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第2章 Monster situation
第39話 わんぱたーん
しおりを挟むスパーダに吹っ飛ばされたイツキは吹っ飛ばされながらもなんとか空中で体勢を整え、キレイに着地した。しかし勢い体制を整えただけで勢いを殺す事はできていない。着地しても勢いで引きずられて5mほど足が引きずられる跡が地面にできた。
そして吹っ飛ばしたイツキを追いかけるように、スパーダが跳躍してくる。
「はっ!俺達を分断させたって訳か!」
スパーダはイツキの前にドシンと土煙を上げながら着地する。
そして間髪入れずイツキに斬りかかる。
上から叩きつける様な大降りの攻撃。
「はっ!"ワンパターン"な奴だな」
イツキの口ぶりから察するに上からの大ぶりな攻撃はスパーダが良く使う攻撃の様だ。
イツキは壊聖剣デネブ・ド・ボルグを使いその攻撃をしっかりと防ぐ。だがその攻撃を防いだ瞬間、その攻撃の違和感を認識した。
その攻撃が異様に軽いのだ。少し前からから同じように攻撃を受ける事があったが、その時と比べるとおかしいほど軽い。軽すぎる。
だがその理由はすぐにわかった。
ハッと目の前のスパーダを見るとスパーダは刀を手放していた。
スパーダは刀をイツキの剣に接触した瞬間に手放していたのだ。そして斬りかかった時の勢いを残したまま、空中で前転をするように回転する。
イツキの少し上を回転するスパーダ。イツキはまだ反応出来ておらず剣で防ぐ体勢のままだ。
そしてスパーダは剣の隙間からイツキの顔面に蹴りを入れた。
「ぐあっっ!」
顔面に蹴りを入れられ、後方に大きく後退りし体勢を崩す。一方スパーダの方は蹴りを決めた後キレイに着地し、まだ地面に落ちきっていない刀を逆手持ちで回収。
そのまま下から刀を振り上げるようにイツキに斬りかかった。
「うおおおおおお!!」
しかしイツキはアユミに付与してもらったリジェネが機能しているのか、下からの攻撃を大剣である壊聖剣の広い剣の腹で何とか防ぐ事に成功した。
通常の剣より断然剣幅が広い大剣は剣の腹と言われる部分の面積も広い。そのため盾としても全然使える。それに聖剣は壊れる事はないし、ましてや傷が付くなんて事もない。よって剣の腹を相手に向けて盾とするのは、咄嗟の判断としては良い判断と言えるだろう。
だがスパーダの攻撃は止まらない。下からの攻撃が防がれると理解した瞬間に次の攻撃に移っている。
今度は下から刀を振り上げた所で刀を手放し勢いを殺さずに宙返りする様に跳び上がった。
少し後方に、イツキとの距離を空ける様に跳んだスパーダはそのままイツキに向けて具現化した殺気による飛ぶ斬撃を放った。
「ッ!?」
イツキは即座にその攻撃をやばいと感じた。あの攻撃はドライグがやられた攻撃だ。
イツキは横に大きく飛び込む様にして何とか回避する
連続攻撃を受けてイツキはスパーダに鋭い視線を送る。
しかしそんな事は全く意に介さないスパーダは攻撃の手を緩めない。
スパーダは着地した瞬間に特大の斬撃を放つ。更にその斬撃を放った瞬間にその斬撃の陰に隠れつつ追うように走り出した。
「何度も同じ技を食らうか!!」
その攻撃に対してイツキは壊聖剣を持ってない方の腕を自分の斜め後ろに伸ばし、そこにあった魔方陣に手を入れた。そしてそこから引っ張り出したのは光聖剣ベガ=ルタだ。
イツキは光聖剣ベガ=ルタに力を込めると、スパーダが放った飛ぶ斬撃と同じぐらいの規模の飛ぶ斬撃を放った。
禍々しい紫掛かった黒色の斬撃と神々しい真っ白な光の斬撃が激しく衝突する。
その対極の性質の斬撃は相殺され、互いの斬撃は消失した。
「なにっ!!」
しかしその相殺した斬撃からスパーダが飛び出してくる。
スパーダが飛ぶ斬撃を追って向かってきているという行動は、スパーダが放った飛ぶ斬撃のせいで見えていなかったのだ。更に相殺した際の光で少しだけ目がくらんでしまった。
そうしてスパーダの接近を再び許してしまうが、スパーダがしてくる攻撃を光聖剣で受け止める。
そして今度は受け止めた瞬間にもう片方の手に持つ、壊聖剣でスパーダを攻撃した。
「うおぉぉぉぉぉおおお!!!」
