巫女と龍神と鬼と百年の恋

真綾

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 初めて会った瞬間から白巳に恐怖も警戒心も抱かなかった。妖怪達に慣れてしまっていたからか、恐怖心を落としてきてしまったのか。

「黙って何をしているの?」

「樰翡様の居場所がどこなのか考えていただけだ」

「樰翡?」

 私は聞いた事のない音の響きに興味が湧く。白巳の目が細められる。

「呼び捨てにするとは無礼者」

 眼は剣呑な光を宿っていた。無邪気な子供のような雰囲気は消え失せる。

 樰翡というのが白巳の主で、村で祀っていた龍神の名前なのかな。

「ごめんなさい」

 深く頭を下げる。他人に対する礼儀を忘れることは人としてしてはいけない事。人間の棲む場所とは違うから理屈が通用しない。

 私の行動に一瞬だけ眼を丸くし、すぐに笑顔になる。

「大概の人間は簡単には認めたがらないのに」

「知らなかったのは私の方なのですから」

 悪いことをしてしまったら謝るのが当然のことで、相手を不快にさせてしまった事実は変えられない。

「自分の欠点を受け止める事が出来るとは」

「認めて治せるのは他の誰でもない自分自身です」

 白巳の瞳には優しい色が宿っていた。

「人間は自分のことを一番よく理解している。余計に醜い部分から眼を反らす特徴がある。お主はちがうようだな」

 ひときしり笑い段落すると白巳は質問に答えてくれた。どうやら忘れていた訳ではないらしい。

「樰翡様は“龍神”神の名前だ。人間ごときが気易く呼んでいい名ではない」

 白巳の表情からは獲物を狙う動物の本性が垣間見れた。その気配にぞくり、とした。

 見た目だけで相手の力を判断してはいけない。
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