巫女と龍神と鬼と百年の恋

真綾

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 通されたのは社の中の一角。全て白い部屋に寝具が一つ部屋の隅に置いてある。

「何を根拠にあんなことを言ったのですか」

 座布団などは存在して居なく、白巳はドカッと胡坐をかく。私は向かい合うように座った。

 樰翡は姿を消し、白巳の目には剣呑な光が宿っている。

「細波様は神の逆鱗を知らない」

 白巳の不器用な優しさに自然と頬が綻ぶ。

「心配してくださるのですね」

 真っ先に私を心配してくれるのはいつも異形のモノだ。人の仲間に入れない私に居場所を与えてくれる。

「違うわい」

「それじゃぁ、夕雪って誰ですか」

 聞いたことのある気がする音の響き。確信は無いけれど、何処か懐かしくてそれは白巳や樰翡の名前を聞いた時も感じていた。

「細波様が来る前に生きたまま流れ着いた者の名だ」

 桜花から以前人柱になった者の名を聞きそびれていた。こんなことなら聞いておけば確認が取れたのに。

 樰翡は私のことをみて「夕雪」と呼んだ。違うと言い姿を消した。

 私が人柱になった少女の生まれ変わりだと桜花は断言した。生きたまま流れ着いたのが彼女であればここで暮らしていたのだろうか。

 私が生まれ変わっているのであれば彼女は死んでいる。

 神様である樰翡は夕雪をずっと探し求めて、夢の中で悲しくて泣いているの?

 生まれ変わりの私が人柱としてここに来ても、奈々のような子を村から無くすことは出来ないというのか。

「細波様が悩む必要はない。村に雨が降らないのであれば少しくらい調整しよう」

「できるのですか」

「神の使いをやっているからな。多少であれば可能だ」

 白巳は立ち上がる。

「樰翡様は特別殺生を好むわけでもない。神の領域を穢れで満ちさせるわけにもいかないからな。しばらくここに居ることになるだろう。自由にこの場所を使ってくれ」

「いいのですか」

「いいも何も帰ることは叶わない。先ほど夢がどうだか言っていたが、細波様は樰翡様と逢ったことがあるのか」

「寂しくて泣いている神様が出てくる夢。神様は感情の名前を知らなくて、どうしたら不安を拭えるか検討もついていなくて」

 お付きの者に心も開けない神様。従者が知らない訳がない。主人が大切だからこそ側に居続けていることも分からなくて。

 私の祈りは村に雨を降らせて欲しいというもの。届いていたら村が飢饉に陥ることも人柱を立てようという話も出なかっただろう。
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