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あの時からかもしれない。姉と比べられて苦痛を感じるようになったのは。それまでは幼心で姉を尊敬していたから。その後姉がその子と付き合う事は無く私の初恋は幕を閉じたのだ。好きな人が自分を見ていないことは誰にでも当てはまることかもしれないが、同じ時に生まれて容姿も酷似している人に思いを寄せていたのだ。どうして私じゃなかったのかと私を見てくれてはいなかったのだろうと。
嫌いになっちゃいけないって分かっていても心がそれを許さなかった。
大好きな姉だからこそ余計に、憎んではいけない相手だからこそ自分の気持ちをどこに向けていいのかわからない。
私が本を読む理由はそこにあった。加奈子ちゃんがいるから自分が自分でいられる気もするんだけれど、それ以上に比べられると劣等感を感じずにはいられなかった。
「世界を嫌いって言うのは言い訳だから」
自分の思い通りに現実をいじれるのであればそれはとても都合のいい、生きやすい環境だと思う。相手が居る事だからかもしれないのだけど、自分の気持ちだけで結論が出る事ならば私は誰とも有る程度の一定の距離を保っていたい。誰かと関わらなければならない世界ならば自分を守ってくれるのはやっぱり自分だけなのかもしれない。
生きることは誰かと交わることだというのにそれを初めから放棄している。
「嫌われる前に嫌いになれば自分が傷つく事が無いって考えているんだろう」
高梨さんが私の頭に手を置いて、ポンポンと叩いた。物分かりの悪い子供にどうやって伝えれば良いか考えているかのように高梨さんの視線は私を見ているようで見ていなかった。
「不器用さん何だね。意外と」
優しさから出た言葉なのだろうけれど私にしてみるとそう感じる事が出来なかった。
感じたままに言葉を発する。
「それはけなしているの?」
高梨さんがそんな人じゃないって分かっていながらも一応反論をする。そんな私の強がりを感じ取ったのかしょうがないなぁというような顔をして高梨さんは更に私の手をポンポン叩いた。
「本当は全部気づいているんでしょ。気がつかないフリなんてズルイよ」
高梨さんが何に対して言っているのか私には分からなかった。出来の良い姉ばかりを見ていて私なんて始めから存在していないような対応をする両親から守ってくれているのもまた姉だった。気がつかないフリなんてしているつもりはなかった。
私の表情を見て高梨さんは困惑した顔をしていた。先ほどまで叩いていた手は逆にぎゅうっと強く握られていた。
「自分を好きにならないと誰も自分の事を好きになってくれないよ」
「自分自身を好きになれたら苦労しません」
姉はこんな私を可愛いと言って抱きしめてくれる。それを疑わずに素直に受け止められているのは彼女が両親に対する愚痴をこぼしたり本気で私の為に怒ってくれるからだ。腐りきらずに居るのもきっと姉が居てくれたからだと思っている。
高梨さんは私の返事を聴いてとても困惑をしていた。
「生れついて人間嫌いの人なんていなくて、育っていく環境の中で人間は考え方が固定されていくんだ。十人十色の世界の中を生きていくのは容易な事じゃない。それでも生きていかなきゃいけないんだ。苦しい事も悲しい事も乗り越えていくしかないんだ」
必死に訴えてくるのはどうしてなのだろうか。私がそれほどまでに人間として持っていなければならないものが枯渇しているとでも言いたいのか。
「お説教をするために私に話しかけてきたの」
言われなくても気づいている。自分で自分の事が好きになれなくて、仲間外れにされる前から自分から離れていけば苦しまなくて済む。
友達と呼べる人が居ないのは己から心を開かないから。双子の姉は正反対の性格をしていて
彼女が悪い訳じゃない。彼女に勝手に嫉妬をしてて弱い自分の心を守る唯一の方法。
私はいつも姉の影になるようにひっそりと生きてきた。両親が私の本当の実力を知らなくて、加奈子ちゃんだけがそれに気が付いているのも身近で感じてきたから。
全て自分で招いた結果なのにそれを他人のせいにしようとしている己が居る。
「他人に信用を預けられるようになれたらどんなに君が輝きだすか」
真剣な顔をしている高梨さんは恐らく私の本質を見抜いているのだろう。
この生き方しかできないでいる事が良いわけじゃないのは知っているけれど今更どう生きろというのだろうか。
孤独を愛する訳じゃない。
本当は自分を見つけてくれる人を探していて、そんな人は居るはずないって矛盾した感情が胸の中を渦巻いていた。図書館に通っていたのもきっと心の中で自分自身を助けて欲しいと叫んでいて声を聞き取ってくれたのが高梨さんで、反発をしながらも拒絶をしなかった。
「自信を持てるようになれればいいんだけどね」
高梨さんは何かを思案するかのように顎に手を当てて考えていた。他人の心の奥底に眠っている感情を垣間見る事が怖くて、自分の存在を否定されるのが恐ろしくて見ないフリをしてきた。傷つく前に自分から予防線を張るのが一番いいという結論に達してから、私は他人と距離を置くようにしている。
自分を守る言葉ばかりを発する人達に嫌気がさしていた。仲よくしているようなフリをしているだけで本心では相手の事をこれっぽっちも信用も信頼もしていない大人達。
結果の出ない戦争のような気がしてならない。
「私が一番嫌いなのは自分自身なんです」
その言葉に高梨さんが私の方へと視線を向ける。小さいころから本を読みすぎているからか、人間関係の築き方について潔癖になっている節があるような気がする。
信頼関係を気づくのならば絶対に嘘をついて欲しくないと思うのは誰しもそうかもしれない。その中でも私は一番にそれを優先してしまう。
