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第2章 Monster situation
第44話 襲撃を乗り越えて
しおりを挟む村が襲撃されてから2週間ほどが経った。
破壊されていた物はもうほとんど修復され、この村の日常は再び平和になった。
だがある程度の知力がある者からするとどうしても襲撃される前と比べてしまう。
一番の違いは魔物の数が大きく減った事。一番多かったアンデッド達は6割ほどが死んでしまい、カケルが知らない間に新しく入ったオーガ族とダニー率いるビートル族に関しては全滅。さらにザイル含むゴーレム達も生き残ったのはたった一人。そのほかの種族にも死者は多数いる。
村に居た実に7割強の魔物が先日の戦いで命を奪われたのだ。
「どうするか・・・」
魔物が減った事により当然、人手不足になり今までの様に機能しなくなったものがいくつかある。
それが畑と森の監視だ。今までは森の監視をダニー率いるビートル族が担当してくれていたが、彼らはもう居ない。だが森の監視はとても重要でそれをしない訳にはいかない。そこで残ったアンデッドの大半を森の監視に回した。ビートル族の高い機動力と索敵能力を補うためにはどうしても数が必要になってしまうからだ。
そうなると次に畑の方が人手不足になる。畑は元々アンデッド達が担当していたが今回の事で大きく数を減らし、さらに生き残ったアンデッド達は監視と警備に回さなくてはならない。食事をする魔物も同時に減ったとはいえ、今後の事も考えるとやはり蔑ろに出来ないものだ。
魔人の噂があるためそれを聞いた魔物が一日1~5人ほど村に来てくれているが、居なくなった者達の穴を埋めるにはまだ時間が掛かりそうだ。
「今のところは何もないし、先日の件での傷も癒えてきた。リックには連絡魔法を新しく作ってもらったし、スパーダを筆頭にみんな強くなってる。これなら少しくらい離れても大丈夫・・・か?」
―――プルプル
何とか残った者達で村を回している。それもほぼマサムネのおかげだ。
マサムネは戦いが終わったあと、直ぐにいなくなってしまった者達の穴埋めや畑の縮小を指示していた。その他にも細かい人員の移動や指示、さらに今後の方針なども提示している。
もはやこの村を回しているのはカケルではなく、マサムネであった。
ただし、カケルが何もしなかった訳ではない。彼は彼で出来る事をしていた。
作業の手伝いは当然として、魔物の強化に関する様々な提案もしている。
「だげどやっぱり、少し不安なんだよな」
―――プルプル
まずは訓練。魔法が得意ではない者達を中心に、カケルとスパーダが訓練を始めた。
それの一環として今のところ二人しか使用できていない力である、通常の殺気の操作方法や具現化する殺気についても魔物達に教えている。
まだ2週間ぽっちなので結果は出てないが、この力を多くの魔物が扱う事が出来れば大幅な戦力強化になるハズだ。
「でもこれは後回しに出来ない問題だ・・・。お前はどうしたらいいと思う?マサムネ」
―――プルゥ・・・
次に知識の強化だ。
これは一人を除いたほぼ全ての魔物に必要な事だった。世界には無数の魔法があり、魔物達の多くが自分が扱えない魔法の知識を持たない。そのため魔法の対策がずさんなのだ。
そこでリックの出番になった。現状、知識に関して彼の右に出る者はこの村に居ない。
昔に魔法の研究をしていたという事もあり、魔法の事に関してはとてつもなく多くの知識をもつ彼だが、さらにその他にも様々な知識を有している。
そんな彼に授業を開いてもらい、その授業を村の皆で受講している。魔法学や魔物学などをメインに歴史などの雑学も少し教えてもらっている状態だ。
これでいざという時の敵の魔法への対抗策や、自身が新たに習得したい魔法の選別に大いに役立つ事であろう。
知識の強化の為に大役を任されている忙しいハズのリックだが、彼の凄い所はその状態でも魔法の研究をして新たな連絡魔法を編み出した事だ。
先日の件で大まかになった問題の一つに連絡手段の不足が挙げられていた。
現状、離れた所から会話するにはトレントの能力を使って行うしかなかった。しかもその方法には大きな欠点があり、トレント側から相手側を呼び出す事が出来ないというものだ。
もし相互に呼び出しが出来る連絡手段があれば、もう少し被害を防げただろう。
今後もカケルがしばらく村を離れる事があるし、それに相互に連絡できる手段があれば情報の伝達速度が格段に上がる。
その他にも複数の利点がある事から、新しい連絡魔法を生み出す事はとても重要な事だった。
リックが生み出した新しい連絡魔法の名前は"《繋がり/コネクト》"。
転移魔法と既存の連絡魔法の知識を応用し、村の魔法が得意な魔物達と協力しなんとか出来上がった魔法だ。
仕組みとしては転移魔法の座標指定と既存の連絡魔法の人物指定を組み合わせる事で可能になったらしいが、詳しい事までは分からない。
この魔法の使い方は魔法の発動の際、頭の中で相手を思い浮かべて使用するとお互いに魔法陣が現れる。その魔法陣に向かって話す事で離れた場所でも会話することが出来るとういうものだ。
