世界にダンジョンが発生した・死にたがりの男は・奪われたものを取り返すため深淵世界と対決する!

蒼衣翼

文字の大きさ
8 / 10

提案

しおりを挟む
「あ、いたいた」

 光夜にとっては、休日の迷宮探索のための資金稼ぎ、という位置づけにあるダンジョン探索を行っていると、何やら声を掛けて来る者がいた。
 声を掛けて来たのは、光夜よりもやや年長っぽい女性だ。
 光夜はその相手に特に見覚えがなかったので、首を捻っていると、隣にいた真逆が反応した。

「あ、亜沙子さん。お久しぶり!」

 どうやら真逆の知り合いらしいと納得する光夜だったが、その女性の背後から現れた者に記憶を刺激される。
 先月だったか、探索者緊急アナウンスが発動され、危険なモンスターが地上近くまで迫ったことがあった。
 モンスターを絶対に地上に出してはならない、というのは、探索者なら誰もが抱いている気持ちだろう。
 そのなかでも、光夜は特にその気持ちが強い。
 いや、光夜はモンスターを見ただけで、怒りが湧いて来る分、気持ちがはやりやすいと言えるだろう。

 光夜がほかの探索者から死にたがりと呼ばれるのは、迷宮に挑み続けるだけでなく、普段からモンスターに対して無謀と見える攻撃を仕掛けてしまうからだ。
 
 先月、緊急事態で出現したモンスターに対してもまた、無謀な単独攻撃を仕掛けてしまい。
 真逆にさんざん叱られた。
 そのときに、光夜を助けてくれたとして、礼を言うように促された相手が、亜沙子と呼ばれた女性の後ろにいたのだ。

 光夜からしてみれば、少々バツの悪い思いがある。

 そしてもう一人、恩人の隣に年若い青年がいた。
 こちらの青年に関しては、光夜にも戦闘中の記憶がある。
 探索者のなかでも珍しい、獣化ライカンスロープ持ちだ。

 光夜は、変異率の高い人間に対して複雑な思いがある。
 深淵世界ダンジョンを激しく嫌っている光夜にとって、人の体がダンジョンに侵食される変異という現象はおぞましいものだ。
 だが、その力があるからこそ、ダンジョン内で戦えることもわかっている。
 とは言え、頭ではそう理解出来ていても、心情的に受け入れ難いものはあるのだ。
 光夜は、変異率が高い人間を嫌うということはないが、変異率の高い人間を見ていると不安になってしまう。
 いつか彼らがダンジョンの闇に呑まれてしまうのではないか? と、いたたまれない気持ちになるのだ。

「光夜ちょっと……」

 そんなことを、少し離れた場所で考えていた光夜だったが、真逆に呼ばれてしまう。
 光夜は、すっかり自分は関係ないものとして、離れて待機していたのだが、どうやらそうではないらしかった。

「迷宮に潜りたい?」

 問い返した光夜の声には、いささかの動揺がある。

「危険だぞ? 通常のダンジョンと同じに考えていたら、すぐに死んじまう」

 光夜がそれを言うのか? と、一笑に付されそうな言葉だが、相手は、笑い飛ばすこともバカにすることもなく、真剣な表情でうなずいた。
 真逆の紹介では、彼女は『前田亜沙子』というらしい。

「迷宮に閉じ込められた人の……帰りを待っている家族が、いる、んだろう?」

 そう言ったのは、獣化ライカンスロープ持ちの、どこか表情の薄い青年だ。
 真逆の紹介では、『岸谷誉』と言う名前らしい。
 誉の肩には、探索者に人気が高く、高値で取引されている初代型のDA小型ロボットが見えた。
 金持ちの道楽か? と、眉を顰める光夜だが、それにしては、様子が変だ。
 DAが、ダンジョン災害に伴う心的障害を負った者のケア用に開発されたという歴史を思えば、本来のマスターなのかもしれない。
 もしそうなら、金持ちの道楽よりもさらに厄介だ、と光夜は思った。

「見つけて、やりたいんだ」

 その誉青年と同じパーティらしい、光夜の命の恩人である『姫島ひめじま望結みゆ』が、誉青年の言葉にいたましげな面持ちになるのを見て、光夜は、自分の想像が当たっていたことを知る。
 そして、面倒なことになる予感が当たったことを確信した。

 心に負った傷の反動で何かを志す人間ほど、翻意ほんいさせにくい相手はいない。
 今は仲間となっている花鶏あとりがいい例だ。
 そう考える光夜自身がその最たる者だということは棚に上げて、光夜は顔をしかめた。

「俺は犠牲者を増やすつもりはないぞ」

 だから、光夜はあえて冷たく突っぱねたのだ。
 だが……。

「ありがとう……」

 なぜか誉青年に礼を言われてしまう。
 そして光夜は確信した。
 この連中は、真逆や花鶏あとりと同じタイプの人間だ、と。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

部屋で寝てたら知らない内に転生ここどこだよぉぉぉ

ケンティ
ファンタジー
うぁー よく寝た さー会社行くかー あ? ここどこだよーぉぉ

Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティーで地味な【鑑定】スキルを使い、仲間を支えてきたカイン。しかしある日、リーダーの勇者から「お前はもういらない」と理不尽に追放されてしまう。 絶望の淵で流れ着いた辺境の街。そこで偶然発見した古代ダンジョンが、彼の運命を変える。絶体絶命の危機に陥ったその時、彼のスキルは万物を見通す【神の眼】へと覚醒。さらに、ダンジョンの奥で伝説のもふもふ神獣「フェン」と出会い、最強の相棒を得る。 一方、カインを失った元パーティーは鑑定ミスを連発し、崩壊の一途を辿っていた。「今さら戻ってこい」と懇願されても、もう遅い。 無能と蔑まれた鑑定士の、痛快な成り上がり冒険譚が今、始まる!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...