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魔王継承

6 魔王の権能は愛の力?

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「じゃあいろいろ試してみるね」
「うん」
「まずクイネは自然にしていて。……いや、素振りをしていて」
「わかった」

 ジークは魔王の権能の一つらしい魔力操作の検証を始めた。
 まずクイネの魔力を探る。
 
「うーん、なんだか無い腕を使って作業をするみたいな変な感じだ。普通の魔法とは全然違うな」

 クイネの魔力はすぐに確認出来たが、触れようとしてもスルッと手から逃れてしまうような感覚でうまくいかない。

「ふむ……クイネ、ごめん素振りをやめて僕に意識を向けて」
「わかったわ!」

 クイネはすぐに木剣を投げ捨てるとジークをじっと見つめた。
 見つめられたほうのジークはだんだん自分の顔が赤くなるのを感じていた。

「だ、駄目だ、全然集中出来ない」
「ジークがんばって!」
「がんばるよ!」

(とにかくクイネの魔力に意識を集中しなければ。唇を見ては駄目だ。目も駄目、首筋とかヤバいだろ! そこから下はもっと駄目だ! ああああ!)

 ジークは推定年齢十五歳。
 いろいろお年頃だ。

「くっ、クイネ、僕は駄目な奴だ……」
「そんなことないわ! ジークはいつも頑張り屋よ。私知っているもの」

 ジークは木剣ならそうでもないのだが、真剣を使った訓練が苦手だ。
 他人を傷つけることを意識した途端、胸の奥からえもいわれぬ感情が湧き出して、ジークの心臓をぞくりと撫でる。
 その感覚が恐ろしくて、ジークは他人を攻撃出来ない。
 そのため防御一辺倒になってしまうのだ。
 その様子からジークは鈍亀とあだ名をつけられた。

 だが、決して弱い訳ではない。
 木剣を使った訓練ならこの砦の上位の者たちと同等の戦いが出来る。
 しかしここは魔族との戦いの最前線だ。
 実戦で戦えない者はやくたたずと言われても仕方がない。

 クイネの信頼に応えるべく、ジークは一回深呼吸をして意識を切り替えた。

(そうだ、目をつぶればいいじゃないか!)

 天啓が閃く。
 ジークは目をつぶり、クイネのほうに意識を向ける。
 今度は素振りをしていてもらったときと違って、クイネのほうもジークに意識を向けている。
 しかもそれは好意だ。
 目を閉じていても皮膚に日の暖かさを感じるように、ジークはクイネの愛情を感じることが出来た。

 そして、クイネの魔力が細い糸がほどけるように体から流れ出ると、ジークの見えざる手に吸い寄せられる。
 その魔力はジークの見えざる手に触れると、ジークの元からの魔力と一つになった。

 その途端、ジークの閉じた目に周囲の風景が映った。
 目を開けていないのに周囲が見える。
 いや、それは通常の風景ではなかった。
 命の持つ魔力がその生命の元である存在の形を取って見えているのだ。

「わかったぞ」
「すごいわ、ジーク!」
「あ、うん。ありがとう」

 クイネの称賛にジークは照れる。
 しかし気を取り直してわかったことをクイネと共有した。

「魔王の魔力操作は、意識のないものの魔力なら自由に操作出来る」
「すごい!」
「うん。すごい。魔王が深い森のなかに城を構えている理由はそれかもしれない」
「それって?」
「自然の魔力を自分のものとして使うため、だよ」
「なるほどね。でも意識のある相手の魔力は使えないの?」
「意識のある相手の場合は、魔王に好意を向けている相手しか駄目みたいだ。通常の状態だと抵抗がある。ただし、この先、魔王の力が増大したらそこも突破出来る可能性はあるけど」
「すごいわ! じゃあ部下が増えればほぼ無敵じゃない?」
「そうなんだよね。勇者さまたち、どうやって先代魔王を倒したんだろう?」
「さあ? でもあいつのことだからきっとこすい手を使ったに違いないわ」
「あはは。クイネは勇者さまが嫌いだね」
「そりゃあそうよ。あいつのせいでうちの侍女が何人泣いたと思ってるの? 恥知らずってのはあいつのことよ!」
「そ、そこまで手当たり次第だったんだ……」
「一応自分に好意を持っている相手に限定はしているみたい。だから大きな問題にならないのよね。それに実際、勇者さまの血を受け継いだ子どもが欲しいって人もいるから。でもさ、なかには身持ちの堅い女の子もいたのよ。そういう子を口説き落としてやったらポイ捨てよ!」
「ちょ、クイネ、声が大きいよ」

 ジークはうぶなのでそういう話が苦手である。
 クイネは十四で一応年下なのにそういう話を平気でするので、ときどきジークはどうしていいかわからなくなってしまうのだ。
 おそるべきは耳年増である。
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