この《繋がり/コネクト》は既存の連絡魔法とは違い、儀式を行わずに単独で使用できるものになっており、さらに既存の連絡魔法よりも手軽な上に使い方が非常に簡単になっている。
これは魔法を"使わない者"や"使えない者"も使用できるようにする為に魔法の使い方を大幅に簡略化したのだ。
これでカケルもこの連絡魔法を"受ける"事が出来るのだ。
「はぁ・・・」
―――プルプル
カケルは現在、自宅でマサムネを抱えながらある事を悩んでいた。
それは"エリカ"の事だ。
あの時に、アドルフォン王国に残して来たままにしており会う事はもちろん、連絡なども一切していない。完全な放置状態だ。
こちらも色々あり、忙しかったというのもあるが一番はまたここを離れてもいいのか?という不安だ。
敵がまたいつ襲ってくるかわからない状況でここを離れるのは大きな不安だ。また家族を失うんじゃあないかという恐怖があるのだ。
しかし村の戦力からすると前より格段に上がっており、離れていても相互に話せる連絡手段も増えた事で例え再び何者かが襲って来ても前回の様な結果にはなる事はないだろう。
魔物達やカケルは前回の反省はきちんと生かし、死んでいった者達が無意味ではない事を証明している。
もう少し人手は欲しいが、この村は既に今まで通りにカケルが出掛けても大丈夫なほどになっているのだ。
だがそれでも、カケルは怖いのだ。
「あー、そろそろスパーダとやり合う時間だな。とりあえずこの事は後で考えるか」
どうしたらいいか、マサムネのプルプルボディに癒されながら考えているといつの間に事前に約束していたスパーダとの特訓の時間になりそうだった。
カケルはマサムネを下ろすと、スパーダの所に向かった。
―――ガキンィィン
金属同士がぶつかり甲高い音が辺りに響く。
村がある場所から少しだけ離れた森の中。不自然に木が生えてない円形の開けた場所で二人はいつものように戦っていた。
この場所はカケルとスパーダというこの村での最強同士が戦うという事で、ジャック達にお願いして作ってもらった。
流石に大技を出してしまうと周りに被害が及ぶが、大技抜きで全力で戦う分には十分な広さがある。
「・・・?」
戦い始めて数分後。スパーダは違和感に気が付いた。
「ん?どうした?」
スパーダが突然動きを止めたのでカケルもおかしいと思い、直ぐに戦いを止める。
「それは私のセリフだ。どうしたのだ?剣が迷っているぞ」
「あー・・・」
お互いが真剣に戦っていたからこそ、その心情が行動に影響する。
スパーダはほんの少しだけ、一瞬だけ動きが鈍かったのを見逃さなかった。
「前に話した俺の弟子の事でな・・・」
「そいえば前に弟子が出来たとか言っていたな。確か名前は、ゴリ―――」
「エリカだ」
スパーダからなにやら失礼な間違いが飛び出しそうになったので、割り込む様にカケルが訂正する。
「そうそう、そんな名前だったな。それで?そいつがどうかしたのか?」
「あーいやまぁ、大したことじゃあないんだが・・・」
カケルは話の流れでスパーダに自分が悩んでいる事について話す事にした。
良い案がスパーダから得られそうだからだとかは微塵も思っていない。ただの家族との日常的な会話の一環として話した。
「と、まぁこんな感じだ」
「なるほどな」
事情を一通り話し終わり、一旦区切る。
するとスパーダから意外な言葉が出て来た。
「はぁ、もう少し我々を信頼して欲しいものだな」
「え」
「お前の言う家族とは、自分を頼ってくれる者達の事を言うのか?いざと言う時に自分が居なければ何も出来ない者達を言うのか?・・・違うハズだ。先日の件で不安なのは全員同じだ。誰だって自分の事を心配をして、同じように仲間の事を心配している」
「・・・」
「それでも我々は前に進もうとしている。死んでいった者達の意志を背負い、日々成長している。もちろん私もな」
スパーダはスムーズに動かせるようになった殺気の腕をカケルに見せた。
「我々は強くなっている。物理的にも、精神的にもな。だがそれは悟に言われたからではない。自らの意思で頑張っているのだ。そんな私達をもう少し信頼してくれ」
「スパーダ・・・」
名前を小さく呼ぶとスパーダは急に場の雰囲気に恥ずかしくなったのか、慌てて「と、とにかく言いたい事はだな・・・」と照れながら話を続けた。
「お前の好きな様にしたらいい。行ってこい、悟」
「っ!!・・・そうか。ありがとな」
全部スパーダの言う通りだった。
カケルは今までの自分を殴ってやりたいという気持ちになる。
「ふっ。悩みは解決したか?なら早く続きをしようではないか」
「早く戦いたかっただけかよっ!」
「フハハハ!当たり前だろう!さぁ、本気で行くぞ!」
どこか分かりやすいスパーダの言動は照れている事もカケルには直ぐにわかった。
カケルも最後に茶化したが、スパーダが言った「お前の好きな様にしたらいい。行ってこい悟」という言葉。
その言葉を聞いた時、カケルには彼の姿が自分の師と重なって見えた。
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