壊聖剣での攻撃はあまりの威力で地面に触れてないのに地面がえぐれる。流石のスパーダもそれほどのパワーのある攻撃を無理して受け止めるのはまずい。
一旦後ろに下が事でその攻撃は回避した。
しかし流石にイツキも今までのやり取りからそれぐらいの行動は予想していた為、距離が空くと光聖剣で飛ぶ斬撃を放った。
イツキはそのままの勢いで近距離と遠距離を兼ね備えた二刀流の激し過ぎる攻撃を連続で繰り出した。
しかしスパーダは2つの聖剣から繰り出される連撃を華麗に避け、飛んで来る斬撃はこちらも飛ぶ斬撃で相殺した。
結果、スパーダはその連撃を一回もまともには食らわなかった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
激しく動いた為イツキの息が上がる。
スパーダはイツキの動きが鈍る所を見逃さず、その小さな隙に攻撃を仕掛けようとした。
―――瞬間
村がある方向で一瞬激しく光った。その後、その光に遅れて爆音にも似た、激しい雷鳴が響き渡る。
轟音を聞いて、思わずスパーダとイツキの動きが止まってしまう。
「あーあ、あの魔法って事は・・・あっちは終わったか。ならこっちも終わらせるか」
イツキはその轟音の正体を知っているらしく、一人で納得する。
次の瞬間、スパーダに向かって光聖剣の最大出力で斬撃を放った。
スパーダは先程の轟音で少し反応が遅れるも、焦らず冷静に同じ強さの斬撃を放ちキレイに相殺してみせた。
「また別の剣・・・」
スパーダが光の斬撃を相殺すると、そこには先程持っていた2本の聖剣とは別の剣を持っているイツキがいた。
「スキル《聖剣召喚》・・・真・聖剣アルタルイン!!」
それはイツキが召喚できる3本目の聖剣。
少し長めの長剣だ。だが、その聖剣が放つ神々しいオーラは他2つよりも数倍は上だ。
「確かにお前は強ぇよ。俺らが戦った魔物の中で断トツで最強だ。だからこそこの最強の剣を使ってやる」
イツキはその聖剣の剣先をスパーダに向けて良い放つ。
「正直1日の回数制限があるから、いざというときにとっておこうと思ったが、今がその時みたいだな。悪いが、お前がどんなに強いかどうかは関係ない。この剣を使わせた時点でこの勝負はお前の負けだ!」
イツキが言い終わると同時に、スパーダに向けていた剣先から真っ白なレーザーが飛び出してきた。
そのレーザーの速度はかなり早く、スパーダは不意を突かれたのか間一髪で回避していた。
だが、そのレーザーを回避するとイツキがスパーダの目の前にまで接近していた。
先程までとはイツキの身体能力が桁違いだ。
スパーダは聖剣の攻撃を避けようとするが、回避仕切れずかすめてしまった。
「・・・ッ!」
続けてイツキの連撃がスパーダを襲う。
先程とは形勢が逆転してしまっている。スパーダは何とか直撃はしてないものの、かすり傷がその骨だけの体に増えていく。
一度距離を取ろうとしたスパーダは具現化した殺気による斬撃を至近距離で―――自分も巻き込まれるつもりで―――地面に向けて放った。
爆音が森に響く、イツキはその具現化した殺気の爆発を難なく回避して見せた。
しかしイツキが回避行動を取ったおかげでスパーダは距離を取れた。
スパーダは突然強化されたイツキを観察する。イツキが強化された原因は既にわかっている。イツキはあの真・聖剣アルタルインを手にしてから明らかに変わっている。だが、スパーダが観察しているのはそこではなかった。
「残念だが、諦めるんだな」
イツキがスパーダに言い放つ。
だがスパーダも一言、イツキ言った。
「キサマは後付けの力に頼り過ぎだ」
「頼れるものにはトコトン頼るのが俺の主義だ」
イツキには気づけなかった。スパーダの言葉の意味を。そしてその言葉を言ったスパーダの骨だけの顔が笑っていた事を。
スパーダが最初に苦戦していた理由は2つ。
一つは壊聖剣デネブ・ド・ボルグの能力。
壊聖剣は非常に重い聖剣なのだが、この聖剣の持ち主だけは重さを感じないのだ。
その不思議な能力によってイツキは壊聖剣を軽々と扱い、その重さは相手にだけ伝わりそのまま攻撃力となる。
その剣を振る速度からは通常ではあり得ないほどの重い攻撃が行われる。その不自然さにスパーダは手間取った。
そして二つ目。それは村の近くだからだ。
