巫女と龍神と鬼と百年の恋

真綾

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「ここは神の庭です。人間である貴女がどうこうできる場所じゃない」

 白巳は先ほどまでの緊張感が取れ、気楽にこの空間の説明をしてくれる。

・神の庭のため主である樰翡様の気持ちに左右されることがある。
・穢れが許されない場所である。流血沙汰を起こさないこと。
・むやみに樰翡様のことを呼び立てないこと。神には神のやる事がある。

 普通であれば畑を耕し明日を生きるために懸命に仕事をしていくのだが、飢えも何も存在しない場所である。人の時間とは違う神の領域。

 人が住む場所では雨が降らねば作物は枯れていくが、心配する草花自体が無い。

 桜花達に逢えないと分かっていたけど、無事に生きていることくらいは伝えたかった。

「白巳、一つ質問してもよろしいですか」

「何が、気になった」

 得意げの白巳。懐かしさを噛み締めてしまうのは侻達を思い出すから。決意をしてここにきたというのに、子どものように家に帰りたいと泣いたら、人柱となった意味がない。

「私の居た場所に戻ることは可能なの?」

 以前人柱となった少女のことを桜花は話してくれたけど、戻ってきたとは言っていない。白巳が記憶を手繰る様に目をつむる。

「戻ることは可能といえば可能だが、生きたまま戻れる保証はどこにもない。命を粗末にしないと我は思う」

 どこか懐かしむように、白巳は私に笑いかける。
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