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第1章 First contact
第13話 命名
しおりを挟む「オ帰リナサイマセ、魔人サマ」
―――プルプルン
「ああ、ただいま」
戻ってきた俺を出迎えてくれたのはトレントとスライムさんだった。
俺は返事をして足元に近づいてきたスライムを抱きかかえる。何度も言うが素晴らしい触り心地だ。
「トレント、これから今日の事を報告しようと思う。だから皆を・・・いや、全員を集める必要はないか。そうだな・・・お前とアンデッド、それとトロルとゴブリンから一人選んで俺の家の前に集めてくれないか?」
「ワカリマシタ。直チニッ」
「急がなくていいぞー」
少し急ぎ目に離れていったトレントを見て、注意をしたがトレントの移動速度は変わらなかった。本当は集まるのを待っている間に少しだけ休みたかったが仕方ない。俺は彼らが集まるより先に自宅に着くように自宅に向かった。
家に着くと中には入らずに玄関の所で座って彼らを待つ。その間、今日知った事やこれからどうするかなどの考えを頭の中でまとめていく。そうしてしばらくするとトレントの声が聞こえた。
「オマタセシマシタ」
「ん、集まったか」
改めて目の前を見るとそこにはゴブリン、トロル、トレント、アンデッドという4種類の魔物がいる。俺の抱えているスライムを合わせれば5種類の魔物が俺の周りに集まってる事になる。
特に指定はしていなかったが、ゴブリンはやはり例の現場監督ゴブリンでトロルの方はいつも俺と話しているあのトロルだ。彼ら二人は日ごろからそれぞれの種族をまとめている節があったからだろう。俺もこの二人が来ると予想していた。まぁ別に他の奴が来ても話す内容が変わるわけじゃないんだがな。
「よしじゃあ、話すか。まずは―――」
5種類の魔物達に人間の国で知った事や解かった事を口頭で伝えていく。正直、彼らからしたら人間の国の事などはどうでもいい事だろう。だが、情報の共有はとても大事だ。それにこのようなあまり関係なさそうな情報を知っていてよかったと思う事があるかもしれない。今後も少なからず人間とは関わっていく事になるだろう。その時にこういう情報が使えるかもしれない。
まずは改めて今回の目的の事からはじまり、様々な道具の事やそれに必要な通貨の事、そしてその通貨を得る方法の事を話した。そこで少し大変だったのは通貨という存在の説明をしなければいけない事だった。魔物の彼らは通貨というものを知らない。かろうじてアンデッドが知っていたが、それ以外の魔物達は通貨という概念すら知らなかったのだ。
色々な説明が追加された事で予定より長く話していたが、彼らは熱心に俺の話を聞いてくれていた。
「と、まぁこれで以上だ」
「・・・ワカリマシタ。オ話シテクダサリ、アリガトウゴザイマス」
「いや、悪いがまだ終わってないぞ?さっきも話したが俺がこれからやりたいと思っている事には色々と道具が必要で、その道具を手に入れるためには通貨が必要になる。だから金を稼ぐ必要があるんだが・・・まぁ何が言いたいかというと、俺は金銭を稼ぐ為にハンターになろうと思う」
アドルフォン王国を歩きながら色々と考えた。そして考えた結果、手っ取り早く金を稼ぐのはハンターになるのが一番いいという結論に至った。だが―――
「だが、これも先ほども説明したようにハンターとは魔物討伐しなければならない職業だ。お前達も思う所があるだろう。もちろん俺もだ。お前達のような魔物だったら、出来れば殺したくはない。そこで俺は1つ考えた事がある」
魔物達を殺したくはない。そこで何かいい方法が無いかと考えた俺は、ある穴を見つけた。
それはハンター組合から説明された魔物の討伐の確認方法だ。ハンター組合が魔物を討伐したかどうか確認する方法は、魔物ごとに指定された部位を組合に提出することで討伐したかどうかの確認を取るという方法だ。例えばゴブリンやトロルだったら耳を切り取って提出すればその魔物を討伐したことになるし、アンデッドだと鎖骨の部分を提出すれば討伐したことになるというシステムだ。
それともう一つ確認方法がある。それは組合が直接依頼主に連絡を入れ、確認を取るという方法だ。普段は魔物の指定部位の提出と依頼主への連絡という二つの確認方法で討伐したかどうか、依頼を完了したかどうか確認する。しかし魔物との戦闘の際、魔物の指定部位が酷く損傷しており見分けるのが困難な場合や指定部位の消失が起きて組合への提出が出来ない場合は依頼主への確認だけになることがある。その場合は報酬が少し減るらしいが、そんなことは些細なことだ。
