んだら俺の家に来るよう伝えておいたのだ。話したいこともあるし、と伝えて。
「それでラスト、新居の居心地はどうですか?」
「悪くないよ。一人暮らしは大変だけどな」
そんな話をしながら笑い合う俺たち。俺は折を見て話を切り出した。
「二つ、約束を果たさなきゃならないと思ったんだ」
「約束? 魔王……兄さんは救ってくれましたし、他に何かありましたっけ?」
「忘れてるのかよ、ミトラ、お前には5万ゴールドの借りがあっただろ、それで……」
俺は金貨の袋を取り出した。魔王討伐の、金銭報酬だ。
「中にはきっちり5万ゴールド。こういうのは返しておかないとな」
ミトラとアイは、驚きながら顔を見合わせると、笑った。
「それならもういいんですよ、ラストにはそんなもの返してもらわなくてもいいぐらい、沢山のものを頂きましたから」
「でも……」
「じゃあ聞きますが、私を助けに来てくれたのは、5万ゴールドの件があったからですか?」
「違うに決まってるだろ!」
俺が、ミトラを助けたのは……
「友達、だから」
ミトラは笑顔だった。アイは、微笑ましくその様子を見ていた。
「まあ、どうしても引け目があるというのなら? いい方法があるんですけど?」
「な、なんだよ」
「そうですね、ラストさんとミトラには、いい方法がありますね」
アイはからかい気味に笑っている。
ミトラは、とびっきりの笑顔で俺に命令した。
「私の従者として、一緒に冒険しましょう!」
「あー、わたしの先約があるのに!」
アイはそう言いながらも楽しそうだった。
俺はまいったな、という顔をしながら。
「それじゃこれからもよろしく頼むよ、ご主人様」
と言ったのだった。
今日は快晴、空には鳥が飛び回り、川のせせらぎは澄んでいる。
俺の家で笑い合う、この二人の存在は。
俺にとって、5万ゴールドとは比較にならない価値があると感じたのだった。
【おしまい】
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