スパーダは村の近くで戦っていたため、具現化した殺気による攻撃を抑えていた。
それがスパーダがイツキに苦戦していた2つの理由。
そして今、戦っている場所は村から離れている。イツキが使う能力がある剣も、イツキの動きももう慣れた。新しい剣を手にした時の変化には少し驚いたが、驚いただけだ。
それは例え剣が強くなろうが、本人の身体能力が上がろうが関係ない。
「死ね!!!」
イツキがスパーダに斬り掛かる。
しかし、スパーダはイツキの攻撃を回避した。
「なにっ!!」
先程までこの真聖剣を出してからは一方的にイツキが押していた。確かに直撃はなかったがそれでも避ける事で精一杯の状況だったハズだ。
それなのに突然、攻撃がかすりもしなくなった。
「くっ!」
イツキは先程と同じように連撃を行うが今度はかすりもしなかった。
それどころか反撃で蹴りを貰ってしまう。
「ぐはっっ!」
腹部に蹴りを入れられたイツキは後方にぶっ飛ぶ。
着地してスパーダを睨むイツキは、一体何が起きているのか理解出来てないようだ。
「くそっ!一体なんなんだ!!」
思わず叫ぶが、スパーダは返事を返さない。
その代わりに返ってきたのはスパーダが放った斬撃だった。
イツキはすかさず光の斬撃を放つ。
光聖剣の時とは違い斬撃同士で相殺はせず、スパーダの斬撃を一方的に飲み込んだ。
だがその方向にスパーダはもう存在せず。次の瞬間には四方八方から特大の具現化した殺気の斬撃がイツキに向かって飛んできた。
「はっ!甘ぇんだよぉ!!」
しかしイツキはその斬撃に難なく対応。
飛んできた斬撃と同じ数の光の斬撃を放ち、全てを光の斬撃で飲み込んだ。
しかし飛んできた斬撃に意識を向けていたからか、イツキはスパーダを見失なってしまった。
そして次の瞬間には、イツキの周りが黒い霧の様なものに覆われてしまう。
「なんだこれ・・・っ!」
イツキの視界はその黒い霧に遮られて、周りが一切見えない状況だ。
イツキはすぐにこのままじゃ不味いと思い、聖剣の力でこの靄を吹き飛ばそうと先ほどスパーダがやった様に地面に向かって光の斬撃を放った。
森に再び爆音が響く。
イツキの周りの地面は小さいクレーターのように抉れたが、覆っていた黒い靄はキレイさっぱり消え去った。
視界がクリアになると、イツキは背後に強い気配を感じた。
(はっ!視界を遮って後ろからやるつもりだったようだが、甘ぇ!)
そう思うイツキは後ろから迫る気配を攻撃しようとする。だが次の瞬間に、その気配が360度の全方位から感じた。
「なっ!?」
それにより一瞬反応が遅れるが、最初に感じた気配がある後ろをとっさに振り向く。
しかし、そこには誰も居なかった。
ならばと思い他の方向を見回すが、鋭い気配があるだけでそこには何も居ない。
「くそっ!あの野郎どこに・・・」
辺りを見回すイツキだったが、それは上から落ちてきた。
「・・・は?」
イツキの目の前にスパーダが上から落ちてきたのだ。
突然の事で驚きと疑問が混ざったような表情をするイツキ。
そしてイツキはその表情のまま、首を刎ねられた。
胴体から切り離された頭部は数秒、宙を舞った後で落下する。
胴体は急に動力を失ったように動かなくなり、その場に倒れ付した。
「キサマの動きは単調過ぎる。自身で手にいれた力ではないため、適切な動き、適切な力の調整が出来ておらず、結果的に単調になる。相手がどんな動きをするかが解れば、どんなに早い動きだろうがタイミングを合わせる事で問題なく避けられる。これが先ほどの言葉の真意だ」
既に動かなくなったものに対してスパーダは続ける。
「そうだな。キサマにも分かりやすく簡単に言うと"わんぱたーん"というやつだ」
そのまま目を見開いている頭部を見つめながら続けた。
「ふむ。もう聴こえてないか。もっとも聴こえていたとしても理解は出来るとは思えんがな」
最後に嫌味を言うとスパーダは刀を鞘に納め、その場を後にした。
―――それは突然だった
「言っただろ。この勝負はお前の負けだ」
それは先ほどスパーダ自身が絶命させたイツキの声。
「ッ!?」
声に反応してスパーダが振り向くと既にそこには―――
―――聖剣を持ったイツキが迫っていた。
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