問題はこのガバガバな確認方法だ。
「もし俺が依頼を受けて討伐する事になった魔物でお前達みたいな魔物がいれば討伐することなく、この村に来てもらう、もしくはどこか別の場所に移動してもらうように説得するという方法を取ろうと思っている。要は基本的に依頼主は魔物がいなくなればいいと思っているハズだ。つまりその魔物がその場所からいなくなり、それを討伐したと偽っても依頼主の目的は達成される。という訳だ」
「・・・ナルホド!ソレハ良イ考エデゴザイマス」
「だろ?だがもしかしたら、場合によってはお前達の同族を殺してしまわなければならない事もあるかもしれない」
「ハイ、分カッテイマス。デスガ、魔人サマ。魔人サマニ殺サレルノデシタラ、魔物トシテハ最高ノ死ニ方デショウ!!死ンダ魔物モ本望ダトオモイマス!」
「え・・・そ、そうなのか?」
俺が引き気味に確認すると全員―――スライムさんまでも―――が強く返事をした。俺には全く分からない感覚なので彼らの返事に小さく「そうか」と答える事しかできなかった。
「とりあえず話を戻すぞ?そのハンターになるにあたってだが・・・毎日ここから向かうより、あの国で寝泊まりをした方が効率が良い。まだ気になる事もあるし、その方が何かと便利なんだ。だからそうしようと思っている」
「・・・ナルホド」
「ここをしばらく離れる事になるんだが・・・どうだ?最低でも1週間に1度はここに帰ってくるにようにしようと思っているが」
「スミマセン・・・魔人サマ。イッシュウカン・・・トハ・・・ナンデショウカ?」
「ん?ああ、そうか。7日って事だ。俺は7日に1度ここに戻ってくるようにする」
「・・・ナルホド」
「デハソノ間、我々ハ何ヲシタラ良イデショウカ?」
「ま、そうなるよな。だが悪い、まだそこまで考えて無くてな。それについては考えておくよ」
「ワカリマシタ」
「とりあえず今日の所はこんな感じだ。何か質問とかあるか?」
俺の言葉に誰かが反応した様子はない。質問は特になさそうだ。
「なら、今日の所は解散だ。トロルとゴブリンは今の話を他の者に伝えといてくれ」
最後に二人に今日の事の伝言を頼み、今回の報告会は解散した。解散した彼らはそれぞれの作業へと戻っていく。スライムさん以外がいなくなった後、俺は回り始めたこの村の日常の光景を見ながらため息を吐いた。
さて、俺が居ない間の事を考えなくてはいけない。まずは大まかな方針から決めるか?『自分たちが住みやすく、過ごしやすい村を作りましょう!』みたいな感じか?いや適当すぎるか。もう少し何か―――
―――プルプル
「・・・」
止めだ。今日一日で色々と頭を使ったせいか、流石に少し疲れた。今日はこのままスライムさんの豊満なボディで癒されよう。疲れがなくなればいい考えもきっと浮かぶハズだ。
俺は思考を止め、家に入るとスライムさんを抱きながら眠りについたのだった。
そして数日後。
俺の家の前には先日と同じく5種類の魔物が集まっていた。
「集まったな」
あれから色々と考えた。それを彼らに伝えるためにもう一度集まってもらったのだ。
「じゃあ話すぞ。まずはこの村の方針についてだ。この村は『全ての種族が住みやすく快適に過ごせる場所』を目指す」
今いる魔物達だけではない今後、増えるかもしれない多種多様な生き物たちがそれぞれ不自由することなく快適に過ごせる環境を作る事を目標にする事に決めた。この村は"どんな生き物も受け入れられる"そんな場所にしていきたい。
「流石ハ魔人サマ。素晴ラシイ、オ考エデス」
「そして次だ。これから俺がいない間に皆に作ってもらいたいものがある。まずは一番は畑だ。ひらけた場所を作ってそこに畑を作って欲しい。植えるものはトレントに任せる。何か見繕ってくれ。出来れば美味い物を頼む」
「ワカリマシタ」
「次に畑を作る上で必要な食糧庫と道具を入れる倉庫、あとは―――」
俺は次々に要望を言った。正直俺が今回要望したもの全てを一週間で作れるとは思ってない。これは今後こんなもの作ろうと思っているという予定みたいなものだ。
この数日間で思いついたものを全てを、俺がいない間にやって欲しい事の要望として彼らに伝えた。
「と、まぁこのぐらいかな」
「・・・ワカリマシタ。魔人サマノ要望ハ必ズ応エテ見セマス」
「任セテ・・・クダサイ」
「グガッ!」
「ヴォ!」
―――プルン!