「嫌われるのを恐れて自分から最初に予防線を張って、それが世界を嫌いになるっていう選択肢になっているの」
そう言うと私は高梨さんの返事を待たずに足早に図書館を後にした。
また彼の元から逃げるような形になってしまったなぁと思いながら。
嫌いになっちゃいけないって分かっていても心がそれを許さなかった。
大好きな姉だからこそ余計に、憎んではいけない相手だからこそ自分の気持ちをどこに向けていいのかわからない。
私が本を読む理由はそこにあった。加奈子ちゃんがいるから自分が自分でいられる気もするんだけれど、それ以上に比べられると劣等感を感じずにはいられなかった。
「世界を嫌いって言うのは言い訳だから」
自分の思い通りに現実をいじれるのであればそれはとても都合のいい、生きやすい環境だと思う。相手が居る事だからかもしれないのだけど、自分の気持ちだけで結論が出る事ならば私は誰とも有る程度の一定の距離を保っていたい。誰かと関わらなければならない世界ならば自分を守ってくれるのはやっぱり自分だけなのかもしれない。
生きることは誰かと交わることだというのにそれを初めから放棄している。
「嫌われる前に嫌いになれば自分が傷つく事が無いって考えているんだろう」
高梨さんが私の頭に手を置いて、ポンポンと叩いた。物分かりの悪い子供にどうやって伝えれば良いか考えているかのように高梨さんの視線は私を見ているようで見ていなかった。
「不器用さん何だね。意外と」
優しさから出た言葉なのだろうけれど私にしてみるとそう感じる事が出来なかった。
感じたままに言葉を発する。
「それはけなしているの?」
高梨さんがそんな人じゃないって分かっていながらも一応反論をする。そんな私の強がりを感じ取ったのかしょうがないなぁというような顔をして高梨さんは更に私の手をポンポン叩いた。
「本当は全部気づいているんでしょ。気がつかないフリなんてズルイよ」
高梨さんが何に対して言っているのか私には分からなかった。出来の良い姉ばかりを見ていて私なんて始めから存在していないような対応をする両親から守ってくれているのもまた姉だった。気がつかないフリなんてしているつもりはなかった。
私の表情を見て高梨さんは困惑した顔をしていた。先ほどまで叩いていた手は逆にぎゅうっと強く握られていた。
「自分を好きにならないと誰も自分の事を好きになってくれないよ」
「自分自身を好きになれたら苦労しません」
姉はこんな私を可愛いと言って抱きしめてくれる。それを疑わずに素直に受け止められているのは彼女が両親に対する愚痴をこぼしたり本気で私の為に怒ってくれるからだ。腐りきらずに居るのもきっと姉が居てくれたからだと思っている。
高梨さんは私の返事を聴いてとても困惑をしていた。
「生れついて人間嫌いの人なんていなくて、育っていく環境の中で人間は考え方が固定されていくんだ。十人十色の世界の中を生きていくのは容易な事じゃない。それでも生きていかなきゃいけないんだ。苦しい事も悲しい事も乗り越えていくしかないんだ」
必死に訴えてくるのはどうしてなのだろうか。私がそれほどまでに人間として持っていなければならないものが枯渇しているとでも言いたいのか。
「お説教をするために私に話しかけてきたの」
言われなくても気づいている。自分で自分の事が好きになれなくて、仲間外れにされる前から自分から離れていけば苦しまなくて済む。
友達と呼べる人が居ないのは己から心を開かないから。双子の姉は正反対の性格をしていて
彼女が悪い訳じゃない。彼女に勝手に嫉妬をしてて弱い自分の心を守る唯一の方法。
私はいつも姉の影になるようにひっそりと生きてきた。両親が私の本当の実力を知らなくて、加奈子ちゃんだけがそれに気が付いているのも身近で感じてきたから。
全て自分で招いた結果なのにそれを他人のせいにしようとしている己が居る。
「他人に信用を預けられるようになれたらどんなに君が輝きだすか」
真剣な顔をしている高梨さんは恐らく私の本質を見抜いているのだろう。
この生き方しかできないでいる事が良いわけじゃないのは知っているけれど今更どう生きろというのだろうか。
孤独を愛する訳じゃない。
本当は自分を見つけてくれる人を探していて、そんな人は居るはずないって矛盾した感情が胸の中を渦巻いていた。図書館に通っていたのもきっと心の中で自分自身を助けて欲しいと叫んでいて声を聞き取ってくれたのが高梨さんで、反発をしながらも拒絶をしなかった。
「自信を持てるようになれればいいんだけどね」
高梨さんは何かを思案するかのように顎に手を当てて考えていた。他人の心の奥底に眠っている感情を垣間見る事が怖くて、自分の存在を否定されるのが恐ろしくて見ないフリをしてきた。傷つく前に自分から予防線を張るのが一番いいという結論に達してから、私は他人と距離を置くようにしている。
自分を守る言葉ばかりを発する人達に嫌気がさしていた。仲よくしているようなフリをしているだけで本心では相手の事をこれっぽっちも信用も信頼もしていない大人達。
結果の出ない戦争のような気がしてならない。
「私が一番嫌いなのは自分自身なんです」
その言葉に高梨さんが私の方へと視線を向ける。小さいころから本を読みすぎているからか、人間関係の築き方について潔癖になっている節があるような気がする。
信頼関係を気づくのならば絶対に嘘をついて欲しくないと思うのは誰しもそうかもしれない。その中でも私は一番にそれを優先してしまう。
「嫌われるのを恐れて自分から最初に予防線を張って、それが世界を嫌いになるっていう選択肢になっているの」
そう言うと私は高梨さんの返事を待たずに足早に図書館を後にした。
また彼の元から逃げるような形になってしまったなぁと思いながら。
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