僕が竜人の彼女といちゃいちゃするのに必要なこと

蒼衣翼

文字の大きさ
51 / 69
エピソード6 【魔王の宴】

その六

しおりを挟む
 その後、僕たちは治安部隊の装甲車両のなかで事情を聞かれることとなった。
 その装甲車両のなかにはモニターやら通信設備やらあって、急場のことだから仕切りなどもない。
 どうもカフェエリアで起こっている騒ぎがまだ収まっていないことが伺えた。

 一人ずつ呼び出されて別の車両での事情聴取を受けていたのだけど、容疑者としての取り調べではないのだから、そうかしこまる必要はないと結論づけた僕は、あの後無事に屋上から回収して来てもらったハルを頭に乗っけたまま同じ車両にいる治安部隊の人に尋ねた。

「あの、まだ学校に侵入してきた人たちと交戦しているんですか?」
「ん、ああ、いや、心配いらないよ。すでに包囲が完了していて、要救助者は全員建物の中、穏便に解決を図っているので長引いているだけですぐに決着がつくさ」

 僕の言葉に答えたのは、女性の隊員らしき人だった。
 ハルが気になるらしく先程からちらちら見ていたが、さすがに仕事中に私語は出来ないのだろう。
 僕たちに水や濡れタオルなどを配ったあと、なにやら通信で指示を仰いだり、連絡を取ったりしていた。
 そういったことが一段落ついたのを見計らって、僕は彼女に気になったことを聞いてみたという訳だ。
 どうやらプロの見立てではカフェエリアの騒ぎはもう収まるらしい。
 その答えに、ようやく胸を撫で下ろしながら、僕は隣で会話をしているディアナと、サクラさんと言うらしい長耳族の女の子を見た。
 ウサギのような長い耳がとても特徴的で、ピンク色に近い薄い茶色の毛並みだ。

「サイレンが鳴ってびっくりしてトイレに逃げ込んじゃって。しばらくして気持ちが落ち着いたから、外に出て様子を窺っていたらあの怖い人が」
「災難だったね。リリカちゃんはどうしたの?」
「リリカちゃんは先にカフェの席を取っていてくれることになっていたの、心配だよ」
「大変! カフェにいるの?」

 ディアナが話を聞いて、ばさりと羽を動かした。
 それを見て、車内の他の人がびくりと身をすくめる。

「カフェのほうは避難指示が早かったので軽症者は出ているようですが、直接犯人に撃たれた人はほとんどいなかったようですよ。ほら、もう終わったみたいです」

 そんな二人に先程の女性隊員の人が安心させるように話しかける。
 モニターを観ると、音声はないものの、犯人達が武装解除されて連行されていく様子が映っていた。
 それを観て、ディアナも座りなおす。

「お友達が心配でしょうけど、詳しい事情を教えていただきたいので、もうしばらく待っていただけませんか? あ、みなさんは容疑者ではないので、リングでの通信は制限いたしませんよ」
「あ!」

 言われて、二人は友達に連絡を入れることを思いついたらしい。
 いろいろ大変だったからリングで通信出来ることに思い至らなかったことは仕方ないだろう。
 サクラさんはおしゃれな腕輪タイプのリングを操作すると、通信を入れた。
 それに触発された訳でもないのだろうけど、一緒に事情聴取の順番待ちをしていた人たちも、慌ててリングで誰かに連絡しようとし始める。
 しんとしていた車内がにわかに賑やかになった。
 と、僕の指のリングが振動した。
 どうやら誰かが通信を入れてきたらしい。

『やあ、受信できるということは無事ということかな?』

 我が探検クラブの会長である。

「会長は当然無事ですよね。心配などしていませんでした」
『なぜだろ、みんなそう言うんだ』

 あんな要塞に閉じこもっていたんだから当然だろう。
 しかし今連絡して来たということは、事件が終わったことをリアルタイムで知ったということだな。
 テレビジョンの中継か、独自の情報網か知らないけど、とりあえずあの要塞の中でも外のことはお見通しということだ。
 ん、割り込み通信が入ったっぽい。

「会長、他の通信が入ったので切りますね」
『ああ、無事なら問題ない。君の様子からすればディアナくんも無事なのだろう』
「はい。もちろん」
『はは。では、また定例会で』

 会長の顔が消えて、次の通信先がポップアップする。

「母さん」
『今、会社の人から事件のことを聞いて。大丈夫なの?』
「うん、全然関係ない場所にいたから大丈夫。父さんにも安心するように言っておいて」
『そう、よかった』
「仕事中だったのに、心配させてごめん」
『ばかね。子どもの心配をするのは親の特権よ。またね、愛してるわ』
「うん。ありがとう」

 どうやら家族に心配かけてしまったらしい。
 ふと、隣からの視線を感じて振り向くと、ディアナがにっこりと笑っている。

「友達大丈夫だった?」
「うん。お店の奥のほうで震えてたって。……連絡してきたのお母さん?」
「ああうん。どうやら報道されていたっぽい」
「ボートが飛んでいたから」
「あれは滑空機って言うんだ。浮力とエンジンで飛ぶ飛行機って種類なんだよ」
「あ、あれが飛行機か。羽がない人でも飛べるんだよね」
「うん」

 そう言えばディアナの家族は心配していないのだろうか。
 そもそも家出している時点でどうなのかな?
 というかディアナって確か竜人の里の族長なんだよね。強さが絶対の掟らしいから心配するのは失礼という考え方なのかもしれない。

