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私の始まりの魂。
人間と神の時間の流れが違う代わりに、人の魂には輪廻転生がある。
「私は、私がここに居たいと願ったわ」
寂しがり屋の神様。
誰よりも優しくて、寂しいと心が傷ついていることに気が付かなくて。
側にいるよと言ったら、きっと失うのが怖くて離れていきそうな、優しい神様。
ずっと昔に恋をした。
何度生まれ変わっても貴方だけを愛しているから。
「蒐、本当はもっと前に貴方を封印しておけばよかった」
樰翡が不思議そうに私の顔を覗き込む。蒐には樰翡の顔が見えない。
神がいなくなった場所は廃れてしまう。新しい神が降り立てばいいけれど、穢れた場所を好き好んで住もうとする者は居ない。
私は巫女。
今までもこれからも貴方だけの巫女。
「一緒に逝くことは出来ないから、送ってあげるから」
「細波?」
不思議そうに首を傾げる蒐。樰翡に笑いかけた。大丈夫。ここは神の庭。
欲しいものは手に入る。
舞で使う鈴を念じると手に現れる。
しゃらん、しゃらんと、清らかな音が響き渡る。
元人間だった桜花は私の舞を褒めてくれた。神に捧げる舞を蒐は嫌っていた。桜花も本当は嫌ってもいいはずなのに、楽しそうに眺めてくれていた。
鈴を振る度に、一歩足を踏み込むたびに、蒐の体から零れ落ちていた穢れが薄れていく。
落ちるところまで落ちた蒐。救い出すことが出来ないから、代わりに私が貴女を楽にしてあげるから。
「細波、君が全部背負うことは無い」
樰翡が初めて蒐の方を振り返る。
「死ね」
樰翡の手から放たれた水の槍が一直線に蒐の胸に吸い込まれるように刺さる。
「うわわわわ」
囲んでいた炎は消える。
倒れこむ蒐は私の方へ手を伸ばす。
「細波・・・」
樰翡が伸ばしてきている手に水鉄砲を放ち、手は砕け散った。
「お前が呼んでいい名ではない」
蒐の体は灰となり消えてい逝く。
大切な妖の一人だった。家に集まっていた妖を殺したと言っていた。白巳も。
「樰翡様、白巳が」
「白巳がどうした?」
手を広げた樰翡は水の中に小さな蛇が蹲っていた。
「戻ってきてすぐ、見つけた。運よく逃げ切れたみたいだ」
抑揚に欠ける話し方。樰翡が白巳を心配しているのが分かる。
「怖い思いをさせた」
手の中の水たまりを消した樰翡はその手で私の頭に手を伸ばした。私は手を振りほどくことはせずに、触れながら話す。
「樰翡様、早く穢れを落とさないと」
舞のお陰で少しは軽減されたとはいえ、結界を破るほどの穢れだ。穢れが残ってしまえば樰翡にも影響が出てしまう。
「心配するな」
天を見る。変化のない空のはずなのに、ぽたぽたと雨が降り始める。
清めの雨。
「貴方のことを知りたいと思ったのです」
前世も始まりの魂も関係ない。私としての感情。
共有できる時間に限りがあるとしても、隣に居ることを許してくれる間、私は居続けたい。
「ずっと、そばに居てくれるのか?」
驚く樰翡。
私は彼の手を取る。蒐を殺させてしまった。背負おうとしていたものを樰翡が半分持ってくれた。
「ずっとそばに居ますよ」
命が尽きても、きっとまた私は貴女に会いに来てしまう。
夕雪の時が、そうであったように。
全てを忘れていても、来てしまった私のように。
「ずっと、か」
ぽたぽたと二人の顔を雨が伝う。
【完】
人間と神の時間の流れが違う代わりに、人の魂には輪廻転生がある。
「私は、私がここに居たいと願ったわ」
寂しがり屋の神様。
誰よりも優しくて、寂しいと心が傷ついていることに気が付かなくて。
側にいるよと言ったら、きっと失うのが怖くて離れていきそうな、優しい神様。
ずっと昔に恋をした。
何度生まれ変わっても貴方だけを愛しているから。
「蒐、本当はもっと前に貴方を封印しておけばよかった」
樰翡が不思議そうに私の顔を覗き込む。蒐には樰翡の顔が見えない。
神がいなくなった場所は廃れてしまう。新しい神が降り立てばいいけれど、穢れた場所を好き好んで住もうとする者は居ない。
私は巫女。
今までもこれからも貴方だけの巫女。
「一緒に逝くことは出来ないから、送ってあげるから」
「細波?」
不思議そうに首を傾げる蒐。樰翡に笑いかけた。大丈夫。ここは神の庭。
欲しいものは手に入る。
舞で使う鈴を念じると手に現れる。
しゃらん、しゃらんと、清らかな音が響き渡る。
元人間だった桜花は私の舞を褒めてくれた。神に捧げる舞を蒐は嫌っていた。桜花も本当は嫌ってもいいはずなのに、楽しそうに眺めてくれていた。
鈴を振る度に、一歩足を踏み込むたびに、蒐の体から零れ落ちていた穢れが薄れていく。
落ちるところまで落ちた蒐。救い出すことが出来ないから、代わりに私が貴女を楽にしてあげるから。
「細波、君が全部背負うことは無い」
樰翡が初めて蒐の方を振り返る。
「死ね」
樰翡の手から放たれた水の槍が一直線に蒐の胸に吸い込まれるように刺さる。
「うわわわわ」
囲んでいた炎は消える。
倒れこむ蒐は私の方へ手を伸ばす。
「細波・・・」
樰翡が伸ばしてきている手に水鉄砲を放ち、手は砕け散った。
「お前が呼んでいい名ではない」
蒐の体は灰となり消えてい逝く。
大切な妖の一人だった。家に集まっていた妖を殺したと言っていた。白巳も。
「樰翡様、白巳が」
「白巳がどうした?」
手を広げた樰翡は水の中に小さな蛇が蹲っていた。
「戻ってきてすぐ、見つけた。運よく逃げ切れたみたいだ」
抑揚に欠ける話し方。樰翡が白巳を心配しているのが分かる。
「怖い思いをさせた」
手の中の水たまりを消した樰翡はその手で私の頭に手を伸ばした。私は手を振りほどくことはせずに、触れながら話す。
「樰翡様、早く穢れを落とさないと」
舞のお陰で少しは軽減されたとはいえ、結界を破るほどの穢れだ。穢れが残ってしまえば樰翡にも影響が出てしまう。
「心配するな」
天を見る。変化のない空のはずなのに、ぽたぽたと雨が降り始める。
清めの雨。
「貴方のことを知りたいと思ったのです」
前世も始まりの魂も関係ない。私としての感情。
共有できる時間に限りがあるとしても、隣に居ることを許してくれる間、私は居続けたい。
「ずっと、そばに居てくれるのか?」
驚く樰翡。
私は彼の手を取る。蒐を殺させてしまった。背負おうとしていたものを樰翡が半分持ってくれた。
「ずっとそばに居ますよ」
命が尽きても、きっとまた私は貴女に会いに来てしまう。
夕雪の時が、そうであったように。
全てを忘れていても、来てしまった私のように。
「ずっと、か」
ぽたぽたと二人の顔を雨が伝う。
【完】
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