巫女と龍神と鬼と百年の恋

真綾

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 待ちに待っていた人間の娘がやって来た。樰翡様は細波様を見て夕雪と言った。

 それはきっと覚えていたことだと思うから。

 希望に掛けてみよう。何かが動き始めた気がする。

「樰翡様どうか忘れないでください」

 貴女を想っているのは我だけじゃない。夕雪様も貴女を想っているからこそ約束を違えず戻ってきてくれた。それだけでいい。

 神よりも欲深い人間の約束は正直半信半疑だった。いくら清い魂を持ち合わせていたとしても、人間には変わりがない。

 百年もの間なんの音沙汰もなかったのは『生まれ変わる』という人特有の魂の巡りのためだろう。人は生まれ変わると前世の記憶を忘れると聞いている。戻ってきたとて二人がまた以前のように過ごすという保証もない。

 姿は違ったとしても魂は同じ。

 樰翡様が唯一心を開いてくれたのは夕雪様だけで、我にすら心を開いてくれていない。長くそばに居て気が付かない程我も愚かではない。

 主の幸せが我の一番の望み。

 彼を主と定めたとの時から全てが彼の為になる様に動いている。

 例え従者が天候を操ることが本来はしてはならぬ掟だとしても。元々緩やかに自然を感じ生活をしていた樰翡様の元に人が集い崇められただけ。居心地がいい場所から離れないだけで実力は折り紙。何かを感じ取った人間たちが樰翡様のために定期的に祈りを捧げたり貢物をしてきているだけに過ぎない。

 我にとって唯一無二の存在の樰翡様が消えてしまわないように。守りたいそれだけ。

 凍り付いている心なのは我が出会った当初から変わらない。夕雪様が少し溶かしてくれただけで、また固まる前に細波様が現れた。

 今度こそ樰翡様が心から笑える時が来ますように。
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