 ―― ◇◇◇ ――

「なるほど、友達を攫った男を探していたら怪しい車が見えて、近づいたら悲鳴が聞こえたと」
「はい」

 僕はディアナとの打ち合わせ通り、白先輩の存在を省いて怪しい奴に気づいた経緯を説明した。
 あの後白先輩は姿を消していたし、どうも治安部隊とかかわり合いになりたくない様子だった。
 そこでディアナに頼んで白先輩のことを話さないことにしたのだ。

「なんで直接武力行使をするなんて無茶をしたんだい? すぐ近くに私達が非常線を張っているのは知っていたのだろう?」

 まぁ当然怒られるよね。

「すみません。つい、許せなくって」
「いいかい。我が国は法治国家だ。武力を持って武力に対抗する野蛮な国ではないのだよ。君も若いからついつい先走るのはわかるが、ちゃんと彼女を止めないと、いくら竜人と言っても、武器や魔法で攻撃されたらケガをするかもしれないだろう?」
「はい、軽率でした」
「しかし、車をバラバラにするとは、すごい彼女を持ったもんだな」
「そうですね。あれは驚きました」

 まぁ車をバラバラにしたのは白先輩だったんだけど、白先輩のことを話さないなら当然ディアナのやったことになる。
 さすがに竜人でもあれは無いだろうと思うのだけど、良くも悪くも強さが伝説の域に達しているせいですんなり信じられてしまったようだった。
 結局、僕は事情聴取と共に厳しくおしかりを受けて、他の人の倍の時間治安部隊の偉い人らしい相手と向かい合うこととなった。

「いいかい? 本来なら居住区域での破壊活動と戦闘行為で君たちを逮捕拘束する必要があったのだよ? しかし今回は君たちは初犯だし、友達を助けようとして勇み足を踏んだということで、反省文の提出のみでよろしいということになった。功罪で相殺した訳だ。今後はこうはいかんぞ? 心しておくように」
「はい。肝に銘じます」

 こってりと絞られて、最後に回されていたディアナと入れ替わる。
 僕はディアナにこっそりとアドバイスをした。

「すごく悲しいことを思い浮かべながら謝り続けるんだ」
「わかった」

 すれ違いざま囁くと、ディアナが覚悟を決めたように事情聴取とお説教に赴く。
 なぜか犯人をボコボコにして車を破壊した(と目される)ディアナ自身のほうが、僕よりも説教の時間が短かったんだけど、どういうことだろう?

 さて、さんざん怒られた僕たちだけど、そんな僕たちを待っていてくれた人たちがいた。
 ディアナのお友達のサクラさんと、いつの間にか合流したらしいリリカさん、そして一人だけ種族が違う巻角の女の子、ソラさんだ。
 話を聞いてみると、どうやらディアナの勉強を見てくれていた友達らしい。
 受験前に一緒に勉強会をしていたのだそうだ。
 すごい、いつの間にそんな友達を作っていたんだろう、ディアナ。

「実はディアナちゃんに危ないところを助けてもらったんです! すっごい格好良くって、もう絶対友達になるしかないって思ったの!」

 長耳のリリカちゃんは真っ白な毛皮のふんわりとした雰囲気の女の子だった。
 種族が違うのに、僕にもはっきりとわかるような美少女だ。
 聞けば牙あるものの男達に囲まれて乱暴されそうになったところをディアナに助けられたらしい。
 まるで物語の英雄譚のようだ。
 そりゃあ仲良くなるよね。
 しかし、元気な子だな、この子。
 しかもなんかディアナが挙動不審なんだけど、どうしたんだろう?

「いやーん、ハルちゃんかわいい~」
「ぷにぷに~」

 サクラさんとソラさんがハルをいじりまわしている。
 とりあえずハルは迷惑そうにはしていないので大丈夫だろう。

「じゃあ、女の子同士の話もあるだろうから、僕は先に帰っておくよ。今日、晩御飯はどうする?」

 事件が起こったのは昼だったのに、すっかり夕方になってしまった。
 帰ったら反省文も書かないとね。

「え? イツキさんも一緒に、みんなでお食事しませんか? そしたら食事を作らなくていいでしょう。ディアナちゃんにお話を聞いてずっとご本人と話してみたかったんです!」

 リリカさんがぐいぐい誘ってくる。
 しかし、女の子四人に男が一人混ざるってそうとう覚悟がいるぞ。
 しかもディアナがおとなしい。
 困惑しているのか、何か心配なことがあるのか、どうしていいかわからないって顔してる。

「あ、いやごめん、僕は用事があるから、また今度、ね。じゃあディアナ。友達とご飯食べておいでよ」
「う、うん、ありがとう、イツキ」

 ディアナはどこかホッとしたような顔で笑って見せた。
 やっぱり僕が混ざるのは場違いだったらしい。
 正直一緒に行っても話が合わないのが目に見えてるからね。

「え~、残念です」

 しょんぼりとしたリリカさんを慰めながら、ディアナは女友達と一緒にどこかに食事に行くこととなった。
 ディアナはちょっと僕を見ていたけど、僕が笑って頷くと、安心したように微笑んで行った。
 女の子たちから離れたハルが僕の頭に戻って「キューキュー」と何かを訴えている。

「わかった、美味しいフルーツを買って帰ろうな。今日は疲れたし、僕は簡単なものでいいや」

 そう言ったら安心したのかハルは頭の上で丸くなって、寝息を立て始めた。

「私のことを話さなかったのか」
「うおう!」

 そしていつの間にやら白先輩が背後にいた。
 気配を消して近づくのやめてもらえませんか?
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

【完】出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~

夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。 しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。 しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。 夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。 いきなり事件が発生してしまう。 結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。 しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。 (こうなったら、私がなんとかするしかないわ!) 腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。 それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...