物凄く張り切っているので慌てて、無理しないように言う。その言葉に対する返事も張り切っている様に感じたが、本当にわかってくれたのだろうか?彼ら魔物は俺の為に、自らの犠牲を省みない傾向がある。それが彼らにとっては幸せな事なのかもしれないが、こちらとしては申し訳なく思ってしまうのだ。色々とやってくれるのは本当にありがたい。ありがたいのだが、もう少し自分を大切にして欲しい。
「ああ、それともう一つあった。お前達に名前をつけようと思う」
「「!?」」
俺の突然の発言に驚く4種類の魔物達。
これは前々から考えていた事だ。彼らには個体名が存在しない。だから俺はいままで種族名で読んでいた。だが彼らとこれから共に生活する上で個体名がないのは非常にやりづらい。指示を出すにしても個体名があった方が分かりやすいだろう。ただ個体名がなくても、どうやら魔物達は誰が誰だか違いが分かるみたいだ。つまり名前がなくて困っているのは俺だけだ。
「ヨ、ヨロシイノデスカ!?」
いつもは途切れ途切れに喋るアンデッドが声を荒らげる。
「ああ、名前は既に考えてある」
今回、名前を付けるのはここにいる5名だ。流石に村の魔物達全員分の名前を考えるのは難しいので、各種族の代表として彼らには個体名を持ってもらう事にしたのだ。
名前を付けてもらえる事が余程嬉しいのだろうか。眼球がないアンデッドですらキラキラとした期待の眼差しをこっちに向けているのが解かる。正直そんなに期待されると恥ずかしいが、こうして喜んでくれるとこっちだって嬉しい気持ちになる。
「じゃあ、まずはゴブリンから」
「ゴガッ!!」
ゴブリンは元気良く声をあげると一歩前に出てきた。
「お前はこれから"グレム"という名前だ」
「グガッ!!!」
名前を伝えると嬉しいそうに喜んでくれる。こうして喜んでくれると考えた甲斐があるというものだ。
「次にトロル」
「ヴォオ!!」
「お前は"パブル"だ」
一人一人順番に名前を付けていく。誰かに名前を付けるなんて初めてだから、実は俺も少し緊張していた。だが喜ぶ彼らを見ていたらその緊張はいつの間にかなくなっていた。
「お前は"ジャック"」
「ア、アリガトウゴザイマス!!」
「お前は"リック"だ」
「・・・アリガトウゴザイマス・・・魔人サマ・・・ッ!」
アンデッド改めリックの番が終わる。次で最後だ。俺はこの世界に来て一番初めに出会った魔物の事を呼んだ。
「そして最後に・・・スライム」
「!?」
するとスライムさん本人は自分が呼ばれるとは思っていなかったのか、俺でもわかるぐらいに驚いていた。そういえば名前を付けるといった時に、スライムさんだけ驚いていなかった事を思い出す。スライムさんには悪いが、俺は珍しい反応が見れた事に喜びを感じていた。
「お前は・・・"正宗"。俺の元いた世界で恐らく、もっとも有名な名刀の名前から取った」
俺は実際に見たことはないがその刀は美しく、見るものを魅了する刀だったと聞いた。そしてその正宗が作られて以降、その刀を超えるものは作られなったとも。
正宗という刀の名前を取ったのはもちろん彼の素晴らしい体を称えてという理由もあるが、それ以上に俺の懐刀の様な存在になって欲しいという意味合いもある。それはこれからも俺を癒してほしいという願いだ。
―――プルプル!
スライムさん改めマサムネがプルプルと震えているがこれは・・・喜んでいる、でいいのだろうか?名前が気に入らないから怒っている。ということではない・・・と思いたい。
ともかく、それぞれに名前を付けた。これで指示がしやすくなるし、これからは何か報告するような事があれば彼らを指名することが出来る。
「喜んで貰えたようでなによりだ」
「コレホドノ幸セハゴザイマセン。我ラ一同。魔人サマノ期待ニ応エラレル様ニ精一杯努力イタシマス」
「あ、ああ。ありがとう。だが無理はするなよ?」
少し喜び過ぎな気がするが・・・いつもの事か。特に問題ないだろう。
俺も彼らに負けないように、資金を稼がなくてはいけないな。
「さて、そろそろ俺は行こう」
これから俺はもう一度アドルフォン王国に向かう。この前決まったハンターになるためだ。
もう既に準備は整えてある。と、言ってもこの前に行った時と変わらないないがな。
「後は頼んだぞ」
そう言いながら最後にマサムネをよく撫でる。これから一週間はマサムネと触れ合う事が出来ないのだ。今の間に癒されよう。相変わらずマサムネはプルプルと体を震わせている。可愛い奴め!
さて、マサムネの体を堪能するのもほどほどにして俺は立ち上がる。
「パブル転移魔法を頼む。リックは翻訳魔法を掛けてくれ。ジャックはこの前の枝を数本貰えるか?」
早速、付けた名前を呼んでみる。名前を呼んだ事によっていつもより張り切っている様子は微笑ましい。
1人、名前を呼ばれなかったゴブリンのグレムが少ししょんぼりとしている様子が目に入るがが―――
「グレムは持っている石の短剣を1つ俺にくれないか?」
「グガッガ!!」
俺は忘れずにしっかりと名前を呼んで一つ指示を出す。するとパアッと明るい笑顔で石でできた短剣を手渡してくれた。彼らの反応を見て微笑ましい気持ちになっていたがこれからやる事を思い出し、気持ちを切り替える。
(さて、これから元の世界でもさんざんやった就活だ。ハンター組合の受付で聞いた話では簡単な適正テストと言っていたが、その中に面接があるかもしれない。少しは受け答えの練習もしておくか)
これからこの魔物の村は魔物自身の手で発展し、より良くなっていくだろう。彼らには俺の為だと思わせつつ、俺は彼らの手伝いをしていく事にする。その為にも俺は俺のできる事をしなくては。
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